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-鏡の噂-


合わせ鏡に写る像。

その中に自分の死ぬ時の姿が写るという。

それが年老いた姿ならば問題はない。

問題があるのは、その姿が今と同じだった時だろう。



「七不思議?」

「うん〜この学校っていわゆる七不思議ってやつないよね〜と思って」

「確かにそうかも。でもあんなのお話の中だけでないのが普通じゃない?」

「そんなもんかあ〜」


放課後、机に突っ伏しながら遥子は不貞腐れながらそんな話をした。

学校の怪談やミステリー作品などでは定番であろう『七不思議』。実際そんなものが噂になってることなどそう多くあってたまるものではない。

そもそも噂が学校内だけで完結してる状況もおかしなものだ。


「あ、そういえば!」

「どうしたの、急に」


遥子はガバッと勢いよく身体を起こしたかと思えば自分の鞄の中を漁りだした。


「じゃじゃーん!」

「なにそれ?」

「私の取材ノートだよ!」

「へぇ……」


表紙に『No.7』と書いてある多少よれた大学ノートを印籠のように私に見せつけてくる。

一体どんな情報をノート七冊分も集めたというのか、七不思議なんぞよりそっちの方がよっぽど気になるんだけど……。


「これこれ〜!昔聞いた話だったんだけど近くの小学校の理科室そばの大鏡で合わせ鏡を作って4時44分に覗いて死んじゃった子がいるって!」

「なにそれ馬鹿馬鹿しい……4時44分って午後の?それなら何人も死んでるんじゃない?」

「ううん!午前4時44分だって」

「それこそもっとおかしいじゃない……。なんで小学生がそんな時間にいるのよ。仮に大人だったとしても小学校に当直なんてないでしょ?それに合わせ鏡を作る……ってどうやって?

「まあそうだよね〜〜〜……」


そもそもこのハイテクな現代に当直の必要性がないということもある。

仮に子どもが忍び込みでもすれば即座に警備会社が飛んでくるんじゃないだろうか。


「はあ〜そう簡単に面白そうな話は落ちてないか〜」

「面白そうって……ちょっとは気をつけなよ?なにが危ないかなんてわかんないんだから」

「はーい」


相変わらず溶けたスライムかのように机にへばりつく遥子が何か不思議な生き物に見えて面白かった。

そんな折にチャイムがなる。

6時半を告げるチャイムだ。


「あ、もうこんな時間だ!そろそろ帰らなきゃ!」

「そうだね。帰ろっか」

「うん!じゃあね、千聖ちゃん!」


元気に手を振りながら走り去っていく遥子。

ちゃんと前見て走らないと転んでしまうよ〜なんて心の中で思いつつも彼女に伝えることはない。

どうせ改善なんてされるわけがないんだから。

そんなことより私も向かわねば。

まだ電気がついていて明るい体育館の方に私は歩き出す。

体育館内に併設された柔道場の隣にある柔道部の部室には大毅がいるはずだ。

まだ帰宅時間が暗いうちは私は大毅と一緒に帰るようにしている。


「お待たせ」

「ううん、今来たところだから」


なんだこの会話。まるで恋人みたいじゃない。ぺっ。


「うへぇ……やめてよ」

「うん。私も後悔してる」


心底気味が悪いとでも言いたそうな顔をして大毅が言う。

私だってそんなつもりはなかった。冤罪だ!


