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第31話 リンキーの過去と現在


 リンキー自身の事情を聞くことになった。


「この話は神父さまやシスターにも言ってないんだ。だけど、クーフになら言ってもいいかなって思えたから、伝えるね」


 そして、リンキー自身の事情が語られた。



*****


 これは、リンキーが7歳になる少し前のことである。

 リンキーは両親と共に王都のウリンスイに住んでいた。父は王都ウリンスイの中でも大きな店を構えるほど、成功している商人であり、又、母はリンキーが生まれるまでは宮廷に仕えていた宮廷魔術師であった。

 そんな恵まれた環境で何不自由なく、過ごすことが出来ていたリンキーであったのだが、ある日、母より“大事な話がある”とのことで父を含めた家族会議が催された。


「リンキー。いきなり呼び出してごめんね。実はあなたにこれからのことを話さなければならないの」


「え、何の話?」


「あなたのお父さんは定期的に商品の仕入れの為に、お店を従業員の人に任せて、旅に出ているでしょ?」


「うん!そうだね」


「その時は私と二人で暮らしているわよね?」


「うん、それがどうしたの?」


「実はね、私が宮廷魔術師をやっていたって話をしたことあるの、覚えるかしら」


「うん!だっていまもお母さんから魔法教えてもらってるからね!」


「そう、それでね、実はあなたが生まれてから、7歳になるまでは育休ということで、宮廷魔術師として働かなくてもよかったのだけど、そのあとはまた働かなければならないの」


「そうなんだ」


「それでね、宮廷魔術師のお仕事はお休みの日以外は宮廷で寝泊まりしなきゃいけない決まりなの」


「え、それって、お母さんがお仕事の日でお父さんが仕入れの時は、オレは一人で過ごすってこと?」


「ううん。さすがに7歳の子供をこの王都で一人っていうのは少し危険があるの」


「え、じゃあどうするの?お父さんの仕入れに付いていくってこと?」


「いいえ、仕入れの際は危険な道もあるので、あなたを連れての旅は難しいの」


「え、じゃあオレはどうなるの?」


「うん。私の親戚が住んでいる村で私の親戚と一緒に暮らしてもらおうかと考えているの」


「お母さんの親戚?迷惑になったりしないの?」


「リンキーを預かってもらう代わりにリンキーに掛かる費用を含めて、いくらかのお金を渡すことで親戚からは了承をもらっているわ。だからあなたは何も気にせず、のびのびと成長してほしいの」


「・・・うん。わかった。お母さんがすごい魔術師だから仕方ないか。

 でもいつまでオレはそこで暮らすことになるの?」


「ここからは俺が説明しよう」


 そう言ったのはリンキーの父である。

 リンキーの父は危険な旅も物ともせずといったプロレスラーのような大きな体格をしており、髪はリンキーと同じ金髪であり、短髪と厳つめイケメンな風貌である。


「お父さん、オレはいつまでそこに暮らすの?」


「うん、そうだな。12歳の天啓の儀でスキルを授かるまではそこで魔法や体を鍛えて過ごしてほしい。というのも、将来的にリンキーにはこの商会を継いでもらいたくてな。

 別にいまの年齢・体格で俺と一緒に旅に出てもいいのだが、さっきお母さんが言っていた通り危険が多いのと、他には魔法や体を鍛えるには全く環境としては向かないからなんだ。」


「・・・うん。」


「リンキー。お前が寂しがるのもこれからの生活に不安があるのもわかる。だがな、結局のところ、この先どこかでは、自分の力で乗り越えなければならない瞬間というものは訪れる。

 その時に過去に経験していれば、困難を乗り越える自信にも繋がるんだ。

 だから、かなり酷なことだとは思うが、頑張ってくれないか?」


「わかった!オレは頑張るよ!」


 リンキーが決意を固めた表情になると、母が安心した様子でリンキーを諭すように話し始めた。


「リンキー。私が宮廷魔術師だからといって、あなたが12歳になるまで全く会えないということはないのよ。半年に一度くらいは長い休暇を取れるからそのときにはあなたに会いに行くわ」


「あ、そうなんだ。てっきりずっと会えないのかと思ってた」


「安心して。まああなたのお父さんには会えないかもしれないけど」


「お父さん、忙しいもんね!そこはオレも理解できるよ」



 こうして家族会議は終わり、リンキーは親戚の家に預けられることになった。


 親戚の家というのはリンキーの母の姉にあたる人の家で、初日は母が付き添い、叔母さん夫婦に挨拶をして快く迎えてもらった。

 はずだったのだが、母が王都に帰ってから、叔母さん夫婦の態度が激変した。


「あんた、リンキーだっけか?私たち夫婦の生活の邪魔にならないようにしなよ。基本的にはあんたは外の小屋で生活しな」


 急変した大人の態度にリンキーは戸惑いを隠せず、恐怖のあまり反抗することもできなかった。

その後、叔父さんに小屋へ連れていかれ、「ここがお前の生活する場所だ」と小さく呟かれて、叔父さんは家へ戻っていった。

 リンキーは戸惑いながらも小屋の引き戸を開けると、そこはしばらく使われていない様子のただの物置きであった。


「なんで、なんでこうなったの?さっきまで優しそうにしてくれていたのに。

 これって何かの間違いだよね?うん、話したらわかってくれるはずだ」


 リンキーは気が動転したまま、叔母さん夫婦の家の方へ戻った。

 だが、家に入ろうとしたときに中から会話が聞こえてきた。


「なあ、小さい子にあそこまでするなんて可哀そうじゃないか?」


「あんたが口出すことじゃないよ。なんで妹の子供の面倒をみなきゃいけないんだよ。私たちには子供ができないっていうのに。それに子供を預けて自分は宮廷魔術師という花形職業だなんて腹が立つ以外何もないわよ!せめて、金を私たちのために有効に使うことくらいしないとね!」


