第29話 初めての狩り
僕は6歳になった。今日もいつものように水撒きをし、魔法の訓練と先生をするというスケジュールをこなし、いつものようにエルプーリさんに「またあした」と言って、お家に帰ってきた。
すると、もうお決まりなのか、エルプーリさんがお家に来ていた。
「ただいま!それからこんばんは、エルプーリさん。先ほどぶりだね」
「こんばんは、クーフ君、お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
デジャブ。というより、もはやこれは日常と言ってもいいのかな?
そんな風に困惑する僕をよそに、エルプーリさんが“してやったり顔”をしていたので、仕方なく僕の家に来た理由を聞いた。
「エルプーリさん、今日はどうしたの?」
「今日はアルフに許可をもらいにきたんだ」
「許可?許可って何の許可?」
「うん、クーフ君の魔法の訓練で狩りを行ってもよいかの許可だよ」
狩り?何のことだろう?初耳すぎて絶句してしまったよ。
すると父さんが話し始めた。
「クーフ、不安なのはわかるが、魔法、それも攻撃魔法や防御魔法の訓練には野生の動物を経験することが大切なんだ」
「う、うん」
いや、僕は不安ではなくて、初耳すぎて困惑してるだけなんだけどな。
何の前触れもなく、話が始まったら、理解できるまで頭フル回転させなきゃならないんだから。
まあでも、魔法訓練が次のステップに移ろうとしたことは分かったよ。
それからエルプーリさんが説明を始めた。
「実はね、クーフ君の魔法の基礎がそろそろ地盤がしっかりとしてきたから、実践形式で使ってみてはどうかと思ってね」
「ありがとう。でも僕は魔法を使えるというよりかは出すことが出来るだけだよ?」
そう、僕は本当に魔法発動だけの訓練をしていた。
火属性ではソフトボールくらいの火球を手に出す、水属性でもソフトボールくらいの水球を手に出す、土属性でもソフトボールくらいの土球を手に出すといった同じことを違う属性で行う訓練しかしていない。
ちなみに金属性は質量の関係でゴルフボールくらいの鉄球を出していた。
他に木属性では手のひらサイズのミニツリーを出していて、風属性では風球を手から出して、木へ壁当てのようにして飛ばしていた。
なのに、ここにきて、野生動物の狩りとか段階飛びすぎじゃない?
「まあ心配する気持ちもわからなくはない」
うわっ、エルプーリさんがまた僕の気持ちを読むかのような発言してきた。
「でも僕は少し怖いよ。野生動物って僕は見たことないけど、大きかったりするんだよね?」
「ははっ、心配しなくても最初から大型獣の狩りはしないよ。」
「えっ、そうなの?」
「あぁ、まずはウサギやリスなどの小動物からだね。ちなみに食べられる動物だけを狩るからね」
「よかったー。」
ん?食べられる動物?ウ・サ・ギ・の・お・に・く???
やったー!イーメルさんが好きだと言っていたウサギのお肉が僕も食べることが出来るんだ。
「アルフ、クーフ君はお肉は食べたことがあるのかね?」
「神父さま、うちは芋だけですので、ないですよ」
「そうか。なら、クーフ君。ウサギの肉は格別だから是非とも魔法で狩りを頑張ってね」
「はい!よろしくお願いします」
こうして、6歳の誕生日は“素敵な情報”を貰うことが出来、僕は膝を付き、神さまへ感謝の祈りを捧げた。
そして翌日。
いつもの魔法の訓練場である教会の裏手にやってきた。
「じゃあクーフ君、これからこの山の中腹まで行くから、足元や木の枝には十分注意してね」
「はい。よろしくお願いします」
こうして初めて教会の裏の山の奥へ入っていった。
山の奥は木が生い茂っていることもあり、少し薄暗く、恐怖感もあったのだが、1時間ほど歩くと突然視界が開け、そこには山の中腹部にあたる平原が広がっていた。
「おー!何か見晴らし良くて気持ちいいね」
「そうだね。ただこのあたりから野生動物が出てくるから注意してね。特にイノシシは刺激を与えると突進してくるからむやみやたらに騒がないようにね」
「うん、わかった!・・・ん?あっちに何か生き物がいるよね?」
僕は感知魔法で初めて、野生動物を感知したのである。
「おっ!よくわかったね。今感知しているのがウサギだよ。
ん?待てよ。その後ろから少し大きめの反応がある。これはもしや。」
なになになに?まさかさっきの“騒がないでね”ってフラグだったの!?
