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エピソード 2

     1



 数日経ったある日。私が所属するクラスでは、体育祭についてのホームルームがおこなわれていた。黒板には種目が書き出されていて、誰がどの種目に出るかを話し合っている。

 ……話し合っていると言っても、財閥特待生――とくに令嬢達は乗り気じゃない。

 黒板の前で陸さんと乃々歌ちゃんが仕切っているが、多くの種目はメンバーが決まらず、くじ引きになる。これが、原作乙女ゲームの流れである。

 紫月お姉様によると、乃々歌ちゃんは騎馬戦に立候補。私はくじ引きの結果、沙也香さんと明日香さん、それにモブを加えた四人で騎馬戦に出場することになるそうだ。

 原作を忠実に再現するならば、くじ引きを細工する必要があるだろう。

 だけど、体育祭における私の役割は特にない。仕方なくと言った体で騎馬戦に出場して、なんだかんだと奮戦する、ただそれだけである。

 あえて言うなら、体育祭をがんばる乃々歌ちゃんに向かって「そんなに泥まみれになって、ご苦労なことですわね」と笑うくらいである。

 という訳で、クラスが優勝する流れを阻害しなければなんだっていいというのが、紫月お姉様の出した答えだ。だから私は、くじ引きの運に任せることにした。

 その結果がどうなるか、私は少し興味がある。もし原作の強制力みたいなものが存在するなら、沙也香さんや明日香さんと組むことになるだろう。

 でも、さすがにそこまでの強制力はないと思っている。

 強制力が原作ストーリーを踏襲させようとしている中で、ここまで原作をむちゃくちゃにしてしまったのだとしたら、私が無能みたいじゃない。

 なんてことを考えながらクジを引いたら、私は見事に騎馬戦の選手に選ばれた。

 ま、まさか、本当に強制力が? いや、私一人が選ばれるくらいなら、確率的に考えても不思議じゃない。なんて考えていると、教室の空気が張り詰めたことに気が付いた。

 どうやら、私が騎馬戦のメンバーになったことで、誰が組むのか、という話になったようだ。そして、乃々歌ちゃんがちらちらとこちらを見ている。

 これは、まずい予感。

 そう思った瞬間、沙也香さんと明日香さんが手を挙げた。

 ……え?

「二人は騎馬戦に出場するのか?」

 泥臭いことを嫌いそうな二人が手を挙げたことに驚いたのだろう。話し合いを仕切っていた陸さんが思わずといった感じで聞き返している。

 それに対し、二人は力強く頷いた。

 それから、彼女らは席を立ち、私の席の前までやってきた。そうして沙也香さんは横に控え、明日香さんが代表するかのように私の前に立った。

「澪さん、お話があります」

「……なにかしら?」

 ものすごく嫌な予感がする――と、思いつつ、そんな動揺はかろうじて押さえ込み、なんでもないふうを装って応じた。だけど次の瞬間、私は息を呑むことになる。

 ホームルームがおこなわれている教室のど真ん中。

「「澪さん、先日は申し訳ありませんでした」」

 二人がみんなの見ている前で深々と頭を下げたからだ。

 突然の、それも予想外の出来事に教室がざわめいた。けど、一番驚いているのは私だろう。というか、敵対していたはずなのに、どうして私に謝ってるのよ?

「……なんのことかしら?」

 もちろん、分かった上での質問だ。できれば、そのまま引き下がって欲しい――という願いを込めた答え。だけど、そんな私の願いは届かない。

「澪さんの素性についてあらぬ噂を流したことです。本当に申し訳ありませんでした」

 止めて、謝らないで。私は悪役令嬢なのよ? ここで、反省しているみたいだし、二人を許しましょう。みたいな、いい話にするのは悪役令嬢のお仕事じゃないの。

 悪役令嬢的には、今更謝って許されると思っているのかしら? って、高笑いをあげるほうがそれっぽい。だけど――と、シャノンを見れば、微妙な顔で首を横に振られた。

 ……そうなのよね。

 紫月お姉様の判断で、沙也香さんと明日香さんが虐められている状態は、原作ストーリーに悪影響を及ぼす可能性がある――という結論に至り、二人の現状を打破したばかりだ。

 ここで二人を突き放したら、二人はいままで以上に立場をなくすことになるだろう。

「話は分かったわ。でも、どうして急に?」

「それは、澪さんと一緒に騎馬戦に出たいからです」

 意味が分からない。

 なにがどうなったら、そこから一緒に騎馬戦に出ようという話になるというのよ? まさか、本当に原作の強制力が働いている、なんてことはないわよね?

 ……ないと思うけど、この突拍子もない申し出は理解できない。

「もう少し、分かりやすく説明してくれるかしら?」

「はい。先日、私達を助けてくれましたよね?」

「それは、貴女達を助けた訳じゃないって言ったでしょう?」

「でも、六花さんから、私達の処罰が軽かった理由を教えてもらったんです」

「――は?」

 六花さんからって……まさか、軽い罰で済むように働きかけたこと? どうして六花さんが知ってるの? というか、言っちゃったの!? なにやってるんですかと視線を向ければ、貴女の本心を伝えてあげたわよとでも言いたげなドヤ顔で返された。

 違う、私は素直になりたいツンデレとかじゃなくて、悪役令嬢を目指しているの!

「だから私達、澪さんのことをみんなに知ってもらいたくて。そのためにまず――」

「分かった、分かったわ。騎馬戦よね、一緒のチームになりましょう」

 慌てて話を遮って、騎馬戦でチームを組むことにした。

 どうせ、原作では彼女達と騎馬戦に出場することになるんだ。ここで彼女達に、実は私がいい人アピールをさせるよりはマシだろう。

 それになにより、乃々歌ちゃんと組むよりはマシだからね!

「あれ? だけど、騎馬戦は四人よね。もう一人は――」

 そこまで口にして息を呑んだ。

 私達のやりとりは、まるで寸劇のようにクラスメイトの見世物になっていた。そして、その劇に一番注目していたのが教壇の前にいる乃々歌ちゃんである。

 彼女の顔には、私も参加すると書いてある。

 ま、まずい。それだけはまずい。悪役令嬢の私が、ヒロインと一緒になって体育祭をがんばるとか、どう考えても原作を崩壊させることになる。それだけは絶対に避けようと、乃々歌ちゃんが口を開く寸前、「もう一人は!」と声を張り上げた。

 それに驚いた乃々歌ちゃんが口を閉じる。

 あ、危なかった。間一髪だった。

 立候補を遮られた乃々歌ちゃんは不満そうだ。ここで私が言葉を濁せば、今度こそと名乗りを上げるだろう。だからそれより早く、もう一人を決めなくてはいけない。

 もう一人、誰か友達を……友達?

 ――私、このクラスに友達がいない!

 まずい、どうしよう? シャノンに頼む? たしかにシャノンなら受けてくれるけど、彼女と私に繋がりがあるというのは出来れば隠しておきたい。

 あぁでも、他に選択肢がないのも事実。こうなったら背に腹はかえられない。

 そう思って私がシャノンを指名する寸前、六花さんが手を上げた。それを見たクラスメイト達、もちろん私を含めてが沈黙した。その一瞬の隙に彼女はこう口にした。

「わたくしが参加いたしますわ」――と。

 本日、二度目の驚きである。

 というか、騎馬戦って三人は馬になるんだよ? 私は悪役令嬢的に、馬になるとかあり得ない。でも、桜坂家の娘が、雪城家の娘を馬にするとか……それはそれでどうなのよ?

 というか、馬になるつもりなのよね? まさか騎士になるつもり?

 どっちにしてもトラブルの予感しかしない。

「……六花さんが、私のグループに入るのですか?」

 騎馬戦だよ。貴女が私のところに来るなら、貴女は馬になるのよ? と、遠回しに訴えてみた。だけど六花さんはにこにこ顔で「ダメですか?」と聞き返してきた。

 問題しかないのだけど……と、教壇に視線を向ければ、乃々歌は出遅れちゃったとでも言いたげな顔をしている。六花さんをメンバーに入れなければ、即座に立候補するだろう。

 あぁもう、仕方がない!

「分かりました、六花さんも一緒に騎馬戦に出ましょう!」

「ええ、よろしくお願いしますわ」

 私が応じれば、教壇のまえに立つ陸さんが「どうやら決まったようだな」と、苦笑い交じりに言って、黒板に私達の名前を記入していく。

 そして、その横にいる乃々歌ちゃんはぷぅと頬を膨らませている。その仕草は可愛いけど、貴女はどうしてそんなに私に懐いているのよ?

 わりとまじで謎なんだけど。

「さて、他に騎馬戦に立候補する者はいないか?」

 黒板に名前を書き終えた陸さんがそう口にした。

 ……って、あれ? たしか、乃々歌ちゃんも騎馬戦に出場するのよね? あの子、私と組めなかったことでしょんぼりして、まったく騎馬戦に立候補する様子がないんだけど。

「他にいないな? なら、残りはくじ引きで――」

 あぁもう、仕方ないわね!

