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侯爵令嬢の災難  作者: 千夜
生誕と成長と婚約と
12/20

横槍という名の不意打ち

沢山の方にブクマや評価、感想に誤字報告等していただいたみたいで、誠にありがとうございます。

本筋まではもう数話かかると思いますが、今しばらくお付き合いくださいませ。

「お父様、お願いがあります」

「なんだ?」


 お披露目からひと月ほど経過したある日、私はお父様の執務室に来ていた。

 結局、未だ攻撃魔法は使う事が出来ないままだ。

 あれから何度も試し、天眼で観察もしていたが、その他の魔法を行使した際に生じる魔力の動きが一切と言っていいほどない。


 風の刃で切断するイメージや、石礫を飛ばすイメージなど、考えられる限りの魔法攻撃に該当するものを片っ端から試したが何も変わらなかった。

 講師の先生曰く、適性が偏っている人は一部の属性の出力が高く、別の違う属性の出力が著しく低いか、全く魔力が動かない事は結構ある話だとか。

 私の場合は攻撃魔法が使えない代わりに、別の魔法に適性が偏っている可能性が高いとのこと。

 多分じゃなくても天眼だろうけど。


 それについては当初は非常に残念だったが、今は出来ないものは仕方ないと割り切っているのでいい。

 ただ結局、当初攻撃魔法を使う可能性に思い至った、襲撃を受けた時とかの備えをどうするかという話に立ち戻ってしまったのだ。

 魔力には限りがある。防御をするだけではいずれジリ貧になるのは必至。

 なら発想の転換をすればいいと思い至ったのがつい先程のこと。

 体を鍛えればいい。身体強化魔法も使えるようになれると尚良しだ。


「私の事も、お兄様のように鍛えてはいただけませんか」

「どうしてまたそんな事を?」

「以前、天眼にてクー様が誘拐されたことをお話しましたよね」

「ああ」

「その時から考えていたのです。もし私も同じ状況になったらどうしようと」

「それは……いやしかしだな」


 それは有り得ない、そう断言出来る根拠は無い。

 実際には誘拐は未然に防がれたとはいえ、クー様がはぐれて迷子になったのは紛れもない事実。

 だから、お父様も言い淀んだ。


「どれだけ気をつけていても、起きてしまうということは必ずあると思います」

「その通りだが……今ここでわかった、と言うことは出来ない」

「私が侯爵令嬢だからですか?」

「それもあるが、そうではない」

「なら何故ですか」

「基礎的な運動であれば問題ない。だが、鍛錬をするにはまだステラは幼いんだよ」


 言われてみれば確かにそうだわ。

 なんで気付かなかったんだろう。


「……確かにその通りですわね。申し訳ございませんお父様。出過ぎた真似を致しました」

「気にしなくていい。最初は体つくりから初めて、徐々に慣らしていこう」

「はい。その際は是非ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたしますわ」


 私の回答の満足したのか、お父様は首を縦に振った後、業務に戻られる。

 これ以上邪魔してはいけないし、そろそろ退出しよう。

 立ち上がり一礼をしようとしたら、お父様が、そういえば、と話を切り出した。


「ステラの天眼でそもそも回避することは出来ないのかい?」

「私の天眼で……?」


 どうなんだろう?

 私の天眼は『時期と場所を指定して、そこで発生する情景を過去から覗き見る』という使い方しかしてこなかった。

 これを常時発動……してたら私の魔力が持たずにまた倒れるので、何か危機が迫った際にそれがビジョンとして見えるように発動してみるか?

