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第一話


『どうして人は恋愛をするんだろうね、ユキ』


 宗川むねかわ冬樹ふゆきが俺の名前だ。

 冬樹からゆきの部分をとって、ユキ。それが俺のあだ名だった。


『知らん』

『いい加減、毎日のように告白されて嫌になっていたところなんだ。僕のかわりに断ってくれないかな?』

『おまえ鬼畜か?』


 この話をしたのが、中学卒業のときだったか。

 俺の友人――鵜久森うぐもりあきはそれはもうモテる男だった。

 頭はいいわ、顔はいいわ、運動できるわ……まあ、たぶんできないことはないんだろう。

 

 男子女子分け隔てなく優しく、常に中心にいるような人間。

 漫画やアニメのキャラクターなら、間違いなく主人公になれる……それがアキという人間だった。


 とにかく恋愛が大嫌いな彼は高校進学してからも変わらなかった。

 そう――ゲーム部に所属するまでは。

 ゲーム部に所属して一年。二年にあがった俺は、アキに相談された。


『……ユキ。僕、好きな人ができたんだ』

『なら、夕焼け綺麗な放課後に俺じゃなくてそいつを呼び出せよ』

『は、恥ずかしくて呼び出せるわけないだろ!』

『で、その好きな相手って……まさか部長か?』

『な、なぜわかった! キミはエスパーか!』

『いや……わかりやすかったし……』

『ぶ、部長にもばれているのかな……っ!?』

『いや、部長そういうの興味なさそうだし……』


 俺たちの所属するゲーム部部長は、昔のアキのような奴だ。

 何人もの男子生徒が部長に告白したにも関わらず、すべて一刀両断。

 『どうして恋愛をするの? 何の意味があるの?』。それが部長の口癖だ。


『ユキ……僕の恋愛を手伝ってくれないかな?』

『……手伝うって。まあいいが』

『よ、よかった……今日の相談はそれだったんだ! ありがとう、ユキ……っ!』


 

 〇



 というのがついさっきあったことだった。

 俺は教室で一人黄昏れていた。

 ……それにしても、あのアキがあんな顔をするなんてな。


 今まで見たことのない恥ずかしそうな顔であった。

 爽やかなイケメンがあんな顔をして女子に迫っていたら、確実に惚れていただろう。

 ていうか好きな相手は……部長、か。


 部長とアキはよくぶつかり合っている。

 テストの成績、運動の成績……彼女らはどちらも一位、二位を取り合うような天才たちだ。

 だいたい二人がいつも競い合っている姿はよく見る。


 俺がそんなことを考えながら教室に一人いると、だ。


「先輩、もう大丈夫ですか?」

「ん? ああ、もういいぞナツ」


 うちの部に今年入った唯一の後輩である能倉のうくら夏美なつみが教室の入り口にいた。

 後輩の彼女はふわりとした茶髪を揺らしていた。制服は大胆に着崩していて、高校生活を満喫しまくっている女だ。

 見た目は完全にギャル。だけど、彼女はゲームやアニメが大好きなオタクでうちの部の唯一の後輩である。

 

 相変わらず、可愛いやつだな。きっと彼氏とかも容易く作ってしまうはずだ。

 ……あんまり、そういう姿は想像したくないな。


「先輩、すみません。わざわざ放課後に待たせてしまいまして。あっ、カワイイ後輩のために待てるのなら悪くないですか? 悪くないですよねぇ」


 つんつんとナツが頬をつついてくる。

 いちいち距離が近い。内心ドキドキしていたが、それは表に出さない。


 もうすぐ2ヶ月近く経つんだ。ナツがこういう奴なのはわかっている。


「俺もアキと少し用事があったからな」

「アキ先輩とですか? 何かあったのですか?」

「いや、まあ……その……」


 どうするかね。

 同じ部の仲間として彼女をこちら側に引き入れようか少し迷う。

 ただ、どうだろうか? もしもアキが部長のことを好きだとしったらナツは落ち込まないだろうか。


 アキはモテるからな。

 アキと部長を使って新入部員を募集したところ、かなり人が集まったくらいだ。

 ちなみに、アキと部長がゲームで対戦して腕の良い人を選別した結果誰も残らなかったが。

 

 見込みありだったのがナツだけだ。もともと、部長の知り合いだったというのもあるだろう。

 ただなぁ。ナツこういう風に人にウザイ絡み方をするからな。

 こいつ、人をからかうのが大好きだからな。


「俺は別にいいんだ。それで……おまえも俺に用事があったんだろ? なんだ?」

「そうですねぇ……」


 ナツはぽりぽりと頬をかき、それから少し頬を染めてうつむく。


「なんだまさか告白か?」

「その……まさかなんです」

「おいおいマジかよ」


 わかってる。絶対からかうための嘘だってわかっている。

 けど、ドキドキしてしまう。彼女の瞳がうるうると震えた。


「はい……ユキ先輩……大好きです。付き合ってください」


 顔を真っ赤にして、彼女はそれはもう真に迫った告白をしてきた。

 けれど、彼女の片手はポケットに入っている。

 普段彼女は右手側ポケットにスマホを入れている。


「録音でもしてるな? 俺が返事をしたら弱味を握るために」

「よくわかりましたねー」

 

 彼女はスマホを取り出して、軽く振って見せる。画面側見せなきゃ何が映ってるかわからねぇっての。

 危ないところだった。あまりの可愛さに、心臓が飛び出るところだった。


「ユキ先輩に告白とかありえないですよー」

「笑顔で言うことじゃねぇぞ。ったく。俺じゃなかったらショックで三年くらい寝込むぞ」


 普通に泣きそうだ。


「引きこもりの完成ですね」


 まさしく、部長が見出した才能なだけはある。

 

「先輩に相談したいことがありましてね」

「……おまえがか?」


 よっぽどの問題なんだろう。

 ナツも珍しく表情が険しい。


「はい。たぶん先輩も驚いて奇声をあげると思います」

「はっ、おまえ俺が人生で驚いたことなんて数えるくらいだぜ?」

「ちなみにどんなときで?」

「ゲームのセーブデータが消えてたときだけだ」

「しょうもなー」

「しょうもなくねぇよ。全キャラのステータスを限界まで鍛えまくって、あと少しってところで吹っ飛んだんだからな。ショックで寝込んだわ、八時間くらい」

「ただの睡眠ですね」

「それで? どんな相談だ? おまえが相談って時点でわりと驚いているんだが?」

「それがですね……」


 彼女は一呼吸のあと、険しい顔で言った。


「部長に恋愛相談されました」

「なに!?」

「相手はアキ先輩です。大好きだそうです」

「おべぇ!?」

「うるさいですよ先輩、檻にぶちこみますよ」


 そりゃあ驚くっての!


「俺もおまえに相談したいことがあるんだよ! 絶対驚いて奇声あげるだろうぜ!」

「はっ、私が驚くと思います?」

「さっきアキに恋愛相談されたんだよ! 部長が好きだって!」

「おべぇ!?」


 おまえだって驚いてんじゃねぇか!

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