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第20話 クーフのブラックな部分



 複数の女の子へ教え始めてからさらに5日が経過したころ。

 僕は案の定モテモテになっていた。一人は言わずもがなイーメルさん。あと二人は僕より4つ年上の女の子たちである。

 いやー、僕が年上キラーになるとは、この世界に生まれたときには思いもしなかったなー。と浮かれていると、突然何かに躓き、転びそうになった。


「おっとっと。危なかった。」

 僕は日頃の畑への水撒きで下半身が鍛えられており、何とか転ばずに持ちこたえることが出来た。それから何に躓いたかを確認しようとしたところ、いきなり怒鳴りつけられた。


「おい、俺の足踏んでんじゃねえぞ!」


 ジメール君だ。

 あれ?僕そんなに浮かれてたっけ?とにかく謝ろう。


「ジメール君、ごめんなさい。全然、足元見てなくって」


「あぁん?ふざけてんのか、てめぇ。ちょっとこっち来いや」


 そうして僕はジメール君に首根っこを掴まれながら、教室の外に連れ出された。

さすがに体格差がありすぎて何もできなかったよ。


「おまえなぁ、ちょっと勉強ができるからって調子乗りすぎなんだよ!それにな、イーメルに近づくんじゃねぇ!」


 ぷぷぷっ。なんだ、ただの嫉妬か。もしかして、さっき躓いたのもジメール君がわざと足を引っかけたのかな?浮かれすぎててわからなかったよ。

 とりあえず、体格差では絶対に勝てないのでしおらしく謝っておいた。


「ごめんなさい。」


「ごめんで許されると思ってんのか?」


 あー、まずい。ボコれらる雰囲気満々だ。

仕方ない。これもトレーニングの一環と思って、耐えるしかないか。

いや、母さんにバレたら、ヒール掛けられまくられて、父さんがその様子の母さんを心配して、結果的に教会へ行くことを禁止にされる可能性が高いな。

そうなると魔法を学べなくなるし、このモテモテ生活が一瞬でなくなってしまう。

 よしっ。ここは仕方ないからアレでも使うか。


「おい、何黙ってんだよ?お前ムカつくな。おらぁ!」


 そして、ジメール君が僕に殴りかかってきた。

僕はされるがままに5発ほど顔面や腹部を殴られ、最後に鳩尾へ膝蹴りを入れられた。

そして膝から崩れ落ちて、その場で蹲った。


「へっ、口ほどにもねぇ。次、調子乗ったら、この程度じゃ済まねぇからな」


 そう言って、ジメール君は一人教室へ戻っていった。


 僕はジメール君が教室へ入ったのを確認してから、何事もなかったかのように立ち上がり、服の汚れを払った。


「ふぅー。とりあえず上手くいってよかった」

 そう、僕は身体強化魔法で耐えきったのである。父さんから「外で魔法は使うな」って言われてたから、身体強化魔法はかなり久しぶりに使ったし、本当に防御できるかわからなかったけど、何とかうまくいってよかったよ。

 そう安堵しながら教室へ戻ろうとしたとき、後ろから突然声を掛けられた。


「クーフ君。」


 僕はビクッとしつつも振り向くと、そこには神父さまが居た。

「エルプーリさん、どうしたの?」


「いまの出来事は一部始終見ていたよ。」


「えっ」

 ヤ、ヤバイ。確か父さんは神父さまからの言伝で5歳になるまでは外で魔法を使うなって言ってたよね?さっきの見られてたのなら、僕が約束を破ったから怒ってるんじゃあ・・・。


「ごめんね。本当は君が暴力を振るわれる前に助けようとしたんだけど、君が魔法を使うのがわかって、様子を見てしまったよ。

キレイな身体強化魔法を纏っていたのでつい、止めることを忘れてしまったよ。本当にすまない」


「あ、あの、僕が外で魔法を使ったから怒ってるわけではないの?」


「魔法を自分や誰かを守るために使うことは禁じてないよ。初めてのコミュニティでは不安が勝って自分の力を誇示するために魔法で威圧するってことがよくあるから、君の父親のアルフには使わせないように言ったんだよ。

 あとは単純に4歳の子供が魔法を使ってるとなると世間体も悪くなるからね」


「そ、そうなんだ。」

 よかったー!何とかセーフ!

