第32話 二度同じ過ちは繰り返さない
今回は少し短めのお話です
僕がリンキーに対して強く助けたい、一緒に手を取って頑張っていくと決めたのには前世が関係している。
これは僕がいまの世界に生まれる前の人生での出来事である。
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俺は18歳。大学に入学し、The理系男子まっしぐらな大学生活を送っていた。
もちろん実家暮らしであり、共働きの両親のスネを齧る形ではあったが、それなりに真っ当に生きていた。
そんな俺には3歳下の妹のアキコが居り、一緒に住んでいた。
自分の妹に対して言うのもなんだが、アキコは黒髪ロングでかなりの美人だ。もちろん高校に入学したばかりではあったが、見た目の華やかさもあり、友だちがたくさん出来たと、家でよくはしゃいでいた。
そんな妹に対して、俺は理系男子な上にファッションにも疎かったため、友達は同じような理系男子ばかりで女っ気がまったくない。いわゆる、陰キャ部類に入るタイプであった。
陰キャではあったが、元々理系が得意で好きでもあったため、大学の授業や実験・研究を大いに満喫していた。
このように兄妹で対照的であったためか、それとも妹が多感なお年頃であったからかはわからないが、兄妹間での会話はほとんどなかった。
そんなどこの家庭にでもある日常が1年ほど続いたある日、珍しくアキコが俺に話しかけてきた。
「ねぇ、お兄ちゃん。大学生活って楽しい?」
「うん。まあまあかな」
「・・・まあまあか。」
「うん。」
会話はこれだけで終わった。
まあ普段から話をしない兄妹であれば、こんなものだろう。とその時は何も気にしていなかった。
というより、その会話のときもアキコの顔すら見ずに返答していただけだった。
それから三日後、アキコは自殺した。
原因はクラスでのイジメだった。入学当初はみんなから人気があったが、どうやらそれを妬ましく思った女子グループが露骨な無視や物を隠したりなどのイジメが始まり、最終的には暴力まで振るっていたそうだ。
その事実が判明したのはアキコの遺書が見つかったことと、他には面白がってイジメている動画がSNS上で見つかったからだ。
そう、アキコが珍しく俺に話しかけてきたあの日。
恐らく、アキコは“助けて”というシグナルを出していたんだと思う。あのとき、俺がアキコの顔を見ていれば、何か違和感に気づけたかもしれない。
もし暴力を受けた痕を見つけることが出来ていれば、もっと親身に話を聞いて、こんなことにはならなかったかもしれない。
俺はその日からしばらくすると、後悔の念に押し潰され、病んでしまい、大学に行けなくなってしまった。
一方で両親はアキコが亡くなったことに対して互いを罵り合っていた。
「なぜ、お前は(あなたは)もっとアキコのことを見ていなかったんだ」
と。
両親はここ数年の間、夫婦間の状態が良くなかった。それは鈍感な俺が気付くほどだから、当然アキコも気づいていたはず。
気遣いが出来て、優しかったアキコ。彼女は恐らく、両親に負担を掛けまいと相談はしなかったんだろう。
だからこそ、俺に相談したんだろうだが、鈍感な俺ではどうすることも出来なかった。
それから大学に行けない日々が2か月ほど続いた頃、大学の友達が様子を見に来てくれた。
その友達はこちらの事情を把握してくれており、俺の「しばらくは一人にしてほしい」という要望を聞いてくれていたのだが、さすがに心配になったとのことで、訪ねてきてくれたそうだ。
それから俺は友達の勧めにより、心療内科を受診することになる。
そこで心理カウンセラーとの会話を続けていくことで、精神的な辛さを克服し、立ち直ることが出来た。
そして俺は自分自身の不甲斐なさを反省し、理系の大学を辞めて、心理カウンセラーとなるべく専門の学校へ入学した。
そこではアキコのときのように弱っている人が発している”助けて”というシグナルを見逃すことがないよう必死で勉強を行い、学校を卒業した。
俺が卒業した頃、すでに両親は離婚していた。離婚前には、父母共に俺の顔を見るたびに
「今更、心理学を学んだところでアキコは返ってこないし、意味ないだろ!
それにあの時のことを思い出すから早く学校を辞めろ!」
と罵倒されていた。
それでも俺は何度も両親を説得しようとしたが、罵倒はエスカレートしていき、結果、俺は両親とは距離を置くこととなり、疎遠となった。
そこから俺は心のバランスが乱れたことによるものか、愛情に飢えてしまったのか、女遊びを繰り返すことになった。
そして異世界へ転生することとなった。
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結局のところ、僕は前世で学んだ心理学を妹のような人たちの為に生かすことはなかったのだ。
職業として心理カウンセラーはしていたが、それは生きる為、お金を稼ぐ為にしていたようなものだ。
“馬鹿は死ななきゃ治らない”とはよく言ったものだ。
僕は文字通り、一度“死んだ”。なので、もう馬鹿は治さなくちゃならない。
一生懸命生きようとする者の手を取って、一緒に頑張っていく。
これだけはクーフとして生まれたからには絶対に守り通したい僕の矜持でもある。
だから僕は何があってもリンキーの助けてというシグナルを見逃さず、一緒に頑張る選択をした。
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誰かを助ける。ということはその人のことをよく知り、相手のことを受け入れる必要がある。
なので、僕はもっとリンキーのことを知るため、まずは魔法の訓練を一緒にしていくことにした。
◆
そして僕は衝撃を受けた。
それはリンキーと一緒に魔法訓練をした初日のこと。
僕はリンキーの母が宮廷魔術師であったとしても、僕とリンキーに大きな差があるとは思っていなかった。
だが、宮廷魔術師が教える魔法が"ホンモノ"であることのすごさが、いかなるものなのか、ということを目の当たりにすることになったのだ。
主人公の暗い過去回でした。
以前のお話で『クーフのブラックな部分』もこの過去があってのことです。
この転生した世界ではクーフは後悔のないよう、前世の知識を十分に活かして生きてもらいたいと作者自ら祈っております。




