交差する2つの世界
第一章 始まる冒険
「よし…ついに来たよ。新規ゲーム機、VR専用媒体with。それと、専用ゲームSSG。…待ちわびたわ」
今日俺の元に届いた新規ゲーム機とソフト、完全新規に販売された全世界から注目を浴びている。販売会社もこの作品から立ち上げられたSG社。実績が皆無なのに起業から約一年で販売にこぎ着けた、はっきり言ってチート臭い会社。しかし、新規開発した媒体とソフトがかなりの注目を浴びていたためゲーマーの間で多くの話題を呼んでいた。また、先行公開で発表した映像がかなりの出来で非常に高い評価を獲得した。本作の売りはなんと言っても、テレビを使わずプレイヤーの顔に装着するゲーム専用のマスク、with。仕組みは装着したマスクから、脳内をフィードバックしてゲーム内に反映し、ゲーム内での自由自在なモーションを可能にする驚愕の性能だ。発表された時は高評価と同時に危険ではないかと言う声も上がった。SG社はその声に自社の社員に実際にプレイさせ、逆にゲームの安全性と面白さをアピールして、世論を味方につけた。そして、作り上げた。ネットワークの問題は何とwithを着けているだけで、SG社の独自の回線に自動で繋がりそのサーバーでプレイ出来るというこれまたブッ飛んだ使用だった。故に自宅にインターネット環境が無い人でも簡単にプレイ出来ると言うのも売りにしていた。この事から瞬く間にwithの評判は拡散して、爆発的な支持をうけた。それに加えてソフトのSSGは、内容がオープンワールドで王道の悪役を倒し平和にすると言うシンプルなものだった。だが、他との差別化として日常パートの方にかなり力を入れている。拠点となる街のフィールドで商売が出来る。テレビで見ているようなニュースキャスターや新聞記者、アルバイト、本当に現実世界であるような事をふんだんに詰め込んでいる。戦闘が苦手なプレイヤーにも違う楽しみを体験して欲しいとSG社の意見だった。その生産方法もかなり現実に近い方法で行うらしい。それも、かなりの話題を呼んでいた。他にも色々あるらしいが、
「まぁ…後はやってみるだけだな。んじゃ早速…」
俺はwithの初期設定を終わらせ、マスクを装着する。着けた瞬間、ゲームやアニメでよく見る、まるでゲームの中に入り込む景色に変わった。あえて映像と言わないのは、現実世界との区別が出来ないくらいのリアリティーだからだ。頭を回して辺りを見渡してみると、全方位にしっかり景色が広がっていた。本当にすごいと思った。しばらくすると。目の前に文章が浮かんだ。
「えーと…プレイするゲームを選択しろと」
俺はSSGの項目を選択した。すると、またマスクを装着した時の入り込む演出になった。数秒したら、SSGとタイトルが出てきた。俺はニューゲームの項目が選んでキャラクターの作成を始める。このゲームはキャラクター作成にも面白い特徴があって、マスクが自動で顔の輪郭、顔のパーツをスキャンしてリアルの顔でプレイすることが出来る。また、そのシステムが嫌なプレイヤーには通常のキャラメイクも出来る。今回俺はこの新しい要素でプレイしようと決めていた。いつもなら、ネカマプレイで楽しむタイプだが、リアルの感覚でゲームプレイするし常にボイスチャットがONになっているから正直ネカマプレイしていると変になると思ったからだ。
「次は職業選択か…これも、もう決めているんだよな」
俺が選択したのは剣士の片刃剣。その二刀流。剣士とは戦闘の前線で戦う職業の一つ。剣が一番しっくり来るからこの職業に決めた。
「脳筋な選択だよな(笑)…でも、楽しめるならなんでもいいや」
キャラメイクを終えてすぐにゲームを始めようとしたら、また文章が浮かび上がった。
「なになに…初期ステータスポイントを振って下さい。…か」
ステータスポイントとはゲーム内での自身の能力値。他のゲームにもあるポイントだ。このステータスポイントの振り方で序盤のシナリオ進行が変わることもある。
「まぁ…俺の戦闘スタイルに合わせるなら…」
俺は自分の戦闘スタイルを想定し、ステータスポイントを振った。そしてようやくゲームを始めた。
「いざ、SSGの世界へ!」
俺がSSGをゲームを初めて思った感想は
「…すげぇ」
その一言に尽きた。見渡す限りの風景が全て現実の様なリアリティー。歩く感覚、握りしめる物の感触、匂い。全てが現実の様な感覚、いや、現実だと思い込まされる。
「これがゲームかよ…今までのゲームとはまるで違う、本当の世界みたいだ」
俺は周りを見ながらずっとそう思っていた。そうしてぼぉーっとしていると、後ろから声をかけられた。
「よっ!天ちゃん!」
「ん?おう!まーちゃん、神ちゃん。もう来てたんだ」
俺を呼んだのは某SNSですか知り合ったゲーム仲間の、マートと神威だった。俺達はかなり仲が良いからあだ名で呼びあったり、年齢の順番で俺が長男、マートが次男、神威が三男で三馬鹿兄弟でよく遊んでいる。このSSGの発表があってから、絶対にやろうと約束して発売日から遊ぼうと決めていた。ちなみに俺のキャラクター名は天原睦月だ。
「ねぇねぇ天ちゃん、早速フィールド出て戦おうぜ!」
神威が待ちきれないといった感じで話してきた。
「そうだなぁ…まず、戦闘に慣れないといけないしな。…よし、三人で行くか!」
俺も実際早く戦闘したかったから、行くことにした。でも
「いや…俺ちょっと用事あるから、少し待ってくれん?」
マートがそう言った。その言葉で俺はすぐに
「…まーちゃん?まさか、こっちでもナンパしに行く気か?」
「えっ?いや、そんな事するわけ…」
「する気だな…馬鹿もん、いいから行くぞ」
俺はいつもの流れからマートが遊びに行くと悟り、止めて首根っこ捕まえて連れていった。
「えぇ~ちょっとくらいえぇやん…天ちゃんのケチ!」
「やかまし…いいから行くぞ」
マートが若干ふて腐れて文句を言って来たが、俺は聞く耳持たず、フィールドに出た。これが俺達の最初の冒険の一部だった。
俺達は町から近いフィールドに出た。事前に知り得た情報で、フィールド名はチコの森。低レベルモンスターが多く棲息し、レベル差関係無く襲い掛かってくるらしい。が、数十分歩き回っているが一向に遭遇しない。
「情報通りなら、襲い掛かってくる筈なんだけどな…」
俺はそんなこんな事を呟いた。
「だよね~…なんか、つまんない」
それに合わせて、神威が呟いた。確かに期待した事とは違って、調子抜けだ。そんな中、マートが
「ん?…今、そこの茂みが動いた気が…」
近くの茂みが動いたと言って、そっちに向かった。
「あ、まーちゃん!迂闊に動いたら…」
俺はマートに注意~促そうとした。その瞬間茂みが激しく動き
「グウォォォ―ッ!!」
急にモンスターが一斉に襲い掛かってきた。
「うおぉッ!?なんじゃこいつらッ!?」
マートは突如現れたモンスターに驚き尻餅をついた。俺はすぐにモンスターのステータスを確認した。モンスター名はグルフ。レベルは2。獣牙属の低レベルモンスター。
「まーちゃん!立って!戦闘に入るよ…」
「OK!いきなりで驚いたけど、やっとの戦闘や…やったるで!!」
俺たちは3人で背中合わせになり、お互いの視界から状況把握をした。グルフの数は全部で12体。基本、戦略的には圧倒的不利。しかし、戦術的には何の問題もない。
「二人とも!自分の視界4体のヘイト管理を頼む」
「「了解!!」」
俺達3人の職業は剣士。剣士は最前線で戦う職業の一つ。防御力は低いが、回避能力は高い。そして、剣士はヘイト管理が出来る。
「行くぞ…」
「「「武人の意地ッ!!!」」」
3人一斉にスキルを発動した。武人の意地。このスキルは自分の視界から最大6体までヘイトを、自身に集中させるスキル。これを行うことで、後衛の職業の安全を確保・サポート補助を行う。今回は1人にヘイトが集中させないように、それぞれ固定の個数でモンスターと戦闘を行うために使う。
「各自散開!倒し終わった順から、残りのメンバーの支援!」
俺は2人に声をかけて、目の前のモンスターに突っ込む。
「OK!サクッと倒すよ!」
「おう!ッシャ!神ちゃんには負けんで?」
マートと神威も戦闘を開始した。
「…レベルも大した事ないし、それに…遅いな」
俺はモンスターの攻撃を一通り見てから、そんな風に言った。そして
「もう狩るか…ふんッ!!」
4体まとめて一振りで斬った。それを見て2人も
「流石天ちゃん!なら、俺も…おりゃぁぁッ!!」
「俺だって…オラァァッ!!」
ヘイトを稼いでいたモンスターを一掃した。
「よし…中々いいんじゃないか?2人とも大丈夫だよな?」
戦闘終了して、俺は2人に声をかけた。
「無問題!(モーマンタイ)」
「楽勝や!」
2人とも余裕といった感じだった。レベル的にはそれもそのはず。そして、自身のレベルも3つほど上がった。どうやらパーティー戦で得た経験値もすべての道はローマに通ず共有らしい。このシステムは有難い。そして、回収アイテムも共有。これは本当に有難い。パーティーの不条理を改善してくれる。
俺達は戦闘の勝利の余韻に耽っていると
「グオォォーッ!!」
いきなり轟くような声が響く。その声で俺達はすぐに臨戦態勢に入る。3人は声の方に構える。そこに居たのは、レベル10のエリアボスモンスター、ガジャドキ。ステータスを確認して情報を得る。しかし、名前以外が表示されない。つまり、倒さなければ情報を入手出来ないそんなモンスター。
「レベル差がありすぎるな…でも、倒したくなるな。…2人ともいけるよな?」
俺は敵対する強敵を前に笑いながら2人に聞いた。2人とも笑って
「当たり前だよ!天ちゃん!」
「やったろうぜ!兄貴ッ!!」
俺の気持ちに応えた。だから俺は
「よく吼えた!なら、行くぜッ!!」
俺も吼えた。だが、戦略的、戦略的にも不利。だから
「まずは俺がヘイト管理をする。2人は散開しつつ多重攻撃!!その後は、まーちゃん・神ちゃんの順でローテーション組ながら攻撃!!」
「あいよ!
