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第36話 宮廷魔術師恐るべし



「今日は一人で魔法の訓練だな。」


 リンキーは母親との久しぶりの再会の為、今日から三日ほどは居ない。

 これまでずっと二人で訓練する日々が続いていたから、何だかソワソワしちゃうな。

そう思いながらも、僕はその日の魔法訓練を終え、帰りにエルプーリさんへ挨拶をしに行った。


「エルプーリさん、今日もお疲れ様です。僕は魔法の訓練が終わったので帰るね!」


「お疲れ様。今日からしばらくは一人だが、集中して出来てるかい?」


 う、うぅ、なんとも言えないところを突いてくるよね、エルプーリさんって。


「うーん、正直に言うと、何だかソワソワしちゃってたよ」


「ははっ、そうだろう。普段と状況が変わるとどうしても、集中できないものだからね。

 あとね、お昼にリンキー君が母親と一緒に私のところへ挨拶に来てくれたんだ。」


「えっ、そうなの?だったら僕にも一言声を掛けてくれればよかったのに。」


「私もそう思って言ってみたんだが、リンキー君が「クーフの訓練の邪魔をしたくない」って頑なに言い張ってね。

 だけど、リンキー君の母親から今夜泊まる宿については言伝をもらっているから、よかったら是非寄ってあげてくれないか?」


「僕の邪魔をしたくない、か。わかった!帰りに寄ってみるよ」


 恐らくリンキーは母親と一緒に居るところを僕に見られるのが恥ずかしかっただけだな。

ぷぷぷっ。そのときのもじもじした様子が目に浮かぶよ。

 そして僕は帰り道、リンキーたちが泊っている宿の前にやってきた。

 僕は友達の母親に会うなんてことはこの世界で初めてだから、緊張を解すため、深呼吸をした。

「すぅー、はぁー。よしっ、行くか」


 宿の中へ入るとすぐに受付があったが、誰もいなかった。

「すいませーん、誰かいませんか?」


「はーい」


 しばらくすると、奥から見知った顔の人物がやってきた。


「あら、クーフ君!?どうしたの?」


「え、イーメルさん!?イーメルさんこそ、どうしてここに?」


「ここは私の家よ。宿屋をやっているので手伝っているのよ。

 それにしても久しぶりね。それでクーフ君はどうしてここに?」


「そうだったんだ。久しぶりだね。

 僕がここに来たのは友達と会うためで、僕と同い年くらいの子とそのお母さんが一緒に泊まってると思うんだけど、居るかな?」


「あー、宿屋はね。誰が泊ってるかを教えてはいけないんだ。

 でも、ちょっと待ってね。確か伝言リストに何か書かれていたはず。・・・、あ、あったわ!クーフ君が来たら連絡してくださいってあるわ。少し待っててもらえるかしら。」


「はい、お願いします」

 ふぅー、よかった。せっかく来たのに会えなかったら、どうすんだって話だよね。

それからしばらくして、宿の二階からリンキーとその後ろから金髪ロングのナイスバディな女性が降りて来た。


「あ、リンキー!来たよ!」


「お、おぅ。クーフ」


「あ、クーフです。初めまして、リンキーのお母さんですか?いつもリンキー君と仲良くさせてもらってます」


「あら、礼儀正しい子ね。こんばんは、私はリンキーの母親でカリンというわ。これからはカリンと呼んでもらって構わないからね」


「はい、カリンさん。これからもリンキーと仲良くさせてもらいますのでよろしくお願いします」


「いえいえ、こちらこそよろしくね。それよりお部屋でお話しましょう。さあ行きましょ」


「あ、え、はい。でも、僕お家に帰らないと、家族に心配かけてしまうかも。」


「大丈夫よ、5分ほどで終わるわ。

 ただ、ここだと・・・ね。」


「わかりました」


 それから僕らは部屋に移動した。


「さてと、ここまで来れば大丈夫ね。クーフ君、この部屋には盗聴防止の魔法を掛けているから、誰にもこの部屋での会話は聞かれることはないわ。

 だからあなたが魔法を使えることを話しても大丈夫よ。」


「え、なんで僕が魔法を使えるってことを・・・?

 あ、リンキーか。」


「リンキーから話したわけではないわ。何故か、久しぶりに私と会ったのにずっとソワソワしていたから問い質したのよ。

 それでクーフ君がどんな子か一度会ってみたくて、お昼に教会に行ったんだけど、この子が頑なに訓練の邪魔はしたくないって言うから、伝言を残してきたのよ」


 おー、カリンさんて、なんていうか、かなり押しが強い人だ。

そりゃあ、リンキーも色々話しちゃうか。でもどこまで話したんだろ?

