第45話 入学試験1日目②
体調がなかなか戻らず。
やっと8割ほど戻ってきたので再開です。
僕はミールさんと一緒に教会裏の森に入った。
すると既にペアが出来ている人たちで森の入口付近は人で溢れていた。
だが、その中にリンキーの姿はなかった。というより僕が森に向かう時もまだペアの相手を選んでいたからだ。
僕がリンキーを待たなかったのには理由がある。それはミールさんの気が変わらないうちにスタートしたかったからであり、決して出し抜くなんてことは思っていない。うん、思って・・・・いない。
まあそんなわけで今は森の入り口付近まで来たのだが。
「ミールさん、得意な魔法って何なの?」
「わ、わたし、の、と、得意、な、ま、魔法は、き、木属性、ま、魔法」
「そうなんだ。ならこの森では大活躍できそうだね」
「そ、そう、かな」
ずっとこんな感じである。ミールさんのしゃべり方が元からこうなのか、人見知りで緊張しているからなのかがわからない。
これはすごくデリケートな問題で、何か知る方法がないかずっと考えていた。
そんな僕の様子を見てか、ミールさんが不安げな様子で話しかけてきた。
「ク、クーフ、君。わ、わたし、きん、緊張し、して、う、うまく、話せ、なく、て、ごめん、ね」
どうやら緊張していたようだった。
それなら!と僕は緊張が解れる呼吸法を教えることにした。
「緊張解す方法を知ってるから教えるよ!」
「う、うん」
「呼吸するときに3秒吸って6秒吐く、これを目を瞑って3回繰り返してみよっか」
「え、う、うん」
「じゃあ数えるよ。目を瞑って息を吸ってー、いち、に、さん。じゃあ吐いてー、いち、に、さん、し、ご、ろく。じゃあまた吸ってー・・・」
「すぅー、はぁーーー、すぅー、はあーーー、すぅー、はぁーーー」
「よしっ!じゃあ目を開けてみて」
「うん、少し落ち着いたみたい。ありがとう、クーフ君」
「いえいえ、僕もこの呼吸法はよく使ってるから緊張しそうなときはこれからも使ってみて」
「うん!そうする」
ミールさんの緊張が解れたことで、会話がスムーズになったようでよかった。
もし、過度な緊張状態のまま魔物と遭遇したら筋肉が固まってうまく動けなかったかもしれないもんね。
「じゃあ僕たちも森の中へ行って、まずは狩りをしよう」
「うん、そうだね」
僕らは狩りをする為、他の参加者が居ない場所を求めて、森の中へ入って行った。
だけど、森の浅い場所では町に近いからか、試験課題となっている動物や魔物はいなかった。
「この辺りってあんまり野生動物や魔物っていないのかな?」
「そうね、私はこの町出身だからこの辺りはよく知ってるけど、冒険者の人たちが町に被害が出ないように駆除してくれてるの」
「そうなんだ。じゃあもっと森の中へ行こうと思うけどいい?」
「うーん、ちょっと怖いけど、行ってみましょう」
それから僕らは小一時間ほど歩いたところで低級魔物と呼ばれる対象に遭遇した。
「うわっ、何あれ?もしかしてスライム?」
「ええ、スライムね。クーフ君はスライム見たことないの?」
「う、うん。僕、魔物自体見るのが初めてだよ」
「そ、そうなん・・・だ。倒し方わかる?」
「うん!そこは事前に対策はしてきたから任せて。確か魔法で倒せるんだったよね。」
「そうよ、魔法で倒すのが一番効率が良いわ」
「じゃあ、これでいくか。それ!」
僕は土魔法を放ち、スライムを生き埋め状態にした。
「あ、クーフ君。スライムを倒すことは出来たようだけど、そのスライムの討伐証明はどうする気なの?」
「あ・・・、ごめん。何も考えてなかった!」
「もう。クーフ君っておっちょこちょいなところあるんだね。ふふふ」
「次から気を付けます・・・」
どうやら僕は何かあるとすぐに土魔法を使う癖があるみたいだ。
これからはちゃんと用途を考えないとな。
「でも、すごかった!あんなに速く魔法発動して、大量の土を出すなんて」
「ありがとう」