「乃々歌、貴女は騎馬戦に出ないの?」

「私も出ます!」

 即答だった。

 私の問い掛けに秒で応じて、それからクラスの仲良しな子達に一緒に出ないかと誘いを掛ける。それにクラスメイト達が仕方ないわねと応じて、彼女達の出場が決まった。

 ……よかった。

 どうやら、ヒロインが原作と違う種目に出るという、最悪の事態は避けられたみたい。

 という訳で、声を掛けたのは仕方なかったのよ。だからシャノン、その、また乃々歌さんを誑かして――みたいな顔で私を盗み見るのは止めて。

 溜め息を吐いて、席に座り直す。

 ……って言うか、先生達には口止めをしてあったはずなのに、どうして六花さんがその件を知っているのかしら? ……なんて、答えは考えるまでもないわよね。

 桜坂家より、雪城家の方が権力が強い、ということ。

 これが私を陥れるためなら動きようもあるけれど、おそらく善意によるものだろう。そう考えると、こうなるのも必然だったのかもしれない。

 なんて考えていたら休み時間になって、すぐに六花さんが近付いてきた。

「澪さん、少しお時間よろしいですか? 騎馬戦のことで少しお話が」

「ええ、もちろん」

 私が頷くと、六花さんは唐突に自分は馬でいいと宣言した。彼女の取り巻きが難色を示すが、彼女は、自分が澪さんのグループに入れてもらうのだから当然だと言い放つ。

 ひとまず、トラブルにならずに済んで助かった。と思っていたら、彼女はところで――と話題を切り替えた。そのピリッとした気配から、こちらが本題に違いないと背筋を正す。

「実は、澪さんに聞きたいことがあったんです。もうすぐ財界のパーティーがあるのですが、そこに紫月さんは出席なさいますか?」

「紫月お姉様は海外留学の用意をしているので、おそらく出席はしないと思いますが……必要なら確認してみましょうか?」

「いえ、そこまでしていただく必要はありませんわ。ただ、彼女に聞いてみたいことがあっただけなので。……もしや、澪さんもご存じかしら?」

 出来るだけ、用件については興味がないフリをしていたというのに、自然な流れで言及されてしまった。なんだか探りを入れられている気がする。

 私、悪役令嬢として必要な知識を優先して学んでいるから、知識がわりと穴だらけなのよね。六花さんの疑問に、上手く答えられるといいのだけど……

 そんなふうに警戒心を抱きながら「なんのことでしょう?」と問い返した。

「日本では、雪城家、月ノ宮家、桜坂家の三つの財閥を合わせて、三大財閥と呼ばれているのは、澪さんには言うまでもないことですよね。そしてその資産も」

「ええ、もちろん存じていますわ」

 多少の変動はあるけれど、三大財閥の資産は数百兆円規模で、一位から三位までは数十兆円刻みの差しかない。三大財閥は拮抗しており、四位以降は水をあけられている状況。

 これが乙女ゲームとして作られたこの世界の現状だ。本来の歴史では財閥が解体されていて、そこだけを改変したこの世界には色々と歪みができているらしい。

 そうして、金融危機が発生するのが原作のストーリーなんだけど、私と同様にこの世界で生まれ育った六花さんには知り得ない情報だ。

 なのに、どうして財閥の話をするんだろうと首を傾げていると、六花さんが口を開いた。

「紫月さんは、海外に企業をお持ちでしょう?」

「……ええ、そうですね」

 と答えてみたものの、もちろんそんなことは知らない。いや、紫月お姉様が、なんか会社を持っているって話くらいは聞いたことがあるんだけどね。

「以前、新年会のパーティーで紫月さんがおっしゃっていたんです。お小遣いで起業しただけだから、大した規模じゃない――と」

 探るような視線を向けられる。

 私の表情からなにかを読み取ろうとしているみたいだけど……ほんとに知らないのよね。あぁでも、紫月お姉様なら、お小遣い規模でもとんでもなく高額そうだけど。

「紫月お姉様がそうおっしゃったのなら、その通りだと思いますわ。もちろん、お小遣いという言葉に、個人的な開きはあると思いますけど」

 紫月お姉様は、未来を知っているようなものだ。きっと、数百万規模なんかじゃない。数千万とか、数億規模で稼いでるんだろうなとは思う。

 だけど、その程度なら今更よね。

「澪さんはさすがですね」

「なんのことですか?」

 小首を傾げれば、六花さんはいいえと苦笑いを浮かべた。

「それより、澪さんは秋月家についてご存じですよね?」

「ええ、もちろん知っていますわ」

 今度は即答した。

 そのあたりは家庭教師から習ったところだ。三大財閥から大きく水をあけられているので四大財閥とはあまり呼ばれないが、序列的には第四位の大財閥だ。

 ちなみに、秋月家は自ら四大財閥の一つと名乗っているらしい。

「その秋月家がどうかなさったんですか?」

「婚姻による合併などを積極的におこない、下剋上を狙っている動きがあるようですわ」

 六花さんが忠告してくれているのだと理解する。三位と四位のあいだに大きな隔たりがあるとしても、四位と五位が手を組めば三位を抜かすことも出来る――とか、そういう話だろう。

 でも、紫月お姉様は未来を知っているから、私が心配する必要はないんだよね。

「ご忠告に感謝いたしますわ」

 小さく微笑めば、六花さんは軽く目を見張った。それから目を細め、「まあ、紫月さんのしていることに比べれば、大したことではありませんよね」と苦笑する。

 ……って、え?

 もしかして、紫月お姉様の稼ぎって、数億レベルじゃ……ない?


     ◆◆◆


 蒼生学園には、財閥特待生だけが使うことの出来る施設がいくつか存在する。そのうちの一つであるカフェの一角で、六花と琉煌が顔を突き合わせていた。

「……それで、探りを入れた結果はどうだった?」

 アイスコーヒーを片手に琉煌が問い掛けた。テーブルを挟んだ向かいの席に座る六花はアイスティーを一口飲んで苦笑いを浮かべる。

「さすが澪さんと言うしかありませんわね。紫月さんが軽く兆を超える資産を隠し持っていると指摘しても、顔色一つ変えませんでしたわ」

「顔色一つ変えないと来たか。澪は最近まで普通の苦学生だったはずだが」

 庶民だからといって、感情が顔に出やすいと決まっている訳ではない。けれど、習慣的に身に付けた感覚はそう簡単に消すことが出来ない。普通の苦学生であれば、身近な人が兆を軽く超える金額を稼いでいると聞いて普通でいられるはずがない。

「本当に、不思議ですわよね。その頃から欺瞞していたのかしら?」

「あるいは、短期間の教育でその域に至ったという可能性はどうだ?」

「……考えるだけでも恐ろしいですわね」

 もしそれが事実なら、物心ついた頃から教育を受けている二人に、澪がわずか数ヶ月で追いついたと言うことになる。それは、天才という言葉ですら生ぬるい。

「だが、西園寺と東路をはめた手際を考えれば否定できまい。あれだって、澪が自分で考えた策略のはずだ。あるいは……いや、さすがにそれはないか」

「……なんのことですか?」

 珍しく言葉を濁す琉煌が珍しくて、六花はこてりと首を傾げた。

「いや、紫月がすべてを計算した上で、澪を操っている可能性もあるかと思ってな」

「……さすがにそれは」

 あり得ないと六花は笑う。もしそんなことがあれば、紫月は沙也香や明日香はもちろん、琉煌や六花の行動すら読んで、澪を思いのままに動かしていることになる。

 そんなことは、未来でも知らなければ不可能だ。

「……どちらにせよ、澪の成長なくしてはあり得ない話か。では、秋月家の件はどういう反応だった? 怪しい動きがあると伝えたのだろう?」

「そっちもご存じだったようですよ。私に指摘された後、凄くいい笑顔で微笑んでいましたので、おそらくは……」

「また、なにか罠を仕掛けている、ということか」

 沙也香と明日香のような犠牲者がまた一人。

 そんな未来を想像した二人は思わず苦笑いを浮かべた。


     2


 体育祭における悪役令嬢の存在はモブのようなものだ。相応の結果を出してクラスの勝利に貢献はするけれど、特に悪役らしい活動をすることはない。

 とはいえ、悪役令嬢である以上、乃々歌ちゃんと仲良くする訳にはいかない。

 なのに――

「澪さん、今日こそ駅前でパフェを食べませんか?」

 放課後、廊下を歩いていた私の下に、乃々歌ちゃんが尻尾を振って駆け寄ってくる。ヒロインに相応しい、可愛くて健気な性格をしているから、出来れば優しくしてあげたいとは思う。

