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WordraW  作者:
46/77

046.明日野郎

Wordle 266 4/6


⬛⬛⬛⬛⚪

⬛⬛⬜⬛⬛

⬜⚪⬛⬛⬛

⚪⚪⚪⚪⚪




「明日やるよ」


 マサキの口癖。

 俺は聞き飽きたそれを片耳に夕食のカップ麺をすすった。すぐ脇にはクリアファイルに綴じられたエントリーシートが重ねられている。マサキのだ。いつかいつかって思ってたけど、もう就職とはね。俺たちも。来年からは社会人だ、あ。

 

「お前はなんで感慨深げに俺のES見てんだよ。早々に終わったからって馬鹿にしやがって」

「馬鹿にしてねえだろ。まだ」

「てめ」


 マサキは手近のスナック菓子を手にして、それでも投げるのはやめたらしい。今度から飯はこいつの家で食おう。


「でも締め切り近いんだろ?」

「明後日」

「ちけえじゃん」

「明日でいいよ」


 ぐいぐいと残った汁を飲みほして(マサキはどん兵衛)、そのままだらしない腹をさらけ出す。あーあー、ダイエットも続かんでまあ。

 …………。

 

「じゃあ、マサキ、明日やれよ」

「だから明日やるって…………あ?」

「明日やんだよ」

「……おお、そうするよ」

「だけどなお前おい」


 俺の投げた割り箸が頬に命中。マサキは苦々しげに体を起こした。

 

「なにすんだてめ」

「明日、やるんだぞ」


 マサキは一転、いぶかるような目で俺を見る。

 

「なんだ……どうした、お前。俺なんか悪いこと言ったか?」

「いやなんも。明日やるっつーから、確認してるだけ」

「…………あそう」


 納得したような声で、マサキはけれど俺をジッと見ている。俺も負けじと見つめ返して、「明日な」と繰りかえした。

 

「おい……わかったって。明日やるよ」

「やれよ。絶対に。明日だぞ」


 マサキは浮かんだ半笑いを抑えることもせず、波が引いていくのを待った。それはその笑みか、それとも俺の波かもな。テレビもついてないアパートの一室は明日明日の残響がこびりついているようだった。その残滓がマサキの額にじとり染みこんでいく。

 凝縮された静寂をうちならしたのは壁掛け時計だった。

 二十四時の鐘が鳴る。

 

 夜は更けていく。

 魔法は解けて。

 終電はなくなり。

 問題は入れ替わる。

 

 そして明日は今日になる。

 

「……わかったよ」


 マサキは机の書類に手を伸ばした。




TODAY

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