どうやら僕の魔法レベルは高いようだ。いつも“超優秀な”親友と競ってるからよくわかってなかったけど。この調子なら第一ステージは簡単にクリアできそうだね。
「じゃあ次に何かと遭遇したら私が討伐するね」
「うん!僕は何かあればすぐにサポートに入れる準備はしとくよ」
「ありがとう。クーフ君ってすごく優しいのね」
「まあ僕たちはペアで行動してるからね。互いにフォローし合おうね!」
「フォロー、互いに・・・。」
「うん?いま何か言った?」
「ううん、何でもないわ。“二人で一緒に”頑張りましょ!」
「うん。おっ、話してる間に向こうの方から何か来るよ」
「え、なんでわかるの?って本当に来たわね。熊のようね」
30メートルほど先から熊がのそのそと歩いてきた。
だが、熊は僕らのことには気づいていないようだ。
「ミールさん、熊の討伐はしたことあるの?」
「いいえ、熊はないけど、恐らく勝てるから心配いらないわ!では、行きますわ!いけっ!」
ミールさんは両手を熊の方へ差し出し、大きな声を出した。その声に驚いた熊が突然こちらに向かって走ってきた。
熊がこちらに向かってきているのにミールさんの魔法は発動失敗したのか、ただ両手を出して構えているだけだった。その間も熊はどんどんミールさんに近づいていた。
残り10メートルほどの距離まで近づいたとき僕はミールさんを守るべく、魔法で鋼球を出し、投げつけようとしたところ、突然熊が上空に飛んだ。
いや、飛んだように見えたが、実際は蔓で出来た網が木と木の間に張られ熊が生け捕りで空中に捕獲されていた。
「やった!」
「え、どういうこと?これがミールさんの魔法?」
「そうよ、私は熊が走ってくる動線に木属性魔法で作った網を木と木の間に仕掛けておいたのよ。
その上を熊が通るときに網を絞り上げて、捕獲したのよ。」
す、すごすぎる。僕の魔法を褒めてくれたけど、単なるお世辞だったようだ。
どう考えてもミールさんの魔法の方がはるかにすごい。
だって、数百キロはある熊を空中で捕獲する蔓の網ってめちゃくちゃ強力だ。
しばらくの間、僕は唖然とした様子でミールさんと熊を見ていた。
「あ、生け捕りだとダメだったわね。確か頭を持ってこいって言っていたから。
こうして・・・、いけっ!
・・・うん、これでどうかしら?」
僕はさらに唖然としてしまった。
ミールさんは網の一部だけを広げ、そこから熊が脱出を試みようと頭を出した瞬間に上下から薄い木板を出現させ、ギロチンみたいにスライドさせ討伐した。
「す、すごいね。一瞬だったね。それよりミールさんの魔法発動スピードも速いよね?あの薄い木板が一瞬で出たように見えたんだけど」
「そんなことないわ。ただ木板が薄いからすぐに発動出来ただけ。それだけよ」
そう言いながらミールさんは前髪を掻き上げ、そんなことなくはない表情で僕の方を見た。
初めて目元が見えたが、大きくキレイな藍色をしたその瞳は自信に満ち溢れていた。
まるで、すごく心が満たされたように。
うん、ヤバイ人だよね。熊の首をチョンパしてドヤ顔は。
「じゃ、じゃあ僕も早く課題を達成するため、野生動物か低級魔物を探しに行かなくちゃね」
僕は一刻も早くこの第一ステージをクリアしたい気持ちになった。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、ミールさんは得意の木魔法で作ったかごに手早く血抜きをした熊の頭を入れていた。
「うん、これで持ち運びできるようになったから討伐対象を探しに行きましょ!
あ、でもこの熊の体のお肉どうする?」
「そうだね、この辺り一面、熊の血で臭いがすごいからその辺に下ろしていたら、匂いを嗅ぎ付けた他の動物の食料になるんじゃないかな?」
「わかったわ」
どさっ。
うん、雑に扱いすぎだよね。もう少し丁寧に下ろしてほしかったよ。
僕はミールさんに対して恐怖感が増すばかりであった。
そして討伐対象を探すべく、さらに森の奥へ向かうことにしたのであった。