 けれど、妹の命を天秤に乗せることは出来ない。

「悪いけど、私は暇じゃないの」

「じゃあ、校内のカフェでケーキはどうですか?」

「いや、ちょっとは話を聞きなさいよ」

「聞いてますよ~。だから早く行きましょう」

 乃々歌ちゃんはそう言って歩き出す。いや、絶対についていかないからね? と見送っていると、少し歩いたところで先輩とおぼしき男子生徒に声を掛けられた。

 男子生徒は、いかにも女慣れしてそうな雰囲気を纏っている。

「キミ、一年生? 名前は?」

「え? 私は柊木ですけど」

「名前だよ、名前」

「あぁ、ごめんなさい。私は乃々歌です」

 面白いくらい、誘導尋問――というのもおこがましい誘導に引っかかっている。私は思わず溜め息を一つ。乃々歌ちゃんの下へと向かった。

「へぇ、乃々歌ちゃんか。一般生だよね。よかったら俺と……」

「――邪魔よ」

「あ? いま、俺がこの子と……って、桜坂 澪!?」

 私の顔を見た男子生徒が青ざめる。

 ……そうか。たしかこの男子生徒、紫月お姉様が用意してくれたアプリにある、注意する人物リストに載っていた。財閥特待生の末席に属するチャラ男くんだ。

「わたくしを知っているのなら話は早いわね。――消えなさい」

「し、失礼いたしました」

 男子生徒は全速力で逃げていった。

 それを見送ることなく、私はジト目で乃々歌ちゃんを見つめる。

「乃々歌、いくら聞かれたからって、知らない人にほいほいと名前を教えてどうするのよ。子供じゃないんだから、少しは警戒心を持ちなさい!」

 厳しい口調で言い放つ。

「ごめんなさい。次から気を付けます。それと……心配してくれてありがとうございます」

「誰が誰の心配をしてるって? 自意識過剰もいいかげんにしなさいよね」

 私は髪を掻き上げて呆れた素振りを見せ、それじゃもう行くわねと踵を返す――が、今度は乃々歌ちゃんに制服の裾を摑まれた。

「……乃々歌、なんの真似?」

「カフェはそっちじゃないですよ」

「だから――」

 行かないと口にする寸前、私の耳に小さな振動音が聞こえた。自分のではないから、乃々歌ちゃんのスマフォだろう。私は視線で「出てもいいわよ」と促した。

「分かりました。ちょっと待っててくださいね」

 乃々歌ちゃんはそう言うけれど、私に待つ義理はない。彼女が携帯で喋り始めるのを横目に、私はさっさとその場から立ち去った。

 そうして乃々歌ちゃんと別れた私はスタジオに顔を出す。先日のモデルが好評だったので、継続的にモデルをしないかと誘われたからだ。

 私は雇われ悪役令嬢で、原作ストーリーをハッピーエンドに導くのがお仕事だ。それ以外のことにかまけている余裕はないのだけれど、これは紫月お姉様からの指示でもある。

 乃々歌ちゃんが私に懐いていることを利用して、ファッションにもっと興味を持たせようという計画だ。

 とまあそんな訳で、私は再びファッション誌のモデルをこなす。オフショルダーのブラウスに、ティアードスカート。ニーハイストッキングといういつもの組み合わせ。

 色や多少のデザインは毎回違うけれど、これは紫月お姉様が経営するブランド、SIDUKIで揃えている私個人の私服だ。桜坂家のお嬢様の、日常コーデというコンセプトらしい。

 でも、私の普段着がファッション誌で紹介されるってことは、乃々歌ちゃんが真似ることを期待して、ということよね。街で同じ服装の乃々歌ちゃんと出会って「おそろいですね!」とか言われるかもと思うと、わりと複雑なんだけど。

 いつか、悪役令嬢として彼女を傷付けなくちゃいけない。それならいっそ遠ざけてしまいたいのに、彼女の成長を促すという役割がそれを許してくれない。

 ほんと、複雑な気持ちになってしまう。

「澪、表情が暗いわよ」

「すみません」

 カメラマンの小鳥遊先生に注意された私は即座に意識を切り替える。最初の頃はモデルとして素人も同然だったけど、あれから少しは様になってきた。

 なんて、私にはもったいないほどの先生の教えを受けたおかげ、なんだけどね。

 ともあれ、私はモデルとしての役割を果たしていく。そうして撮影を終えた私に、小鳥遊先生が話し掛けてきた。

「澪、貴女、才能あるわね」

「本当ですか?」

「ええ。上達速度は一流よ。最初が三流以下だったから、ようやく二流ってところだけど」

「先生は手厳しいですわね。でも、自覚はあります。次はいまよりも上手くやりますわ」

「生意気――と言いたいところだけど、貴女は本当に達成しちゃうのよね。普通の子は、そのあたりで伸び悩んだりするんだけど、ね」

「それは……いえ、ありがとうございます」

 妹のためだから――という言葉が喉元まで込み上げたけれど、それは口にしなかった。私が死に物狂いなのはたしかだけど、それは他の子だってきっと同じ。

 他の子が努力してない、みたいな言い方は失礼だと思ったのだ。

「その感性、独特よね。こんなに面白い子、貴女のお姉様は何処で見つけてきたのかしら」

「それは――」

 ただの偶然だと口にしようとして、本当にそうだろうかと思って言葉を濁した。最初は偶然だと思ったけれど、いまはもう分からない。

「ん、どうかした?」

「いいえ、なんでもありませんわ」

 私は笑って話を切り上げた。それから帰る用意をしていると、鞄に入れていたスマフォに留守電が入っていることに気付く。着信があったのは佐藤として登録している番号の方で、相手は以前お世話になっていた病院の先生だった。雫の私物が見つかったから、取りに来て欲しいとのこと。私はその荷物を受け取るべく、スタジオ帰りに病院へと向かった。

 最近まで気付いていなかったのだけど、いまの私は生家のことを周囲に隠す必要がない。佐藤家から、桜坂家の養女になったと学園であんなに派手に打ち明けたからだ。

 という訳で、今日の私は蒼生学園の制服姿だ。

「お久しぶりです」

 入院病棟の受付で、看護師のお姉さんに声を掛ける。妹の入院中にとてもお世話になった看護師さんで、私を見ると少し驚いた顔をした後、すぐに笑顔になった。

「何処のお嬢様かと思ったら、澪ちゃんじゃない。久しぶりね。今日はどうしたの?」

「ええっと、雫の忘れ物があると聞いたんですが」

「忘れ物、忘れ物……あぁ、これね」

 手元のメモを見て、悪いけどちょっと待っていてと言われる。そうして言われた通りに待合室で待っていると、ほどなくして手提げ袋を持った先生が姿を現した。

「先生、お久しぶりです」

 席を立って迎えると、先生は「ああ、数ヶ月ぶりだね」と応じてくれた。

「これが雫さんの私物だよ。それと、少し時間はあるかい?」

 先生はそう言って、待合室にある自動販売機を指差した。

 以前の私なら、先生の意図をすぐには理解できなかったかもしれない。けれど、いまの私はすぐに、飲み物を一杯おごるあいだ、話に付き合って欲しいという意味だと理解する。

「雫のことですね?」

「ああ、よく分かったね」

「先生にはご心配をおかけいたしましたから」

 転院の話はわりと急だった。私の取り引きに関することなので、先生も詳しい事情を聞かされていないのだろう。雫のことを心配してくれているのがありありと分かる。

「それは、肯定と受け取っていいのかな?」

「はい。オレンジジュースでお願いします」

「交渉成立だ」

 先生は紙コップのオレンジジュースを買って私に手渡し、自分はコーヒーを購入した。そうして私の隣に腰掛けると、「それで、雫さんは元気にしているか?」と問い掛けてきた。

「はい。おかげさまで小康状態を保っています」

「……そうか」

 先生は少し言葉を選ぶような素振りで呟いた。雫のために尽力してくれた先生には、出来るだけ誠意を持って応えたい。そう思った私は、何処まで教えても大丈夫か素早く計算する。

「実は、海外で治験がおこなわれている治療を三年以内に受けられるかもしれません」

「そうか、やはり」

「……やはり、ですか?」

 カマを掛けられている訳ではないはずだ。

 どうしてと小首を傾げる私に、先生は軽く肩をすくめた。

「転院の手続きをしに来たのが、明らかに財閥の関係者だったからね。そして、今日ここに来たキミの制服姿。もしかしたらと……少しだけ期待していただけだよ」

「そう、ですか。ごめんなさい。あのときは、あまりお教えすることが出来なくて」

「いや、かまわないよ」

 先生はそう言うと、目的は果たしたとばかりにコーヒーを飲み干した。

「医師をやっているとね、理不尽な現実に直面することはしょっちゅうだよ。でも……今回は違うようだ。雫さんが快復することを心より願っているよ」

 先生はそう言って立ち上がり、空になった紙コップをゴミ箱へと捨てる。それから、澪さんはゆっくり飲んでから帰るといい――と言って立ち去っていった。

 私はそれを見送り、オレンジジュースをこくこくと飲む。その直後、不意に袖を引かれた。びっくりして視線を下ろすと、いつの間にか隣に女の子が座っていた。

 小学校の上級生くらいの年頃だけど……入院してる子、かな?