「了解!!」」
俺は2人に作戦を伝え、2人も作戦に賛同して戦闘を開始した。
「武人の意地ッ!!」
まずは俺がスキルを発動して、モンスターのヘイトを稼ぐ。回避しながら、2人にヘイトが向かないように立ち回りながら攻撃。他の2人が側面から挟撃。これが今回で最も効率の良い立ち回りだとおれば判断した。
「乱舞剣ッ!!」
「荒風ッ!!」
壁役になっている俺の代わりに、2人がありったけのスキルをぶち込む。神威が使った乱舞剣は名前の通り連続で斬り込みスキル。荒風は自身を高速回転をさせて、旋風を発生させながら突撃するスキル。ダメージ効率を考えれば最適だ。流石は自慢の兄弟達だ。そして、武人の意地の効果が切れるのを見計らって
「武人の意地ッ!!」
マートがスキルを発動。今度は俺も攻撃に参加する。しかし、エリアボス。耐久力がさっきのモンスターとは段違い。正直ローテーション組んでも勝ち目は2割りあるか無いかだ。
「ッ!…流石にキツイな」
「あ…天ちゃん、どうする?」
「流石にマズくないか?」
俺達は先行きに不安を覚えながら、戦った。だが、神威のローテーションに移った瞬間
「あ、ヤッベェッ!?」
神威がモンスターの攻撃で怯んだ。
「神ちゃんッ!!」
俺は怯んだ神威の側に近寄る。ガジャドキは俺達を目掛けて向かって来る。俺は神威を庇いながら、構える。そして、ガジャドキの攻撃の瞬間俺は死を覚悟したが
「この…馬鹿弟子がァッ!!」
後ろから聞き覚えのある、逞しい声が聞こえた。その声の主は、自分達とよくゲームをしていて、神威の師匠である
「Mibu兄ッ!!」
凄腕ゲーマーMibuさんだった。俺もMibuさんには大変お世話になっている。某SNSサイトのアイコンもこのMibuさんに作っていただいた。本当に優しくて強い頼れる人だ。
「俺達もいるぜ?」
「あーいどおもぉ―ッ!!」
更にもう2人、頼もしい仲間もいた。
「南蛮さん、SERIESさん!」
チキン南蛮さんとSERIESさん。この2人は他のゲームでは見た目のキャラメイクにかなり個性が出ている。南蛮さんは顔面白塗りのウサミミゴリマッチョ。SERIESさんは頭全体を緑色に発光させ、着ている服も緑。まさしく緑の人。しかし、そんなおもしろキャラクターだが、実力は折り紙つき。Mibuさんに負けず劣らずで、凄腕の2人だ。
「馬鹿弟子!ぼさっとしてないで立ち上がって構えろッ!!」
「う、うんッ!!」
Mibuさんの一喝で、伏せっていた神威が立ち上がる。
「天原さん!自分達も戦闘に参加します。指示をもらえますか?」
「Mibuさん、助かります!」
Mibuさん達も戦闘に参加してくれた。このゲームの最大パーティー人数は7人。レイド戦もあり、その時の参加人数はまた変わる。今回は通常戦闘、つまり7人。許容範囲内だ。
そこから確認しなければならないのはパーティーの職業の把握。三馬鹿兄弟の把握はすでにしてある。MibuさんとSERIESさんは槍手。Mibuさんは長槍一本。SERIESさんは長槍盾持ち。槍手の特徴はクリティカル攻撃率がすべての職業で一番高い。また、回避能力も非常に高く素早い戦闘を得意とする。2本槍を持つことも可能。また、槍の代わりに盾を持つことも出来る。この場合は、回避能力が著しく落ちるがヘイト管理のスキルも使える。チキン南蛮さんは騎士。片手剣盾持ち。騎士は基本ステータスが高く、剣士同様ヘイト管理を得意とする。このパーティーには回復職がいない。長期戦は不利
「なら…一気呵成に行くしかないね。南蛮さん、タンク行けます?」
「やっぱり俺かよ(笑)まぁ行けるよ!」
俺はチキン南蛮さんに壁役、つまりはタンクを頼んだ。
「他のメンバーは高い攻撃力のスキルを使って集中放火!ヘイト管理が南蛮さんに向かっている間に叩くよ!」
「「「「了解!!」」」」
皆、自分の作戦に乗ってくれた。
「よし、第2ラウンド開始だッ!!」
そうして、6人の戦いが始まった。チキン南蛮さんは作戦通りにガジャドギの正面に突っ込みスキルを使う。
「騎士の矜持ッ!!」
騎士の矜持はヘイト管理のスキル。剣士との違いは、スキル発動中防御力が2倍に上昇させる。その代わりに、命中率と回避率が下がるデメリットがある。
「OKだ!皆、ガンガンやっちまってくれッ!!」
チキン南蛮がそう号令して、他のメンバーは一斉にガジャドギに向かう。俺とマート、SERIESさんは左側に。神威とMibuさんは右側に陣取る。
「位置取り大丈夫だな!なら、出し惜しみ無しで削るぞッ!!」
俺は全員がセットアップしたのを確認して、攻撃の合図を出した。
「おっしゃッ!なら、俺からや!気刃衝きッ!!」
最初にマートが先制する。気刃衝きは強力な突きを繰り出すスキル。普通の突きモーションと違い100%クリティカル攻撃を行える。その次の攻撃は、SERIESさん
「喰らいやがれ!乱槍転牙ッ!!」
槍手のスキル乱槍転牙。文字通り槍を高速で振り回し、多段ヒットさせるスキル。
「ならここで…惨禍の刃ッ!!」
SERIESさん後にスキルを使ったのは俺。惨禍の刃は乱槍転牙と一緒で多段ヒット系のスキル。それに加えて、対象となるものに麻痺属性を付与させる。多段ヒットのスキルな為、全てがヒットすれば
「グワァァッ!?」
確実に行動阻害が出来る。ガジャドギが麻痺しているのを見て、Mibuさんと神威が動く。
「行くぞ馬鹿弟子ッ!合わせろッ!」
「えー…俺だけで行こうとしたのに」
息は合ってないが。
「この…馬鹿がッ!!早くしろッ!!」
「は~い」
しかし、なんだかんだで合わせられるからこの2人の信頼関係が凄いものだと分かる。
「いっくよ~…獅子連斬ッ!!」
「射ち穿つ覇蕀の槍ッ!!」
神威が使った獅子連斬のスキルは、モーション中スーパーアーマーを持ち命中率を100%と攻撃力を2倍にする。デメリットはモーション中が、防御力が大幅に下がる為諸刃の剣となるスキル。ダウン中か今みたいな確定隙があるときにしか使えない強力な剣士のスキル。そして、Mibuさんの射ち穿つ覇蕀の槍は空中に跳躍して、槍を投げるスキル。攻撃力は5倍に、クリティカル率は100%。更には一定確率で即死させるスキル。そして、今回その確率に勝って
「グギャアァァ―ッ!?」
ガジャドギを即死させた。戦いが終わった。
「っしゃあッ―!!勝ったぜ‼️」
「おつかれッ!!」
皆互いの健闘を讃えながら、喜びを分かち合った。これが俺達の最初の戦闘だった。
ーその頃、現実世界のSG社本部最上層社長室にて
「…社長。現在SSGのプレイ人数は国内で20000人。海外では180000人。予定していたより多く参加されています」
1人の若い男が部屋の中心から、窓の外を見ている社長と呼ばれる男に声をかけていた。
「…そうか。データの収集は?」
「問題なく。全てのプレイヤーの全ての行動をwithから回収しております」
若い男の報告を聞いて社長榊原が、窓越しに夜空を見上げた。その目はどこか哀しみに満ちた、あるいは喜びに満ちた、そんな目をしていた。
「ついに…ついにここまで来たのだな、由水」
「はい。…ようやく社長の悲願、我々の願望がようやく実ります」
若い男は由水と呼ばれ、社長の言葉に同調していた。
「あぁ…しかし、まだ始まったばかりだ。由水、引き続き監察を怠るな。随時報告を入れてくれ」
「了解しました。…では、引き続き監察に戻ります」
由水は仕事に戻り社長室を後にした。残った榊原は自分の机に戻り、引き出しを開けて1枚の写真を手に取った。
