第58話 私はミール その2
今回はミールさん視点のお話です。
いまは入学試験第2ステージが終わり、何だかやるせない気持ちでいっぱいだわ。
私の名前はミール。
入学試験第1ステージでクーフ君とペアを組んでいたわ。
だけどクーフ君が途中で浮気をしたせいで私の恋は儚く散ったの。
そう、儚く散りもう二度と会うことはない・・・。
とあのときは思っていたんだけど、まさかクーフ君が第1ステージをクリアしてたなんて思わなかった。
きっと私に会いたい強い気持ちが力となって、あの蔓を立ち切ってきたのよね!
だってあの蔓が切れるほどの火球魔法を使うと蔓が切れる前に大火傷を負うもの。
でもクーフ君はどうやったのかしら?彼の得意魔法は土だったはず。
もしかして私に恋い焦がれる想いが蔓をも切ってしまったのかしら?
そうよ、きっとそれしかないわ!
そう思わないと第1ステージクリア後のあの再会の態度が説明できないもの。
******
時を遡ること第1ステージ二日目の午前中。
私はクーフ君へ愛想を尽かし、1人でゴールのある大木へと向かっていた。
「はあー。せっかく運命の人に出会えたと思ったのにすぐに浮気されるなんて私はとことん男運がないのね。
あら、大木の近くにいるあのペアは誰かしら?」
大木が見えるところまで来ると先に到着していた男女ペアが仲睦まじい様子で神父さまへ報告していた。
どうやら2人ともゴブリンを討伐したようだった。
なぜだかわからないけど、私は近くの木の陰に隠れて様子を伺うことにした。
「神父さま、私達は無事到着しましたわ」
「神父さま、無事に到着しました」
どうやら口振りからして女性が男性を引っ張っているようね。
「うむ、2人ともそれぞれが狩りを行ったようだね。
第1ステージは2人とも合格だ!」
「やったわ!」
「やったね」
2人は手を取り合い喜んでいた。
それからそのまま手を繋ぎながら大木の中へ入っていった。
「うーん、なぜ私は隠れてしまったのかしら?
もしかして1人でいることに引け目を感じてるのかしら。
まあいいわ。早くゴールしましょう」
なんだかモヤモヤしたまま私は大木へ行き、神父さまへ報告した。
「無事到着しましたわ」
「うむ、ミールさんは熊を討伐したのだね。
無事合格だ、おめでとう。
それから・・・君のペアの子はどうしたんだい?」
「わ、私のペアの人!?
そ、それは、話す必要があるのかしら?」
「いや、無理に話す必要はないよ。
一人でここへ来るのは珍しいことだからね」
「そ、それなら私はその質問には答えないわ」
「・・・そうかい。じゃあこちらで休んでおいてくれ。
明日の朝、この大木前に集合して第1ステージ合格者で町へ戻るからね」
「わかりましたわ」
私は大木の扉が開いたことに驚きつつも、中へ入った。
すると、クーフ君のお友達のリンキー君が先ほどゴールしたばかりの男性と話していた。
何があったのかはわからないけど、先ほどゴールした女性がすごく怒ったような目つきでリンキー君をにらんでいた。
何か関わらない方が良さそうな雰囲気を感じたので私は一度、自分に割り当てられた部屋へ行き、休息をとることにした。
「ふぅー。何だか疲れたわね。
さっきリンキー君は私を見たあとキョロキョロしてたけど、きっとクーフ君を探していたんだろなぁ」
このときになってクーフ君を置き去りにしたことを少し後悔し始めた。
魔物や動物がほとんど出なかったからあんな風にしたけど、もしも狂暴な魔物や動物が出てきたら・・・。
そう思ったときには私は部屋から飛び出していた。
そして外へ出ようとした。
「えっ、開かない!?なんで!?何で開かないのよ!」
「こらこら、ミールさん。乱暴はよくないよ」
「神父さま。私は外に出ないといけないの!」
「うむ。それはできない」
「なんで!?」
「第1ステージが終わるまでは一度ゴールした者は外へ出せないのだよ。
もし友達がいた場合、助けることだけに集中できてしまうからね」
「そ、そんな・・・。」
「そんな思いつめた表情をして何かあったのかい?」
「な、なにもないわ!」
「そうかい。では今日は試験の疲れを取るためにゆっくりと部屋で休むか、食堂で美味しいものを食べて英気を養いなさい」
「・・・はい」
そのまま部屋へ戻ると私は枕に顔うずめ泣いていた。
「あぁ、私はなんてひどいことをしてしまったの。
クーフ君、無事に明日まで耐えて・・・」
しばらく泣き続け、泣きつかれたのか知らないうちに私は眠ってしまった。
それから私は朝の放送で目が覚め、昨日の出来事を思い出し、すぐにクーフ君の元へ向かおうとした。
だけどベッドから降りたときに転んでしまった。
「はは、そういえばずっと何も食べていなかったわね。
こんな状態で外へ行っても私は役立たずで終わってしまうわ。朝食を早く食べてすぐに行かないと」
私は服を着替えたあと、急いで食堂へ行った。
「えっ、なんで、いるの?」
私は声にならない声量で呟いていた。
するとクーフ君と目が合った。私は“怒られる”ことを覚悟してすぐに目を逸らしてしまったけど、クーフ君は何事もない様子で食事を続けていた。
もしかしてクーフ君は怒ってないのかな。私は困惑しながらもどこかホッとし、朝食を受け取ったあと少し離れた場所に座った。
するとクーフ君たちの会話が聞こえてきた。
「クーフ、一言***あの****ペアさんに何か言わなくていいのか?」
「もう*******あの子****な感じだからこれでよかった***」
少し離れた席だったせいかところどころ周りの声で聞き取れなかったけど、クーフ君は私に何か言いたかったのかな?