リンキーの目を見ると、リンキーは“余計な事言うなよ”という目をしていたので、とりあえずはカリンさん主導で話をしてもらうことにした。


「そうだったんですか、それでリンキーは僕の事何て言ってくれてたんですか?」


「ふふっ、この子には珍しく、めちゃめちゃいいライバルのような友だちが出来たって言ってたわ。

それでね、どこで友達が出来たのかを経緯を聞いたのよ。そうしたら、叔母さんの家にずっと居てもすることがないから叔母さんに相談したら、教会には子供たちが勉強で通うって聞いて、そこに行くようになって、クーフ君と知り合って、いまは魔法の訓練を一緒にしてるって聞いたのよ」


 そっか、叔母さん家でのことは上手く誤魔化せたのか。

「そうだったんですね、あ、でも僕の魔法のことは、」


「大丈夫よ!そこも話を聞いて、この村では子供で魔法が使える子が居ないのは私にもわかるから外ではクーフ君が魔法を使えることを隠してるってことも、リンキーと仲良くなると魔法が使えるかもしれないという噂が回るかもしれないってことは了承済みよ。

 だから先ほどの宿の受付のところの会話も認識阻害の魔法を使っていたから、周りにはあの時の会話も人も認識はされていないから安心して」


 す、すごすぎるな、この人。

何か難しそうな魔法をポンポン使っていたみたいだけど。

「気を使っていただいて、ありがとうございます」


「いいのよ、それくらい。それより私はあとここに一週間ほど滞在するので、特別にクーフ君もリンキーと一緒に魔法の訓練を見てあげるわ」


 え、宮廷魔術師のような素晴らしい人に魔法の訓練見てもらえるの!?

これってすごくラッキーだよね?やったね!


「いいんですか?ありがとうございます」


「リンキー、これで決まりね!明日から私たちも教会の裏手へ行くわよ」


「・・・うん、わかった」


「じゃあクーフ君、また明日ね。帰りの宿を出てしばらくするまで、君には認識阻害の魔法を掛けておくから安心して帰ってもらって大丈夫よ」


「あ、はい。ありがとうございます。また明日からよろしくお願いします」


 それから僕は宿から出て帰って行った。

 何だか慌ただしい人だったな。それにリンキーの表情がそれほど明るくなかったのが、何だか気になるけど、たぶん母親の前だから恥ずかしがってたんだろな。



 翌日。

 リンキーとカリンさんは一緒に教会の裏手に来ていた。


「よしっ、今日から1週間ほどだけど、私が訓練を見てあげるわ!

 午前中は魔法基礎訓練、昼からは中級魔法の単独強化版ってことでよかったわよね?」


「「はい!」」


 ヤバイ、なんだこの威圧感は。二人して思わず、大きな声で返事してしまったよ。


「じゃあ、まずは魔法基礎訓練から始めなさい」


「「はい!」」


 それから僕とリンキーはいつものように火属性の基礎訓練から始めたのだが。


「ん?なに?あんたたち、ふざけてんの?」


「え、ふざけてないです。カリンさん、どういうことですか?」


「基礎魔法の訓練っていうのはこうするんだよ」


 カリンさんは右手に火属性、左手に水属性、右足に土属性、左足に風属性、頭上に透明の靄のようなものがあるからたぶん無属性を同時に出していた。

 というかこれは魔法基礎訓練なのか?5つの属性を同時出しとか基礎超えてない?

そう思い、僕はカリンさん聞いてみた。


「カリンさん、基礎魔法って同時に出したら基礎ではなくなるんじゃ、」


「全部単独で単調な魔法を出してるだけだから基礎でしょ。一つずつやるなんて効率悪いわよ。

 さあ、やってみなさい」


 うぇー、忘れてた。この人“効率厨”で“スパルタ教育”だったんだー。

 だから昨日、リンキーの表情が暗かったのか。


 それから僕らはとりあえず、右手と左手で違う属性を出すところから始めさせてもらうようお願いし了承を得た。

 まあ、そのときのカリンさんの表情は納得していなかったけど。


 一時間ほど、左右別属性の魔法を使う訓練をしていると何とかコツが掴めてきて、左右で魔法出力に差はあるものの何とかできるようになってきたところで、午前中の訓練は終了した。