「…美冬。もうすぐ、もうすぐだ。…この計画を必ず成功させて、誰も悲しまない、誰も泣かない世界を作ってみせる」
最初のパーティー戦を終えて、俺達は一度町に戻った。ボス戦に勝った喜びを、酒場というフロアで祝勝会をしようと言う話になった。ガジャドギを倒した後、宝箱を人数分ドロップした。それも酒場で一斉に開封式をやろうとなった。
「いやぁ…あのモンスターキツかったな。…Mibuさん達が来てくれて助かりましたよ」
俺達は酒場に向かう道中、さっきの戦闘の事を話した。
「えぇ~…わりと楽だったよ?天ちゃん、弱すぎない?」
俺の言葉に神威は煽って来た。このやり取りはいつもの事だ。だから、イライラするとかはないが
「…敵の攻撃で、しりもちついて死にかけてたのは誰だった?」
と、ありのまま起きた出来たことを返した。
「えっ?そうかな?」
神威はいつものようにとぼけ返してきた。俺は慣れて来ていたのであえて返さず
「それにしても、Mibuさん達の増援がなかったら危なかったですよ。本当に助かりました!!ありがとうございます!」
Mibuさん達に感謝の気持ちを伝えた。
「いえいえ…それにしても本当に馬鹿弟子がご迷惑をおかけしました」
Mibuさんは謙遜込みの返事を返した。しかし、神威に対する扱いはいつも通りだった。
「まぁ…大事なところでしっかりはたらいているのは認めてやるがな」
しかし、少しだけ誉めているのが流石師匠と言った感じだが。
「でしょ!?流石Mibu兄、わかってるぅ~」
神威はいつも調子で調子に乗った言葉で返した。俺達は皆同じ反応で
「ソウダネ」
と、塩対応で返した。
「それより…他のメンバーはもうすぐ来るんでしたっけ?場所は教えたんですか?」
「うん。そろそろ来るはず」
Mibuさんの質問にチキン南蛮さんが答えた。そういうのも、今日は違うゲームでサークルを組んでいたメンバーも一緒にプレイしようと約束していた。で、そのメンバーは後から来る事になっていてもうすぐ到着する予定らしい。
「…おっ?今、DMで連絡来たよ。着いたって」
そう南蛮さんが言うと、酒場の戸が開き見知ったメンバーが一緒に入って来た。
「こんばんわ~」
そう言って挨拶してきたのは、サークルのリーダーのCHIAさん。おっとりしてマイペース。優しい性格のサークルのお姉さん的な人だ。次にぷんやまさん。とても博識で頼りになるサークルの兄貴的立ち位置の人だ。3番目は伍代さん。穏やかで冷静沈着、胆力もある個人的に憧れの存在の方だ。4番目來弥さん。明るいで性格で面白い女性。個人的に一緒にゲームするとワイワイ出来るタイプの人だ。5番目ひまじんさん。時間が会わず、中々一緒にゲーム出来ないが、一緒にゲームした時は凄く楽しい人。今回一緒に出来てとても嬉しい。6番目MacaRonさん。最近一緒にゲーム出来ず、コメントを返すだけのやり取りしかしてないけど、最初ゲームした時は色々助けられたし面白かった。今回のゲームは参加出来るとの事で、ひまじんと一緒でゲーム出来るのが嬉しい。7番目るいさん。静かでおしとやかな印象の女性。最初はボイチャに入っていないと思った事もあるけど、今ではちゃんと話せるように(?)なった。8番目クラウさん。他のゲームでは、チキン南蛮さんやSERIESさんと一緒で独特な外見のキャラクターが印象の人。話してみると、本当に面白いのでゲーム出来る時は本当に嬉しい。9番目K.I君。サークル内で唯一の学生。最近志望校に合格して、楽しい学生生活を送っているらしい。ゲームしたら腕前も確かなものではっきり言って自分より強い。将来有望な若人だ。以上のサークルメンバーが酒場に集まり、一緒に酒を飲み始めた。と、その時
「すみません!遅れました!」
勢いよく戸を開けて入って来たのは、最近サークルに入会したヴァンさん。実は自分がやっている配信動画にひょこっと現れて、ひょこっと消えていくユニークな人だ。どうやら他の皆より少し後れて来てしまったようだ。
「ヴァンさん。こんばんわ~とりあえず、駆けつけ一杯行きますか?」
「はい、ありがとうございます!」
ヴァンさんを加えて、改めて乾杯した。それから色々話し合った。久しぶりに一緒にプレイ出来るゲームに皆期待を持っていたようで、グラフィックやゲーム性の事を熱く語り合った。現実世界は新型ウイルスの影響で、こうして一同に会する事はほぼ出来ない。しかし、こうしたゲームならそれを気にしないで出来るのでより一層楽しい。そして、俺達は大規模戦闘、レイドの事についての話になった。
「レイドか…他のゲームなら効率と相手のモーションを把握すれば勝てるが、この自分の体を用いた戦闘だと逆にやりにくさはあるだろうな…」
俺は感想を話した。他のメンバーも頷いた。
「今のところの情報だと、初期でも行けるダンジョンがあるらしいよ?適性レベルは10~20。かなり楽そうな感じだけど…」
チキン南蛮さんが知っている情報を話してくれた。その間に隣のテーブルのプレイヤーが気になる話をし始めた。
「あのレイドボスキツいよなぁ~…最初に全体に毒の攻撃。そこから麻痺、睡眠…終いには即死技。…あんなの初期からやるレイドモンスターじゃねぇよ~…」
そんな情報を流してきた。それを聞いた俺達は
「…ヤバくね?」
「かなり入念な準備が必要みたいだねぇ…」
そんな感想を持つ。
「でもさ…倒したくならない?逆に?」
ぷんやまさんがそう言うと、皆は頷いた。
「それをするにしても、まずはレベル上げと、武器・防具・アイテムの収集、やることが本当に山積みですね」
Mibuさんがそう指摘をしたら。正論であり、一番時間がかかることだ。だが、やらなければ勝つことは不可能。だから、皆の意見も一致した。
「じゃあ…さっそくレベル上げに行きますか~」
と、リーダーのCHIAさんが号令した。その号令に皆が一斉に立ち上がり
「「「「「おぉーーッ!!」」」」」
雄叫びを上げて、ダンジョンに向かった。
あれから、一週間。俺達は戦い続けていた。仕事の関係で皆が毎日同じ時間にプレイする事は厳しかったが、時間が合う者同士でプレイしていた。俺も時間があればソロでもレベル上げと戦闘スタイルを固めていった。まず、このゲームは自分の視覚でリアルな感覚で戦う、つまりはFPSだ。俺も少しは違うゲームで慣れている所があるが、やはりやりにくい所はあった。他のゲームの三人称視点でプレイするのに慣れていた分、後方の確認を疎かにしてしまう部分があった。しかし、あるアビリティを手に入れてから劇的に変わった。アビリティとはスキルと異なり、主にステータス面を強化するものだ。そして俺が手に入れたアビリティは心眼。効果としては、目で捉えていなくても半径1キロの物体・物質を把握出来る。ただし、ステータス等は分からない。まぁこれでそこまで出来たら、本当にぶっ壊れだが。しかし、戦闘においては敵の位置や行動が分かるのは大変便利だ。このアビリティを手に入れてからレベル上げや、仲間との位置関係の把握がスムーズになった。今日は久しぶりにメンバー全員が集まれるのでレイド攻略の為の連携を合わせる予定だ。
「時間的にはもうすぐだよな…」
俺は予定の時間より少し早めにログインして、この前集まった酒場に居た。少し待つと、皆が続々集まった。
「こんばんわ~では、久しぶりに全員が集まった事を記念して、かんぱーい!」
