表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/28

第14話「お姫様は腹黒?」

「実際、ミリア様に真相を伝えないという道もあったでしょう」


 私の嫌味に対して、ルナーラ姫は動揺せずに凛とした表情で見つめ返してきた。


「しかし、千年もの時を超えてミリア様が現れたことは、私どもにとって願ってもないほどの幸運でした。都合が悪いことを隠し、貴方様の厚意に甘えるようなことは、したくなかったのです」


 慎重に言葉を選んでいるのがわかる。

 おそらくこの人は、私が命を絶とうとしていたことを見透かしているんだろう。

 その上で、私がここを離れないようにするのはどうしたらいいのか――というのを考えながら、話していると思う。


「あまり買いかぶらないでくださいね? 私は、聖人ではありませんので」


 あくまで私は、冒険者だ。

 ただ働きをする気はないし、なんでもかんでも許したりはしない。

 名誉やお金のために戦いはすれど、どうでもいい人のために戦ったりなどしないのだ。


「顔を合わせたばかりで何も知らないくせに、私の何がわかるんだ――とでも、思われていますでしょうか?」


 まるで、私の心を見透かしているかのように、ルナーラ姫は問いかけてくる。

 実際、似たようなことは考えていた。


「そこまで失礼なことは、考えておりません……」

「よろしいのです、ミリア様がそう思われるのは正しいと思いますので」


 どうやら、確信を持たれてしまっているらしい。

 王族の中にはたまに、家臣や国民のことを親身になって考え、心を見通せる人がいるというのは聞いたことがある。

 ルナーラ姫は、そちら側の人間なんだろう。


「私も、ミリア様のことを知り尽くしている、などと言うつもりはございません。これから、貴方様のことを教えて頂きたいと思っておりますので」


 城に住まわせ、ましてや隣の部屋にしたのは、私と一緒にいる時間を増やす狙いなのかもしれない。

 本当に、このお姫様は何を考えているのか……。


 私がそう気にしている間も、ルナーラ姫の言葉は続く。


「ですが――既に起きた事実から、わかることもございます。騎士団員の子たちを身を呈してお守りしたり、しんがりを自分から買って出たり――性格に難ありの、勇者様をお助けになったり……お優しい御方でなければ、しないことだと思います」


 ルナーラ姫は、相変わらず見惚れそうになるほどの素敵な笑顔で、見当違いなことを言ってきた。

 まぁ何も知らずに見てたら、そう勘違いされても仕方がないんだけど――この人、私が死のうとしてたことに、気付いてると思うんだけどな……。


「守った子たちは私のお気に入りの子たちでしたし、しんがりにも個人的な理由があり――勇者に関しては、戦場の影響力を考慮した結果ですから……」


 てか、勇者がクズだって知らなかったし。

 知ってたら、助けなかったかもしれない。


「真実など、関係ないのです。魔王討伐にて行われたミリア様の行動は、多くの者が目にし――その立ち振る舞いと武功は、その場にいた者たちの胸に刻まれたことでしょう」


 ……あれ?

 私の性格についての話をしてたんじゃなかったっけ……?


「つまり、どういうことでしょう……?」


 ルナーラ姫が何を言いたいのかがわからなくなってしまい、私は結論を()くことにした。


「既にミリア様は、この時代に生きる者たちから見ても、実力を兼ね備えた人格者――英雄に、ふさわしいと思われているということです」


 なるほど……。

 私がどう否定しようと、過去にお姉様が残した情報通りの人物に、現代でもなっているってことか……。


 ――ルナーラ姫って、やっぱり腹黒なのかな……?


 ついそう思ってしまった。

 少なくとも、ただ優しいだけではないと思う。


「そこまで私を持ち上げて、生きていてほしいわけですか……?」

「私は何も持ち上げておりませんよ。全て事実であり、ミリア様の人格と実力により、必然としてこうなった――というだけのお話です」


 う~ん、まぁ、魔王討伐にルナーラ姫の関与がなかったのは事実だけど……。

 私の常識と、今の冒険者の常識がかけ離れていることは、また教えてもらえるのかな……?


「お話を戻させて頂きますが、ミリア様が目を覚まされた際には、王家の一員として迎え入れ、不自由なく暮らせるようにサポートするよう、言伝を受けておりました」


 お姉様、ちゃんと私のこと、考えてくださってたんだ……。


 嘘を吐かれたのは悲しいけど、気にしていてもらえていたのはやっぱり嬉しい。


 ――だけどそれは、いくらご先祖様からの言葉とはいえ、ルナーラ姫からしたらいい迷惑だっただろう。


 今回の魔王討伐を私がしたのは、彼女からしたら都合がよかったのかもしれない。

 いきなり現れた人間を王家に迎えようとしたら、周りが黙っていないけど――魔王討伐の褒美として、結婚で迎え入れることになれば、誰も文句言わないだろうから。


「いたせりつくせり、というわけなんですね……」


 ただ、気になることもある。

 どうしてそこまで話が通っているのに、私が土の中に埋まっていたのか――ということだ。

 おそらく先程お姫様がおっしゃった、『御身おんみをお守りすることができず』というのが、関係しているんだろうけど。

 もしかしたら、ここまで冒険者たちが衰退したこととも、関わりがあるかもしれない。


 だけど――今は、もう休みたい。


「一度にお話をしてしまっては、頭が混乱してしまいますよね。後々、ゆっくりとお話はさせて頂きますので、本日はもうお休みください」


 さすがと言うべきなのか、私がもう話したくないということを、敏感に察知されてしまった。


「一つだけ覚えておいて頂きたいのは、私は何があろうと、ミリア様の味方ということでございます」


 ルナーラ姫はそう言うと、私の両手を自身の両手で包んできた。

 そして、ニッコリとかわいらしくて温かい、優しい笑顔を向けてくる。


 やっぱり、この人――私を、落とそうとしてる気がする……。

 凄く綺麗なお姫様にこんなことされたら、女の子だって意識してしまうもん。


 でも、私は……そう簡単に、落ちたりなんてしないけどね……!


「そう言って頂けて、心強いです」


 私は精一杯の笑顔で、話を合わせておいた。


「討伐に参加してくださった冒険者の方々は、数日もすればこちらに到着するでしょうから、その際は盛大に宴を致しましょう。ミリア様には、私の隣に席をご用意させて頂きますので」


 うん、なんだかがっつり外堀を埋められて、グイグイこられそうな気しかしないけど――大丈夫!

 私は、お姉様一筋なんだから……!


 こうして、熱い眼差しを向けてくるルナーラ姫との一夜は、終わりを迎えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『新作です……!』
↓のタイトル名をクリックしてください

数々の告白を振ってきた学校のマドンナに外堀を埋められました

『数々の告白を振ってきた学校のマドンナに外堀を埋められました』5月23日1巻発売!!
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★ 
数々1巻表紙
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★  


『迷子になっていた幼女を助けたら、お隣に住む美少女留学生が家に遊びに来るようになった件について』8巻発売決定です!
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★ 
お隣遊び6巻表紙絵
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★  


『迷子になっていた幼女を助けたら、お隣に住む美少女留学生が家に遊びに来るようになった件について』コミック2巻発売中!!
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★ 
お隣遊びコミック2巻表紙
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★  

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