プロポーズとは、別名で夫婦契約
「貴女のその美貌も声も、何もかもを独り占めしたいと、心からそう思う」
とある屋敷の一室。
そこにいるのは若き貴公子と、同い年の可憐な淑女の二人のみ。他に見ている者はおらず、ただ二人だけの空間で貴公子は淑女に愛を囁く。
シルバーブロンドの髪にレッドスピネルの瞳を携えた、本日七歳となった誕生会の主役である公爵家の嫡男と、もうすぐ七歳の誕生日を迎える絹のようなプラチナブロンドの髪と、澄んだアクアマリンの瞳が可憐な侯爵家の御令嬢。
面と向かってプロポーズされたのは初めてだ。鼓動はドクンドクンと、早鐘を打つように動いているのがわかる。
貴族社会に明るいわけではない。こういった事は両家を通すのが筋というものであろうが、このような状況は生前後含めても立ち会ったことはない。
どうするべきか、言いあぐねて考え少々もじもじとしていると、恥ずかしくて声が出ないと解釈したのか、若き貴公子は言葉を続いて紡ぐ。
「初めて貴女を目にした時から、ずっと気になっていた。言い寄ってくる他の令嬢とも違う、どこか冷めた目で夜会を眺めていた貴女を。それからは貴女の事を見かける度に、自然と目で追ってしまっていた」
ん?
今おおよそプロポーズの言葉とは思えないような、捉え方によっては罵倒しているかのような言葉が聞こえたような気がするが気のせいだろうか。
そのせいか、先ほどまでの鼓動は驚くほどのスピードで収まっていく。
加えて顔に出てしまっていたのだろう。彼の貴公子然とした表情がふっと微笑む。
普通の御令嬢であれば、彼のその表情にイチコロだっただろう。生憎と普通の令嬢からはかけ離れていることは十分理解している。
「ふふっ、やはり貴女は面白い方だ。一層君のこと手に入れたくなった」
なにがそんなに面白いのかはわからない。
とはいえ、自分の家より格上の家の嫡男からの告白だ、回答をしないわけにはいかない。両家の事もある、そう上手くいかないだろうし、何より七歳児の言い出したことだ。
「わかりました。ジークフリート様のお気持ちはお受けいたします。しかし、しっかりと両家を通して正式に婚姻を申し出るようにお願い致します」
淡々と、事務的に告げる。婚姻にこちらの意志が介在しないのは理解している。貴族の娘とは政略の駒だ。
私を溺愛しているお父様とお母様がどのように考え、どういった結論を出すかはわからないが、どうせこのことについて、私に決定権はない。
どこか諦観したような、そんな感情に浸りながら、嬉しそうな表情を浮かべる幼き貴公子を見る。
「本当かい!?嬉しいよ。もちろん、父上にも母上にもこのことを話したうえで、後日正式に申し出るつもりだ」
体裁を保つために平静を装ってはいるが、まだ七歳の子供だ。自分がいなくなったら小躍りでもしそうなくらいには嬉しさを隠せておらず、なんだかこちらも気が緩みそうになる。
ああ、神よ、何故私は女性として生を受けたのでしょうか。貴族ではないにしても、男性として生を受けることはできなかったのでしょうか。
もしくは、この記憶は生を受ける際に消してくれていれば、どれほど楽であったでしょうか。
せめて、目の前の貴公子が誠実な方であることを祈るばかりだ。それか、私に愛想を尽かして将来、婚約を破棄してくれても構わない。
このプロポーズから幼き貴公子エヴァンテ公爵嫡男ジークフリート・エヴァンテと長い付き合いになることは、アルバート侯爵令嬢ステラレイン・アルバートは思いもしないのであった。
初投稿です。
自分が読みたいなって思った設定のものを、つらつらと書くだけになるかなと思います。
拙い文章ですが、読者の方に楽しんでいただけるよう努めて参りますので、よろしくお願いします。