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第18話「クズ勇者への鉄槌」

「ファ、ファイアボール……?」


 空を見上げた勇者は、ガクガクと体を震わせる。

 私が作り出したものと自分が作り出したものの差に、驚愕しちゃったみたい。


 まぁこれでも、私のは抑えているんだけどね。


 本気でやっちゃったら辺り一面炎上して、私が打ち首にされちゃう。


「なんだよ、あれ! 太陽か!?」

「こんな冒険者が、いったい今までどこにいたんだよ……!」

「神だ……。女神が、ご降臨なされたんだ……」


 観客である冒険者や貴族たちが、私の《ファイアボール》を見て騒ぎ立てている。

 私たちの時代だとこれくらい作れる冒険者はゴロゴロといたけど、やっぱり今では珍しいらしい。


 肝心な勇者はといえば――。


「こんなの、どうやって勝てばいいんだよ……?」


 半ば、心が折れかけているように見える。


「どうする? まだ続ける?」


 ここら辺で折れてくれると、助かるんだけど――。


「へっ……?」


 私が下手に声をかけたせいで、呆然としていた勇者の手から《ファイアボール》が放たれてしまった。


「ミリアさん、危ない……!」


 クルミちゃんの焦る声が聞こえてくる。

 生身でこんなものを喰らえば、全身大火傷だろう。


 ――そう、生身で喰らえば。


 私に《ファイアボール》が直撃し、大きな煙が立つ。


「ラグイージ様!?」


 シルヴィアンさんの焦っている声が聞こえた。


「いやぁあああああ! ミリアさんが殺されたぁあああああ!」

「嘘よ……こんなの、嘘よ……!」


 ミルクちゃんやクルミちゃんの涙声も聞こえてくる。


「おい、馬鹿勇者がやりやがった!」

「決闘でスキルを使うからだ、あのクズ!」

「英雄を殺した勇者……洒落になりませんね……」


 当然、観客たちの焦っている声も聞こえてきた。

 おそらく、映像越しにこの戦いを見ていた国民の人たちも動揺しているだろう。


「お兄ちゃん、なんてことするの……!」

「い、いや、俺は殺す気なんてなくて……!」

「そんな言い訳、通じるわけないでしょ……!」


 どうやら声からして、勇者の妹が勇者に詰め寄っているらしい。


 さて、どうしたものか……。

 正直、気まずい。


「こんなことして、どう責任を――」

「――あ~、あの。はい、大丈夫です。生きてるんで」

「えっ……?」


 煙が晴れるのを待ってから声をかけると、勇者の胸倉を掴んでいた妹ちゃんの顔がこちらに向く。

 どうしたらいいかわからなかったので、とりあえずニコッと笑みを返しておいた。


「「「「「えぇえええええ!?」」」」」


 途端に、広場は驚きの声に包まれる。


 うん、うるさい。


「ななな、なんで生きてるんですか!? しかも、無傷!?」

「私、《魔法障壁》を張ってるからあの程度のスキルじゃ効かないんだよ」

「なんですか、それ!?」


 そっか、そういえばこの時代の冒険者は、《魔法障壁》を知らないんだっけ?

 一々説明するのがめんどくさいな……。


「ば、化け物だ……! 英雄は、勇者より遥かに化け物だ……!」

「いや、神だ……! やはり、女神がご降臨なされたんだよ……!」

「確かにもうこの凄さは、女神じゃねぇと説明つかねぇ……!」


 いえ、普通にヒューマンです。

 あなたたちと同じ存在です。


 そう言いたくなるくらいに、観客が動揺している。


「魔王軍との戦いでは重症を負った勇者たちを治したらしいし、やっぱり女神だったんだ……!」

「そっか、女神様が我々を助けに来てくださったのか……! 道理で、魔王なんて敵じゃないわけだよ……!」


 あっ、やばい。

 みるみるうちに変な解釈をされていく。

 これ以上祭り上げられるなんてごめんだ。


「いや、私はそんな大したことないんで――」

「申し訳ございません、女神様……!」

「…………」


 誤解される前に止めようとすると、勇者の妹ちゃんが土下座をしてきた。


 なんか、呼び方が女神様に変わってるし……ほんと、勘弁してほしいんだけど……。


「もう降参させて頂きます……! お兄ちゃんが悪いのは重々承知ですが、命を取るのだけはお許しください……!」


 どうやら、妹ちゃんはこの戦いを終わらせたいらしい。

 土下座までしてくるなんて――私、そんな怖く見えるのかな……?