何かわからないけど、感知魔法使ってなくても、騒々しい足音みたいなのが振動で伝わってきたよ。
ダッダッダッダダ。
「エルプーリさん、これってまずくないの?」
「クーフ君、いきなりの超実践だけど、魔法で対応してみようか。」
そういってエルプーリさんは僕の後方10mほどの場所まで下がってしまった。
まさかの行動に僕は驚きを隠すことが出来なかった。
「うぇっ!?」
「心配することないさ。何かあれば私が問題なく対処できるからね」
すると、前方から土埃とともにウサギが見えた。しかも10羽ほどいるよ。
それとその後ろを追いかけてるイノシシのつがいも。
しかもこちらに直進してきているよ!
「あ、クーフ君。山だから火属性の魔法は使わないようにね」
「えっ、えっ、どうしよ」
僕は突然のことに焦っていた。頭では深呼吸して気持ちを落ち着かせないと、と思っていても体が上手く反応できない。
でも日頃の訓練のおかげか、魔力が乱れている感じはなかったので、魔法は使えそうだ。
「それ!ウォーターボール!」
僕は火がダメなら、水だ!と何故かそう思い、水球を前方へ放った。
すると、ウサギは水が苦手なのか、左右へ避けていった。
が、イノシシはお構いなしに、というか急な反転ができないのか、そのまま僕の方へ向かってきている。
そんな状況でより一層、僕は焦りが出て、思い付きで魔法を放った。
「ウインドウボール!」
僕が放った風球はイノシシの顔面に直撃した。
一瞬、怯んだように見えたが、全く効いてなさそうだ。
でも怯んだのなら、これだ!
「SUSボール!」
そう言いながら、僕はステンレス製のゴルフボール大の鉄球を出し、そのままイノシシの顔面へ向かって投げつけた。
投げた鉄球は一頭の鼻先に当たったことにより、もう一頭の方へバランスを崩して、二頭とも転倒させることが出来た。
しかし、僕は未だにパニック状態にあったので、そのまま土魔法を手から放水するかのように出しまくって、イノシシを埋めてやった。
それからやっと落ち着きを取り戻して、エルプーリさんの方を見ると、親指を立ててグッドサインされた。
「クーフ君。初陣だったけど、すごくよかったよ!安心してみてられたよ」
「えっ、僕はもういっぱいいっぱいだったんだけど」
というか、危うくイノシシに体当たりされるところだったけど。
鉄球投げたのが当たって、本当によかったー。
「ははっ。私が居るから大丈夫だよ。もしイノシシがクーフ君に接近しても、10cmほどあれば対処は可能だからね」
「そうだったんだ。」
す、すごい。というかそういう情報は先に言っててほしいけどね。
「それはそうと、イノシシも美味しいから、私の方で掘り起こして、下処理をするね」
「あ、はい。お願いします。」
その後、エルプーリさんは風魔法を使い、土をすべて吹き飛ばし、その後風魔法でイノシシの血抜きやら解体を瞬く間にやっていた。
「エルプーリさん。」
「なんだい?」
「今度、野生動物の下処理の方法を教えてもらってもいいですか?」
「ああ、いいよ。ただ魔法を使ってはまだ難しいだろうから、ナイフを使ってウサギを解体するときに教えるよ」
「ありがとうございます!」
よしっ、これでお肉を食べることもできそうだね。
それから下山し、教会での先生のお手伝いを終えた僕はイノシシ肉の一部とお野菜をエルプーリさんから貰い、帰宅した。
そして、夕食でイノシシ鍋を家族で美味しく頂いたのであった。
それからは週に一度は狩りを行い、それ以外は基礎の魔法の訓練と狩りで使えそうな攻撃魔法と防御魔法の訓練に励んでいた。
そして、僕は7歳になり、初めて親友と呼べる友と出会うことになった。




