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第17話「最強を見て育った故に」

「うぉおおおおおすげぇ!」

「なんであれを躱せるんだよ!?」

「やっぱ、英雄も化け物だ……!」


 勇者様の剣技を、必要最低限の動きで躱すミリア様を見て、観客が更に湧きました。

 あの方にとって、現代の剣技を躱すなど、造作もないことでしょう。


 なんせ、彼女は――魔王や魔物が猛威を奮った、最悪の時代を生き、当時『剣聖』と呼ばれ、(のち)に『勇者』と呼ばれるようになった、私のご先祖様に育てられたのですから。


 ご先祖様は、こう残しておられます。


『ミリア・ラグイージは、剣技、スキルの才能はともに凡人だが、皆から愛される才能を持っている。彼女さえいれば、皆一丸となってどんな困難でも乗り超えられるだろう』


 ――と。


 だからこそ、ご先祖様は彼女を最強へと育てようとした。

 戦闘の才能が人並であろうと、最強の御方の剣を受けて育った彼女には、現代の勇者様の剣技などスローモーションに見えているでしょう。


「くそがぁあああああ!」


 攻撃が全て躱されるので、苛立ったのでしょう。

 勇者様は大振りの構えを取ります。


 しかし――ミリア様は、その隙を見逃しません。


「隙が大きすぎ」


 トンッと軽く手で押しただけでした。

 それなのに――勇者様の体は、後方へと吹き飛ばされます。


「「「「「はっ……?」」」」」


 おかげで、状況が理解できなかった観客の皆様が、口をアングリと開けてしまいました。

 リリアンだけは既に体験済なのか、それともこれくらいはやられると思っておられたのか、皆様の表情を見てウンウンと頷いております。


「あちゃー、踏み込んだとはいえ、手の力は結構緩めたんだけどなぁ……」


 勇者様を吹き飛ばした当の本人は、困ったように笑いながら頬を指でかいています。

 木刀で叩いたら死んでしまうと思い、手でされたのでしょう。


 あれだけ煽られましたのに、手心を加えるなんてお優しい御方です。


 ――魔物に対しては、容赦がないようですが。


「おい、これまずくねぇか……? 勇者が負けると、俺たちの金が……!」

「こら、クソ勇者! てめぇさっさと立てよ!」

「負けたら承知しねぇぞ!」


 吹き飛ばされて呆然としている勇者様に対し、冒険者の方々が口悪く(ののし)り始めました。

 賭けをしている彼らにとっては、賭けたほうが負けるのは痛いでしょうからね。


「ミリア様に賭けられた御方は、どれほどおられたのでしょう?」


 勇者様がまだ立ち上がるようにないので、私はリリアンに尋ねてみます。


「騎士団に所属しているメンバーは、クルミ・リリス、ミルク・リリスを始め、何人かが賭けておりましたね。後は貴族も数人賭けておられましたが――冒険者は、全員勇者様に賭けたようです。ミリア様に賭けられた人数は、全体では一割に到底満たないでしょう」


 勇者様の実績や実力を知っている冒険者は勇者様に賭け、同じような理由で多くの騎士団員や貴族の方々も、勇者様に賭けたみたいですね。


 ミリア様に賭けた騎士団員というのは、おそらく先の大戦で彼女の実力を目にした者たちでしょう。


 貴族に関しては――遊びの一環で大穴に賭けたがる御方や、先見の目を持つ御方など、理由はそれぞれだと思います。


「どうしたの、もうやめる?」


 立ち上がらない勇者様に対し、ミリア様は声をかけます。

 それにより、勇者様はやっと体を起こしました。


「ふ、ふふ……伊達(だて)に、魔王との戦いで生き残ってないというわけか……。だが、勝負を決めるのは――スキルなんだよ……!」


 勇者様は、再度ミリア様に襲い掛かります。

 当然、先程と同じように剣技は全て見切られ、躱されていますが――彼は、ブツブツと何かを呟いているようでした。


 そして、準備ができますと――。


「やはり、貴様は戦いながら詠唱ができないんだな……! この勝負、俺の勝ちだ……!」


 急に距離を取り、剣を落として両手をミリア様に向けます。

 その手には、みるみるうちに、炎の円球ができあがっていきます。

 大きさは、勇者の体を覆い隠すほどにまで膨れ上がりました。


「知っているか!? この《ファイアボール》はな、己の魔力の大きさに比例して大きくなるんだ! これで、お前を丸焼きにしてやる!」


 自信満々の勇者様。


 それに対し、ミリア様は――

「《ファイアボール》かぁ……」

 ――左手の人差し指を天に向けておられ、再度困ったように笑っています。


「はっはっは! 降参するのなら今のうちだぞ……! 俺も魔王ほど悪くはないからな……!」


「こりゃあ、もう勇者の勝ちだろ……!」

「あんなの作れるの、勇者しかいねぇもんな……!」

「勇者が勝つのはムカつくが、金がなくなるのは嫌だからな!」

「英雄、さっさと降参しろ……!」


 観客たちはダラダラと汗をかきながら、興奮気味に二人のやりとりを見つめておられます。


 さて、どうしましょうか……?

 私が《魔法障壁》を張っても、力不足で壊れてしまいますし……。


「てか、なんか急に暑くなったくね……?」

「だよなぁ……汗が止まらないんだけど……?」


「――ねぇ、勇者さん」


 観客の皆様が、流れる汗を手や布で拭き始める中、ミリア様はニッコリと素敵な笑みを浮かべます。

 そして――。


「《ファイアボール》って、これだよね?」


 右手に持っている木刀を天に突き刺すように、チョンチョンと上下させました。

 上を見ろ、とされたようです。


 それにより、皆様の視線は天へと向き――

「「「「「はぁあああああ!?」」」」」

 ――直径二十メートルほどの火の玉に気が付いて、腰を抜かしてしまわれました。


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