052.あぶらげ
Wordle 272 6/6
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「お前は……何してんの」
ゴトウは玄関で靴を脱ぎながら、すぐそばのミニキッチンでコンロに向かうサワヤマに向かって眉をひそめた。
「料理だけど」
サワヤマは一人暮らしの男にしては整えた身なりで、ぽっこりと出た下腹を撫でた。鍋の中からすくい上げた黄金色の液を口に含むと、「これこれ」と満足げに笑う。
ゴトウは靴を脱いでサワヤマの隣に立つと、ムッと立ちこめる重たい香りに頭をツンと跳ね上げた。
「うわ、何だよこれ。きつ」
「キツいとはなんだ。今日は奮発してアマニ油使ってんだぞ」
「アマニユって、なんだ、その、スープの出汁かなんかか」
「出汁っていうか、それそのものっていうか」
冷蔵庫から小球状の食材を取りだして、サワヤマはさらに小麦粉と卵を用意する。
「天ぷらにすんのか? ……その、たこ焼きみてえなもんを」
ゴトウは立ちこめる空気から喘ぎ逃げるようにすぐそばの窓を開ける。春の夜風が部屋を洗った。
「たこ焼きっていうか、これも今日はアマニ油だけどね。オブラートでつつんだアマニ油」
「……は?」
サワヤマの肩越しに鍋を見て、サワヤマを見て、もう一度鍋を見て、ゴトウは最後にサワヤマの手にした油球に「油揚げってこと?」と尋ねた。
「そ。このまえゴトウも油炒め食べたっしょ」
「……お前、あのぶよぶよした茶色のイクラみたいなの、油だったのかよ。どうりであのあと腹壊したわけだ」
「相変わらずお腹弱いなあ。サラダ油苦手だった?」
「お前が耐熱寸胴鍋なだけだろ。お前の基準ならどの油も苦手だよ」
「……でも、テレビでアマニ油が体に良いって」
「水だって六リットル一気に飲むと死ぬんだぜお前」
じ。
ゅわゅわ。
ゴトウの話もそこそこに、サワヤマは油球を揚げはじめる。
二人の耳のあたりを小気味よく駆け上がる油の音。春の夜が何かを祝うようにひう、と鳴く。
「……サワヤマ」
「何?」
「俺にも一個くれよ」
「……いいよ」
ゴトウは腹を壊した。
SAUTE