というより僕の身体強化魔法ってキレイなんだ。


「それに私が介入していたら、ジメール君の行動が私やシスターの見えないところでさらにエスカレートしていたかもしれないからね。結果だけをみれば、よかったよ。ありがとう」


「い、いえ。でもジメール君はこれで終わりにしてくれるのかな?」


「そこは私やシスターは平等であるべきとの立場から、君たちの関係性には介入できないんだ。すまない。ただ、暴力で相手を傷付ける場合に限り、介入はできるんだけどね。

クーフ君には教会のお手伝いとして、先生をやってもらっているけど、今後ジメール君と関わりたくないってことなら先生を辞めてもらっていいんだよ?」


 いやいやいや、まだ魔法学んでないし。

これで自ら教会を去って、魔法を学ぶ機会を失う選択なんて、僕はしないからね?

「エルプーリさん、僕は全然大丈夫です。これまで通り、ここでお手伝いをさせてください。その代わり、今回のようなことがあったら、こっそり身体強化魔法で対処するのでその許可は出してほしい」


「魔法の許可はいいが、本当にいいのかい?かなり辛い体験をすることになるかもしれないよ。」


「うん、大丈夫!もし無理だと思ったらすぐに相談します」


「そうかい。ありがとう!迷わず相談はするようにね」


「はい、じゃあ僕は教室へ戻ります」


 そうして、僕はあることを決意して教室へ戻っていった。



 教室へ戻ると、先ほど首根っこ掴まれて教室から連れ出された時の雰囲気が尋常ではなかったからか、みんなが僕の方へ注目していた。僕はみんなを心配させまいと、微笑んだ。

それから「今日も頑張ろう」とみんなへ声を掛けていった。ジメール君を除いて。


 僕はこれまでジメール君へ無視をされていても、毎日挨拶や声を掛けていた。いつかは心を開いてくれると信じて。

でもその結果が今日の暴力事件だ。さすがに僕もそこまで広い心は持ち合わせていない。

特に自分より明らかな弱者であるものをいじめるなんて僕には理解が出来ないし、理解するつもりもない。


 自分より弱い立場にいるものをいじめて何が楽しいのか、その先には何があるんだ、ちっぽけな独りよがりで、ちっぽけな優越感で他人を害していい理由にはならない。

でも現状を変える術を持たない僕は耐えるか放棄するしかない中、“耐える”を選択した。

それは長くてもジメール君が教会に通えるのは12歳になるまでの2年ほどだからだ。

これからの2年間、僕は何があっても反抗せずに耐える。そしておそらく君は僕が教会に居続ける限り、ちっぽけなプライドで勉強することはダサいとか思って、碌に勉強もしないのだろう。


 つまりは碌に読み書き、計算もできないまま家を継いでもワイン飲み放題という客から搾取され放題経営では一生苦労するだろう。ぷぷぷっ。

ジメール君よ、この1、2年をサボったがゆえに数十年苦労することになるのに君は気づけないのだな。なんて可哀そうな子だ。

僕を無視したり、暴力で落とし入れようとしているようだが、実はジメール君、自らが落ちていってるのだよ。ぷぷぷっ。

 いま与えられた役割を未来に向けてどう繋げるべきかを考えず、無知であることを恥ずべきものとして考えず、他人への暴言がどのように傷つけてしまうのかを考えず、そうして何も考えずに生きると必ず人生の壁にぶつかる。

そのとき、あの頃にもっと頑張っておけば良かったなどと後悔をするだろう。

そして考えなかった君の脳みそは今度はネガティブなことばかり考えすぎてしまうことになるのだよ。



 僕はバックス君やイーメルさんのように頑張ろうとしている人や助けて欲しいと手を差し出している人の手は自分が出来る範囲内であれば、その手を取って一緒に頑張っていく。

だが、人を傷付けるような人や侮辱する行為を平気で行うような、まるで刃物を差し出している人の手は握らない。

 だってそんなの自分が無駄に傷付くだけだもの。僕は聖人でもなければ、人格者でもない。子供であろうが大人であろうが、人を傷づけることで優越感を得る人は人とすら思わない。

 だから、ジメール君よ。いや、ジメール。君のことは今日からは最低限の関わり合いしか持たないことにしたよ。


 そして、そこから僕はジメールを見る目がまるでその辺の石ころを見るように、“認識はしているが興味のない目”に変わっていくのを自覚した。



 人は良くも悪くも関心を持たれている内が華があると言える。無関心になられることがいかに恐ろしく、孤独を感じるものかを想像しなければならない。

いま、周りから嫌われているかもしれないと感じるのなら、少しは歩み寄ってみる方がいいのかもしれない。

と、僕は改めて思いなおすのであった。




『悪意のない無視=無関心』 by-クーフ

クーフの思想を描きました。(今後の展開の為)

これまでと文章の雰囲気が異なりますが、次の話からはまた憎たら可愛らしいクーフに戻りますので、安心してください。


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