「ねえねえお姉ちゃん、先生の彼女?」

「……え?」

「先生の彼女なの?」

 目をキラキラさせている。

 ちょっとおませな女の子だった。

「違うよ。私は……以前先生にお世話になっていたの」

「そう、なんだ? 私も、先生にお世話になってるんだよ」

「……そっか」

 ここは入院病棟なので、先生にお世話になっているのなら入院しているのだろう。こんなに小さいのに、雫のように入院していると思うと、それだけで感情移入してしまう。

 ……って、入れ込みすぎね。そもそも、雫のように不治の病の子供はそう多くない。この子はたぶん、一時的に入院しているだけだろう。

「それで、私になにか用事かしら?」

「あのね、あのね。教えて欲しいことがあるの」

「……教えて欲しい?」

「このご本なんだけど……」

 と、女の子が取り出したのは、マンガで分かる礼儀作法の本だった。

 ……って、こんな子供が、なぜに礼儀作法? もしかして、財閥関係者の子供だったりするのかな? いや、財閥関係者なら、誰も護衛を連れていない、なんてことはないわよね。

 なんて、そういう私は護衛を連れていないのだけど。

 とにかく、財閥の子じゃないなら大丈夫――なんてね。いままでの私はそこで油断したかもしれないけど、さすがに私だって学習はしている。

「教えてあげてもいいけれど、そのまえにお名前を教えてもらってもいいかしら?」

「私の名前? 私は……美羽だよ」

「美羽ちゃん?」

「うん、美羽だよ」

「そっか、いい名前だね」

 よかった。乃々歌ちゃんの友達の名前と似ているけれど違う。

 ……って言うか、冷静に考えたら当然よね。仮に美優ちゃんがこの病院に入院していたとしても、ばったり出くわすのは難しい。その上、入院先はここだと決まっていない。

 この街にある病院の数を考えれば、出くわすほうがおかしいのだ。

「お姉ちゃんは?」

「ん? あぁ、私の名前ね。澪よ」

「じゃあ……澪お姉ちゃんだね」

 ――はうっ。

 愛らしい顔でお姉ちゃんと呼ばれて、思わず小さい頃の雫と重ねてしまった。

「よぉし、お姉ちゃんになんでも聞きなさい」

「ありがとうっ! それじゃ、澪お姉ちゃん、ここを教えて!」

「いいわよ。見せてごらんなさい?」

 美羽ちゃんと並んで座り、二人で一緒に本を持つ。美羽ちゃんがここを教えて欲しいのと開けたのは、タクシーなどに乗ったときの、席順についてのページだった。

 この辺りは、私もつい最近学んだばかりだ。

 そのときに交わした紫月お姉様とのやりとりを思い出して苦笑いを浮かべる。

「これの、なにが分からないの?」

「うん。あのね。席順は上座が運転席の真後ろで、次は助手席の後ろ、そのあいだ。助手席が下座という順番になってるでしょ?」

「……ええ。よくお勉強してるわね」

 本を読んだばかりとはいえ、小学生くらいの子供がちゃんと理解しているなんてすごいと感心してしまう。でも美羽ちゃんは、その上で教えて欲しいことがあるんだよね?

「なにが分からないの?」

「だって、助手席の方が見晴らしがいいでしょ? それに、三人目の人が後部座席の真ん中だなんて、もし三人共が大きな男の人とかだったら、席が狭くなっちゃうよね?」

 私は思わず目を見張って、そうだねと微笑んだ。

 ちなみに、後者は私も同じ疑問を抱いたけれど、前者は思ってもみなかった。子供だから発想力が柔軟なんだろうなって感心してしまう。

「あのね。車の場合は、もし事故があったとき、一番安全な場所が上座なの。助手席は事故のときに危険が及びやすいから、下座になっているんだよ」

「……そうなの?」

「うん。だから、偉い人が景色が見たい! って感じで助手席に座ることもあるかもね」

「そうなんだ! じゃあじゃあ、三番目の人が、真ん中に座るのは?」

「そっちは……四番目が居なければ、あいだには座らずに助手席に座ることが多いかな」

 三人の中で一番の下っ端が、遠慮して下座に座るのもまた、目上に対する気遣いである。

 でも、だけど――だ。

 そういう話をしたとき、紫月お姉様はこう言った。

「私なら、別の車を手配するけどね」

 もう一台同じ車を手配する。

 もし一緒に乗る必要があるのなら、大人数で乗れるリムジンを用意するのが普通だから、どっちにしても席を詰めて乗るという発想がそもそもない――とは、紫月お姉様の言である。

 それを聞いた女の子は、ぽかんと大きな口を開けた。

「……えっとえっと。じゃあ、この本に書いてあることが間違っているの?」

「間違ってる訳じゃないよ。ただ、マナーに捕らわれちゃダメ。重要なのはマナーを守ることではなく、相手の気持ちを汲むことなんだよ。……なんて、難しいかな?」

 私が問い掛けると、女の子は「んー、んー、分かんない!」と可愛らしく微笑んだ。

「そっか、分からなかったか。でも……大丈夫。いつかきっと分かるときが来るよ」

「そう、かな?」

「いまそれだけ疑問を持ってるなら、きっといつか分かるよ。私が貴女ぐらいのときなんて、そもそも席順なんて考えなかったもの。だから、自信を持ちなさい」

「ありがとう、澪お姉ちゃん!」

 女の子はそう言って本を持って立ち上がった。

「……もういいの?」

「うん! ところで、お姉ちゃんもここに入院してるの?」

 女の子が無邪気に問い掛けてくる。

「うぅん、入院していたのは私じゃなくて……」

 いくら私が佐藤家の出身であると隠す必要がなくなったのだとしても、妹のことはおおっぴらに言うことではない。そうして言葉を濁した私に対して、女の子は泣きそうな顔になる。

「もしかして、その人になにかあったの?」

「ち、違うよ。そうじゃなくて、転院しただけだから」

「そうなの?」

 私はこくこくと頷く。

「……そっか。じゃあ、その人が早く退院できるといいね!」

「ありがとう。貴女も早くよくなるといいね」

 私がそう言うと、女の子は無邪気に微笑んで、それから「ありがとう、またね!」と走り去っていった。廊下の向こうから、「こら、走ったらダメでしょ」みたいな声が聞こえてくる。

 雫にも、あんな頃があったなぁ……なんて思いながら、私もまた席を立った。


     ◆◆◆


 澪の元を去った女の子は、看護師のお姉さんに走っちゃダメとたしなめられて謝ったりしながら、自分の病室へと戻った。

 そうして、そこに高校生の女の子――乃々歌が居ることに気付いて目を輝かせた。

「乃々歌お姉ちゃんっ!」

「あ、いたいた。いったい何処に行ってたの、美優(・・)ちゃん」

「えへへ、ちょっとお散歩にね」

「そうなの? ならいいけど……身体の調子はどう?」

「んー? 平気だよ?」

「……ほんとかなぁ」

 乃々歌は疑いの眼差しを向けるけれど、女の子――美優は「そうだ、乃々歌お姉ちゃんから教えてもらったこと、ちゃんと出来たよ!」と満面の笑みを浮かべる。

「……私の教え?」

「うん。初対面の人から名前を聞かれても、簡単に本名を教えちゃダメだって教えてくれたでしょ? だから、名前を聞かれたとき、美羽って名乗ったの!」

 どう? 偉いでしょ? と言いたげに胸を張る。無邪気な彼女は、その些細な嘘が後にどのような事態を引き起こすかまったく気付いていない。

 もちろん、乃々歌も気付かない。乃々歌の頭の中は、どうやって美優に手術を受けるように説得するかでいっぱいだったから。


     3


「みなさん、体育祭の練習をしませんか?」

 ある日のホームルーム。乃々歌ちゃんがそんな提案をした。一般生はその提案に「いいんじゃない?」といった感じで肯定的な言葉を返す。だけど、財閥特待生は乗り気じゃない――以前に、自分達は関係ないとばかりに答えなかった。

 これは、財閥特待生と一般生のあいだに確執がある学園においては自然な反応。

 ――だったのだけど。

「財閥特待生のみなさんも、一緒に体育祭の練習をしませんか?」

 乃々歌ちゃんは財閥特待生を名指しした。すると、財閥特待生に属するお嬢様の一人が不満を露わにする。

「嫌よ。もし突き指でもしたら困るじゃない」

「そんな、突き指くらいで――」

 大げさなと言おうとしたのだろう。私はこのお馬鹿と内心で罵りながら「乃々歌――」と声を上げ、彼女がみなまで言うのを防いだ。

「貴女が体育祭に情熱を注ぐのは貴女の勝手よ。でも、それをわたくし達に押し付けるのは止めてくれるかしら? 貴女は知らないでしょうけど、彼女はピアノをやっているの」

 突き指を心配している令嬢――茜さんはピアノに情熱を注いでいて、定期的にコンクールにも出場している。なので突き指の危険がある運動はもってのほかだ。突き指をしない競技を勧めるならともかく、『突き指くらい』と言うのは、彼女の生き様を否定するに等しい。

 私の指摘でそのことに気付いたのだろう。

「そうとは知らずに、失礼なことを言ってごめんなさい」

 乃々歌ちゃんはピアノを習っている彼女に向かって頭を下げた。それで毒気を抜かれたのか、「いえ、わたくしは別に……」とそっぽを向いた。

 なんとか事無きを得た。

 というか、乃々歌ちゃんの察しのよさは相変わらずだね。いつもは私の悪役令嬢ムーブの裏にある善意を読み取られて苦労させられるけど、今回ばかりは察しのよさに感謝だ。

 でも……困った。乃々歌ちゃんの意見に感化されたクラスメイトが一致団結して、体育祭の練習を始める流れになるのが原作ストーリーなんだよね。

 なのに、私が乃々歌ちゃんの意見を論破してしまった。このままだと体育祭で勝利イベントが発生しない。どうしようと視線を泳がしていると、六花さんと目があった。

 彼女は私に向かって微笑むと、乃々歌ちゃんへと視線を向けた。

「乃々歌さん、貴女は特に体育がお好きというふうには見えませんでしたわ。なのに、急に体育祭をがんばろうと言い出すなんて、なにか理由があるのですか?」

 おぉ、すごいよ六花さん! さすが、他人の機微に通じている――と言いたいところだけど、どうして私の思惑が分かったのかな? 少し気になるけれど、この流れを止める訳にはいかないと、私は成り行きを見守ることにした。

 乃々歌ちゃんは視線を泳がせた後、実は――と口を開く。

「私、児童養護施設で暮らしていたことがあるんです」

 ざわり――と、教室が揺れた。

 一般生にとっても、児童養護施設で育ったというのは衝撃的な事実だ。ましてや、財閥特待生の子息子女にとっては別世界の出来事にも等しい。

 あ、でも、六花さんはポーカーフェイスを……いや、驚きに固まってるだけかも。そう思って私が小さく咳払いをすると、六花さんがハッと我に返った。

「……驚きました。乃々歌さんはそのような暮らしをしていたのですね」

「はい。と言っても短い期間なんですけどね」

「そう、なのですね」

 六花さんは安堵の表情を浮かべた。

 ……六花さんって、紫月お姉様並みに切れ者だって思ってたんだけど、こういう部分は意外と普通なんだよね。いや、紫月お姉様が例外、なのかな?

