055.かれらの夏がほしかった
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それはかれらの物語。
真夏の太陽を思わせる友情も、弾ける炭酸のような恋心も。ありありと夏に浮かぶ世界を守るため闘ったその勇気も、そして確かに、かれらの心を変えたであろう一切合切一連の全ては、かれらの物語。
かれらのための、物語。
そこに私が入りこむ余地はないのだ。
「美幸、早く食べて支度しちゃいなさい」
テレビの奥に照る真夏の太陽から目を離して、手元のトーストに、そして窓の外、じっとりと湿る新緑に視線をやる。
縮こまる冬は過ぎ、ほんの少しの春が終わって、世間はすっかり梅雨の様相だった。タンスの中から引っ張り出したばかりで少しシワの寄った夏服を着て、私は今日も西東京へ向かう電車に乗った。肌を撫でる気候。それがまるで夏になりきれない私を馬鹿にしているようで無性に鬱陶しかった。
東西線の窓から、もうなくなってしまった千葉の方を眺める。
ほんの一年前までは灰と海に染まっていたあちら側は今ではすっかり復興が進んで、新たな水上都市の建設が始まっている。
私たちは救われた。
骸来獣の侵攻が始まったのはいつだったろうか。実のところ、その記憶は曖昧なんだ──もうずっと前だったような気がしていた。
それよりも、だから、私の頭の中にこびりついて離れないのは。
あの夏の日。
ちょっと先の未来さえ保証されていなかった、暑い暑い真夏の昼下がり。
かれらの活躍で、骸来獣たちは一掃された。
やまない地鳴りに、ビリビリと震える窓ガラスを覚えている。
青く抜ける空のずっとずっと向こうまで伸びていった魂湊火砲を覚えている。
人々の歓声を、歓喜の涙を覚えている。
機体から身を乗り出し、仲間たちと抱き合って喜んでいた──地球の救世主であるかれらを、覚えている。
乾ききった肌をじりじりと焼く真夏の日差しは、その瞬間、かれらのためだけに降り注いでいた。
羨ましい、と思う。
私は、かれらのようにはなれない。
地球のために命を賭す勇気のかけらだってこの胸には宿っちゃいない。
それでも私は憧れていた。
かれらの抱く夏の日差し。
何者にもなれない私たちは、この曇り空に身を焦がす。
THEIR




