第12話「ミリア・ラグイージ」
「ル、ルナーラ姫……? こちらは……?」
「ふふ、私はただ、手を重ねているだけですよ?」
重ねてるだけ?
――思いっきり、サスサスされてるんですけど……!?
なに、誘ってるわけ!?
純潔がウリみたいな顔をしておいて、実は肉食系なの!?
「身を固くしちゃって……おかわいいですね。こういうのは、経験がないのでしょうか?」
「ひひひ、姫様こそ、積極的すぎませんか……!?」
お姫様にこんなふうに迫られて、平然としていられるわけがない。
私も女の子が好きだけど、こんなふうに初対面の人に迫られたことなんて、一度もないのに。
というか、この身はお姉様に捧げるって決めてたのに――!
「魔王討伐の褒美に王族との結婚が含まれるというのは、常識ですよ?」
「あ、あはは……」
笑って誤魔化すことしかできない。
今ってどうなってるんだろ……?
私が眠る前の時代は、異性としか結婚できなかったはずだけど……。
「……ふふ、まぁそれは、討伐なされた側にその気があれば――ですけどね」
ルナーラ姫は、楽しそうに笑いながら私から少し距離を取った。
もしかしたら、からかわれていただけかもしれない。
「こういうのは、心臓に悪いです……」
先に悪ふざけをしたのはルナーラ姫なので、私は不満をぶつける。
本当に、押し倒されるかと思った。
「ミリア様にその気がありましたら、すぐにでも婚約となりますよ?」
「……冗談ですよね?」
「私に、拒否権はございませんので」
ニッコリと、とんでもないことを素敵な笑顔でおっしゃるお姫様。
この人、何考えてるか全然わからない。
とても優しそうに見えて、お姉様よりも怖いかもしれない。
「私に、その気はありませんので……」
そう、いくらお姉様にソックリとはいえ、お姉様ではないのだ。
彼女の誘いに乗ることはない。
「それでは、本題に入りましょうか」
「切り替え早いですね!?」
何事もなかったかのように話を変えられ、私はついツッコんでしまった。
「ふふ、時間はいくらでもありますので」
それはいったいなんの時間でしょうか!?
答えを聞くのがあまりにも怖くて、声に出すことはできなかった。
「オリビア・ルージュ――というお名前に、心当たりはありますか?」
「――っ」
心当たりがあるも何も、その名前は――。
「私が知るものと、少し違うかもしれませんが……初代『勇者』であり、当時唯一Sランクに届いた、最高の冒険者です」
私が眠りについた後は、お姉様がどうなったのか知らない。
だけど、間違いなく私たちの中では最高の冒険者で、誰よりも強かった。
「やはり、貴方様は――初代勇者パーティの魔法剣士、ミリア・ラグイージ様ですね?」
答え合わせができたんだろう。
彼女は温かな眼差しを私に向けながら、嬉しそうに口元を緩めた。