006.ガス燈
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声:君の前には一基のガス燈がある。
声:周囲は深い霧に閉ざされている。ガス燈と、そしてその支柱だけがかろうじて見てとれた。
声:君はガス燈を見上げる。オレンジ色の明かりが微かに揺らめいている。
声:今にも消えそうに思えたその火は、けれどなぜか君を安心させる。
別の声:ねえ、あなた。あのガス燈、今にも消えそうじゃありませんこと?
また別の声:何を言ってるんだ、お前は。ガス燈っていうのは、ああいうものなんだよ。これだから女はいかん。他人の顔色ばかりうかがっていないで、もっと周りを見たまえ。
女の声:まあ、ひどい。あなただってよくご自分のお荷物をご覧にならないから、お財布をなくされたんでしょ? 男の人っていつもそう。人のことを見下してばかり。
財布をなくした男の声:あのな、お前。何度も言っているが、誰も彼もを見下しているわけじゃない。働いているのは私で、家で寝転がっているのがお前だ。戦場に出向く騎士と、砦で怠けている騎士、どちらが偉いか言ってみろ。飯もろくに作れんくせに。
飯も作れない女の声:あれはだって、あなたが夜遅くに帰ってこられるからでしょう? また誰ともしらないご婦人とあそんでらっしゃったんでしょうけれど。
財布をなくして浮気している男の声:亭主になんて口を聞くんだ。それに、お前忘れたんじゃあるまいな。私の財布はお前の部屋から出てきたんだぞ。
飯を作れなくて財布を盗んだ女の声:あれはあなたが細工をされたんでしょう。私を陥れるための手間だけはかけるんですね。
財布をなくして浮気していて女を陥れるためには手段を選ばない男の声:お前の偏執病にはほとほと呆れるな。この前だって家で誰もいないのに大声を上げたな。周りの家がどんな目で見ているかわからないのか。
飯を作れなくて財布を盗んで偏執病の女の声:私は病気なんかじゃありません! お医者様にも診ていただきました。それに、あの時声をあげてしまったのはあなたが殴ろうとしてきたからでしょう!
財布をなくして浮気していて女を陥れるためには手段を選ばなくて暴力を振るう男の声:お前が家の皿をがさつに扱ったからな。あれは代々受け継いでいる貴重な品だと何度も言ったよな。割ったらどれほどの損害か。お前にはそれがわからないんだ。
飯を作れなくて財布を盗んで偏執病で骨董品の価値がわからない女の声:私にだって『価値』はわかります。価値っていうのは、古ぼけたお皿を大事にすることじゃありません。もっと暖かくて、心が穏やかになることです……。冷血役人には何を言っても通じないのでしょうね。
財布をなくして浮気していて女を陥れるためには手段を選ばなくて暴力を振るう冷血役人の男の声:間抜けが。そのおかげで飯を食わせてもらっていることを忘れるなよ。私の稼いできた金を湯水のごとく使うヒキガエルが。
飯を作れなくて財布を盗んで偏執病で骨董品の価値がわからなくて人の金を使い果たすメスのヒキガエルの声:ゲッゲッゲッ、ゲーッゲッゲッゲゲゲ。ゲッゲッゲエ! (あなたこそ、家のことなんて一つもできないくせに次から次と。このロバ野郎!)
財布をなくして浮気していて女を陥れるためには手段を選ばなくて暴力を振るう冷血役人で家事を一つもできないオスのロバの声:エヒュッ、エヒュッ、オフッ、アーヒャーッ!
飯を作れなくて財布を盗んで偏執病で骨董品の価値がわからなくて人の金を使い果たすメスのヒキガエルの声:ゲゲゲッ、ゲ、ゲエエエエ!
声:君は、このどうでもいい諍いに嫌気がさしてくる。もし今そう感じていなくても、すぐにそう感じていただろう。
声:そして君はふと今の時間を確認する。君は他にやることがあったと思い出す。
声:やることが思い出せない?
声:そんなことはない。勉強することや遊ぶことだけじゃなく、ご飯を食べることや布団でぐっすり寝ることも立派なやることだ。
声:……君はこのページを閉じる前に、一つだけこのページから学んだことを思い返す。
声:『人のことを悪いふうに決めつけてはいけない』という、とても簡単なことだ。
声:簡単なのに、多くの人ができていないこと。
声:でも、もう君は大丈夫。
声:不安になったら何度でも、この私と、そしてガス燈が君を迎えいれるからだ。
声:一つだけ優しくなった君は、このページを閉じる。
LIGHT