「おまっ、何勝手なことを……!」

「きゃっ!」


 妹ちゃんがしたことが気に入らなかったんだろう。

 あろうことか、自分の代わりに頭を下げた妹を勇者は木刀で殴ってしまった。


「――っ」


 私は天に浮かべていた《ファイアボール》を消し、転がった妹ちゃんのもとに駆け寄る。


「大丈夫!?」

「は、はい……」

「ちょっと待ってね、《ヒール》」


 酷い怪我ではないけど、痛みがなくなるよう回復スキルを使ってあげた。


「ありがとうございます……」

「うぅん、気にしないで。それよりも、危ないから離れててね」


 私はそう言うと、妹ちゃんを背に庇うようにして勇者を見る。


「さっきのは妹が勝手に言っただけで、まだ決闘は終わってないからな……!」

「本当に、心の底からどうしようもない男のようね……」

「な、なんだよ!?」


 私が睨むと、勇者はビクッと体を震わせた。

 おそらく、精一杯の虚勢を張っているんだろう。

 これだけ多くの人に見られ、あれだけ大きな啖呵(たんか)を切ったのだ。

 今更引けないのはわかる。


 それでも――妹に手を挙げるなんて、絶対に許せない。


「私ね、あなたに対して許せないことが二つあるの。一つは、先程自身の妹に手をあげたこと。仲間に手をあげるような男は、大っ嫌いなの」


 私はそう言いながら、勇者に対して《魔法障壁》を張る。


「二つ目はね、あなたが呼ばれている『勇者』って称号は、私にとってとても大きな意味を持つ言葉なの。知ってる? その『勇者』って称号はね、千年前にいた優しくて美しく、そして最強だった『剣聖』が、魔王を討伐した際に王様から与えられた称号なんだよ」


「ま、待て……! 何をする気だ……!」


 木刀を構えながらジリジリと近付く私に対し、勇者は尻もちをついてしまう。

 腰が抜けたのか知らないけど、それでも逃げようと懸命に後ろに下がっていた。


「その称号を、あなたは汚した。正直、万死(ばんし)に値すると思う」


「――やだ! 女神様、命だけはお許しを……!」


 私の言葉を聞き取った妹ちゃんが、背後から悲痛な声を出してお願いをしてくる。

 このクズ勇者にあんなかわいくて性格がいい妹がいるなんて、人生不平等だ。


「あなたの妹さん、とてもいい子じゃない。そんな子を殴るなんて、いったいどういう神経をしているわけ?」

「ふ、ふんっ……! あいつはどうしても旅に連れて行ってくれって言うから、連れて行ってやってただけで、ただのお荷も――!」


「――鉄槌(てっつい)!!」


 勇者の言葉を最後まで聞かずに、私は本気の一撃を勇者のお腹へと叩きこんだ。


「ぐふっ……!」


 パリンッと《魔法障壁》が割れる音がし――勇者の体は吹き飛んで、壁へと激突した。


 私がわざわざ《魔法障壁》を張ったのは、本気で木刀を叩きこんでも死なない程度に衝撃を緩和するためだ。

 割れた後に壁にぶつかっているから、その衝撃はもろに勇者を襲っているだろう。


 だけど、そんなの私の知ったことじゃない。

 殺されなかっただけマシだと思え、と心の中で思った。


「妹ちゃんの痛みを思い知りなさい」


 そう言うと、私は勇者に背を向けた。

 そして、妹ちゃんに近付いていると――


「うぉおおおおお! 英雄の圧勝だぁあああああ!」

「ははは! あのクズ勇者がボコボコにされたぞ!」

「調子に乗ってるからだ、ざまぁみろ!」


「英雄様ぁ! 今晩(わたくし)とお食事でもどうですかぁ!」

(わたくし)とご結婚してくださぁい!」


 ――大歓声が巻き起こった。

 なんだか、女の子たちから積極的なアプローチのような言葉が聞こえたんだけど、やっぱり同性での結婚は一般的になっているようだ。


「お兄さんは一応生きてるから、安心してね?」

「は、はいぃ……」


 妹ちゃんに笑顔で手を差し出すと、なんだか顔を赤らめられてしまった。


 見た目的に、ミルクちゃんたちと同い年くらいかな?

 こんなにもかわいいのに、ほんとあのクズ勇者は何考えているんだか。


「――ミリア様、なんと罪深い御方なのでしょう……。今晩、お呼びしなければなりませんね……」

「ひっ!?」


 突如背筋が凍るようなプレッシャーを感じ、振り返ってみると――ルナーラ姫が、ニコニコの笑顔で私を見つめていた。


 えっ、なんか不穏なオーラを纏ってるけど、なんで怒ってるの!?


 どうやら私の戦いは、まだ終わっていないらしい。


 ――なお、私の勝利により盛り上がっていた観客の皆さんは、賭けのことを思い出すと真逆の感情で大きな声を上げていた。

 貴族はまだしも、冒険者は絶望に染まったような表情をし――逆にクルミちゃんやミルクちゃんは、初めて見る大金を手にして、興奮気味に慌てていた。


 正直、勇者に賭けた人たちには申し訳なかったけど――自業自得だと、諦めてもらうしかない。

 私は、かわいく興奮してるクルミちゃんたちが見れて、大満足だった。

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