第26話 純粋な魔力って
僕は朝目覚めると、しばらくの間、昨日エルプーリさんから聞いた魔力について考えていた。
「うーん。やっぱりただの魔力のみを感じる必要性ってありそうだよね。
いきなり泥みたいに複合魔法って魔力効率めちゃくちゃ悪そうだもんな。」
そう独り言ちながら、ボーっと天井を見つめていると、魔力のみを感じる方法が閃いた。
「うん。何だかいけそうな気がする」
この言葉を女の子に対して使うと、少し意味が変わってくるが、良くも悪くもいまは一人きりだ。
僕は頭のなかだけで話すことがよくあるけど、リラックスしていると知らない間に口に出すこともあるから気を付けないとな。
それからいつものように朝食を食べたあと、日課の水撒きに来ていた。
「さてと。今日から水撒きのときに魔力操作の訓練を始めるか」
僕は自分自身に気合を入れる為、あえて声を発して水撒き&魔力操作訓練を始めることにした。
早速、今朝思いついたことを試すことにした。
その思いついたこととは“魔法を使わないように魔法を使う”ということだ。
うん。言ってること矛盾しているよね。それは僕の語彙力が乏しいので、そこは許してほしい。
簡単に言えば、意識せずに自然体で臨むといった感じだ。
僕は魔法を使う時に“魔法を使ってやるぞ!”と、かなり力んだ意識をして使っていた。
だから純粋な魔力ではなく、発動させる魔法が先行していたんだと思う。
まあ仕方ないよね。魔法に憧れがある分、チカラは入ってしまうよね。この世界の人たちは魔法と密接だから、"使えない"とか"強力な魔法を使ってやる"、と言った力みや焦りが少ないのかもしれない。
というわけで、実践あるのみだ。まずは魔力のことは考えず、力みを取る方法を試していく。
「ふふ、ふん、ふーん。ほぅ、ほぅ、ほーん」
と言いながら僕は軽いスキップをして水撒きをした。
これぞクーフ流、力みをなくしてリラックス作戦である。
一応、心理学的な効果を狙っているんだよ?オノマトペを用いて、リラックスできる音を発することで自然と力みが取れるという手法だ。
そんなの効果がないと思われるかもしれないが、実際に試してほしい。「ぬぅ~ん」と言いながら、こぶしを握り締めても普段よりも力が入らないはずだ。僕はこの効果を利用している。
話は水撒きに戻るが、僕はオノマトペ式でリラックスして水撒きができることが確認できたので、今度は魔法を意識しないよう魔法を使うためにこのオノマトペが全身を巡るイメージをして、実際に声に出しながら試してみることにした。
「ぬぅ~ん。ぬぅ~ん」
・・・うん。失敗した。
さすがにこの掛け声では力が抜けすぎるみたいだ。
とまあ、おふざけはここまでにして。先ほどの掛け声に戻して再度、試してみた。
「ふふ、ふん、ふーん。ほぅ、ほぅ、ほーん。」
おっ、何だかいけた気がするぞ。
僕は全身に何か薄い膜のようなものを纏っている感覚を得た。
「ふふ、ふん、ふーん。ほぅ、ほぅ、ほーん。」
キテます。完全にキテるぅぅぅー!
「あっ!」
どうやら僕は調子に乗りすぎたみたいだ。せっかく感じることが出来ていた純粋な魔力が霧散した。
この高ぶる気持ちを抑えることが出来ないと純粋な魔力を維持するのは難しいと実感した。
とりあえず、今日の分の水撒きはいつもと同じようにすることにして、無事に終えた。
それから教会へ向かう道中、僕はずっと気持ちのコントロールについて考えていた。
だけど、特に何かを思いつくこともないまま、教会に到着した。
「おはようございます、エルプーリさん」
「おはよう、クーフ君。何だか少し疲れた顔をしているようだけど、大丈夫かい?」
「う、うん。元気だよ。昨日、色んなことを知ったからいつもよりたくさん考え事をしていただけだよ」
「そうかい。昨日は一度にたくさんのことを話したからね。今日は座学はやめて、昨日の復習も兼ねて、土魔法を実践形式で訓練をしようか」
「はい!よろしくお願いします」
そしていつものように教会の裏手にやってきたところで、エルプーリさんから課題が出された。
「ではクーフ君。今日は土魔法で色んな種類の土を出してみようか。まずは5種類を目指していこう」
「わかった!でも何でたくさんの種類を出すの?」
「うん、それはだね。魔力操作の訓練と魔力量を増やす訓練になるからだよ」
「そうなんだ。でも僕みたいに魔法を使い始めたばかりなのにできるかな?」
