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侯爵令嬢の災難  作者: 千夜
生誕と成長と婚約と
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習うより慣れろの例外

「さて、魔力と魔法について教えましょうか」

「はい!おねがいします!」


 予期せぬトラブルが起きたが、俺としては災い転じて福と成すとでも言うべきだろうか。

 本来あと二年は待つはずだった魔法についてのお勉強が始まったのは、淑女教育で萎れていた俺にとっては僥倖だった。

 だがまあ、あんな苦痛は出来れば二度と味わいたくないので、真剣に取り組むとしよう。


 翌日、中庭にあるガゼボ内に座った俺とお母様は【魔法理論基礎】なる本を手に、指を差しながら聞き取りやすいスピードで講習は始まった。


「ではまずは魔力についてから。魔力とは個人が持つ魔法の出力や、魔法をどれだけ使えるかの総エネルギー量を表すの」


 こくこくと頷きながら、お母様の指先を追いかける。


「魔法が扱えるようになり始めるのは、一般的には五歳を過ぎた辺りからとされています。この歳であれば誰しも【基礎魔法】を何度か使えるくらいの魔力しか保有してないわ」


 マジか、これについては意外だった。

 例えば貴族は国防のために魔法を使用する機会が多いから、元々魔力総量が多い傾向にあるのかと思っていたが、どうやら違ったようだ。


「魔力は体の成長と共にその総量を増やしていくの。加えて鍛錬でも増えていきますから、魔法について学ぶ機会が多い貴族の方が多い傾向にあるわね。ステラみたいに魔力を扱えるのが早かったり、魔法について学ぶ機会がなくても魔力保有量が多い方もいらっしゃいるから、一概に全てがそうとは言えないのだけれど」


 自分だけが特別早いと自惚れているわけではないが、やはり他にも通常より早く魔法や魔力を扱える人がいるみたい。

 ……いや、あれは扱ったというか暴走したというべきだろうけど。


 貴族とは特権を与えられた代わりに、領民や国民を守護する責務がある。

 税を収める必要はあっても、戦う必要のない民達が魔法について学ぶ機会が少ないというのも納得だ。


「魔力についてはこんなところよ。何かわからないところはあったかしら?」


 ふるふると首を横に振る。

 お母様の説明はゆっくりで聞き取りやすく、わかりやすいので今のところは大丈夫だ。


「では、魔力について理解してもらったところで、少し実践してみましょうか」


 予想していなかったお母様の言葉に、ぶるっと身震いをした。

 ――――何故だ?


 いや、自分でも理由はなんとなく理解している。

 初めて触れる魔法というものが制御出来ず暴走を起こし、一度は身を危ぶめたものに対して、気付かないうちにトラウマになってるのが原因だろう。


 こういうのは大抵理屈でわかっていても、本能が拒んでいる場合が多い。

 だとすると非常に厄介だ。

 魔法について興味は尽きないのに、俺自身が魔法に対して恐怖し、動けずにいる。

 また暴走してしまうんじゃないか、またあの苦痛を味わうんじゃないかって、自分でもわかるくらい、体が小刻みに震えているのだ。


 無意識のうちに視線を下げ、握りしめた手をお母様が優しく包んでくださる。


「あの時みたいに暴走してしまわないか不安なのね。大丈夫よ、今度は私が隣にいるもの。少し厳しいことを言ってしまうけれど、これはステラの安全のために必要なことです。一度やってみてはくれないかしら」


 諭すように、それでいて俺が一歩踏み出せるよう、少しだけ厳しく手を差し伸べてくれる。


 その通りだ。これは俺一人の問題じゃない。

 再び同じことが起きた時に困るのは、悲しむのは誰だ?心労をかけるのは誰に対してだ?

