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第2話「乖離」

「「「「「ぶぉおおおお!」」」」」


 仲間が吹き飛ばされたからだろう。

 残り十五匹のミノタウロスたちが標的を変え、戸惑っている私に突っ込んできた。

 それも、一斉に。


「ちょっ、嘘でしょ!?」


 狙いは私のようなので、ミルクちゃんたちを巻き込まないように急いで彼女たちから距離を取る。

 それによって、ミノタウロスの群れは私を追いかけてきた。


「一瞬であんなところに!?」

「何あの脚力!? ヒューマンじゃないの!?」


 離れたところからはミルクちゃんたちの声が聞こえる。

 だけど、私はそれどころではなかった。


「死ぬ! 死ぬってこれはさすがに!」


 拳闘士以外の冒険者が、武器を持たずに魔物の群れを相手にして無事でいられるはずがない。

 いくら死に場所を求めているとはいえ、やっぱり痛いのは嫌だ。

 なるべく優しく殺してほしいというのに――どう見てもこの数は、ミンチ肉にされそうだった。

 だから私だって、必死に避ける。

 さすがにこの数の攻撃を喰らい続けると、あれ(・・)ももたないだろうし。


 こんな状況になってみると、最初の一匹におとなしく飛ばされていたほうが、百倍マシだった。 


「おい、あんな数の攻撃を躱し続けてるぞ!?」

「に、人間技じゃねぇ……!」


 こんな群れの中に飛び込むのは無謀だとわかっているのか、荷物番をしていた冒険者たちは遠巻きに私を見ているだけで、誰も助けにこようとはしない。

 今も昔も、相変わらずみんな薄情だ。


「あぁ、もう……! いい加減にしてよね……!」


 観戦している仲間にも、群れで襲ってくるミノタウロスにも腹が立った私は、躱すだけだったのをやめて攻勢に転じた。

 とりあえず、一番近くにいるミノタウロスの腹を殴ってみる。


「ぶぉおおおおお!」


 うん、やっぱり吹き飛ぶようだ。


「まだまだ!」


 最初と同じように、殴ったミノタウロスが仲間を巻き込んで吹っ飛んでいくのを横目に、近いミノタウロスから順に本気で殴った。

 それにより――十五匹いたはずのミノタウロスは、一瞬にしてバラバラの肉に変わってしまった。


「…………」


 無我夢中にミノタウロスたちを相手にしていた私は、肉片となった屍を見つめながら、ボーッと突っ立ってしまう。


 おかしい……。

 昔のランクで考えてみても、こんなに弱いわけがないのに……本当に、ミノタウロスなの……?


 そう私が戸惑っていると――。


「ミリアさん、凄すぎます……! 本当に拳で倒しちゃうなんて……!」

「いったい、何ランクの冒険者なのですか!?」


 クルミちゃんとミルクちゃんが駆け寄ってきた。


「あぁ……これでも私、実はBランクの冒険者だから……」


 Bランクなのだから、仮にCランクだったとしても負けるはずがない。

 今の私は、拳闘士を名乗っちゃっているからね。


 しかし――

「Bランク!? でも、ミノタウロスってAランクの魔物ですよ!? どうして一人であの数を倒せたのですか!?」

 ――どうやら私の読みは、見当違いだったらしい。


「ミノタウロスが、Aランク……? 嘘でしょ……?」


 どう考えてもありえない。

 本当にAランクの魔物レベルに強くなっているのなら、私は剣を持っても勝てないということになる。

 でも現実は、拳で倒せているわけで――普通に、ありえない。


「本当ですよ……! ミノタウロスはかなり強く、多くの冒険者たちが命を落としているのですから……!」

「それをスキルもなしに倒してしまうなんて……! ミリアさん、凄すぎます……!」

「えっ……」


 スキルなら、使っているんだけど……もしかして、気付いていない……?

 それとも、常駐スキルだから別扱いとか……?


「ねぇちゃん、大したものだな!」

「いったいどうやったらあんな芸当ができるんだ!?」


 ミルクちゃんたちが話しかけてきたことが理由だろう。

 先程の戦いを見ていた、他の冒険者や騎士たちまで話しかけてきた。


「見かけねぇ顔だよな、今までどこを旅していたんだ!?」

「ランクは!? いったい何ランクなんだ!?」

「それほど強いのに、なんで店番をさせられてるんだよ!?」


「ちょっ、いっぺんに聞いてこないでぇ!」


 私を囲みながらみんなが一斉に喋るものだから、何を言われているのか全然わからない。

 だから、『距離を取って』という意味で、軽くおじさんたちを押したのだけど……。


「「「「「うぉおおおおお!?」」」」」


 軽く、吹き飛んでしまった。


「「「「「…………」」」」」


 おかげで、再び皆さんが口をあんぐりと開けながら、得体の知れないものでも見るような目で私を見てこられる。

 私も、言いたいことがある。


 えっ、踏ん張り弱すぎない……?


 ――と。


 ――その後は、ミルクちゃんとクルミちゃん以外からは距離を取られてしまった。

 下手に関わると、命が危ないと思われたのだろう。


 ミルクちゃんたちはなぜか、私のことを慕ってくれているらしい。

 道中会話をしていたおかげかもしれない。


 そんな彼女たちは、前線の面々が戻ってくると私の戦いを報告に行ったらしいんだけど――騎士団長さんは『寝ぼけたことを言うな』と言って、話を聞かなかったらしい。


 まぁ拳闘士のことを知らなければ、信じられないよね。


 ……いや、拳闘士だったとしても、Aランクの魔物が相手ならあんなこと起きないんだけど。

 ほんと、どうなっているの……?

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