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第三話


 部室に入ると、そこには美しい女性がいた。

 腰ほどまで伸びた黒髪を揺らし、じっと背筋を伸ばしテレビ画面に向かっていた。

 少しだけ視線は鋭く、画面を睨みつけていた。


 わがゲーム部の部長――竜宮寺りゅうぐうじさくらだ。

 校内一ともいえる美少女であり、文武両道の天才。おまけに家は金持ち……すべてを揃えたパーフェクト部長だ。

 俺たちと同じ二年生で、彼女が初代ゲーム部部長となる。……まあ、つまり、部長が部をたちあげ、俺たちを誘ったということだ。

 

 彼女のゲームの腕前はかなりのものだ。特にアクションゲームが得意。

 今も画面内ではオンライン対戦を行っているようで、あれこれぶつぶつ呟きながら戦い続けている。

 一戦終わるごとに、先ほどの戦闘の反省点や良かった点などを手元の紙に書いている。


 基本的に、部長とアキ――副部長はガチのゲーム好きで、大会にも参加するようなレベルだ。


 部長とアキがゲームをしているときに邪魔するとガチでキレられるので、黙って隅に行く。

 俺はそこまでではないが、数合わせとしてこの部にいるという感じ。まあ、それなりに得意なほうではあったが。


「部長」

「あら、ユキ。来ていたのね」


 部長が水分補給をしたところで、ようやく俺に気づいたようだ。


「ついさっきな。昨日編集しておいた動画、確認してください」


 俺が持ってきたノートパソコンで動画ファイルを見せると、部長がすぐにこちらへ向かってきた。


「一応確認したんで大丈夫だと思うが」

「まあ、ユキなら心配はないでしょう」


 部長は席につき、俺のノートパソコンをいじり始めた。

 我が部はユーチュ○ブにチャンネルを持っていた。

 動画を投稿することを、この部の活動の一つとしていた。


 現在の我が部の目標はチャンネル登録者数一万を目指すこと。

 まだ千に到達したばかりであるが。


 基本週一更新。おまけにプレイ動画に基本声などは入れない。あくまで、ゲーム技術向上のための動画ばかりなので、玄人向け。

 なかなか人気が出るには難しいだろう。ほら、最近だと毎日更新、なおかつ声が入っているのが基本だし。

 部長とナツは声も可愛いので、二人に和気あいあいと百合営業でもさせていれば爆発的な人気を集めそうなんだがな。

 それか、アキの顔を映しておけば女性ほいほいできるのではないだろうか?


