067.☆☆☆☆☆ 無限の墜落、那由多の小人、全てを受容する流動生命体
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私は感動していた。
感動と言っても、これは暫定的に採択した一単語に過ぎず、であるならば私はさらに次のように言い換えることが望ましいだろう。
私は胸の内から湧き起こる、まるで感動のような感情に恐怖さえした。
私に起こったことの一切をこの場で仔細に書き記すことは不可能である。まず第一に、私はすでに伝えたその激情によって私自身から切り離されていた(少なくとも私の意識はそう感じている)し、第二には、それを余すことなく伝えるためには、私の持つ語彙は貧弱が過ぎた。
であるからして、ここで私が未熟ながらも試みるのは、比喩によって、この身に何が起きたかを伝えることである。
やってみよう。
まず私を苛んだのは無限の墜落である。把持に足る一切が失われ、振り上げる手が悉く空を切る無力感。「うおッ」あまりに突然だったので柄にもなく一人大声を上げてしまったことを覚えている。少しして、何も実際に自分が落ちているわけではないことに思い至ってもなお、その転落は続いた。であれば、これは即ち無限の墜落なのである。ひゅうひゅうと落ち続けるのにも慣れてきて、自分の状況を把握できるようになったとき、私はある一つの信念にたどり着いていた。つまるところ、落下の問題とは落下の終着に起因する。それは私たちの暮らす物理世界でも勿論そうであるし、あるいは(まさに)比喩的に、俗に言うドン底についてでも変わらない。生に死がつきまとい、旅に、雨に終わりのあるように。私達を苛むあれやこれやは、それ自身が永続しないことに湧き出でるのではないか──そうやって手前味噌ながらに無限の墜落を楽しみ始めたところで、私はまた別の感覚に襲われる。
続けて私にまとわりついたのは那由多にも迫ろうかという小人の軍勢である。等方一様に思えた宇宙は、にわかにざらざらとした質感を持って太古の昔よりそこにあった。私の腕から腰から足までをわあわあと駆け巡り、小人たちは私を──未だ無限の墜落を続ける私をより深淵へと誘わんと引きずるのである。耳をすませば何かが潰れるような、こすれるような音も聞こえてきていた。それこそ、かようなる小人たちがなす叫び声のほかにあったであろうか。
次に私を囲い込んだのは、ある種の流動生命体。無遠慮であるがそれゆえに愛おしかった空気を、光をさえ捨てて、私は宵影に潜り込もうとしていた。小人かに思えたその蠕動は誤魔化す間もなく私を飲み込まんとする怪物の腸だったと明らかになったのである。針先の光に向けて手を伸ばしてももう遅い。私は突然一切の光を絶たれてしまった。この段に至っては、「おう」とも「うわあ」ともつかぬ情けないため息が出るばかりで、さすがの私も辟易、あるいはまた諦念をもって状況を見守ることとなった。そこは怪物の内側のようでいて、その実、外であった。所謂位相幾何学的に、人の腹の中が外であったり、小胞体が蛋白質を包みこんだりするように。
外であり、その実中でもあるとも言えた。外の外が中になる。即ち私が外を蹴破ろうと未だそこは中なのだ。これほどの安心もないだろう。
安心。
安心と言ったか?
そうだ。少なくとも今の私の感情には安心の二文字が確かに刻まれている。
怪物の腹の中、一寸法師さながらに胃袋をグイグイと押しのけるように体を拡げる私は、今この瞬間、私から開放されつつあったのだ。伸ばした腕に、足に、胃袋がまとわりつく。それは消化への予感でありながら、私を連れ出してくれる光明でもあった。
──これは普段の私達からは巧妙に隠されているのではあるまいか。
思えば、私は夜眠りに就く床においてさえ、自分自身を不自由に取り扱っていたような気さえしてくる。一日の疲労に塗れた体を労ってやろうという喧伝の伸びをいくつ披露したところで、内心はびくびくと得体の知れない(それは、世界の空気とでも言おうか)ものに怯え、どこか萎縮してしまっていたのではないか。
ところがどうだ! いまこのとき、この場所!
私はついに自身の体を脱ぎ捨てることに成功したのだ。それでいて、未だ心地いい微睡みの中、たしかに慣れ親しんだ四肢が鼓動している。言い換えれば、普段では考えられぬほど、ここにおいては体というものを無配慮に、無愛想に取り扱うことが手厚く容認されているのだ。親にもらった大切な体、一人にひとつずつの大切な命であってもなんら気に病むことはない。私は未来への懸念の一切をかなぐり捨てて体を放棄する。この闇に溶けてゆく、解けてゆく……であるとすれば、この胃袋は私の体から殻の部分だけを取り出して溶かし尽くしてしまったのだろう。
これは、無限の墜落にして、那由多の小人。そして全てを受容する流動生命体である。
☆☆☆☆☆ 座り心地バツグンの一言
言葉にできないふわふわ感!
初めての大型クッションでどれにしようか迷ってたけどこれにしてよかった~
TROPE




