第8話「本当の冒険者」
「はぁ……はぁ……」
魔王とその他諸々を消し去った私は、天井を見上げながら肩で息をする。
結局、私は――ここに、何をしに来たんだろう……?
当てが外れてしまった。
「――ラグイージ殿……!」
「わっ!?」
半ば方針していると、突然後ろから抱き着かれた。
見れば、シルヴィアンさんが目の端に涙を浮かべながら、私に抱き着いてきている。
「あなたは凄いです……! 本当に、魔王を倒してしまうなんて……!」
「い、いや、これはたまたまっていうか、運が良かったっていうか……とりあえず、離れてくれない……!?」
シルヴィアンさんの髪の毛から出ている、花のようないい匂いが鼻孔をくすぐり、思わず心臓がドキドキしてくる。
綺麗な人って、どうしてこんなにいい匂いがするんだろう。
「はっ……!? これは失礼致しました……! つい、感極まってしまい……!」
私から離れた彼女は、目に溜まった涙を指で拭いながら、バッと勢い良く離れる。
その頬は、ほんのりと赤くなっていた。
魔王と呼ばれていたくらいだし、ゴブリンロードに国の人たちは苦しめられていたんだろう。
その苦しみから解放できたのなら、素直によかったと思う。
「まぁ、魔王討伐は冒険者の悲願だからね。とはいえ、私がやってしまってよかったのかなって、疑問はあるけど……」
本来、この時代のヒューマンじゃないもんなぁ……。
ゴブリンロードがこっちを舐めてくれていたおかげで、苦戦しなかった面もあったし。
昔なら、子供を産むために捕らえられたヒューマンや他種族が、盾に使われて――って、そうだ……!
「ごめん、シルヴィアンさん! まだやらないといけないことがある!」
「えっ!? もしや、まだ敵が……!?」
「うぅん、違うの……! ついてきて……!」
私は、魔王城の部屋を片っ端から探索する。
すると――。
「これは……魔王軍に攫われた者たち、ですか……?」
沢山の女の子たちが、裸で拘束されている部屋に辿り着いた。
部屋の中は凄い匂いで、思わず鼻を手で覆いたくなる。
「ゴブリンたちはね、メスがいないからこうしてヒューマンなどの他種族を攫って、子供を産ませるの」
見れば、ヒューマン以外にもエルフやビーストマンらしき子もいた。
とりあえず、拘束されている子たちの息はあるようだけど――素直に、喜べるものじゃない。
酷い扱いを受けて精神はボロボロだろうし、体もボロボロにされている。
何より、ここにいる子たちが攫われた全員とは考えにくく、きっと死んで餌にされた子も多いだろう。
「たす……けて……」
近くにいた子が、私たちに対して助けを求める。
声を出すのもやっとという感じだ。
「うん、わかってる――《ヒール》」
私は、近くにいた子から順に、ヒールをかけていく。
本当は《ハイヒール》を使ってあげたほうがよかったんだろうけど、二度目の《エクスカリバー》を使っちゃったし、この子たちを連れて帰るには《テレポート》が必要になる。
だから、魔力は温存させてもらった。
「戦闘スキルだけでなく、回復スキルまで扱い――ラグイージ殿は、まるで女神様だ……」
女の子たちを治療しているところを見て、シルヴィアンさんが半ば無意識に呟く。
熱を秘めたような潤った瞳で私を見つめているけれど、まさか本当に女神様だと思っているわけではないだろう。
「そんな仰々しい存在じゃないよ。それよりも、他の子たちの拘束を外してあげて」
「はい……!」
シルヴィアンさんは素直に私の言うことを聞いて、他の子を解放していく。
初めて会った時は話が合わなさそうだったけど、こうしてみると仲良くなれるかもしれない。
この場合、どうなんだろう?
年齢的には私のほうが上だけど、私の体はスキルで時間経過が停められていたから、肉体的年齢だと彼女のほうが上だし――立場も、彼女のほうが上なんだよね。
ドタバタしてたりしたからタメ口になってたけど、やっぱり敬語で話したほうがいいのかな?
「――はい、これで一応は大丈夫だね」
最後の一人を治療して拘束からも解放してあげると、私は手をパンパンッと叩いた。
「では、彼女たちを歩かせて――は、難しいですね。馬車でも数日かかりますし、道中には魔物がいますので」
「そうですね。その辺は考えがあります」
「……ラグイージ殿、なぜ急に敬語を?」
私が敬語を使って話すと、シルヴィアンさんが訝しげに眉を顰めた。
敬語を使って嫌がられるのも珍しい。
「シルヴィアンさんのほうが、立場も見た目も上なので」
あえて、年齢とは言わなかった。
追及されるとめんどくさいから。
「よしてください……! 貴方様は、魔王を討伐した勇者として祀られますので、私なんかよりも立場は上です……!」
ありゃ、いつの間にか、『其方』から『貴方様』に変わってる。
私を見つめてくる瞳も、なんだかさっきから熱っぽいし……。
「う~ん、勇者って呼ばれるの、嫌なんだよね……」
私にとっての勇者は、お姉様だから。
そういう意味で言ったんだけど――
「なるほど、確かにあの勇者と同じ扱いをされてしまうのは嫌ですよね……。実力はあるのですが、そのせいで好き放題しますし、そのくせ肝心なところで役立たずでしたから」
――どうやらシルヴィアンさんは、別の意味で捉えたらしい。
わぉ、凄い言われよう。
初めて勇者を見た時、『なんだかお高く留まってるなぁ』とは思ったけど、嫌われてたんだね。
そっかそっかぁ。
いいこと聞いちゃった。
「……ラグイージ殿? どうしてニコニコ笑顔なのですか?」
「ん~、なんでもない」
ただ、これからの楽しみが一つできたってだけで。
勇者様には、その名に相応しいよう頑張ってもらおっと♪
「…………」
なんだかシルヴィアンさんが、得体のしれないものでも見るかのように怯えた表情をしているけど、気にしない気にしない。
私はただ、勇者の責務を全うしてもらうだけだから。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるね」
「えっ、どこにですか?」
「ゴブリンの巣で戦った時には、必ずしないといけないことがあるの。勧めはしないけど……後学のために、ついてくる?」
首を傾げて尋ねると、シルヴィアンさんは間髪入れず頷いた。
私から学べるものは全て学ぼうとしているんだろう。
そして、私についてきて――ゴブリンの赤ちゃんを殺していく私を見た彼女は、こう呟いた。
「これが、本当の冒険者……」と。
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