全員が席に着いて、各々飲み物を頼み、手にしたところでリーダーのCHIAさんが乾杯の音頭をとった。
「「「「「かんぱーい!」」」」」
それに合わせて俺達も乾杯した。その後は皆再会の喜びを分かち合いながら話を始めた。そして、話を進めて行く内に本題の話をしていった。
「そういえば、レイドボスの攻略出始めたな…まぁ、成功率安定してないらしいけどね」
チキン南蛮が今出ている攻略情報を皆に伝えた。皆がその情報を聞いて各々に考え始めた。
「初手状態異常攻撃からの範囲攻撃…HP減少からのモーション変化で火力重視の攻撃。位置取りやターンティングをミスってしまうと連携を崩されて、全滅。中々手強いね」
ぷんやまさんが出ている情報を整理して改めて話してくれた。ここだけ聞くとかなりの難易度だ。でも、
「ただ、各モーションの後には確定隙があるらしいのでそこを狙い続ければ勝機はありますね」
Mibuさんが他の情報から見つけた事を話し、希望が見えてきた。俺達は頷いてCHIAさんを見た
「よし!…とりあえず、一回やってみますか~」
「「「「了解ッ!」」」」
こうして、俺達は初めてのレイドへと向かった。
俺達は酒場から出て真っ直ぐレイドステージのダンジョンに向かった。途中にエンカウントしたモンスターも準備運動がてらに倒して進んだ。そこで全員の戦闘スタイルを皆で共有していった。前回パーティーを組んだ6人の戦い方は概ね把握していたが、新たに習得したスキル、アビリティもあった。マートは会話というアビリティ。奇妙なアビリティだが、このアビリティは非常に面白い。何と色々な物質、物体と話が出来るというアビリティ。これはモンスターにも適応して、場合によっては戦闘回避や一時的な共闘が出来るという凄いアビリティ。神威は音波索というアビリティ。これは俺の心眼と似たアビリティだが、神威の場合は音で関知するもの。このアビリティは一緒に検証した。まず、このアビリティは俺の心眼と違い、そのフィールド、ダンジョン内の全ての音を知覚する。町なら町全体の、フィールド、ダンジョンならその大きさに合わせて知覚できる。最初はその効果が逆に働き、普通の俺達との会話を聞き取るのも大変だったそうだ。そこから訓練して新しいアビリティを習得し、今ではしっかりと聞き分ける事が出来るようになった。新しいアビリティは一意専心。このアビリティはアビリティに付与されぬ特殊アビリティで、対象のアビリティに集中出来るアビリティ。普通に考えれば、固定のアビリティにしか使えなくなるマイナスなアビリティだが、神威のアビリティに対しては非常に効果的なものだ。このアビリティを使用すれば、より正確に知覚し、選別出来るようになった。これによって、俺の心眼より広い範囲の索敵出来る。チキン南蛮さんは壁。このアビリティはヘイト管理スキルを発動した時、自身の防御力を倍化させてさらにヘイト範囲を大幅に広げるアビリティ。もう1つ、盾。こちらは盾持ちの武器を使用している場合、盾に麻痺、混乱、睡眠、爆発のいずれかの状態異常をランダムで発生させる。このアビリティは相手の攻撃を受けた時に自動的に発動する。つまり、タンク役をするチキン南蛮さんにうってつけのアビリティだ。ただし、強力なアビリティ故に攻撃を10回受けたら、クールタイムが発生し600秒は使えなくなる。SERIESさんは機動力強化。このアビリティはその名前の通り、機動力を一時的にではあるが向上させる。もう1つ、クロスシールド。これは槍と盾を持つ職業限定のアビリティ。槍に盾を合わせて両手持ち武器に変えるアビリティ。これを使うと、既存のスキルに追加して攻撃スキルを大幅に増やす事が出来る。また、盾の部分でガードも出来て使い勝手がいいらしい。Mibuさんは複数アビリティを習得していた。まず指揮官というアビリティ。これは、パーティー全員に効果を発揮するアビリティで、パーティー全員の全ステータスを1.15倍に強化させるアビリティ。次に地形把握。こちらは、今いるフィールド、ダンジョンの地形を全て把握するアビリティ。地面の凹凸や道の行き先、背景オブジェクトの把握が出来る。最後が叡知。これははっきり言ってチート級。このアビリティは、フィールド、ダンジョンにある次のマップの把握やアイテムの位置を全て把握出来る。このアビリティを聞いた時は度肝を抜かれた。他のメンバーのスキル、アビリティは今の戦闘で見て聞いて把握した。CHIAさんの職業は狙撃手。ライフルを用いた超遠距離射撃を得意とした職業だ。スキルは高速リロード。弾丸補充を通常の5倍で行うスキル。アビリティは鷹の目。超遠距離の視覚を確保する、狙撃手にピッタリなアビリティ。ぷんやまさんは召喚師。様々な生物、従者を召喚する魔法系職業。スキルは多重召喚。通常の召喚師は一度に一体しか召喚出来ない。でも、多重召喚のスキルを使えばMPが有る限り何体でも召喚可能になるスキルだ。アビリティは天眼と高速詠唱。天眼は視認していない相手のステータスを確認出来るアビリティ。高速詠唱は召喚に使用する詠唱を半分の時間で詠唱するアビリティ。非常に強力なアビリティだ。伍代さんは剣士の大太刀。スキルは龍殺し。竜属性モンスターを相手した場合、特攻スキルで倍率を上げるスキル。アビリティは明鏡止水。精神を研ぎ澄まし、全て攻撃にクリティカルを発生させる。また、クリティカル攻撃発生時に、HPを少し回復するアビリティ。來弥さんは戦士。戦士は騎士と同じで全線に立つ職業。騎士との違いは、盾を持たずに大剣、大槍、斧等を使う。また、機動力、防御力は低いがHPと攻撃力は騎士より高い。スキルは破山剣。読んで字のごとく、山一つを吹き飛ばす程の破壊力を持つ一撃を打つ強力なスキル。アビリティはバーサーク。一時的に身体能力を向上し、野獣の様な力を得るアビリティ。ひまじんさんは弓兵。弓兵は弓を用いた戦闘する職業。短中距離の戦闘を得意とする。スキルは千の雨。幾千の矢の雨を広範囲射つスキル。アビリティは状態異常付与。矢に様々な状態異常付きの矢を付与するアビリティ。Macaronさんは狙撃手。スキルは設置式徹衡留弾。相手に設置式の弾丸を撃ち込み、続く攻撃に合わせて爆発するスキル。アビリティは高速罠設置。色々な罠を設置する際に、通常の倍の早さで設置することが出来るアビリティ。Ruさんは剣士の大太刀。スキルは水の流る如く。水の流れの様に留まる事のない斬撃を与えるスキル。アビリティは麗しの流し目。このアビリティは見つめた対象に魅了の状態異常を与えるアビリティ。クラウさんは剣士。スキルは大殺八陣。大きく円を八つ描き、高速で相手を斬りつけるスキル。アビリティは傾奇者。このアビリティは自身のステータスを5倍に向上し、ヘイトを一時的に強制で自身に向けるアビリティ。タンク役と連携することによって、効果的に戦況を操れるアビリティ。K.I君は剣士。スキルはサウザンド・ブレイド。名前の通り、千本の刀を連続で斬りつけるスキル。アビリティは若き闘志。このアビリティは自身HPが50%以下の時、全ステータスを10倍にさせるアビリティ。しかし、効果時間が短く、効果時間が切れると逆に全ステータスがマイナスになる諸刃のアビリティ。ヴァンさんは狙撃手。スキルは必中。狙撃する時、必ず敵に当たるスキル。アビリティは猫の気まぐれ。このアビリティは1日限定のアビリティで、その日によって効果が色々変わるトリッキーなアビリティ。一番強いのは、出たらそのマップの全てのモンスターを消し去る効果だ。これは、レイドボスも含まれるようだ。これも強力過ぎるので、確率的には0.00001%らしい。