えっ、まさかとは思うけど“私のことが好き”って言ったのかな?
いや、そんなはずないと思う。でも怒ってこなかったり私の方を今もチラチラとみてる感じからするともしかしたらもしかするかもしれないわ。
それに蔓を切れたのは私に会いたい一心だったとしたら。
さらに私が昨日、一生懸命祈ったことが神様に伝わって助かったのだとしたら。
もうこれって運命よね?
あぁ、そっか。クーフ君は昨日愛の言葉を“言ってくれなかった”のではなくて、恥ずかしくて“言えなかった”のよ、きっと。
これは私から話しかけないと。
「よしっ、勇気を出して話にいくわよ」
私が気合を入れて立ち上がろうとしたとき、クーフ君らは食堂から出て行ってしまった。
「うふふっ、やっぱり照れ屋さんなのね。あまり無理に近づかないようにしなくちゃ。
恋愛は引くことも大事だってメイド長が言ってたものね」
******
そのあと私はクーフ君のことを陰から支えることに徹することを誓ったわ。
といっても第1ステージが終わってから第2ステージまでの間は会うことすらできなくて寂しい思いをしただけだったけど。
女子の第2ステージは男子よりも1週間早くに実施されたわ。
私は第1ステージを女子の中で2番目にクリアしたので準決勝から戦うことになった。
準決勝の相手の子は水魔法が得意だったようだけど、私の蔓魔法とは相性が悪かったようで蔓で近くの木に縛り付けたらすぐに決着がついたわ。
それから決勝戦、まさかあんな戦いになってしまうとは思ってもみなかった。
『それでは女子の決勝戦を行います。
東側よりミールさん、入場お願いします』
「「「うぉー!」」」
『続きまして西側よりファイスさん、入場をお願いします』
「「「うぉーー!!!」」」
『それでは両者中央へ。
―――始め!』
私は準決勝と同じように近くの木から蔓を生成し、拘束を仕掛けた。
だけど準決勝を見られていたのか避けられてしまい、ファイスさんが風魔法で周辺の砂を巻き上げ、視界を奪われた。
「うっ、視界が悪いわね。一旦、引いて様子を見ないと」
「食らえ!」
突然、前方より槍を持ったファイスさんが襲ってきた。
私は不意を突かれ、逃げそびれたが先ほどの蔓を自身に巻き付け近くの木へ引き戻すことでなんとか回避ができた。
「な、なによ。あれ。
槍の先に触れた箇所が凍ってるじゃないの」
「ほぉ、あれを避けきるとはなかなかやるね。伊達に一人で第1ステージをクリアしただけのことはあるわね」
「ふんっ、大きなお世話よ!」
私はクーフ君にしたことを思い出し、あのときの後悔の念が体を巡った。
だけどここで取り乱すと相手の思うツボ。私はクーフ君から教えてもらった呼吸法で自分自身を見失わずにいることができた。
「クーフ君、ありがと」
そう小さく呟き、私は現状を分析した。
実は「刃物+氷系統」は私の蔓魔法とは相性が最悪だ。
蔓に流している水を凍らせられると柔軟性が失われ、硬度が増してしまう。そこへ槍で攻撃されたら蔓はすぐに砕け散り、使い物にならなくなる。
「ふっ、あなたミールさんだっけ?蔓魔法では私には勝てないわよ?
