001.僕は牛を追う
Wordle 221 4/6
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クソったれ!
自分の頬に平手を張りたい気持ちをぐっと押さえこむ。鈍く痛みはじめさえした足をどうにかまた一歩前に出す。枯れた色の地面から立ちのぼる陽炎が耳の端を焼いた。
むせ返る砂っぽい空気を一杯に吸いこんで、一歩一歩。
ごわごわとした革靴の感触。地面を踏みしめる度の足音が、吹きつける雨のように痛い。
「おい、少しくらい、待ってくれ、ても、いいんじゃないか」
ぜえぜえと喘ぎ出す息を混ぜて、僕は呼びかける。
「…………」
牛は何も言わず、その無精紐のように気無く垂れさがった尾を右へ左へと揺らしながら先へ進む。唯一の返事と言えば、ドサリと産みおとした牛糞だけだ。クソたれめが。前を行く牛の姿が再々再度憎らしく思えてきた。
僕の歩は鈍い。針金かバネでもくくりついているんじゃないかってくらい。そして実際そうなのだろう。ちょっと視線を下ろして手を回して確かめさえすれば、ぐるぐると巻き付けられた針金や太ももと背中を結びつけるキックバネがすぐに見つかるはずだった。これでも全速力だ。汗と砂にまみれたスラックスへ目を向ける余裕はもう残っていなかった。
例えば。
すっかり茹であがった頭で考える。
このまま牛に追いつけたとして、それでこれは終わるのだろうか。あるいは、このまま追いつけなかったとして? 永らえば、なんとやら。この記憶だけは美化してやるものか。
憎い憎いと唱えながら、叫び声も上げられずに僕はやっとの思いで肺を焼く。
追いつけそうで追いつけない。このまま。
僕は牛を追いつづける。
WHACK