「んじゃ…ぼちぼち、レイドボス攻略と行きますか!」
CHIAさんの号令で俺達はレイドボスステージに入った。
小一時間後。俺達は町の酒場に居た。メンバーの皆は葬式ムードだった。理由は
「…あんなシステムあるの、聞いてないんだが?」
「っか、聞いていたのと大分ちがくないか?」
「…もしくは、あまりに早く削り過ぎて他のプレイヤーが見ていないモーションがあったとかですかね?」
「あぁ…ありそう」
等など、俺達はレイドボスに対する考察をしていた。簡単に言って、俺達は負けた。ただ、負け方が他のプレイヤー達が経験したものと違った。俺達は集められるだけの情報を頭に入れて、戦いに臨んでいた。最初の滑り出しは順調すぎるほど順調。快適にDPSを上げてレイドボス、ザクルガのHPを削って行った。しかし、好調に削り過ぎた結果…自分達は情報にないザクルガの攻撃で全滅した。それは、全体に即死を全プレイヤーに与えるという恐ろしいものだった。そして、俺達のパーティーに致命的に足りなかったものは
「…回復役が、居ない」
そうパーティーを回復させる専任のヒーラーが居ないことだ。回復アイテム自体は全員持っていたが、アイテムを使用するモーション時間が長いのと、そもそも回復アイテムをそんなに持ち込めない。
「どうしようね…もう一回、今のメンバーで作戦立てて攻略に向かう?」
俺はパーティーの皆にどうしようか聞いてみた。
「うーん…戦うのはいいけど、今日はやめた方がよくない?明日以降にしないか?」
チキン南蛮さんが提案してくれた。他のメンバーも首を縦に降った。
「だなぁ。…とりあえず、今はご飯を食べようか」
と、皆でしょんぼりした雰囲気でまるで最後の晩餐を食べるかのようにしていると、俺達の囲っていたテーブルの後ろから聞いたことの有る声が聞こえてきた。
「あれ?天原さん?…と、もしかしてサークルの方々ですかね。…って、皆さん暗い雰囲気ですが…大丈夫ですか?」
「えっ?…ぽんきちさん!?」
声の主は俺と交流のあるぽんきちだった。同じ配信の企画で一緒にゲームした事があって、面白く頼りになる。そして俺はぽんきちさんの背後に居た人達にも気付いた。まいまいさん、ぜのっちさん、えーしゅさん、ふぁいさん。全員ゲーム実況配信者達だ。そして、
「あ、皆いるんですね、こんばんわ!」
「えっ…ま、まさか…おいもさん!?」
一瞬誰か分からなかったが、PNを見て分かった。更に一瞬で分からなかった理由。おいもさんはリアルは女性。しかし、今のアバターの姿は男。しかも、筋骨隆々のイケメンマッチョになっていたからだ。
「ぷぅッ!お、おいもさん!あっはははッ!わ、笑わせないでッ!!」
おいもさんの姿を見CHIAさんが大爆笑した。それにつられて、おいもさんを知っている人は全員爆笑の渦に巻き込まれた。
「えっ?そんなに笑う!?」
と、おいもさんも笑いながら言い返してきた。葬式みたいな雰囲気から一気に華やかな雰囲気に和んだところで気付いた。今、この酒場に集まった人数は21人。これはレイド戦に3パーティーで挑める。そして、集まったプレイヤーの職業を確認した。ぽんきちさんは戦士の大槌。ぜのっちさん、まいまいさんは剣士。ぜのっちさんは大太刀。まいまいさんは小太刀二刀流。ふぁいさんは白魔導師。えーしゅさん、おいもさんは戦士の大剣。ここに来て、味方を回復させてくれる職業のふぁいさんが来た。これは期待できると思っていると、また違う方向からプレイヤーが声をかけてきた。
「あ、ふぁいさんこんな所に居たんですか!早速クエストに…あれ?天原さんじゃないですか!こんばんわ」
声をかけてきたのはたっかーさん、あんこさん、ぬーたん!?さん、hanaさん、グラッチェさん、ガジェットさんの6人がふぁいさんと一瞬にクエストに行こうとしてこちらに来てくれた。俺は更に考え、この人数ならレイド戦に最大パーティーで戦いに行けると。俺は我慢できず、今来たプレイヤーに呼び掛けてしまった。
「皆さん!俺達と一緒にレイドボス攻略しませんか!」
俺の大声に、酒場に居たプレイヤー達は驚いていた。しかし、すぐに各々話題に戻った。そして、俺が声をかけた方達はお互いの顔を見合ってから
「大丈夫ですよ。自分達もまだクリアしていないので、私達でよければご参加しますよ!」
と言っていただいた。
「Mibuさん、ぷんさん!…このパーティーなら行けますよね?」
俺は俺達の頭脳とも言える2人に聞いてみた。
「多分行けますね」
「回復も居てくれるなら、戦略の幅も大分増えるからいいと思いますよ」
と、2人の許可もいただいた。
「おっしゃっ!!これでフルパーティーで行けるぜ!皆、希望が見えて来たよ!」
俺は興奮のあまりにまた叫んでしまった。
「天ちゃん、声デカイよ(笑)」
と、チキン南蛮さんに怒られてしまった。でも、さっき行ったレイドボスに勝てるかもと思うと、興奮が収まらなかった。
「じゃあ…新たなメンバーを加えて、リトライと行きますか!」
CHIAさんの号令に合わせて、皆一斉に
「「「「「おぉーーーッ!!」」」」」
と、次の戦いに向けての意識を強くした。
俺達は後日お互いの戦闘スタイルを確認するために軽くクエストを回していった。そこで新しく加わったプレイヤーのスキル等々が分かった。ぽんきちさんは戦士の大槌。大槌は攻撃力はトップの威力を持ち、高いスタン値がある。スキルは渾身の一撃。発動タイミングは自身のHPが10%以下の時全てのステータスを10倍にするスキル。アビリティはアンブッシュ。このアビリティは敵に視認されている時に、一撃の威力を2倍にするアビリティ。ぜのっちさんは剣士の大太刀。スキルは絶華神楼。スキル能力は大太刀を高速で16連の高威力の連撃を叩き込む技だ。アビリティは閃き。これは一時的に五感を超強化し、瞬間的ではあるがレイドボスと一対一で渡り合える程の能力を得る。まいまいさんも剣士。小太刀双剣使い。小太刀を使うプレイヤーは通常の剣士よりも速度が上昇する固有スキルがある。その他にスキルは神狼。呼んで字の如く獣如き身体能力を得て、縦横無尽に駆け回る。アビリティは獣化。これも身体能力を上げるアビリティだが、ただしこれにはバーサークが付与される。能力向上の代わりに一時的に理性が失われる。アビリティのレベルが上がれば耐性が付くが、そうでなければ直ぐに見境無く暴れまわる。癖は強いが、操れればとても強化なアビリティだ。ふぁいさんは祈祷師の白導師。祈祷師には白導師と黒導師がある。白導師は主に回復や味方のバフを専門に担当する。黒導師は攻撃に参加し、敵へのデバフ、味方の攻撃力上昇を主に行う。ふぁいさんのスキルは博愛。パーティーに参加している味方の回復量を25%上昇させるスキル。アビリティは真意の真心。戦闘中1度だけパーティーが全滅した時に復活させる事が出来る。えーしゅさんは戦士の大剣の両手持ち。スキルは風神の加護。このスキルは遠距離攻撃、投擲攻撃を無効化するスキル。アビリティは勝利を約束された剣。刀身に力を貯めて、絶大な広範囲攻撃を打ち出す技。某ゲームの技とほぼ一緒。おいもさんは戦士の大剣両手持ち。スキルは闘魂。このスキルは戦闘開始と同時に常時発動するパッシブスキル。効果は攻撃力、防御力を倍にする。代わりに速度が著しく下がる。アビリティは竜退治の剣。効果は竜属性に対する特効技。相手を選ぶが、ハマった時の火力は凄まじい。