 アルバート侯爵家のみんなだろう。

 震える体に鞭を打ち、自らを奮い立たせお母様の目をしっかりと見る。


「はい!まだすこしこわいですが、おかあさまとならだいじょうぶです!」

「不安を拭えたようでよかった。早速だけど、私の言ったとおりにしてみて。魔力を感じるには、胸にある魔力器官を意識するといいわ。そこを中心として体を巡っている波のようなものが魔力ね」


 言われた通りに深呼吸をして目を瞑り、胸に手を当ててみる。

 ……体の中心になにかがあり、そこから回路のようなもので全身に波が広がっているのを感じる。

 妙に確信めいたものがあるが、これが魔力なんだろう。


 ゆっくり目を開けると、澄ました顔をしたお母様が、優雅に紅茶を嗜んでいるところだった。

 お母様の仰った通り、何事もなく魔力を感じることが出来たことに安堵すると同時に、畏怖の念を抱く。

 母は強しとはよく言うが、随分と肝が据わっているなぁ。


「おかあさま!できました!」

「言ったでしょう?ステラは要領がいいから、大事なのは最初の一歩だけだったのよ」


 一度魔力を感じ取ってからは、少し遊ぶように全身の魔力を動かしてみる。

 一か所に集めてみたり、集めた魔力を散らしてみたり。

 やっぱり、こういうファンタジー色が強いものには、はしゃいでしまうな。


「まずは最初のステップはクリアね。怖かったでしょうに、頑張りましたね」


 天使のような微笑みを浮かべ、俺の頭を撫でてくださる。

 この世界に聖女がいるかとか、いたとして聖女がどういうものか、というのは知らないけれど、きっとお母様が聖女だと言われても納得できるくらいには慈愛と包容力が凄い。

 お母様に撫でられると心も体も心地がよくて、目を細めてしまう。

 後ろに控えている侍女の人たちも微笑ましいと言わんばかりの表情だ。


「さて、魔力について理解したところで魔法について話していきましょうか」

「いぜん、【きそまほう】と、【ぞくせいまほう】と、【むぞくせいまほう】があると、おうかがいしました!」

「ええそうね。そして、【基礎魔法】は【生活魔法】とも呼ばれているの」


 例えば火を起こす魔法

 例えば洗濯する魔法

 例えば乾燥させる魔法

 前世では科学によって生活の質を上げるために行われてきたそれらが、ここでは魔法によって実行される。


「魔法とはイメージの世界なの。例えば紅茶を作るためにお湯を沸かしたいのであれば、その事象をイメージするのが大事ね。イメージがちゃんと出来てないと魔力が動かないのよ」

「それは……ぐたいてきに、おもいうかべるひつようがある、ということでしょうか?」

「そうね。でも具体的と言っても目の前のティーポットにお湯があるイメージとか、そういうものよ」


 なるほど、であれば生活魔法が広く普及してるのは納得できる。

 事象が起きた後をイメージして行使すれば、それに対して魔力が働いて結果に向かって動くということか。

 基本的には瞬間的に終わるものではなく、発動後は完了するまで時間がかかるらしい。


「魔法の発動は瞬間的になるものほど、消費魔力量が多くなる傾向にあるわ。魔法使いなら一瞬で洗濯と乾燥を終わらせることも出来たりするの」


 とはいえ【生活魔法】を一瞬で終わらせる人はほぼいないそうだ。

 それはそうか、家事をしている最中に時短をしようとした結果、魔力切れを起こして気絶するのは本末転倒だろう。


「続けるわね。【属性魔法】は何かしらの属性的な要素を持っていて、瞬間的に効果を発揮する魔法がここに分類されるわ。火の玉を飛ばす魔法とか、氷柱を落とす魔法とか。治癒魔法も【属性魔法】になるわね」


 この【属性魔法】が一番多岐に渡る。

 攻撃魔法・防御魔法・治癒魔法など、実践的な魔法はほぼすべてここに属される。

 防御魔法や治癒魔法もいずれは身に着けたいけれど、それは五歳になってからだろうなぁ。

 主題は天眼の魔法をコントロールすることなのだから。


「そして【無属性魔法】。これは【基礎魔法】にも【属性魔法】にも入らない魔法が全てここに分類されているわ。私やステラの天眼も【無属性魔法】よ」


 身体強化や思考加速の魔法もあり、それらは全て【無属性魔法】に属するそうだ。

 如何せん魔法の種類が多すぎて、細かく分けるとそれこそ全てに属性をつけないといけなくなり、当時「多すぎてめんどくせぇから、もうその他でよくね?」ってなった結果らしい。