 問題はそれを発動するイメージに持っていく方が難しい気がする。


「わかりません。今までは未来の映像を閲覧しているような感じでしたから。ですが、やってみる価値はあると思います」

「わかった、ならば本日から空き時間などを未来視の研究にあててくれ。何か進捗がある度に私へ報告をするようにね。カタリナも、これからは異常がないか見張る程度で大丈夫だ」

「ありがとうございます、お父様」

「畏まりました」


 思わぬところで未来視研究の許可が出た。

 最初の思惑とは違った形になったけれど、これはこれで手札が増えることになる。

 同時に体つくりのための運動を少しずつ始めていこうかな。

 これからの事を色々考えながら、今度こそ一礼しお父様の執務室を退室して庭のガゼボへと向かう。

 考えることはたくさん増えてしまったけれど、手探りで答えを模索するのは好きだ。早速、イレブンジズを楽しみながら考えてみようかな。





 庭に着くと、お兄様がクー様と二人で散策している様子が目に入った。

 クー様今日来てたんだ、知らなかったな。

 でもまあ邪魔すると悪いし、二人の視界に入らないようにガゼボへと向かって、思考の海に沈もう。


「本日はローズティーと、こちらのクッキーになります~」

「ありがとソフィー」


 ソフィーの淹れてくれた紅茶を飲み、クッキーを一口齧る。

 美味しい。

 甘いものを少し取り込んだことで、集中して思考することが出来そうだ。


「……テラ!」


 魔法発動における最初の段階はイメージが重要となる。

 今までの天眼は、日にち・時間・場所を想像することで、映像として私の眼に映すことが出来た。

 だがこれだと効率が悪い。

 踏む必要のあるプロセスが多すぎる。

 今晩の夕食を視るのには、今日の夜の決められた時間に、夕食が提供される前提でイメージを開始することで内容を視ることはできるだろう。

 だが例えば数刻後、邸に盗人が入るとしよう。

 あるかもしれない、という心持ちで天眼を使用していたら、それを知覚することは出来るだろうけれど、常に一つの事柄について警戒心を持ち続ける必要がある。

 そんなことをしていたら魔力も心も持たない。


「ステラ―!僕も混ぜてもらってもいいかな」

「どうぞ」

「ありがとう。ところで何してるの?何か考えてたみたいだけど」

「私の未来視の発動方法の違いと、自身の身を護るための効率的な運用方法」

「そっか未来視の……え?未来視?」


 ウォロがガゼボに入ってきて、私のイレブンジズに混ざりに来た。

 まあクー様がいらっしゃっていたので、来ているだろうとは思っていたから、そこはなんの驚きもない。

 それよりも未来視についてだ。


 アクティブとパッシブの違いとでもいうべきだろうか。

 スタンバイ状態のコンピューターに少量の給電を行い続けるかのように、私の身に降りかかる災いに対して天眼を待機状態にしておくか?

 一度発動させてみよう。


 災いと定義するのはアバウトすぎた気がしたが、目の周りに魔力が集まっているのを感じるので問題なく発動しているみたい。

 ……ただこれ魔力持たないな、そんな気がする。

 数時間程度しか継続しなさそうなので、待機状態にしておくのは外出などの比較的危険が迫る可能性が高くなる状態で使う必要がある。

 リソースは無限じゃないので、適宜使っていくことにしよう。

 考え方はこの方向性で大丈夫そうだ。この後お父様にこのことを報告しに向かおうか。


「ちょっとステラ!未来視ってどういうこと!?」

「きゃっ!」

「うわっ!」


 急にウォロが私の方を掴み、そちらへと向かせられたので驚いて思考が遮られてしまった。

 というかお前人の顔見た途端になんだその反応、失礼すぎるだろ。


「……ごめん、目の色が普段と違いすぎてびっくりしちゃって」

「いいえ、お気になさら……ちょっと待て今なんて?」

「え?目の色が普段と違う……?」

「あっ」


 今ウォロが隣にいるじゃねぇか!なにしてんだ私!