ぬーたん!?さんは奏者。奏者は楽器を使って主に味方のバフを行う。白魔導士と違うのは効果時間内に断続的に回復を行う。また、バフの効果時間が長いのも特徴。スキルは旋律重複。このスキルは1度使えば180秒のクールタイムを要する。効果は演奏した音楽の旋律の重ねがけ。アビリティは他の人より種類が多い。癒しの音色、昂揚の歌、守護の伊吹、心の調べ。各種バフのアビリティを揃えている。あんこさんはふぁいさんと一緒で白魔導士。スキルは小さな明かり。このスキルはあんこさんの周りにいるだけでHPとMPを少量回復していく。アビリティは癒しの祈り子。このアビリティは戦闘に参加しているプレイヤーのステータス異常回復とHPの全回復してくれる。クールタイムは600秒。グラッチェさんは剣士の大太刀。スキルは恐怖の死線。効果は戦闘している敵に対して恐怖のデバフを付与する。恐怖のデバフは相手に防御力低下と混乱状態異常を付与する。アビリティは死に迫る恐怖。このアビリティは発動している効果内は自分の全ての攻撃に即死のデバフを付与する。アビリティのレベルが上がれば即死の発動率が上昇する。ガジェットさんは戦士の大斧。スキルは乾坤一擲。1度だけ攻撃力を大幅に上昇させる。クールタイムは100秒。アビリティは無頼漢。効果は一定時間全ステータスを底上げして、更に数秒間無敵時間を得る。hanaさんは騎士の両手持ちで剣と盾。スキルは純白の精神。このスキルは一定時間状態異常耐性を上げる。アビリティは変形武器。このアビリティは剣に盾を取り付けたり、盾に剣を付けたりして臨機応変な戦闘を可能にするアビリティ。hanaさん曰く使い勝手がとてもいいらしい。皆の所持スキル、アビリティを各々で確認して俺達はレイドに向かうべく調整を入念にしていった。
「ふぅ…大分連携が取れてきたな」
俺達は訓練がてらのクエストを終えて、いつもの酒場で今回の戦闘の振り返りをしていた。そして、各々の長所と弱点をお互いに指摘しあった。
「よし。じゃあレイドに向かうのは明日の夜21時に出発ってことで」
反省会を開いていた場でぷんやまさんが皆に向けて話した。全員了解の合図をしてその場を後にした。
翌日俺達は時間通りに集まって、レイドに向けて最終確認をしていた。皆戦術と戦略を頭に叩き込み、レイドステージがあるダンジョンに潜った。ダンジョン自体の攻略には何の苦労もなく進み、レイドステージに繋がる扉の前に到着した。
「ここからレイドゾーンに切り替わる。…皆、準備はいい?」
俺はパーティーの皆に確認した。全員頷き、俺は扉を開らき足を踏み出す。その瞬間奇妙な違和感を覚えた。ダンジョンステージからレイドステージへの切り替えで一瞬、風景の書き換えがシステム的に行われるので俗に言うロード画面が数秒間ある。しかし、今回はいつもより長い上に真っ暗で視界がハッキリしない。俺は不審に思いながら待っていると、急に明るくなり目を瞑るくらいの閃光が周りを照らした。数秒間硬直し、落ち着いて目を開けるとそこはキャラメイクをした時に見た最初の場所だった。辺りを確認してみるとレイドに参加しようとしたメンバーは勿論、他のプレイヤーも同じ場所に居た。
「えっ?なになになに!?どうなってんの!?」
神威が混乱し、慌てふためいていた。他の人達も皆困惑しながら、おどおどしている。そんな中でも続々とプレイヤーがこの場所に転送されてきた。
「一体…何が起きてるんだ?」
俺がそんな風に呟くと、頭上に突如人が現れた。その人物は見た目は小さな子供。金色のふさふさした髪。あどけなさが残るが整った顔立ち。アニメ等でよく描かれるような美少年。いや、ハッキリとした性別が分かりにくいから美少女の可能性もある。とにかく、およそ日本に住んでいる人からすればまずお目にかかれないような子供が浮かんでいた。その子供は一旦深呼吸をしてから、俺達に言い放つ。
「皆さんこんにちわ~。僕はこのSSGのマスコットキャラクターにして、本作のプログラムのコア…人工知能AIのAKIRAだよぉー!!皆よろしく!!」
その間の抜けた挨拶に転送されてきた俺達プレイヤー全員は唖然とした。そんな様子はお構いなしに人工知能AIを名乗るAKIRAは話続ける。
「今日皆さんプレイヤーの方々をここに集めたのは、今から新規イベントの告知と参加をさせる為に来ました♪ちなみに…イベントはこの後直ぐのゲリライベントになりまーす!」
AKIRAは意気揚々と話した。運営側からの通知も一切ないゲリライベント。しかも、今このタイミング。
「ゲリライベント?具体的なイベント内容は何なのさ?」
話を聞いていた他の男性プレイヤーが、AKIRAに質問した。
「イベント内容、それは…簡単に言うなら、皆さんの時間指定の監禁と観察でーす♪」
AKIRAはテンションを変えずにとんでもない事を口走った。監禁と観察。確かにそう言った。それを聞いた他のプレイヤー達はざわめき始めた。
「は?…監禁と観察?馬鹿か?ここはVRMMOのゲーム内だぜ?…観察ならまだデータ観察って意味合いなら分かるけどさ、監禁って…実体じゃない俺等をどうやって監禁するんだよ!」
質問をしたプレイヤーが更に問い詰める。確かにその通りだ。観察の部分はプレイヤーが言った通り、データを閲覧すればいい。しかし、監禁はハッキリ言って不可能だ。実際に自分の肉体ではない、アバターである俺達を物理的に拘束する事は出来ない。もしそれが可能だとしても、with本体の電源を落とすかログアウトすればいい。最終的には物理的にwithを顔から取り外せば、ゲーム自体を止められる。それがあるのに監禁すると言う。
「それなら…今、色々な方法を試してみなよ?出来るならね…」
AKIRAは質問に対して不敵に笑って答えた。その発言を聞いた全プレイヤーは各々のやり方でゲームを終了しようとしたが
「あれ?…ログアウト出来ない!?」
「本体の電源スイッチを押してもシャットダウンしない!!」
「あれ…この!…嘘だろ。リアルの顔からwithを外せない?そんな馬鹿なッ!?」
あろうことか、本当にゲームを終了、シャットダウンが出来なくなっていた。
「あははははッ!!だから言ったじゃん?監禁するって。…そして、今この瞬間からゲリライベントはっじまりまーす!」
AKIRAはプレイヤー達の反応を見て大笑いして、ゲリライベントの開催を宣言した。
「まずイベント内容はこのSSGのゲーム世界でプレイヤーの皆さんには1年間過ごしてもらいます。ゲーム内の1年間は現実世界だと1週間。つまりは1週間皆さんをゲーム世界で監禁します。この1年の間、皆さんは自由に過ごしていただきますよ♪ただし、強制的にこのイベントを終了させる方法として特定のボスを倒したら終了になりますよ!ちなみに、ボスとは僕です♪」
AKIRAはイベント内容を説明した。つまるところ、このAKIRAを倒せばこの世界から脱出できると言うことだ。
「まぁ僕を倒せなくても、1年経てば何事もなくこの世界から出られるから…一応チャレンジ要素みたいな感じかな?どうするかは君達に任せるよ♪」
明らかにこちらを馬鹿にしたような言い回しに少し苛ついたが、まだ何があるか分からないから様子見を続ける。だけど、あるプレイヤーが
「はぁ?ふざけんじゃねぇよッ!!こんな訳分かんない状況で、任せるよ♪だと!舐めんじゃねぇ…今すぐブッ倒してやるよッ!!」
そう啖呵を切ってAKIRAに向かって突撃する。それに便乗して、他のプレイヤーも一斉に襲いかかる。