「でも、その短い期間でも仲良くなった女の子がいるんです。その子は私のことを姉のように思ってくれていて、私もその子のことを妹のように思っています」

「妹のように……」

 六花さんが小さな声で呟いた。その向こうでは琉煌さんも意識を何処かに飛ばしている。おそらく、二人揃って瑠璃ちゃんのことを思い出しているのだろう。

 そんな彼らに向かって、乃々歌ちゃんはその言葉を紡いだ。

「――だけど、その子が病気で入院してしまって」と。

 病弱な瑠璃ちゃんを心から大切に思う兄と従姉。二人の琴線を、妹のような存在が病気というワードが刺激する。もう、その言葉だけで、乃々歌ちゃんの味方になりたくなったはずだ。

 事前に知らされたときの私もそうだったからよく分かる。六花さんは身につまされるような想いを抱いているのだろう。乃々歌ちゃんに向かって控えめな口調で問い掛けた。

「それで……その、その子の病気は……?」

「幸い、手術をすれば治るそうです。その手術も決して難しいものじゃないんですが……その子、まだ十歳で、手術を受けるのは嫌だって……」

「それは、難しい問題ですわね」

「……はい」

 乃々歌ちゃんは俯いてしまった。彼女達のやりとりを聞いていたクラスメイトも感化されたようで、教室が湿っぽい空気になってしまう。

 そんな中、琉煌さんが口を開いた。

「事情は分かったが、それと体育祭の練習にどう関係があるんだ?」

「それは……その。私がいつもその子に学校のことを話しているんです。それで、体育祭でうちのクラスが優勝したら、手術を受けるって約束してくれて……」

「……なるほど、そういうことか」

 そう言って琉煌さんがちらりと私を見た。彼は私が佐藤家の人間だったことを最初から知っていて、病気の妹がいることも知っている。

 自分と同じように共感していると思っているのだろう。

 ……実際、それは正解なんだけどね。

 でも私は、悪役令嬢として乃々歌ちゃんに同情する素振りを見せる訳にはいかない。そうして素知らぬフリをしていると、乃々歌ちゃんが自分の胸に手を当てて口を開いた。

「みなさんに関係ないことなのは百も承知です。でも、それでもどうか、あの子が手術を受ける決心が付けられるように、どうかご協力をお願いします!」

 深々と頭を下げ、それから長い沈黙の後にゆっくりと顔を上げる。クラスメイトをまっすぐに見つめる瞳が綺麗だと思った。そして、そう思ったのは私だけじゃないだろう。

「……練習くらいはいいのではないか? 俺も、どのみち負けるつもりはないからな」

 最初に同調したのは琉煌さんだった。続けて六花さんが、「妹のような存在のためと聞いたら協力しない訳にはいきませんわね」と微笑んだ。

 続けて、二人がそう言うのなら――と、財閥特待生が次々に同調していく。もちろん、一般生達にも同調の声は広がっていく。

 そうして一致団結のムードでみんなが盛り上がっている中、沙也香さんと明日香さんが「澪さんはどうなさいますか?」と問い掛けてきた。

 そういえば、二人は原作通り、悪役令嬢である私の取り巻きポジに戻ったんだったね。

「わたくしには関係のない話ですわ」

 悪役令嬢らしく笑う。そのやりとりを聞いていたのか、陸さんが眉をひそめた。だけど私の予想に反し、明日香さんと沙也香さんは顔を見合わせると――

「なるほど、これが六花さんの言っていた……」

 小さく頷きあった。

 六花さんの言っていたって、なにかしら? 意外と冷たいところがあるとか、そういう話でも聞いたのかしら? 私は悪役令嬢だから、間違ってないんだけどね。

 とまあ、そんな訳でホームルームは終了。

 私は教室を後にしたのだけど――

「澪さん」

 廊下を歩いていたところ、陸さんが追い掛けてきた。すぐに髪を掻き上げ、自分は悪役令嬢だという暗示を掛け直す。

「わたくしになにかご用かしら?」

「いや、その……キミは乃々歌さんの頼みを聞いてやらないのか?」

「わたくしが? なぜ?」

 まったく意味が分からない。という体で聞き返す。

 私には人の心がない、という演出である。

「キミが悪役を演じているのは知っているが、そうする理由はなんだ?」

「悪役を演じる? 貴方の気のせいですわ」

「いや、どう見ても――」

「気のせいですわ」

「いや」

「気のせいだと言っているでしょう?」

「……そうか」

 勝った。

 ……いや、バレバレな時点で負けているのだけど。

 っていうか、陸さんにまで私の本性がばれているの? もう本当に勘弁して欲しい。私は悪役令嬢として破滅しなくちゃいけないんだから。

 そもそも、私が演じる悪役令嬢としての役割が問題なのよね。

 たしかに、原作の悪役令嬢はただの悪女なのだろう。

 けれど、そんな悪役令嬢の行動で、結果的に乃々歌ちゃんが成長することになる。それを意図的におこなおうと、ツンデレみたいに見えるのは当然だ。

 だけど、まあ……一つ分かっていることがある。信頼を築き上げるのは大変だけど、築き上げた信頼が崩れるのは一瞬だという事実。

 いまはツンデレみたいに見えていても、最終的にやっぱり悪女だったとなればいい。最終的にみっともなく破滅して、乃々歌ちゃんと攻略対象が結束するように仕向ければいい。

 嫌われることと、乃々歌ちゃんを成長させること。同時におこなおうとするから、ちぐはぐになってしまうのだ。だから、いまは体育祭のストーリーを忠実に再現する。

「もう一度申し上げましょう。乃々歌のお願いを聞く義理はありませんわ」

 私は悪女らしく笑った。

 それを聞いた陸さんが考える素振りを見せた。

「キミはたしか、騎馬戦に出場するのだろう?」

「ええ、それがなにか?」

「キミは桜坂家の娘でありながら、自分が無様に負けてもかまわないと思っているのか?」

 安っぽい挑発だ。

 でも、原作の悪役令嬢は、きっとこんな言葉に乗せられたのだろう。

 だから――

「笑わせないでください。桜坂の娘が無様を晒すなどあり得ませんわ」

 彼の分かりやすい挑発に乗って見せた。

 結果的に、それが乃々歌ちゃんに協力することになっても――とはもちろん口にしない。私は悠然と微笑んで、呆気にとられる陸さんを残してその場から立ち去る。

 このときの私は、その言葉の責任を果たせないなど、夢にも思っていなかった。


     4


 雪城財閥の支配下にある、国内有数のホテル。その大ホールを貸し切ったパーティー会場には、多くの財閥の関係者達が集まっている。

 その中には、桜坂の娘である私も参加していた。

 桜坂家の娘といっても養女でしかない。にもかかわらず、私は養女となってわずかな期間でパーティーに参加している。

 その上――

「先日、私達の娘になった澪だ。よろしくしてやってくれ」

「澪は紫月にとても気に入られているのよ。もちろん、わたくし達も気に入っているわ」

 お父様とお母様がべた褒めするものだから、ものすごく目立っている。おかげでしばらくは引っ切りなしに挨拶に来る人達の対応に追われることになった。

 ちなみに、参加者の名前と家柄はおおよそ頭に叩き込んである。顔は写真でしか見ていないから完全一致はしていないけど、それでもなんとか乗り切ることが出来た。

 そうして挨拶するべき人の列が途切れたところで、お母様が私へと視線を向けた。

「お疲れ様、澪ちゃん。立派に務めを果たしていたわよ」

「ありがとうございます、お母様」

「ふふ。初めてのことで疲れたでしょう? わたくし達は友人と話してくるから、貴女も学園の友人と話すなり、楽にしているといいわ」

「……では、お言葉に甘えて、壁の花になろうと思います」

 茶目っ気たっぷりに笑う。

「まあ、ずいぶんと豪華な花ね。ホテルの装飾が負けてしまうんじゃないかしら?」

 お母様が私の姿を確認して笑う。いまの私は、最高級のシルクで仕立て上げたAラインのドレスを身に纏っている。深紅に染め上げたシルクで、肩の部分は剥き出しになっている。

 胸元は年相応に大人しい作りだけれど、全体的には情熱的なデザインと言えるだろう。

 ……もっとも、ホテルの装飾が負けてしまうというのは少々大げさだ。ホテルの調度品も最高品質のものばかりだし、参列客が身に着ける服も私に負けず劣らずの高級品ばかりだから。