「まあ怒る気持ちもわからないではないけど、子供にあたらなくてもいいんじゃないか?」


「何言ってんだい!それよりもあのガキが母親に告げ口したら、あんたを追い出して母親に迷惑が掛かることをちゃんと言い聞かせておきなよ!」


「はあ、わかったよ」


 リンキーはあまりにも衝撃的な事実を知り、足が震えて動けない状態になってしまったが、叔父さんが来る足音が聞こえて、我に返り、すぐに小屋へ行った。

 すると、叔父さんが来て、困った顔をしながら、母親へ告げ口しないよう僕に告げたのであった。


 それからすぐに叔母さんが“リンキーの両親がリンキーを村へ住まわせて、村一番の商会の情報を得て、それをもとに潰しに来る”というデマを流したのだった。


*****



「といった感じなんだ。だからオレが村の人からすごく嫌な視線を受けるのは仕方ないんだ」


「仕方ないことなんてあるわけないよ!そんなの、そんなの絶対あってはダメだ!」


「ありがとう、クーフ。でもオレが5年我慢すれば、お母さんへ迷惑かけることもなく、この村を出ていくことが出来るからいいんだ」


 そう言ったリンキーの様子はとてもじゃないが、5年も耐えられる様子ではないように感じた。


「ダメだよ!だったら僕の家においでよ!一度、父さんと母さんにお願いしてみるから」


「ううん、それは出来ない。オレは知ってるんだ。クーフのお姉さんがこの村一番の商会の婚約者だってことはね。絶対に迷惑を掛けてしまうから、それは出来ないよ」


「う、うぅ。でも物置き小屋で生活してたら、体を壊しちゃうよ」


「あぁ、それなら大丈夫だよ。さっきも話の中で言ったけど、オレ魔法を使えるから、小屋は風魔法で掃除して、木の魔法で簡易ベッドを作って、小屋の中は快適に暮らせるようにしたよ」


「え、魔法って生活魔法の事だと思っていたけど、そんなに本格的に魔法が使えるの?」


「あぁ、でもこの村では子どもはあまり魔法を使えないってお母さんから聞いているから内緒だけどね」


「ちょっと待って。そう言えば、魔法と体を鍛えるのも目的って言ってたよね?」


「ああ、幸い叔母さん夫婦はオレに関心がないし、ごはんも碌に与えてくれないから、山へ行って木の実を探したり、ウサギや鳥を魔法で仕留め、解体し料理して、魔法と体は鍛えられてるよ」


 えぇ、すごく過酷。というより裕福な子が何で狩りが出来るんだろう?


「え、なんで狩りや解体が出来るの?」


「それはお母さんが宮廷魔術師で魔法の訓練では狩りのように実践形式で鍛えることが重要という教育方針だったからだよ」


 リンキーの家はスパルタ教育だったのか。僕より激しい人生を歩んでる同世代がいるとは思いもしなかったよ。

「そっか。実は僕も魔法使えるんだ。今は家族と神父さまのエルプーリさんしか知らないけどね。

 明日から一緒に魔法の訓練をしようよ!僕がエルプーリさんに頼んでみるから」


「え、大丈夫なの?というかクーフ魔法使えるの!?」


「うん!僕は魔法使えるよ。それからエルプーリさんは信用できる人だから!」


「じゃあ、お願いしようかな」


 それから僕はリンキーの事情を一部かいつまんでエルプーリさんへ説明し、一緒に魔法の訓練をする許可を得たのであった。


 その日、僕はリンキーのいまの状況を何とか改善できないか、両親にどう相談しようか考えながら帰宅した。


 帰宅した僕は家に入ろうと玄関の前に来た時、両親の会話が聞こえてきた。


「ねぇ、アルフ。王都の商会の子どもの話知ってる?」


「ああ、ナガリオさんの商会を潰すかもって話しだろ?そんなに気にしなくていいんじゃないか?」


「うん、そこは私も気にしていないんだけど、その子どもが最近、教会に通い始めたって聞いて、クーフが仲良くすると、カンテナの婚約が破断にならないかって心配なのよ」


「ああ、そっちの話か。まあ仲良くしたくらいで、ゾーシンやナガリオさんが破断にするとは言わないだろうけど、周りの連中が騒ぐかもしれないな」


「えぇ、そうなったら、もうどうしようもなくなるものね」


「そうだな。でも神父さまから話を聞く限り、教会では女の子からモテすぎて、クーフは男からは嫉妬で人気がないみたいだから大丈夫だろ」


「あら、そうなの。クーフも隅に置けないわね。まあそれなら心配しなくてもよさそうね」


「ああ」


 うぅ、これは両親に相談できないやつだな。エルプーリさんにはこのことを伝えて、僕とリンキーが仲良いことは言わないようにしてもらわないとな。


 僕にはどうしてもリンキーを見放すことが出来ない理由がある。

 そもそもあんなに根が優しくて、思いやりがある人が追いつめられる状況になってはいけない。

 僕は"助けて"と手を差し出している人の手を必ず取るって決めてるから。


 そして僕はこのとき強く誓った!

 “絶対にリンキーを何がなんでも守るんだ!それからもう同じ過ちは犯さないんだ!"と。


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