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1話 魔王城直前の町

「政治的な関係とか意味わかんねぇ。さっさと魔王を殺しに行こうぜ」

「あんた何バカなことを言ってんの? 魔王を殺したら私たちが魔王になるつもり?」


 俺の愚痴に魔法使いのティフィーがバカにしてきた。


 世界に魔王と魔族が現れて4年が経った。

 突如現れた魔族は人類への侵略戦争が始め、多くの人間が命や財産を奪われた。


 そうして、人類の種の存続を賭けた戦争が始まった。

 以前は対立していた国が手を取り合い魔族に抵抗した。


 最初は連合軍隊による抵抗だったが、人間より遥かに強い魔族を相手取るのに多人数は適していなかった。


 一般兵十万を動員してようやく魔族を一体倒せる程度。しかも、それは下級魔族のみだった。


 そんな中、少数で魔族を殺せる人類が現れた。


 それが《勇者》が率いるパーティーだった。

 《勇者》は数人の仲間に絶大なバフを与えることができる。


 《勇者》の登場により、魔族に手も足も出なかった人類の反撃が始まった。


「俺たち以外が引き籠っているのが問題だろ! そいつらも引っ張り出して来いよ」


 ただ《勇者》は百人しかいなかった。死ねば補給されることはない。

 結果、魔王城手前までに勇者は十人まで減った。


 俺は世界に残された勇者の一人だ。


 だが、現在活動をしているのは俺たち以外いない。一応、活動はしているみたいだが前線には出てこない。


「そんなことをしたら可哀そうです。それに、意思のない方は足を引っ張るのみです」


 修道服の聖女が他人を見下すような発言で俺の言葉を否定した。


 俺たちは四人パーティーだ。三年前に《勇者》に覚醒してからなんやかんやあって集まって、これまで一緒に戦ってきた。


 俺を小バカにした言葉を発する魔法使い。

 自然に他人を見下す聖女。

 さっきから一切喋らない無口な剣士。


 俺たちは四人で命を賭け合った。


 その結果が現状に繋がる。


 俺たちは魔族の本拠地である魔王城手前まで領地を取り戻した。


 魔王まであと一歩。そんな所で足止めを食らった。


 それは人類間での政治的理由だ。

 理由は複数に絡み合っているが、土地やら利権やら、まあ難しい問題が山積みだ。


 そして、俺がそんな面倒な事に付き合ってやっているのには理由がある。


(魔王を倒すと後々厄介だな。持ち上げられるにしても捨てられるにしても面倒になる。この均衡状態が一番いい)


