第7話 超集中スキルの真髄
「よしっ、クーフ。昼からの畑仕事の前に一度、魔法をみせてくれ。たしか、身体強化魔法だっけか?」
「うん!わかった!」
そう言って僕は全身の気を巡らせるために集中した。そして身体強化魔法らしき感覚となった。
「キール兄ちゃん、たぶんいま魔法使えてると思うよ!動いてみてもいい?」
「ああ、そうだな。じゃあ畑のあの端まで50メートルくらいあるだろうからそこまで行って戻ってきてみてくれ。」
「わかった!」
そして僕は超一流の陸上選手並みの速度で往復した。
「クーフ、す、すごいな。あ、魔力切れとならないよう魔法を解除するんだ」
「魔法の解除?どうするの?」
「魔法を使うときと反対の事をするか、なんとなく魔法の発動をやめればいいんだ」
よくわからなかったが、力をふっと抜いてみた。
「あ、何か魔法解除されたみたいな感じがする。」
「そうか、よかった。ところでその身体強化魔法ってどうやって使っているんだ?」
「ん?キール兄ちゃんは魔法使えるんじゃないの?」
「い、いや、俺は生活魔法くらいしか使えないぞ。魔法学園に行けなかったからな。というより、たぶん父さんも身体強化魔法使えないんじゃないかな。まあ父さんの場合は筋肉も体力もあるから要らないのかもしれないけど。」
「そうなんだ。え、魔法学園って何?めちゃくちゃ気になるよ。」
「魔法学園はスキルを授かる前に色んな競技を行って村での予選会、街での本戦に参加し、優勝すれば、無料で魔法学園に通えるよう推薦してもらえるんだ。通常、魔法学園は通うのにかなりのお金が必要だから通ってるのはほとんど貴族だけどな。」
「え、僕、魔法学園に行きたい!何の競技があるの?教えて!」
「まあ、待て。それはまたの機会に話してやるから、とりあえずいまは身体強化魔法の使い方を教えてくれ」
「絶対教えてよ!」
「わかったよ(まったく、子どもはすぐに話を脱線するから苦手だなぁ)」
「じゃあ説明するね。僕の身体強化魔法は全身に血が巡って、強くなるイメージでやってるよ。」
「つまりそれは感覚でやっているのか。まあ、そうか。理論を自分で考えるなんて無理に決まっているか。」
「理論はよくわかんないけど、キール兄ちゃんならできるよ!」
「じゃあやってみるか」
そしてキール兄ちゃんは身体強化魔法を使おうと真剣な顔つきになり、イメージを始めた。
だが、すぐに僕の方を向いた。
「クーフ、よくわからないぞ。血が巡るってどういうことだ?」
あ、なるほど。前世では血が巡るってことは広く知識として知れ渡っているからイメージできるけど、この世界ではそういった知識がないのか。もしかしてこれが理論的なやつなのかな?
「えっとね、あっちの畑じゃないところに行ってもいい?」
「ああ、いいぞ」
そう言って僕は堅そうな地面のところで人型の絵を描いて、全身の血の巡りを矢印で示した。それからついでに全身からオーラが出てるイメージも描いておいた。
「なるほど、これならわかりやすい。一度やってみる」
そしてキール兄ちゃんは真剣な表情で身体強化魔法に取り組んだ。
「クーフ、もう少しで出来そうな予感はあるんだが、ちょっと難しいな。」
「そっか。そういや、キール兄ちゃんはいま超集中スキル使っていたの?」
「いや、使ってないが。」
「じゃあ使ってやってみてよ!これなら他に影響出ることなさそうだし」
「まあそうだな。やってみるか」
やった!ついでにスキルの仮説検証が出来るぞ!ラッキー!
ちなみに僕の考えた仮説はこうだ。
スキルにはメリット・デメリットが必ず存在する。そしてそれはスキルについての理解の深さがあればメリットとなり、逆に特徴を生かせなかったときに何かしらのデメリットが出るというものだ。
例えば、母さんの場合は治療に関する知識、前世でいうところの医学の知識がないのに回復系のスキルを無理に使おうとしてもうまくいかなかったことだ。
前世を例に出すと、掃除機を使うときに“掃除機はゴミを吸うものだ”と理解しているだけだと、実はしっかりとその機能を満足に使うことが出来ない。掃除機はゆっくりと動かして、特に引くときに吸引力があがるので、素早くちゃちゃっと掃除機をかけてもなんとなくのゴミしか吸引できていないのだ。これが理解して性能を満足に使えているか、ということだ。
話は戻るが、キール兄ちゃんには人体の知識がなく、イメージができてなさそうだったので、僕が超初心者のための保健体育的な講座をしたのが、さっきの地面に描いた絵のことだ。
それでも簡易的過ぎてイメージを固めるのにはかなりの集中力が必要となる。初めて挑戦するキール兄ちゃんがやろうとしてもなかなかに難しいことなのだ。だけど、キール兄ちゃんは超集中スキルの影響なのか通常よりも集中力があるようだ。
であれば、あとはスキルを使って、その集中力を高めるだけでうまくいくはず。
そして僕の仮説の結果が出た。
「おー!これが身体強化魔法か!体が軽くなったのがわかったぞ!ちょっと動いてみるか」
そう言ってキール兄ちゃんは僕のときと同じような速度で畑を何度も往復してから僕の元へ戻ってきた。
「クーフ、すごいな!この魔法!ただ魔力消費もかなりあるようだが。」
「魔力消費多いんだ?それより、キール兄ちゃん、めちゃくちゃ速かったね!僕、びっくりしちゃったよ!それに超集中スキルってすごく良いスキルだね」
よしっ、僕の仮説がそこそこ当たっているようだ。
「ああ、クーフのアドバイスのおかげで上手くいったよ!ありがとう。それに超集中スキルの正しい使い方がわかった気がする」
「スキルの正しい使いかた?」
「ああ、今までは走るためや魔法の発動中、つまり“動作”に超集中スキルを使っていたんだが、それだと体への負担が大きかったんだ。でも、発動の“イメージ”に対してスキルを使えば特に体への影響がないようだ。」
なるほど。直接的に動作へスキル発動すると、直接的な影響が出てしまうが、イメージだと脳内で理解して使用するから自分のポテンシャルで動作に移るから影響がないのか。
やっぱり、超集中スキルってすごく良いスキルだよね。
「あれ?キール兄ちゃん、魔法でも超集中スキル使ってたの?朝に話したときは使ったことがないようなこと言ってなかったっけ?」
「あ、いや、まあ、まあいいじゃないか!」
あ、誤魔化してる。
まあ、いっか。多感なお年頃特有のプライドでもあるんだろうな。
それより今日のことがきっかけでキール兄ちゃんと心の距離が近くなった気がする。だってさっきからキール兄ちゃんのパーソナルエリアに僕が入っても嫌がらないからね。これは心を許してくれてるってことだ。
「じゃあキール兄ちゃん、僕、魔法の練習しながら水撒きしておくね」
「ああ、魔力切れにならないようにな。」
「あ!魔力切れってどうやって事前にわかるの?」
そう、僕は魔力切れについてまだ何も知らないのであった。