さあ、どうするの?」
「クーフ君、本当にありがとう」
私はもう一度小さく呟き、雑木林エリアへと駆け出した。
「小さい声でもごもごと何を言ったのかわからないけど、そっちへ逃げたということは怯えてるのね。
―――と普通は勘違いするんだろうけど、ミールさん。あなたが自分の有利な蔓魔法を使うってのは見え見えよ」
私はファイスさんの言ってることは一切気にせず、雑木林に来ると熊を捕らえたときと同じように地面に蔓の仕掛けを作った。
それから少し離れたところでしゃがみ込み、疲れた感じを装ってファイスさんが仕掛け上へ来るように誘導した。
「ミールさん、あなたもう疲れているの?ということはこの辺りに何かを仕掛けているのね。ちゃんと体力を考えて魔法を使わないと。
それにね、あなたの魔法ごときで私がやられることはないのよ。
―――ん?きゃーっ!」
「ふぅー、うまくいったわ。ファイスさん、あなたは油断しすぎなのよ」
私は態勢を変えず、上空に蔓の網で捕らわれたファイスさんを見上げていた。
「これだと動けなくて私の負けになってしま・・・うわけないでしょ!
こんなのこの槍で―――こうよ!」
ファイスさんは私の仕掛けを氷の槍で断ち切り、そのまま地面へ着地しようとした。
「このままあなたに攻撃をしておしまいよ!
―――って、うぐっ。」
私は蔓魔法の仕掛けが発動したあと、魔法で地面を泥に変えていた。
そのおかげでファイスさんは着地が上手くいかず、顔面からダイブしそうになりながらも何とか両手で支え切っていた。
「あ・な・た・ね!許さないわよ!
ってあれ?私の槍はどこ?」
「ふふっ、あなたの槍は私の蔓で回収させてもらったわ。
あとこれはおまけよ!いけ!」
私はそのままファイスさんの上へ大量の土を降らせ、頭だけ出た状態の生き埋め状態にした。
それからファイスさんは土の重さで動くことができず、腕輪が光り、土が輝いた。
『ファイスさんは拘束状態判定により、ミールさんの優勝―!!』
「「「うぉーーー!!!」」」
こうして私はクーフ君の技で勝利を収めることができた。
実は第1ステージが終わってから私は少しでもクーフ君に近づけるようにクーフ君の技を訓練していた。
まさかこうして助けになるなんて、本当に運命を感じるわ。
私が優勝してから1週間後、クーフ君の戦いが始まった。
私は会場で密かにクーフ君を応援していた。クーフ君は全部で6度戦わなければならないけど、私はクーフ君を信じていた。
そのおかげもあって順調に勝ち進んでいき、私は魔法学園にクーフ君と一緒に通える日が来ることが現実味を帯びてきて、ドキドキしていた。
だけどそんな中、私以外にもクーフ君の魅力に気づく女性が出てきた。
それは第2ステージ男子の部二日目のことだった。
クーフ君の入場の際に媚びるような声援が聞こえてきた。
私はクーフ君に悪い虫が付かないようすぐさまその女性のところへ向かった。
「すいません、あなたはクーフ君のお友だちですか?」
「い、いえ、違います。昨日の戦いが素敵だったのでファンになったんです」
「そう、ならいいわ。でもね、”私”のクーフ君に手を出したらタダじゃ済まないから」
「は、はい!す、すみませんでした」
その女性はすぐに私の前から去って行った。
「よしっ。あ、あなたたちにも伝えておくわ」
それから周りにいたクーフ君の応援団らしきファンの人たちにも一言伝えてから私は席へ戻ってクーフ君を応援し続けた。
それからクーフ君は勝ち続け、とうとう決勝戦となった。
決勝はあの“見た目だけ”な奴だからクーフ君の優勝は確実!って思っていたんだけど、まさかの魔法の才能に溢れる奴でクーフ君が負けてしまった。
この瞬間、”私たち”の学園生活は終わってしまった。
そして私はこのとき誓った。
“私とクーフ君の仲を裂いたアイツを許さない”と。
魔法学園ではこの恨みを晴らしてやる。でもその為には実力をもっとつけないと。
「決めた!入学までの間は一切休まず、全力で魔法の訓練に取り組んでアイツをぶっ飛ばす!」
それからメイド長たちとの壮絶な訓練が始まるのであった。