「はぁ、はぁ、はぁ。リンキー、基礎訓練のレベルがあがったね。はぁ、はぁ。」


「はぁ、はぁ。あぁ、クーフと一緒でよかったよ。一人だと精神的にキツすぎる。はぁ、はぁ、はぁ」


「よしっ!じゃああんたたち、これからお昼ご飯として野生動物の狩りに行くわよ!」


「え、僕、お昼ご飯のお芋を持ってきているよ」


「芋は保存が効くから今度にしな。私がいる間、お昼はすべて狩りをしてそのまま調理をするよ。

 魔法は実践で使ってこそ、だからね」


「「はい!」」


 それから休憩もあまり取らないまま、僕らは山の中腹へ向かった。

 正直歩きながら魔力回復することがこんなにも肉体的にツラいとは思わなかった。

それから中腹に着いた僕たちに待っていたのはウサギではなく、イノシシであった。


「じゃあ、クーフ。君からイノシシを狩りなさい!」


「はい!」


「一応、アドバイスをしておくわ。左右の手に風魔法と土魔法を出し、まず、風魔法をゆっくりとした速さでイノシシへ向かって使いなさい。その後、その風魔法に土魔法をぶつけてみなさい」


「はい、やってみます!」


 僕はイノシシが迫っていることもあり、あまり深く考えずに言われるがままにやってみた。

「いけー!」


 まずは左手で風魔法をかなり低速で放出し、その風魔法を追いかけ、ぶつかるように土魔法で生成した大きめの石が混じった砂を放出した。

 すると、風魔法に吸い込まれるように土魔法が加速し、そのまま風魔法を追い抜いてさらなる加速をした土魔法がイノシシへ当たると、イノシシは絶命した。

僕はイノシシの状態を確認しに行くと、散弾銃で仕留めたような痕跡があった。

そんな様子を見たカリンさんは腕を組み、頷きながら、満足気な顔をしていた。


「うん、クーフの実力はまずまずといったところだね。

 じゃあ次はリンキーの番だよ。もう少しすれば、私がさっき放った誘導魔法によって、熊が現れるはずだから、自分で考えて狩りをしな」


「はい!」


 え、リンキーは熊を狩るの?というより誘導魔法?

 宮廷魔術師ってすごいだけじゃなくて、ちょっとおかしな人なの?

 僕がかなり引いた様子でカリンさんを見ていたが、カリンさんは何も気にせず、熊がやってくるであろう方を見ていた。



「ほら、リンキー!熊が来たよ!気合入れなよ!」


「はい!」


 リンキーは左手に風、右手に水を出していた。

 そしてそれらを同時に放出し、熊の居る場所で留まるようにしてコントロールしていた。

熊は息苦しそうに藻掻いて、やがてその場へ倒れこんだ。

どうやら、熊を溺死させたようだ。


「ははっ、リンキーあんたもなかなかえげつないことをするわね!

でもそれでいいわ!いえ、それがいいわ!」


 げっ、やっぱこの人どこか狂ってるよ。

 魔法の腕が確かなだけあって、余計に恐ろしい。そうか、リンキーが魔法を色々使えたわけがわかったよ。カリンさんの恐育、いや、教育の賜物だったんだね。うん、素晴らしい。


 それからカリンさんが魔法を使い、その場で解体・調理まで済ませてしまった。

ちなみに明日からは僕たちが解体と調理をするようだ。



 昼食後、僕らは下山し、すぐに中級魔法の訓練に入ることとなった。

 中級魔法の訓練方法もカリンさんから指示があり、同じ属性の魔法を左右に出し、大きさを左右で変えたり、形を変動させたり、結合させたり、分解させたりといった事細かな指導をしてもらい、訓練を終えた。

 僕はこの日、これまでの人生で一番疲れたが、どこか何とも言えない充実感にも溢れていた。


 それからこの訓練は一週間続いた。

そしてカリンさんが帰る日、僕らは見送りに来ていた。


「あんたたち、よく頑張ったわね!私が思っていたよりもよく出来たからつい、課題を難しくしてしまったよ。

 だけど、それを乗り越えられるあんたたちは自信を持っていいよ!」


「ありがとう、お母さん。」

「ありがとうございます、カリンさん」


「じゃあ、また半年後、休みを取ってくるから、その時はさらに良い課題を用意しておくよ!

 ははっ、じゃあ二人とも元気で頑張りなよ」


 そう言ってカリンさんは去って行った。

僕たちは顔を見合わせて、半年後にやってくる地獄の訓練を思い浮かべ、思わず空笑いをするのであった。


 クーフとリンキーにとっては大きな事件でした。

 ちなみにリンキーの過去回想編ではリンキーが現実逃避をしたく、かなり美化して話をしていました。

 はい、カリンさん、色んな意味で強い女性です。


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