028.小骨
Wordle 248 5/6
⬛⬛⬛⬛⬛
⬜⬛⬛⬛⬛
⬛⬜⬜⬜⬜
⬜⬜⬜⬜⬜
⚪⚪⚪⚪⚪
寝床の咳に夢を見る。
いがらっぽい喉を押さえる。チクリとした痛みに枕のざらつきが鬱陶しかった。そのチクリは寝返りをうっても変わらない。歯を磨いても、水を飲んでも、飯を丸呑みしても。寝ても覚めても変わらない。
こここ、と喉を鳴かせてみても、チクリはじっと恨みがましい目で俺を見つめる。恨むのは俺の方だっての。
やるかたなしに体を起こしてみても、深夜の寝床にはやはりやることなしだ。明日の仕事に備えて寝るしかない。
……こんな気分になるのは、ほら、親知らずを抜いたとき以来だった。鎮痛剤の無い分、それより酷いと言っても良い。何度目かの巻き舌は喉に触れることすらかなわずに転がるえずきになる。
どうしたって逃げきれない苦痛ってのは、現代じゃそうないことだ。こうしていると──自分が誰より可哀想な人間に思えてくるから不思議だ。別に死ぬわけじゃなし、朝になればケロッとなおっているだろうに。この乾いた布団の上で、俺はジッと丸まる。
吐く息が、こころなしか生臭い気がした。
自分が魚になった錯覚に陥る。夜の静寂から打ち上げられた魚。自分以外の全てが、暗く柔らかい海の底で守られている、はぐれもの。打ち寄せる波は時折その尾ひれを濡らしてくれるのに、海に引き戻してはくれない。
湿った砂が肌に張りつく。七枚の面で切り取られた砂の一粒一粒が海水混じりに感じられた。
寄せては返すえずきの波の末、俺は砂浜に骨を吐きだす。
それは最早、ただの小骨ではなかった。
自分の骨。
自分の中身を吐きだして、俺は助けてくれと鳴く。
月だけが俺のことを無慈悲に見つめていた。
THRON




