035.邦貨のあうん
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帰り道、道端でコインを拾った。
1 RUPEE
1994
るぴ……ルピー。その表記を両側から挟むように麦か稲の穂のような図柄が描かれている。最後にそれらを全て見下ろすように……何語だ、これ……『さっūūI』。裏返してみると、三匹のライオンが並び立つ絵に『INDIA』……ああ、インドか。……何語だ?
僕はそのコインを右手で軽く弾きながら、春めきだした小径をまた歩き始めた。
おうん、おうん。
爪がコインを弾く度、僕の中の一歩先から、そんな返答がやってくる。一ルピーっていう割にはずっしりと重い。百円玉くらいあるんじゃないか。サイズの方は五百円玉みたいだ。
おっ、とっ、た。取り落としそうになったコインを両手で挟みこむ。早春の風、ほんの少しだけ引き延ばされた辺りの空気に息を吐く。
コインは好きだ。外貨のおうんも、邦貨のあうんも。
弄ぶのに慣れない一ルピーが指の隙間をくるくると跳ねまわる。ついと離れて、またすぐ別の手に収まる。その側面は不規則にざらついていた。
コインは石碑。その辿ってきた道を刻みこんで離さない。
そしてコインには、それだけじゃない、ただそれが辿ってきた過去だけじゃなくて、その全てを使う人や国の過去が確かに染みこんでいる。一ルピーの使われ方と百円の使われ方が違うように。一セントも、一ユーロも、一元もそうさ。互いの代わりにはなれない。
いつか、帰り道のコロッケになった百円玉が他の国にもそうあるとは思えなかった。それは僕たちにしかわからないヒエログリフになる。
それでいいし、そうあって欲しいと思った。
RUPEE