 今までアルバート侯爵家外の人間が知らないことを知られてしまった。

 思考に没頭しすぎて目の色が変わることをすっかり忘れていた、どうしようか。


「本当にごめんね。アルバート夫人が天眼を使えることは知っていたんだけど、ステラも使えて、しかも未来視も出来るなんて聞いて驚いちゃって」

「あー……」


 未来視も口走ったなこれ。

 天眼だけならば、まだお母様からの遺伝で使うことが出来るって誤魔化しが利いただろうけど、未来視については完全に無理だろう。


「はぁー……なにやってんだ私」

「……ステラ?」

「ごめんなさい、思考に没頭しすぎたわ」

「いや、それは大丈夫なんだけど、もしかして聞いたらマズいことだった?」

「少なくとも、アルバート侯爵家ではない人が知ったのはこれが初めてね」


 ウォロに落ち度は全くない。

 未婚の女性の肩を断りもなく掴んだことは世間的にご法度だろうが、発端はそもそも私だ。

 少しばかり厳しい表情でウォロを見ているカタリナを宥める。


「元はといえば私が口走ったせいだから、ウォロは悪くないわ。だからカタリナも下がりなさい」

「……畏まりました」

「まあもう口走ったからわかってると思うけれど、私は未来視が使えるの」

「やっぱり、そうなんだね」

「でもまあ代償もあるし、想像しているほど便利なものでもないわよ」

「代償?」

「攻撃魔法が使えないのよ、私」

「適性の話か。前言ってたのはそういうことだったんだね」


 以前、といってもそんなに前の話ではないけれど、ウォロと一緒に魔法について勉強していた時に攻撃魔法が使えないことは共有している。

 そういう場合は、代わりに何かしら突き抜けたものを持っているものだが、天眼以外に他者と比べて優秀なものはなかったので、その時にウォロが少し疑問に思っていたのを覚えている。

 未来視が使える代わりに攻撃魔法が使えないのを知ったことで腑に落ちたようだ。


「それで、便利なものじゃないってのは?って、そこまで聞いてもいいのかな」

「それこそ今更じゃない?」


 それに変な期待を抱いて、本質を知った時にがっかりされても嫌だし。

 後でウォロにも他言無用と伝えておかないと。


「未来視も魔法だから、見たい事柄に対して、私が具体的に指定しないといけないのよ。だからそもそも認識していないものに対しては効果を及ぼすことが出来ないの」

「なるほど……」


 改めて振り返ってみると便利ではあるけど、使い勝手は悪いな。

 魔力も食うし、せいぜいが出来てスタンバイ状態にするくらいで、パッシブ発動は出来ない。


「じゃあ、姉上を助けてくれたのはステラだったんだね」

「まあそうなるわね。別にそれを誇示する気はないけど」


 急に居住まいを正してこちらに向き直るウォロ。

 その真剣な表情に、思わずこちらも背筋が伸びてしまう。


「ありがとうステラ。姉上を助けてくれて」

「クー様のことは、私だけがやったことじゃないわ」

「本当は姉上にも父上にもこの事を伝えるべきなんだろうけど、そっちの方がステラに迷惑をかけることになるし、黙っているよ。でもきっかけはステラだったから、僕だけでも君に感謝を伝えないといけない。ワイズライン家嫡男として、そして君の友人として」


 思わず恥ずかしくなって顔を背けてしまった。

 事情が事情だから、クー様のことで感謝されると思ってなかったし、何よりウォロのそのどこか憂いを帯びたような表情が綺麗すぎる。

 若い女性には刺激が強すぎると思います!


「わ、わかりました。どういたしまして」


 ウォロも他言しないでおいてくれるようだ。

 寧ろ私としてはそっちの方がありがたい。

 だが、カタリナもソフィーもこの話は聞いていたし、私から言わなくてもお父様にこの話は行くんだろうぁ……

 ごめんなさい、お父様。心労を増やしてしまって。






 この後、案の定お父様に報告が行き、今後未来視についての検証は自室か修練場でのみ実施していいと言われてしまったのだった。

段々と心情が乙女になっていくステラの様子も楽しんでいただけますと幸いです。

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