「ふふっ…それもアリだね。でも…」
AKIRAは襲ってくるプレイヤーを見て笑い、両手を前に出した。その瞬間、AKIRAの後方から突如無数の氷柱が出現し、突撃してきたプレイヤー達を襲った。
「なにッ!?ぐわぁぁぁーッ!!」
突然の反撃にプレイヤー達は抵抗する間も無く、倒されていった。AKIRAはそれを見て地べたに這いつくばっている啖呵を切ったプレイヤーの目の前に降り立つ。
「く、…くそが…ッ!?」
プレイヤーは起き上がろうとして両手で力を入れている最中にAKIRAはプレイヤーの胸ぐらを掴み、そのまま空中に運んだ。
「お兄ちゃんさ…威勢のわりには全然大したことないね♪」
「この…ガキ、…うぅッ!?」
AKIRAはプレイヤーを小馬鹿にした。プレイヤーは空中から逃げようとジタバタしていたが、急に動かなくなった。それは、AKIRAがプレイヤーの腹を右手で抉っていたからだ。このゲームは痛覚もハッキリしている。したがって、このゲームで腹を抉られることは現実世界で抉られることと同じなのだ。
「ふふふ…ねぇ、痛い?お兄ちゃん?」
AKIRAはプレイヤーの腹の中をぐちゃぐちゃと掻き回し始めた。
「ぐあぁぁッ!!あ、あ、アァァッ!?うわぁぁーッ!?」
腹の中を掻き回されたプレイヤーはおよそ体験したことの無い激痛に絶叫した。それを見てAKIRAは愉しそうに何度も何度も掻き回し続けた。
「アッハハハハッ!!人間ってこんな風に泣き叫ぶんだね♪楽しいな♪…でも、男の人の声って煩いだけだね。…なら、次は…女の子のお腹をぐちゃぐちゃにしようかなぁ~」
AKIRAはプレイヤーの反応に飽きたらしく、血で紅く染まった右手を抜き出しプレイヤーを投げ棄てた。プレイヤーは地面に叩きつけられて意識がとんでした。AKIRAは次のオモチャを探す子供の様に、目を輝かせながら辺りを見渡していた。そして、パッと目についた女性プレイヤーを見つけてニヤリと笑い
「じゃあ…次は君だー」
AKIRAがプレイヤーを指差そうとした瞬間、俺はAKIRAの背後を取り居合いを仕掛けた。
「んッ!」
しかし、首と刀身が触れる前に気付かれてしまい防壁を張られた。すかさず俺は後退してAKIRAに対して構える。
「へぇ…お兄ちゃんすごいね。さっき反応遅れてたらやられてたよ。…僕のセンサーにあそこまで引っ掛からないって凄いスキルだね」
AKIRAは俺の事を誉めたが全く嬉しくもない。むしろ不愉快だ。
「サブの暗殺者のスキル…しかも、Sランクか!この短期間でよくそこまでレベル上げしたね♪」
AKIRAは面白そうに話し掛けてくる。俺は構えを弛めずに言葉を返す。
「黙れくそガキ。今すぐ斬ってやるから…動くんじゃねぇぞゴミが」
ドスの効いた声でAKIRAに返した。それを聞いたAKIRAはどこか嬉しそうに
「いいよ♪やってみなよ!」
そういうと俺目掛けて突進してきた。また氷柱を大量に発生させて打ち出した。俺は氷柱の軌道を読んで回避しながら、AKIRAとの距離を詰める。AKIRAは手元に氷の剣を2本作り出し俺達は刃を交え始める。超高速の剣撃の応酬。アニメやゲームならよくあるが、実際にこういう事は不可能。しかし、ゲームだから可能になる。俺は気を弛める事なく打ち合いを続けた。そうしているとAKIRAが話しかけてきた。
「本当にお兄ちゃんはすごい!!僕の攻撃にここまで着いてくるなんて!」
「黙れつったろうがゴミッ!!」
AKIRAのその一言で俺はぶちギレて、AKIRAの剣撃を弾き飛ばしアビリティを使った。
「隼落としッ!!」
隼落としはついこの間習得したアビリティ。上段3方向からの超高速の連撃を叩き込む技だ。しかし、怒りに身を任せた一撃は隙が生じる。AKIRAはその隙を見逃さず、隼落としを避けて
「残念でした♪ばいばーい」
と俺に斬りつける。だが、
「射ち穿つ覇蕀の槍ッ!!」
「ッ!?」
AKIRAは突然の横槍によって後退する。
「Mibuさん!!」
助太刀してくれたのは、神威の師のMibuさんだった。Mibuさんは槍を構え直し、AKIRAに対峙しながら俺を諫めた。
「天原さん。気持ちは分かりますが、冷静にならないと無駄に命を落としますよ?」
「はい。…すみません。それから、ありがとうございます」
俺はMibuさんの言葉で冷静さを取り戻し、改めて構える。
「お仲間さんか~…うん。このお兄ちゃんも強いね!なら一緒に遊ぼうよ♪」
AKIRAはMibuさんを見ておおはしゃぎした。Mibuさんは冷静に
「AKIRAさん。…少しやり過ぎですね。今からお灸を据えるので、覚悟しろッ!」
最後はちょっと怒り混じりだったけど、AKIRAに宣戦布告した。
「えぇ~…僕何の事か分からないな~」
AKIRAはとぼけるような仕草をわざとした。すると背後から
「分かんねぇなら、教えてやるよくそガキッ!」
南蛮さん、SERIESさんがAKIRAの頭目掛けて得物を振るう。AKIRAは振り返り、2人の攻撃を受け止める。
「お兄ちゃん達も遊んでくれるの?嬉しいな!!」
2人の得物を掴み、AKIRAは2人を投げ飛ばす。吹っ飛ばされた2人は空中で体勢を立て直し、俺とMibuさんの所に着地する。
「意外に力あるな、あいつ」
SERIESさんはAKIRAの腕力に少し驚いたみたいだ。普通の見た目ならただの子供だから、そう思うのも無理はない。改めてAKIRAの強さの確認をしたのだろう。AKIRAは俺達を見て突っ込んでくる。そうしたら、俺の弟達もAKIRAに向かって突っ込んでいった。
「海王竜斬ッ!!」
「影縫いッ!!」
海王竜斬は神威のアビリティ。水竜の斬撃として打ち出す技。打ち出された水竜は標的に自動で向かい、食らい付き一定時間拘束する。影縫いはマートのアビリティ。対象となる物体の影を踏む事で発動する。発動したら、対象を拘束して一定時間移動阻害の状態異常を付与させる。
「えぇッ!?何さこれ!!」
2人の拘束攻撃をまともに食らったAKIRAは、身動きの取れない状態になった。この隙を逃さず、レイドに向かおうとしたメンバーが一斉に合わせてくれた。
「「戦心昂楊ッ!!」」
最初はふぁいさんとあんこさん。戦心昂楊はパーティー全員の攻撃・防御・状態異常耐性を上げるアビリティ。それの重ね掛けなので効果は倍増する。このアビリティで俺達のステータスを底上げする。次に俺、神威、マートでもう一度拘束技を使う。
「惨禍の刃ッ!!」
「海王竜斬ッ!!」
「影縫いッ!!」
俺達3兄弟の拘束技3連発で食らったAKIRAは更なる足止めをされる。
「くっそぉぉ!」
AKIRAは必死に拘束を解除しようとしていた。俺達は間髪入れずに技を叩き込む。
「龍滅の刃ッ!!」
「破山剣ッ!!」
「大殺八陣ッ!!」
「流蓮…白波ッ!!」
龍滅の刃は伍代さんのアビリティ。本来は竜属性のモンスターに使う技だが、伍代さんの手持ちで最も威力の高い技だ。破山剣は來弥さんのアビリティ。これはケルト神話に出てくるアルスターの戦士・フェルグスという英雄が使っていた愛剣の名前だ。このゲームでは日本名の通り、山を破壊するほどの破壊力の一撃を放つ強力な技だ。大殺八陣はクラウさんのアビリティ。これは前にも説明したが、大きな8つの円を描き高速で斬りつける技。流蓮・白波はRuさんのアビリティ。刀身から水流の刃を生み出し、敵に向けて薙ぎ払う。その姿は海の白波の様で、美しい技だ。
「うわぁぁーッ!?痛いよッ!」