 それでも、お母様に言われれば悪い気はしない。私は機嫌良く窓際へと移動した。強化ガラスの大きな窓で、そこから遥か下に都会の夜景が広がっている。

 ……こんな景色、一生見ることはないと思っていたのに、ね。

 妹のためにバイトをする日々。それを不幸だなんて思ったことはない。けれど、その生活を続けている限り、こんな景色を眺めることにはならないはずだった。

 なのに私はいま、雫を助けるための仕事の一環で夜景を眺めている。

 こんなことになるなんて、数ヶ月前の私に教えても信じなかっただろう。

 本当に、紫月お姉様には感謝しかない。

 雫を助けるためには当然として、その機会をくださった紫月お姉様に報いるためにも、私はこの悪役令嬢のお仕事を必ずやりとげてみせる。

 胸に添えた手をぎゅっと握り、密かな誓いを立てる。そうしてクルリと身を翻すと、そこに和服に身を包んだ黒髪ロングの少女がいた。

 これぞ大和撫子といった装いの彼女には見覚えがある。

 秋月 舞。

 序列四位、秋月財閥の本家のお嬢様だ。

「貴女は……見ない顔ですわね」

「初めまして、秋月家のご令嬢。わたくしは桜坂 澪と申します」

 桜坂家の令嬢という仮面に笑みを湛えて丁寧にお辞儀する。

 財界におけるプロトコールマナーは、初対面で声を掛けるのは目上から。とはいえ、それはよけいなトラブルを避けるための礼儀でしかない。

 私が素早く名乗りを上げたのは、そのよけいなトラブルを避けるためである。

 だけど――

「あぁ……貴女が、あの……」

 桜坂家の養女の――とは口に出さなかったけれど、侮る様子が見て取れる。

 そういえば、六花さんが秋月家について言及してたわね。

 序列は第四位。だけど、三位までとの差が大きく、四大財閥とはあまり数えられない。彼らはそのことに対して不満を抱いている……と。そう考えれば、桜坂家の養女である私に対する敵愾心も理解は出来る。そう思っていたのだけれど、彼女は突然笑顔になった。

「初めまして、澪。わたくしは秋月 舞ですわ」

 いきなりの呼び捨てで距離感が近い。でも、なんだろう? 距離感が近いのは乃々歌ちゃんも同じだけど、こっちはあまり友好的な感じがしない。

 乃々歌ちゃんが特別なのか、秋月さんの言葉に含みがあるのか……その答えはすぐに分かった。彼女が私を上から下まで不躾に眺めた後、名案とばかりに口にしたセリフのせいだ。

「……養女と聞いていたけれど、立ち居振る舞いはしっかりしているのね。そういえば、もともと桜坂家の血を引いているのでしたか……なるほど」

 なにがなるほどなのか、嫌な予感しかしない。

 そして、そんな私の予感は物の見事に的中した。

「貴女、お兄様の婚約者の候補に入れてあげるわ」

 目眩がした。

 唐突すぎて不躾だし、言葉が上から目線すぎて失礼だ。もはや喧嘩を売られていると考えたほうがしっくりとくる言葉――だけど、彼女の顔に悪びれる様子はない。

 たぶん、本気で善意のつもりなんだ。

 ……この子の方が、悪役令嬢に向いてるんじゃないかな?

 いやまあ、分かってる。

 私が演じる悪役令嬢は特殊な立ち位置だ。紫月お姉様にも、罪悪感がない悪人は必要ないし、罪悪感に押し潰されるだけの善人も必要ないと、そう言われた。

 そういう意味で、彼女は適任ではないのだろう。でも、悪役令嬢の立ち居振る舞いにおける、モデルとしては優秀な気がする。

 そんなことを考えていると、彼女の顔が不機嫌そうに歪んだ。

「ちょっと、わたくしが提案しているのだから、なにかおっしゃったらどうなの?」

「失礼いたしました。秋月さんの申し出が、あまりに唐突だったもので。なぜそのような話になるのか、理由をお聞かせいただけるでしょうか?」

 遠回しに、いきなりすぎるのよと非難してみるけれど――

「あら、この程度も分からないの?」

 返ってきたのはそんな言葉だった。

 なんだろう、この話が噛み合ってない感は。最近、察しのいい人達とばかり接してた私の感覚が狂ってるだけで、秋月さんくらいの反応が普通なのかな?

 私は応えず、笑みを深めて続きを促した。

「……っ。いいわ、教えてあげる。貴女がお兄様の婚約者になれば、秋月家と桜坂家がグッと近付くことになるでしょう? そうすれば、序列二位を抜くことも夢じゃないでしょ?」

「つまり、政略結婚を足掛かりに、業務提携とか、経営統合とか、そういうふうに話を持っていき、両家が合併することで、序列二位に食い込む計画だ、と?」

「最初からそう言っているではありませんか」

 彼女は当然だとばかりに顎を逸らすけれど、絶対そんな話はしていなかった。

 というか、計画が穴だらけ過ぎて突っ込めない。

「申し訳ありませんが、その申し出はお受けしかねます」

「断るって言うの? 分家の、それも養女でしかない貴女が、秋月家を敵に回すつもり?」

 穴だらけの発言を堂々と口にして相手に圧力を掛ける。

 沙也香さんや明日香さんと比べても隙だらけ。これくらい破綻した理論で詰め寄れば、乃々歌ちゃんも、ちょっとは私のことを嫌ってくれるのかな?

 っと、考えているあいだに、彼女の不機嫌さが増している。

 早めに話を切り上げよう。

「わたくしはただ、自分の立場では受けられないと申しただけですわ。それに、貴方がおっしゃるように、わたくしは分家の、それも養女でしかありません。そんなわたくしと、貴女のお兄様が婚約したところで、両家が手を組むことになりますか?」

 なるはずがない。提携ありきで、その印としての両家間での結婚というなら分かる。だけど、結婚を足掛かりに、という計画はあまりに杜撰だ。

 その点を指摘すれば、彼女の顔が真っ赤になった。

 あぁ……失敗した。彼女は本当になにも考えていなかったみたいだ。ここ最近、化かし合いみたいなことばかりしていたから、ついつい裏があると思って追及してしまった。

 相手の面目を潰すような真似をしてしまったら、相手も引けなくなってしまうわよね。どうしよう? 非礼を詫びた方がいいかしら?

「舞、一体なにを騒いでいるんだ?」

 突然、話に割って入る男性の声。視線を向ければ、三つ四つ年上の少し落ち着いた様子の殿方が歩み寄ってくるところだった。

 ……たしか、秋月さんのお兄さん。名前は……秋月 海翔だったわね。彼が私に視線を向けるけれど、私は軽く会釈するに留める。

 彼は小さく会釈を返し、それから舞の頭にぽこりと拳を当てた。

「お兄様、なにをするんですか?」

「問いただしているのは俺の方だよ、舞。俺との婚約がどうのと聞こえてきたが……」

「そ、それは……な、なんでもありませんわ。ただの世間話です!」

 舞はぷいっとそっぽを向く。ただ、その顔は怒っていると言うよりも、甘えているような感じだ。おそらく兄妹の仲は悪くないのだろう。兄はそんな妹を見て小さく溜め息を吐くと、それからたたずまいを正して私に視線を向けた。

「初めまして、桜坂家の澪さんだね。俺は秋月 海翔。そこで拗ねている舞の兄だ。妹がなにか失礼なことを言ったようで申し訳ない」

「いいえ、彼女が口にした通り、ただの世間話ですわ」

 世間話だから追及するつもりはないと迂遠に答える。それに対して、秋月さん――いや、妹も秋月さんだからややこしいわね。海翔さんはわずかに目を細めた。

「なるほど、不思議と場慣れしている。ただの養女ではないようだね。キミを養女に迎えるように提案したのは、紫月さんという話だけれど、それは本当か?」

「ええ、事実ですわ」

「そうか……また彼女はなにか企んでいるのかな」

 その疑問に対し、私はポーカーフェイスで応じた。

 実際、知らないだけなんだけどね。

 そうして、私の表情からなにも読み取れなかった彼は、小さく笑った。

「彼女がなにを企んでいても関係ない。我ら秋月家は四大財閥の一柱。いまは四位でしかなくとも、いつまでも後塵を拝しているとは思わないことだ」

「……ご忠告に感謝いたします」

 そうして静かに微笑みあって、どちらともなくその場を後にした。


     5


 悪役令嬢は努力をするだろうか? 私のイメージでは、あまりしそうにない。というか、努力した人が報われずに破滅する物語はそう多くないと思う。

 でも、私は雇われの悪役令嬢だ。みっともなく破滅するために、そして時期が来るまでは原作ストーリーから外れないように調整するため、日々努力を続ける必要がある。

 という訳で、ある日の休日。

 私は沙也香さんと明日香さんを自宅に招いた。

 シャノンからまもなく二人が到着するという知らせを聞いた私は、そのタイミングに合わせてエントランスホールへと足を運ぶ。そこには、どこかソワソワとした二人の姿があった。

「いらっしゃい、二人とも」

 私の声に、二人は「澪さん」と笑顔を浮かべた。今日の二人は揃って清楚なデザインのワンピースを身に纏っている。二人で方向性を合わせているのだろう。こうして並んでいるのを見ると、二人とも愛らしい容姿をしているのがよく分かる。

 お嬢様系のファッションとはいえ、普段着を身に纏っている私よりも輝いて見える。

 原作ストーリーでは悪役令嬢の取り巻きでしかない二人だけれど、現実における二人はそれぞれの物語を紡ぐ主人公だ。二人が過ちを犯したのは事実だけど、取り返しのつかない罪を犯した訳じゃない。あのまま破滅させなくてよかった……と、私は心の中で独りごちた。