「あっ、今のなんでそう動いちゃうかな……」


 部長は動画を見ながら、自分の動きを反省している。

 本当に綺麗な人だな。アキが惚れるのも無理からぬことだろう。

 この人が……本当にアキを好きになったのか? 相変わらずの氷の仮面をかぶっている彼女に、少し聞いてみることにした。


「そういえば部長」

「なにかしら?」

「アキ、ちょっと遅れるらしい」

「そういえば、一緒ではなかったわね。同じクラスなのに」

「ああ。アキは一年生からラブレターをもらってな。その相手をしにいくらしい」


 がたんっ! とわかりやすく彼女がびくついた。

 ……お、おお。

 見れば彼女の氷の微笑はさらに鋭くなっていた。

 これは間違いなく、怒っている、はずだ。


 以前までなら、何にキレていたのか分からなかったが、ナツに聞いたおかげでわかる。

 完全に惚れてやがるぜ。


「まさか、それで部に来るのが遅れているのかしら?」

「それでって言ってもな。アキはほら、結構周りに気を遣うだろ?」

「まったく……向こうが勝手に告白してくるのだから相手に合わせる必要もないでしょう」

「部長は……そうだもんな」


 部長に告白する人は、この一年でほとんどいなくなった。

 彼女は相手に理由を丁寧に説明し、告白を断る。おまけに、時間を指定されていてもその前に断りに行くのである。

 そんなことばかりしていたからか、アキと同じような立場であるにも関わらず、彼とは真逆の評価になっていた。

 アキは本音だけはきっちり隠すからな。だから、友人も多い。部長は……友人ゼロである。


「それにしても、まだ告白されているのね」


 部長は……どうやら少し気になるようだ。腕を組む、眉間のあたりがぴくぴく揺れている。


「なんだ部長。ちょっと気になる感じか?」

「そ、そんなことないわ」


 気になるようだ。とたんに顔が赤くなり、慌てだした。

 なんてわかりやすい反応だ。可愛いくらいだ。


「それなら、まあいいか」


 俺が話を終わらせると、部長がちらちらとこちらを見てくる。

 頬は膨らみ、ぷるぷると震えている。俺は横目で気づかれないように見ているので、部長はたぶん俺が気づいているとは思っていない。


「……けど。部長としては少し心配ね。部活動に支障が出るかもしれないわ」

「アキなら真面目だから大丈夫だと思うが」

「そういう人が案外恋愛になった瞬間に豹変するものよ」

「やけに詳しいな。実体験か? まさか部長が?」 

「私はそんなくだらないことに時間をつぶすつもりはないわ」


 ふっと、氷の微笑を浮かべ、髪をかきあげる。

 ……本気で言ってんのかね。


「そうか。まあ、アキは恋愛しても特に性格が変わることもないから、安心してくれ」

「……どういうことかしら?」


 俺の言葉に、賢い部長が食いついてきた。

 今の言い方だと、アキが付き合ったことがある、ということになる。

 やはり部長としては、そこがとても気になるようだ。


「昔付き合っていたこともあったけど、そういうときも特に変わったことはなかったからな」

「……付き合ったことあったのね」


 女子的にはどうなんだろうか?

 女性経験のない男子と、女性経験がある男子、どちらがいいのか?

 ほら、男子だと、処女がいい! みたいに言う人もいるが、女性でもそういうのはやはり一定数いるのだろうか。


 ただ、部長が誰かも知らない相手に嫉妬しているのは確かだ。

 ……この部長、外面は非常に良いが基本ポンコツ。勉強も運動もできるが、抜けているところはとことん抜けている。


「まあな。それで、何度か色々な女性と付き合ってみては、別れるを繰り返して――結果、誰かと付き合っても楽しくないという結論を導き出したみたいだ」

「……そうなのね。それは私もだわ」

「へぇ、部長も?」

「昔は一応相手したことがあったわ。何も知らないですべて断るのは相手にも失礼という考えがあったのよ」

「いつからこんな酷い性格に……」

「誰がひどい性格かしら? 色々と付き合ってみての結論としては――結局相手のことを知っても、どうでもいい相手のことはどうでもいいってこと。だから、私は誰とも付き合うことをしないことにしたわ」


 うん、やっぱり酷いな。


「けれど……本当に遅いわね。それに――ナツも」


 ナツを思い出したようだ。


「ナツは職員室寄ってから来るとか言っていたな」

「ふーん、そうなのね」

「二人っきりだな、部長」

「そうね。ゲームでもする?」

「いやほら。ここはなんかこう、イチャイチャなイベントとか起きる場面じゃないか?」

「あなたと私の間に何かあると思うかしら?」

「いや、何もないが。そこはこう、ノリでな」


 くすくすと部長が笑う。


「あなたと何かあったら私の命がなくなるわ」

「俺を何だと思っているんだ?」

「あなたではないわ」


 どういうことだ?

 そう思ったところで、部の扉が開いた。


「遅れましたみなさん。って……あれ、部長だけですか?」

「おーい、もう一人イケメンがいますよー」

「あっ、ユキ先輩いたんですね」

「それはゴミ袋だぞ」


 彼女は部室にまとめてあったゴミ袋を見ていた。


「あっ、こっちだったんですね」

「そのゴミと間違えました、みたいな反応やめてくれる?」

「相変わらずね二人とも。まだうちの副部長が来ていないみたいだから、もう少し待ちましょうか」

「あれ、まだだったのですね? 何かあったんですか? 事故とか?」

「校内で事故にあってたまるか」

「でも先輩。頭にいきなりケシゴム落ちてきたことありませんか?」

「つい先日そういえば俺の頭の上にどんぴしゃりで落ちたな。おまえか?」

「すみません。手にもっていたケシゴムを窓の外に投げたら、たまたま」

「そんな状況普通ないからな?」


 まったく、相変わらずだなこいつは。

 そんなことを話していると、アキがやってきた。

 これで、部員全員勢ぞろいだな。


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