AKIRAは痛がるような叫びを上げたが、実際は余裕そうな感じだ。俺達はまだまだ攻めの手を緩めない。
「千の雨ッ!!」
「サウザンド・ブレイドッ!!」
千の雨はひまじんさんのアビリティ。サウザンド・ブレイドはK・I君のアビリティ。どちらのアビリティも幾千の矢と刃を射ち出すアビリティ。
「くっ…、本当に、痛い…なぁッ!!」
ここまで抵抗出来ずにいたAKIRAはそろそろ本当にダメージを感じ始めたらしい。そのタイミングを見て、俺達は更に追い込む。
「アンブッシュッ!!」
「絶華神楼ッ!!」
「獣化連撃ッ!!」
「機構変化、戦斧ッ!!」
「筋骨大砲ッ!!」
アンブッシュはぽんきちさんのアビリティ。これを使うためにぽんきちさんはAKIRAの死角を取り、空中に跳んでからハンマーの渾身の一撃を放った。絶華神楼はぜのっちさんのアビリティ。16連斬の高威力技。獣化連撃はまいまいさんのアビリティ。まいまいさんの持つ獣化を使用しながら発動するアビリティ。極限まで高まった身体能力で圧倒的な破壊力を持つ連撃を叩き込む。機構変化戦斧はhanaさんのアビリティ。剣と盾を合体させて戦斧に変化させて重い一撃を叩きつける技だ。筋骨大砲はおいもさんのアビリティ。文字通り、筋骨を隆々とさせて力の限り殴り付ける技だ。
「ぐっ…そろそろ、調子に、乗るなッ!!たかがプレイヤー風情が、システムそのものに勝てると思うなッ!!」
AKIRAは激昂し、俺達の拘束を解放して俺達の前に立つ。しかし、それを待っていたかのようにぷんやまさんが
「そうかい?なら…これはどうかな?…召喚!鳳凰ッ!!バインド・タートルッ!!」
ぷんやまさんは召喚士のアビリティで2体の召喚生物を呼び出した。鳳凰は皆が知っている通り、霊獣で知られる生物。フェニックスとも同様の意味を持つ霊獣だ。鳳凰は身に纏った炎で敵を焼き尽くす強力な召喚生物。バインド・タートルは名前の通り敵を拘束する能力を持つ亀型の召喚生物。地面から木の蔦を生やし、敵を絡めとる力を持つ。まず、バインド・タートルでAKIRAの足元に蔦を生やしAKIRAを拘束する。次に鳳凰でAKIRA自身に火の粉を降らし、継続的にスリップダメージを与える。その後に鳳凰の他の能力、新生焰檻。これは鳳凰の炎で檻を作り出し、スリップダメージと拘束をする能力だ。
「ちくしょうッ!!さっきからウザイ技ばっか使いやがってッ!!」
AKIRAは更なる足止めを食らい、更に苛立っていた。それを見たぷんやまは
「さっきまで見て分かったけどさ。…君、システムだから律儀に俺らの技にちゃんと対応してたよね?つまりさ、君は俺らの行動に対してしっかりとプログラミングされた対応方法で対処しなきゃいけない訳だ。…なら、こんな風に1度に大量の技を叩き込まれたら…それに対してしっかりプログラミングが発動するのは当たり前だよな?」
分析したことを述べた。それを聞いたAKIRAは苦い顔をして
「くっ…そがぁぁーッ!!」
俺達はラストスパートをかける。
「武神連斬ッ!!」
「繚乱槍武ッ!!」
武神連斬は南蛮さんのアビリティ。怒涛の剣と盾の連撃を叩き込む。繚乱槍武はSERIESさんのアビリティ。舞を思わせるような槍術を敵に繰り出すアビリティ。
「刺し穿つ魔棘の槍ッ!!」
刺し穿つ魔棘の槍はMibuさんのアビリティ。スタン効果付きの槍を敵に投擲し、敵の行動を制限する。
「ガッ…!!」
3人の攻撃を受けたAKIRAはその攻撃に動きを止めた。
「私達も行っくよ~…マカにぃ、ヴァンさん!」
「オッケーッ!」
「了解ッスッ!」
CHIAさん、Macaronさん、ヴァンさんが一斉に銃を構える。3人は狙撃手。そして、狙撃手には共通の固有アビリティがある。それが
「「「超電磁砲ッ!!」」」
超高出力の電磁砲を敵に向けて放つ、見た目が完全にビーム砲。そして、最後に
「これで最後だ!…勝利を約束された剣ッ!!」
最後の一撃はえーしゅさんのアビリティ、勝利を約束された剣。輝かしい刀剣から放たれた超高出力の一撃はAKIRAを包み射ち放たれる。
「クッソォォォーッ!!」
AKIRAはえーしゅさんの一撃で光の中に消えた。俺達はその光景を見て下さい少し緊張を弛めた。しかし、その認識はfck改められた。なんと、俺達全員の攻撃を受けたAKIRAはなんと健在だった。それを見た俺達は
「マジかよ…タフ過ぎんだろ?」
そんな言葉を口に出してしまった。AKIRAはさっきまでとは雰囲気が明らかに変わって、少し間を置いてから口を開いた。
「なるほど。…これが人間か。これは認識を改める必要があるな」
よく見ると、さっきまで子供の姿だったのがいつの間にか成年位まで姿を変えていた。
「急に成長したな…かむと同じくらいじゃないか?」
「俺あんなにガキッぽくないよッ!!」
「いや、中身じゃなくて…見た目の話だぞ?」
南蛮さんが急成長したAKIRAを見て、神威に話題をふった。神威は自分はあんなんじゃないと反論したが、SERIESさんが外見の話だと諭した。こんな緊迫した状況だけど、こういうやり取りが出来る俺達も中々なもんだ。
「鬱陶しいな。たかだか姿形が変わった程度で喚くなんて…目障りだな」
AKIRAは静かな怒りを言葉として俺達にぶつけてきた。本当に外見だけではなく、中身も変わったようだ。プログラム的に言えばバージョンアップしたと言った方が正しいのだろう。
「さっきまでの攻撃でバグったか、もしくはさっきまでの攻撃のせいでシステムが更新したか…どっちにしても、さっきより強いのは間違いないな」
俺は改めてAKIRAに向けて構える。AKIRAはそんな俺を見下して
「ふん。…君達に興味が湧き、少し焦ったことは認めるよ。そのおかげでそうして成長できた訳だから、感謝はするよ。…だけど、もう飽きたし時間切れだ」
AKIRAがそう言うと俺達が居た空間にノイズのようなものが走り、空間がひび割れた。
「どうなってんのッ!?」
全プレイヤーが混乱の渦に包まれた。AKIRAは高度を上げて浮遊し、全プレイヤーに向けてこう告げた。
「これから先程宣言したイベントを開催する。どのようにゲーム内の1年間を過ごすかは君達の自由だ。元々このゲームはこの日を想定して作られたプログラム。君達はSSG…サクセス・ストーリー・ゲームと呼んでいるが、実際は違う。…このゲーム、このプログラムの正式名称は…サンクチュアリ・サクリファイス・ゲーム。神域生贄遊戯だよ」
AKIRAはこのゲームの真の名前を俺達に告げた。そして、空間のひび割れたが進行し大きな巨大な穴となった。その穴からとてつもない突風が巻き起こり、俺達プレイヤーをひび割れた空間に飛ばした。
「うわぁぁーッ!?」
「きゃあぁぁーッ!!」
俺達は成す術なく、空間の中へと放り込まれ意識を失った。誰も居なくなった空間にAKIRAだけ残り、先程の光景を見た後に
「…こんなつまらない事の為に、僕は生み出されたのか。…本当に、人間はどうしようもなく度しがたいな。お父さんも、こんな人間ばかりの世界で生きていたなら…この考えになるのも頷けるな」
そう言って、AKIRAはどこかに転移した。
SSG。それは次世代型新感覚VRゲーム機。しかし、今日この日からその姿を変えた。今日ログインしていたプレイヤーは皆がゲームの世界に取り込まれ、ゲーム内で1年間。現実世界で1週間幽閉された。そして、これから長いようで短い壮絶なる日々が始まったのだった。
第一章 完