「これはね、使い始めだからやるべき訓練なんだ。もし、最初から1つのことだけに集中してやろうとすると、その事については上達するんだけど、変な癖が付いてしまうことが多くて、魔法を変化させることが苦手になってしまうんだ。
まあ普通はそれでも構わないんだけど、クーフ君はすべての魔法を使いたいって言っていたから、同じ属性の魔法でも多彩な変化ができるようになった方がいいかと思ってね」
「ありがとう!僕のことを考えてくれて。今日の訓練でたくさんの種類の土を出せるように頑張ります!」
「うん、いいね!じゃあ私はいつものように教会の仕事をしてくるから、自主練で頑張っておくれ」
「はい!」
そうしてエルプーリさんは仕事の為、教会へ戻っていった。
僕はそれからたくさんの種類の土を魔法で出していった。土と言っても砂とか砂利とかも種類に含まれるから、前世知識チートが出来る僕はそんなに難しくはなかったんだけどね。ただ・・・。
「はぁ、はぁ、めちゃくちゃ疲れるなぁ」
そう魔法は体力を使うのである。もし水撒きトレーニングをしていなかったと思うと、今日のような魔法の訓練が全然できなかったので、父さんには感謝感謝だ。
それから僕は呼吸を整えるために目を瞑ってゆっくりと深呼吸をした。
「すぅー、はぁー。すぅー、はぁー」
深呼吸を終えた僕はゆっくりと目を開けると、頭がすごくスッキリしたのを感じた。
それと同時に前世での知識を思い出した。
「そうだ!呼吸の仕方でリラックス効果を得る方法があったんだった!」
そう、僕はすっかり異世界ボケをしていたのか、前世の大事な記憶を忘れていたのである。
それは瞑想やヨガに通じる呼吸法のことだ。
簡易的な方法だが、呼吸の際に吸う時間の倍の時間を掛けて吐くと副交感神経が優位になり、リラックス状態となる。
さらに目を閉じて行うことによって、視界からの情報を遮断し、脳への負担が抑えられることによって、さらにリラックス効果を得ることが出来るのだ。
このことを思い出した僕は声高らかに笑った。
「わっはっは!これってもしかしたら、純粋な魔力纏えるかもしれないよね!よしっ、試してみよう!」
僕は目を瞑り、呼吸を吐くことを意識しながら、今朝の全身に膜のようなものを纏う感覚に集中した。
そのまま集中しながら僕はそっと目を開けた。
「うん、出来たみたいだ」
呼吸法のおかげか、ずいぶんと落ち着いてる。なんだか僕らしさが少し薄れている気もしなくはないが、今はまあいいだろう。
これで教会に来る途中に考えていたことが解決した。そういや、行き詰ったときにそのままずっと考えていても実はあんまり効果ってないんだよね。
一旦、頭の中を整理するためにも深呼吸をした方が良いんだった。うっかり、すっかり忘れていたよ。
だから実はたばこ休憩って脳をクリアにするから効果あるんだよね。まあ僕はどちらかというと嫌煙家派閥だったけど。おっと、また前世の不要なことを思い出してしまったよ。
それから僕は呼吸を意識しながら魔法の訓練に励んだ。
土魔法で色んな種類の土を出す、疲れたら体力と魔力回復の為に純粋な魔力を纏うだけの訓練をするということを繰り返し続けていると、エルプーリさんが戻ってきた。
「おっ、たくさんの土の種類を出せているね。クーフ君は勉強もそうだけど、魔法を覚えて使いこなすのも早いね。」
「いや、そんなことないよ。僕はまだまだだよ。でも、ありがとう!」
「それに通常の魔力も感じられるようになったみたいだね」
さすがのエルプーリさんである。
僕のコソ練をお得意の監視魔法、ではなく感知魔法で知っていたとは。
「はい!魔力のみを感じることも大切だと思って訓練したよ!」
「素晴らしいね。私は魔法さえ使えれば、クーフ君のようなやり方もアリだなって思っていたけど、また考え方を改めないとね。
それより、いったい君はどこまで先を見据えて行動しているのか。とても5歳とは思えないよ」
ごめんなさい。前世から数えるとざっと35歳です。
「ありがとう。」
僕は適当な5歳スマイルでやり過ごした。
そこから1ヶ月ほどは同じ訓練を繰り返し行い、僕は純粋な魔力を纏うことが自然とできるようになった。それも呼吸をするかのように。
もちろん、土魔法については土を出すスピードや一度に出せる量もかなり増やすことができた。
だけど、まだ壁を作ったりといった応用訓練は全くしていないので、ただ土を出すだけだけどね。
そんな日々を過ごしていたある日、エルプーリさんから次の魔法についての話がされるのであった。