 それはそれでどうなんだと思わずにはいられないが、それで今まで問題が起きた訳でもないみたいなので、あくまでも知識としてのものらしい。


「さて長くなっちゃったけど、ようやく本題に入れるわね。天眼のコントロールについて教えるわ」


 待ってました!

 最初に抱いていた天眼や魔法についての忌避感はもうない。

 自分でも随分と調子のいいことだとは思うが、コントロール出来れば自分が今唯一使用できる魔法になる。

 好奇心には逆らえないのだ。


「天眼も他の魔法同様、イメージが大事なの。天眼の場合は自分が見たいものを思い浮かべることね」


 見たいものか……。

 そうだ、そろそろ昼食の時間だし昼食が何かを見てみるとしよう。


 イメージを思い浮かべ、魔力を込めると、視神経と前頭葉付近に魔力が集まっていくのを感じる。

 なるほど、発動起点の箇所に対して魔力が集まっていくのか。

 手から火球を出すイメージをすると、手に集まっていくのかな?


 魔力が集まりきると、以前発動した時同様、肉眼で見えるもの以外にイメージしていたものを視界として捉え始める。

 今日の昼食はパンと野菜スープ、それとこれはジビエの炙り焼きか。非常に美味しそうだ。

 午前中はお父様とお兄様は揃って訓練場で鍛錬をしている。きっとお腹を空かせたお兄様が量を食べるんだろうなぁ。

 

 家族全員で食卓を囲んでいるところを想像していると、それがイメージではなく鮮明な映像として映り始める。


「…………え?」


 お腹を空かせたお兄様が上品ながらも結構な量を食べ、それをお父様とお母様と俺が楽しそうに見てる。

 これは今現在起きていることではないのは明らかだ。

 俺とお母様は庭のガゼボにいるし、お父様とお兄様は訓練場で打ち合っているはず。

 キッチンにいるはずのコックのレオリオもその場にいる。

 だとしたらなんだ……?


「ステラ?どうしたの?」


 お母様の声でハッと我に返り、魔法を中断する。


「……いえ、きょうのちゅうしょくが、とてもおいしそうでしたので、おもいをはせておりました」

「あらあら、キッチンを覗いたのね。内容は食卓に着いたときの楽しみにしておきたいから、聞かないでおくわ」

「おかあさま、まほうをつかっていたわたしに、おかしなところはありませんでしたか?」

「いいえ?暴走した様子も、変な魔力の動きもなかったわ。強いて言うのであれば、天眼を使っているステラの目が虹色に輝いていて、とても綺麗だったことかしら」


 ふむ、暴走したわけでもないと。頭痛もないし、単なる偶然なのか?

 もしくは信じ難いことだが、この後すぐ起きる未来を見たか。

 ……というか天眼を使用している時って目の色変わるのか?


「てんげんをしようしているときは、めのいろがかわるのですか?」

「ええそうよ。私のお母様は銀色、私は金色に輝くの。ステラは虹色だから、みんなバラバラね」


 目の色が発動者によって変わるのか。

 魔法についての知識は1年生なので、わからないことも多い。

 これは後で検証と相談をする必要がありそうだなぁ。





 ――――この後食卓にて、先ほど見た光景が再現されたことで、あれが未来視だったことに気付いた俺は、食後に家族を集めて打ち明けるべきだと頭を抱えたのだった。

すみません、色々ごたついてて遅くなりました。


裏話なんですが、一瞬で完了する生活魔法なんてものはなく

属性魔法を精密なコントロールで扱ってるだけだったりします。

ものぐさな魔法使いとかがたまにやってるくらい

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