 俺は元傭兵としてそんな思想があった。敵がいるからこそ俺たちが必要になる。だから、俺は魔王を倒す気はない。

 この状態を保ち続けたい。


 だが、このことを他のパーティーメンバーに悟られてはいけない。


「私は魔王を倒すことに反対だわ。だって、私の死刑が確定しちゃうじゃない」

「魔族にも事情があるはずです。共存の道を残すべきかと」

「……好きにしろ」


 全員、魔王を倒す気はない。


 こんな中、俺まで同調してしまえば、士気が下がる。

 そうなってしまえば、人類全体から『裏切者』と烙印を押されるだろう。


 それは面倒だ。


 だから、俺は魔王を倒しに行く立場を崩さない。


「ちっ。仕方がない。しばらく待つか」


 あと数年はこのまま停滞してやる。


 ――――――


「入るわよ」


 その日の夜。寝ようとしていた俺の部屋にティフィーが入って来た。


「昼間はごめんなさい。あなたが魔族を恨んでいるのは知っているのに反対しちゃった。私はあなたの意思を尊重したいのよ」


 そう言いながら俺の隣に座った。

 距離感が近い気がするが、今更気にすることではない。


「でも、ほら。焦っている時ほど落ち着いた方がいいのよ。私だって、焦ってやらかしてこんなザマになっちゃんだから」


 首輪を見せつけて来た。

 これは隷属の首輪と呼ばれるもので、基本的に奴隷に対して着けられる物だ。


 だが、奴隷落ち以上の刑が決まっている極悪人に対しても首輪を施すことがある。

 ティフィーは後者で既に死刑が確定した罪人だ。


「別に私は死ぬ事は怖くないのよ。元からその覚悟だったんだから。でも、あなたがどうでもいい存在たちに苦しめられるのは嫌」


 何を言いに来たかと思ったが、結局は説得か。

 別に俺としては魔王を討伐しようなんて考えていない。だが、簡単に同調してはいけない。


「俺もバカじゃない。魔王を殺した後、俺たちがどんな扱いを受けるかは分かっているつもりだ。それでも魔王は殺す。例え、俺だけでも殺しに行く」


 仲間がいて初めて成立する《勇者》が一人で行動するなんて自殺行動に等しい。


「勝手なことはしないで頂戴。あなたが死んだら私も死ぬんだから。それに死ぬなら。あなたと……」

「俺と? 最後なんて言った?」

「もう! とにかく勝手な行動はしないこと。私だってまだ死にたくないんだから」


 俺の体を叩きながらティフィーは文句を言った。

 バフを掛けていない魔法使いの打撃は痛くともなんともない。


「とりあえず、今は魔王を殺す為の準備期間だ。後の事は後で考えろ」

「準備期間ね。分かったわ。勝手に出て行っちゃ駄目だからね」

「分かっている」

「おやすみ!」


 ティフィーは去り際に念押ししてから戻っていった。


 静かになった所で寝ようと目を閉じたが、今度はノックもなしに人が入って来た。

 こんなことをする人間は身近に一人しかいない。聖女だ。あいつは見た目こそ上品だが他人の人権を踏みにじるような人間だ。


「俺は寝ようとしていたんだが」

「それは失礼しました。しかし、私を前にしてその態度とは悪い子ですね」

「礼儀を知らない相手には寝たままで対応していいだろう。それでなんの用だ?」


 聖女はティフィーと同じように俺の隣に座った。


「お昼の件です」

「俺は意見を変える気はないぞ」

「あなたの気持ちは分かります。しかし、まだ我々では実力不足です。あと数年は魔王を殺害すべきではないでしょう」


 実力不足? 俺たちは既に魔族の最高戦力の四天王を三体殺害した。それに魔王と同角と言われていた四天王最強も逃げられはしたがほとんど一方的に倒した。

 少なくとも四人で協力すれば魔王を殺すことは可能だろう。


 勿論、聖女も魔王を殺せると確信しているはずだ。


「本当の考えを言ってみろ。どうせ、宗教関係だろ。今の状態の方が信仰されやすいとか信者が増えやすいとかあるんだろ」

「よくご存じですね。そうです。私は教会から指示を受けています。では、これは私の本心なのですが、魔族は神が遣わした人類への救済だと思いませんか?」

「は? 何言ってんだ?」

「人類だけでは互いに戦争をすることしかしなかったのです。そこに魔族が現れたことによって人類は手を取り合うことができたのです。なので、魔王は殺すべきではありません」


 流石にこいつは異端すぎる。こんな人間を聖女として担ぎ上げる奴らの気は知れないが、こいつは強いし役に立つ。過激な思想を持っていようとそれを埋め合わせるほどだ。


 魔族を絶滅させるべきではない。この一点だけでは同じ思想かもな。

 だが、同調はしない。


「お前がどう思っていようが関係ない。俺に従え。魔王は殺す。魔族については……共存の意思がある奴らなら殺さない」

「まだ、噛み合わないみたいですね。それでは、また明日お話しましょう。よい夢を」


 聖女が去っていった。


「ねえねえ。これボクも出て来た方がいいかな?」


 ベッドの下から見た目とは程遠い幼児声を出す剣士が現れた。


「人形遊びをする必要はないだろ」

「そうだね」


 剣士の体が崩れ落ちた。

 声の主は俺の隣で寝っ転がっている幼女の見た目をした女だ。


「あの子たち必死だったね。だって、君の事が好きなんだもんね。人間って感じがしていいね。ボクそういうの大好き」


 この幼女は人形遣い。剣士はこの女の作った架空の存在だ。


「やっぱり人間らしさって色恋だよね。こうやって、ちょっとした障害があればあるほど恋っていい感じになるよね」

「何が言いたいんだ?」

「いやね。君が必死に誤魔化そうとする姿を見てるとボクは楽しいよ」

「魔王サマはいいご身分だな」


 この幼女こそ、俺たちが討伐しようとしている魔王だ。


「へへ。そうでしょ。じゃあ、また明日も遊ぼうね勇者のおにーちゃん」


 魔王が寝た。


 俺はゆっくりとベッドを抜け、人形を抱えた。


 そして床に擦れないように丁寧にベッドの下に隠した。



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