「……いつもごめんね」


申し訳なさそうな顔をしながら大毅が私に謝ってくる。


「大毅のせいじゃないんだから謝らないで」

「そんなこと……」

「あるの!はいこの話おしまい!」


まだ何か言いたそうな大毅を制して私は歩き出す。


「あ、ちょっと待ってよ」


私だって大毅に感謝してるんだからと本人には言えないなあなんて思いながら学校から出た。







最初に言い出したのは誰だったか。

「夏休みに学校で肝試しをしようよ!」

そんな話がいつの間にかまとまっていた。

あまり乗り気ではなかったけど、特別断る理由もないので私も参加することにした。


「ええ?千聖ちゃんも行くの?じゃあ俺も行こうかな」


ちょっと青い顔をしながらそれでも強がりながら大毅がそんなことを言う。

人一倍怖がりなくせによくもまあ……。とは思ったけど一人だけ仲間外れというのも確かに嫌だろうなと思う。


「途中で気絶したりしないでよ?」


そんな軽口も言いながら話を聞き流していたら私たち二人を含むクラス全員の参加が決まっていた。


夜9時頃。

担任の先生を含む31人が校庭に集まっていた。

もちろん勝手にやるわけにはいかなかったので話したら快諾してくれて学校側にもすぐに話を通してくれた先生は考えてみればお人好しすぎないかと思う。


「じゃあみんな懐中電灯は持った?」

「はーい!」

「ちゃんとグループごとに別れて目的のものを取ってきてね!あと余計なものには触らないようにね!」

「はーい!」


なんだか遠足みたいだ。

でも実際、夜の学校はいつもと様相が違ってて知らない土地に来たみたいで少しドキドキしてしまう。


「私たちは、理科室前だね」

「そうだね〜行こっか〜」


私のグループは私と大毅と他三人。

特に仲が良いわけでもないが悪くもないので声をひそめながらも賑やかに進んでいく。


「なんだか学校じゃないみたい」

「わかる!いつもと全然違うよね!」

「そうかなあ?雨の日も似たような感じしない?」

「うーんどうだろ?」


ああでもないこうでもないと話しながら目的地へと向かう。

これじゃあ肝試しになってるのかはわからないけど楽しければそれで良いのかな。


「あ、アレじゃない?」

「そうかも!」


理科室の前に普段はないはずの机が用意されていて、その上に先生の名札が置いてあった。


「じゃあこれ持って帰ろー!」

「うん。あ、ごめんちょっと先行ってて」

「どうしたの?」

「靴の紐がほどけちゃったみたいで」

「待とうか?」

「じゃあ俺が一緒にいるからみんな先に行ってていいよ」

「わかった。じゃあ先に行ってるね」


暗いからか紐がほどけたことにも気付いてなかった。

うーん、暗くて結びづらいなあ……。


「大丈夫?」

「大丈夫。あ、でもちょっと照らしてもらって良い?」

「わかった」


懐中電灯で照らしてもらえば結びやすくなるかと思えば自分の手で影ができてしまうのでやっぱり結びづらい。


「あっ」


そんな風に苦戦してると廊下の電気がついた。

先に戻ったメンバーが遅いと思って心配して先生に伝えてくれたのかな?

そんなことを思いながら靴紐を結び終えて立つと目の前には窓ガラス。

窓ガラスはまるで鏡のように私の姿を写しだしている。



そして私の後ろには理科室そばの大鏡。

私は合わせ鏡の真ん中に立っていた。

幾重にも重なる私の像。

その像の中の一つ。

私の後ろから肩に置かれる異形の手。

さっと自分の肩を確認してもそんなものはない。

しかし鏡の中の私の陰から少しずつその姿を現してくる。

動かなきゃ。そう思っても私の足は石のように固まってしまい動いてくれない。

逃げろ!逃げろ!逃げろ!と何度も何度も心が叫んでいる。

それでもどうすることもできなくて、目線を逸らすこともできなくて、ただただその餓鬼のような悪魔のような異形のモノが私を飲み込もうとしてるのを見つめていた。



「千聖ちゃん!!」


ドン、という衝撃と共に私は廊下に転がる。

気づけば私は大毅に押し倒されていた。

大毅も慌てて起き上がり、私に手を差し伸べてくる。


「大丈夫?千聖ちゃん」

「あ、ありがとう大毅。ちょっと危なかった」


あのまま私が動かなかったらどうなっていたのか。

想像するだけでも怖い。


「茨木さん!柳くん!どうしたのー?」


心配した先生がどうやら様子を見に来てくれたみたい。

その後簡単に事情を説明して、もちろん異形のモノについては伏せたけど、校庭に一緒に戻った。


大毅と一緒に帰宅してからお母さんに起こったことを説明したら「もしかしたら何かしらのパワースポットなのかもしれない」と教えてもらえた。

それと同時に「それとなくそれっぽい噂を周りに広めて怪異の出現条件を都合よく変えなさい」ということだったので「特定の時間にあの鏡の前に立つと」ということにしておいた。

なんでも人々の認識によって怪異は簡単に変化するらしく、面倒なモノはそもそもそうして出せなくしてしまえばいいとお母さんは教えてくれた。

そうして私の『肝試し事件』は幕を閉じた。







「それにしてもまだ私が作ったあの噂残ってたのね……」

「どうしたの?」

「いや実はね……」


遥子の調査能力の方がよっぽど都市伝説なんじゃないかなんて思いつつ、今日の話を大毅に教えてあげるのだった。



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