「さあ、そんなところに立ってないでこっちにいらっしゃい」

 私は悪役令嬢よろしく髪を手の甲で払って、ついてきなさいと踵を返した。そうして案内するのは、屋敷にある応接間の一つ。私が友達を招くときに使っていいと言われているその部屋は、一面が大きな窓ガラスになっていて、その向こうには中庭の景色が広がっている。

 その窓辺、テーブルを囲んで席に座る。メイドが用意してくれた紅茶とケーキを片手に、私は二人へと視線を向けた。

「今日二人を呼んだのは他でもないわ。騎馬戦の練習をするわよ。……あぁ心配しないで。二人が着るトレーニングウェアはちゃんと用意してあるから」

 紅茶を片手に宣言すれば、二人は「え?」と零した。

 まあ、そうなるわよね。用件は伝えていなかったし、乃々歌に協力する義理はない――とかいってたし、私が騎馬戦の練習をするなんて夢にも思うはずがない。

 そう思っていたから――

「ええっと、体操服なら用意してありますよ」

「もちろん、ジャージも」

 二人が揃って口にする。

 その言葉に、私のほうが「え?」となった。

「どうして? 練習をするなんていってなかったはずよ?」

「聞いてはいませんでしたが、そういうことだと思っていました」

 明日香さんがそう言って、沙也香さんがこくこくと頷く。

 ……おかしいなぁ。乃々歌ちゃんや六花さんはともかく、この二人にはわりと酷いことをした。もちろん、多少の手心は加えたけど……本性はばれていないはずなのに。

 そんなふうに困惑していると、沙也香さんが「あっ」と胸の前で両手の指を合わせた。

「もちろん、乃々歌さんのためじゃないことは分かっていますよ。桜坂家の娘としては、たとえ騎馬戦であっても、見苦しい真似は見せられない、ということですよね?」

「……え、ええ、そうよ。よく分かったわね」

 私が用意しておいた言い訳を当てられて少し驚いた。けど、乃々歌ちゃんのためだとバレている訳ではなさそうだ。この調子なら安心――出来る訳ないよ!?

 いや、普通に考えれば、私が善人だとバレているはずはない。

 たしかに、二人に絡まれている乃々歌ちゃんを救ったことはある。だけど、その後は衆人環視の中で突き放したし、体育の授業では乃々歌ちゃんに暴言を投げかけた。

 この二人にだって、奸計を巡らせて立場を貶めたばかりだ。

 もしそんな行動をとっている子がいたら、私は絶対に悪女だと思う。だから、私のこれが悪役の演技だとバレるはずはない。

 バレるはずはないんだけど……なんだろう、この、バレている感は。

 ……うぅ。私のことをどう思っているか気になるけど「え、本当はいい人ですよね?」とか言われたら立ち直れる気がしない。ひとまず、本性は知られていない体ですごそう。

 大丈夫。いまの私は悪役令嬢――ではなく、ただのモブだ。

 少なくとも、体育祭が終わるまでは。

 という訳で、現実からはひとまず目を逸らして、しばしのティータイムを楽しんだ。それから一息吐いて、場所を移して体操着に着替える。

 その上からジャージを着て、三人で中庭へと足を運んだ。

「そういえば、六花さんはお呼びにならなかったのですね」

「三人で練習するのですか?」

 沙也香さん、続けて明日香さんに問われる。

 私は悪役令嬢らしく笑ってみせた。

「ええ、練習のときは、臨時の方に来ていただく予定ですわ。雪城家の娘に泥臭い姿は見せられませんから。だからこの特訓は――三人だけの内緒ですわよ?」

 ちょっぴり特別感を出して、二人が私の努力を他人に話さないように誘導する。その甲斐あってか、二人は「かしこまりましたわ」と握りこぶしを作った。

 これで、実は私が陰で練習していた――なんて噂が広がる心配はない。

 でも……練習相手、どうするつもりなんだろう? シャノンにお願いしたら「私が桜坂家の使用人なのは秘密なので、上手く対応します」と言われたから、任せたままなのよね。

 まさか、紫月お姉様を連れてくるはずはないし……他に、年頃の子なんて居たかしら?

「お待たせいたしました」

 聞き覚えのある、だけど記憶にあるより低音の心地いい声が背後より響く。誰だっけ――と振り返った私は咳き込みそうになった。

 そこに立っていたのが、トレーニングウェアを身に着けた金髪の美青年。

 ――の振りをした、シャノンだったから。

「な、なにをやっているのよ?」

 シャノンに駈けよって耳打ちをすると、シャノンもそれに応じる。

「言ったでしょう。私が桜坂家の使用人だとバレる訳にはいかないと」

「それは分かってるわよ。だから、その貴女がどうして男装なんてしているのよ?」

「大丈夫ですよ、バレない自信はあります」

 断言をして胸を張るシャノン。本来は豊かな胸も、どうやってかぺったんこにしてある。さすがに大丈夫だと胸を張るだけのことはあるけれど、そういう問題ではない。

「貴女、お嬢様である彼女達が、男性と一緒に騎馬戦をすると思う?」

「その点ならご心配ありません」

「心配ないってどういう……って、ちょっと?」

 引き止めようとする私の制止を振り切って、シャノンは二人の前へと歩み寄った。

「初めまして、僕は澪お嬢様の執事を務めるシオンと申します」

「こ、これはご丁寧に。私は――」

「明日香様ですね、存じております。そしてそちらが沙也香様ですね」

「私達をご存じなのですか?」

 沙也香さんがこてりと首を傾げた。

「ええ。明日香様は天真爛漫な美しさを纏うご令嬢で、沙也香様は深窓の令嬢のような美しさを持つご令嬢でしょう? 澪様からうかがった通りでしたので、すぐに分かりましたよ」

「ま、まぁ、深窓の令嬢だなんて、そんな……」

 シャノンの言葉に沙也香さんが真っ赤になった。その横では明日香さんも恥ずかしそうに身をよじっている。……というか、私は一体なにを見せられているんだろう?

 私が困惑しているあいだにも、シャノンは美青年な執事の体で話を進める。

「ところで、本日は僕が皆さんと共に騎馬戦の練習を務めさせていただく予定なのですが、お嬢様方は受け入れてくださいますか?」

「え、それは……」

「さすがに……」

 花よ蝶よと育てられた二人には、異性と一緒に騎馬戦の練習をするのはハードルが高い。二人が顔を見合わせつつも、難色を示すのは当然の反応だった。

 だけど――

「僕では、お力になれないでしょうか?」

 シャノンが斜め下を向いた。

 その物憂げな横顔に、二人は声を揃えて「そんなことはありませんわ!」と。

 ……二人とも?

 呆気にとられる私の目の前で、二人がぜひ練習を手伝ってくださいとか、シャノンに言い始めた。なんか、アイドルを追っかけるファンみたいになっている。

 ……なんだろう。

 やはり庶民育ちの私と違って、異性に慣れていないのだろう。本当の悪い男に誑かされるまえに、シャノンで耐性を付けられてよかったと思うべきだろうか?

 いままさに、男装した女性に誑かされているのが心配なのだけど……まあ、いいか。初恋は、ほろ苦いものだって言うものね、知らないけど。

「それじゃ、さっそく練習をしましょうか」

 私がそう言うと、シャノンがパチンと指を鳴らした。

 すると、中庭の向こうから地響きの音が聞こえてくる。一つ一つは小さな音だけれど、それがいくつも合わさって地響きとして届く。

「な、なにごとですの?」

 焦る二人に対して、シャノンが「心配いりません。練習相手を呼んだだけですから」と微笑んだ。そしてほどなく、私達の前に騎馬を組んだ女性達が現れる。

「彼女達は運動が得意な大学生達です。私達の練習のために招きました。騎馬戦の練習をするには、やはり敵と味方が必要ですからね」

 シャノンが当然のように説明して――

「え、ここまで本格的にするのですか?」

 明日香さんと沙也香さんが目を丸くする。

「ええ、もちろん。桜坂家の娘に敗北の二文字はあり得ないもの」

 私は当然のように応じたけれど、内心では私もびっくりだよ。というか、騎馬戦の練習で、騎馬戦を実際に再現するなんて思わないじゃない。

 まぁでも……今更かしら?

 いままでのあれこれだって、ものすごいコストを掛けてきた。騎馬戦の練習をするなら、実戦練習ができるだけの人数を揃えるのは当然、なのかもしれない。

 私はいつものように髪を掻き上げて気持ちを切り替える。

 ――さぁ、騎馬戦の練習を始めましょう。なんてね。

 こうして、私達は騎馬戦の練習を始める。

 私は練習で完璧にこなしてみせるための練習をしていたので、最初から動けたけれど、馬である明日香さんと沙也香さんは慣れない役目にあたふたしていた。

 それでも、練習を繰り返すうちに練習相手に善戦できるようになっていく。というか、シャノンの的確なアドバイスを聞いて、二人がものすごい勢いで成長していく。明日香さんも沙也香さんもお嬢様育ちだから持久力はないのだけれど、運動神経は悪くないようだ。

 悪役令嬢の取り巻きもスペックは高い、ということなのかしらね。

 というか、二人の目が恋する乙女みたいになっている気がするのは……たぶん気のせいだと思いたい。というか気のせいにしておこう。

 そんなことを考えながら、日が暮れるまで稽古を続けた。

 ……ところで、大学生の女性が練習相手としてたくさんいるのだから、別に男装したシャノンが練習に加わる必要はなかったはずよね?

