046.明日野郎
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「明日やるよ」
マサキの口癖。
俺は聞き飽きたそれを片耳に夕食のカップ麺をすすった。すぐ脇にはクリアファイルに綴じられたエントリーシートが重ねられている。マサキのだ。いつかいつかって思ってたけど、もう就職とはね。俺たちも。来年からは社会人だ、あ。
「お前はなんで感慨深げに俺のES見てんだよ。早々に終わったからって馬鹿にしやがって」
「馬鹿にしてねえだろ。まだ」
「てめ」
マサキは手近のスナック菓子を手にして、それでも投げるのはやめたらしい。今度から飯はこいつの家で食おう。
「でも締め切り近いんだろ?」
「明後日」
「ちけえじゃん」
「明日でいいよ」
ぐいぐいと残った汁を飲みほして(マサキはどん兵衛)、そのままだらしない腹をさらけ出す。あーあー、ダイエットも続かんでまあ。
…………。
「じゃあ、マサキ、明日やれよ」
「だから明日やるって…………あ?」
「明日やんだよ」
「……おお、そうするよ」
「だけどなお前おい」
俺の投げた割り箸が頬に命中。マサキは苦々しげに体を起こした。
「なにすんだてめ」
「明日、やるんだぞ」
マサキは一転、いぶかるような目で俺を見る。
「なんだ……どうした、お前。俺なんか悪いこと言ったか?」
「いやなんも。明日やるっつーから、確認してるだけ」
「…………あそう」
納得したような声で、マサキはけれど俺をジッと見ている。俺も負けじと見つめ返して、「明日な」と繰りかえした。
「おい……わかったって。明日やるよ」
「やれよ。絶対に。明日だぞ」
マサキは浮かんだ半笑いを抑えることもせず、波が引いていくのを待った。それはその笑みか、それとも俺の波かもな。テレビもついてないアパートの一室は明日明日の残響がこびりついているようだった。その残滓がマサキの額にじとり染みこんでいく。
凝縮された静寂をうちならしたのは壁掛け時計だった。
二十四時の鐘が鳴る。
夜は更けていく。
魔法は解けて。
終電はなくなり。
問題は入れ替わる。
そして明日は今日になる。
「……わかったよ」
マサキは机の書類に手を伸ばした。
TODAY