 もしかして、男装したかっただけ……なんてことはないわよね?


     6


 蒼生学園では優雅なお嬢様として過ごしつつ、休日は家の敷地で騎馬戦の練習をする。そんな日々が数週間ほど続き、しっとりとした空気に包まれた初夏がやってきた。

 学園での私は相変わらず体育祭に無関心の振りで、だから六花さんとは騎馬戦の練習をしていない。それでも、六花さんの運動神経は申し分ないので心配はしていない。

 体育祭の練習日があるので、そのときにあわせれば大丈夫だと思っている。

 ちなみに、私のスマフォには桜坂家の専用アプリが入っている。私が悪役令嬢として過ごすための情報が詰まっていて、その中には生徒のスペックや性格なんかも書き込まれている。

 これは、桜坂グループの諜報部が集めた、信憑性の高い分析結果も含まれる。

 それによると、他のクラスにはスポーツ特待生や、運動が得意な一般生も多いようだ。けど、原作の主役級が揃っているうちのクラスも負けていない。クラス対抗戦の結果は、騎馬戦の結果に左右されることになるだろう、と。

 つまり、騎馬戦で私が結果を出せば今回のミッションは問題なく達成される。前回は不測の事態ばかりで大変だったけど、今回のミッションは簡単すぎるくらいだ。

 とまあ、万全の準備を終えて迎えたのは体育祭の当日。

 琉煌さんによる宣誓がおこなわれ、戦いの火蓋が切って落とされる。私達は体操着の上にジャージを羽織り、クラスメイト達の戦いを見守った。

 もう何回も言っていることだけど、今日の私はモブだ。早々に短距離走で勝利を収めた私は、体育祭のラストを飾る騎馬戦まではやることがない。扇子を片手に、クラスメイト達の活躍を観戦する。そうして競技を眺めていると、不意に沙也香さんが駆け寄ってきた。

「沙也香さん、そんなに慌ててどうかした?」

「それが……その」

 どうやら、クラスメイトが集まる応援席では話せない内容らしい。それを察した私は「そういえば、少し喉が渇いたわね」と切り出した。

「え、あ、なにか買ってきましょうか?」

「いいえ、せっかくだから自分で選ぶことにするわ」

「あ、じゃあ、お供いたします」

 私の意図を察した沙也香さんがついてくる。そうして応援席から離れ、移動した人気がない廊下の陰。なにがあったのかと沙也香さんに問い掛けた。

「その……実は、明日香さんから連絡がありまして、今日の騎馬戦は出席できないから、代役を立てて欲しい、と」

「そういえば、今日は見ていないわね」

 体調でも崩したのかしら? と暢気に考えたのだけれど、沙也香さんのどこか思い詰めた表情を見て、そうではないと気が付いて意識を切り替える。

「沙也香さん、一体なにがあったの?」

「それは……その、申し訳ありません」

 沙也香さんは俯いて黙りこくる。このままでは埒があかない。そう思った私は髪を掻き上げるいつものルーティーンで、気持ちを悪役令嬢モードへと切り替える。

「沙也香さん、わたくしは理由を話せと言ったのよ」

「それは、澪さんのご迷惑になるから、決して伝えないで欲しいと、明日香さんが」

「……沙也香さん、迷惑かどうかはわたくしが決めるわ。貴女が説明しないのなら、私は自分で調べることになるのだけれど、貴女、わたくしの手を煩わせたいのかしら?」

 軽く脅しを掛ける。

 先日、彼女達を破滅に追い込んだときと同じ立ち居振る舞い。沙也香さんは怯えると思ったのだけれど、私の予想に反して彼女は微笑んだ。

「いいえ、澪さんならそう言ってくださると信じていました」

 その言葉の意味を考えたのは一瞬。すぐに彼女の意図に気付く。友人として、明日香さんに口止めされたけれど、彼女自身はそのことを私に伝えたいと思っているのだ。

 なら、どうすればいいかは考えるまでもない。

「沙也香、なにがあったのか洗いざらい白状なさい」

 呼び捨てで高圧的に命じれば、彼女は「そこまで言われれば仕方ありません」と、ぜんぜん仕方なくなさそうな顔で頷いた。

「実は、明日香さんはお見合いに行っています」

「……お見合い? 明日香さんが?」

 おかしい。彼女達は悪役令嬢の取り巻きだ。

 原作ストーリーの通りなら、体育祭の騎馬戦に参加することになる。なのに、その当日にお見合いをするはずがない。これは間違いなく、私達が原作ストーリーに介入した影響だ。

 いや、問題はそれよりも――

「そのお見合い、明日香さんが望んで受けたものなのかしら?」

「お察しの通り、親に強制されたものです。正確には、秋月家からの圧力が掛かって、急に決まった話だと聞いています。明日香さんの実家の会社は、その、経営が苦しいそうなので」

「政略結婚、ということね」

 財閥が解体されていないこの日本において、政略結婚は決して珍しい話ではない。もちろん、それは財閥関係者達の話であって、庶民には縁のない話なのだけど。

 だけど、明日香さんは庶民ではない。

 原作の彼女も、いつかは政略結婚をすることになるのかもしれない。

 けれど――

「秋月家と言ったわね?」

「はい、そう聞いています」

「……そう」

 先日のパーティーで私が接触した兄妹のいる家。私に対する嫌がらせはさすがにないだろうけど、私と出会ったことで、彼女達が行動を変えた可能性は否定できない。

 ゆえに、今回の原因は私である可能性が高い。そしてそれはつまり、私の行動のせいで、明日香さんが望まぬ結婚をすることになったのかもしれない、と言うことだ。

「……沙也香さん、私は少し席を外すことにするわ」

 なぜとは口にしない。けれど、沙也香さんには伝わったのだろう。彼女は思い詰めた表情にわずかな期待を浮かべ、よろしくお願いしますと頭を下げた。

 それを見届け、私はすぐに踵を返す。

 更衣室で携帯をロッカーの鞄から取り出して、電話帳に登録されているお姉様の名前をタップした。数回のコール音の後、そのコール音が途絶えた。

「――紫月お姉様にお願いがあります」

 単刀直入に切り出す。いきなりのことだったはずなのに、紫月お姉様は一切の迷いもなく「言ってみなさい」と答えてくれる。

「実は――」

 私は明日香さんが政略結婚のお見合いに行ったという事実を伝え、その切っ掛けとなったのが、自分の行動である可能性が高いことを打ち明けた。

「……なるほど。たしかにイレギュラーな事態ね。それで、私にどうして欲しいの?」

「政略結婚を阻止して頂けませんか?」

 私のお願いに、けれど紫月お姉様は沈黙する。

「紫月お姉様?」

「……澪、貴女が止めなさい」

 告げられたのはそんな言葉だった。

「待ってください、私が止めるって、どういうことですか?」

「私がいま日本にいないからよ」

「それは、知っていますが……」

 紫月お姉様は海外留学の準備期間を利用して、忙しなく各国を飛び回っている。

「よく聞きなさい。お見合いを阻止するなら、相応の人物が出向く必要があるの。でも、こんなことでお父様やお母様に出向いてもらう訳にはいかない。だから――」

「私、ということですか? でも、婚約を阻止するのが目的なので、今日でなくとも……」

「澪」

 私のセリフは紫月お姉様に遮られた。

「私は婚約を阻止するではなく、お見合いを阻止すると言ったのよ」

「え? あ、あぁ……たしかに。でも、お見合い自体は別に止めなくても」

「いいと思っているのなら、こんなに慌てて電話をする必要はない。貴女もお見合い自体を阻止する必要があると思ったから、急いで連絡をしてきたのでしょう?」

「……それは」

 その通りだった。

 普通のお見合いなら、会ってから断ることも珍しくない。だけどこれは政略を前提としたお見合い――つまりは結婚ありきの顔合わせだ。政治的な理由で結婚するために会った後、立場の弱い東路家サイドが、政治的ではない理由で結婚を拒絶する。

 それがどれだけ角が立つ行為かは想像に難くない。

「……お見合い自体を阻止しなければいけないのは分かりました。でも、私は……」

「そうね。貴女には、騎馬戦に出場して味方を勝利に導くという役目があるわ。でも、そこからお見合い会場までは片道二時間弱よ。お見合いは午後からだから急げば問題もないわ」

「……なるほど」

 騎馬戦も競技のラストなので、急げば騎馬戦が始まる前に戻ってこられるだろう。

「――分かりました。いまから向かうので、手段はスマフォのアプリに送ってください」

「ええ、車の手配もしておいてあげる」

「ありがとうございます」

 わたしはそう言って通話を切ろうとする。

 その寸前、私の耳に紫月お姉様の声が届いた。

「澪、やるからには確実に阻止なさい」

「――はい、もちろんです」

 通話を切った私は着替える時間を惜しんで廊下へと飛び出した。

 モブのように体育祭を淡々とこなす時間はもう終わり。これからは、自分達に下剋上を仕掛けようとしている者達の政略結婚を阻止する時間だ。

 さぁ、悪役令嬢のお仕事を始めましょう。

 

 

 お読みいただきありがとうございます。面白かった、続きが気になるなど思っていただけましたら、ブックマークや評価を押していただけると嬉しいです。

 また、新作2シリーズも連載中です。下にリンクがあるので、よろしくお願いします。

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