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第二十八話

 いつもよりホームルームが長引いたな。

 ようやく解放された俺たちはそのままゲーム部へと向かう。


「おまえ良かったのか? みんなにカラオケ誘われてたけど」


 毎度のごとく、アキは友人の誘いを断っていた。

 それだけ、部長に会いたいというのもあるのかもしれない。


「この前遊んだからとりあえずはいいかな? それに次の約束もしてきたでしょ?」

「ああ、俺まで誘いやがって」


 俺はもちろん断ったが。

 どうせアニソンしか知らないからな。最近の若い子が知っている曲は知らん。


「あれでいいんだよ。断るだけだとあんまりいい印象与えないけど、次の約束、代替案を出して誤魔化せるんだよ」

「それが仲良くするコツってか?」

「そういうこと。ま、ここまで意識する必要もないと思うけどね」

「それじゃあ、その天才的な理論を持つアキは、一体いつ部長との距離を縮めるんだ?」

「ぐっ……」


 俺の言葉にアキの頬が引きつった。

 遊園地デート以降、彼らの仲は縮まっていない。

 この前の風呂がどうだったかは聞きたいところだが、さすがにそれを質問すると俺たちが画策したのまでばれてしまうからな。


「そ、それは……その、色々と難しいんだよ」


 とたんに恋する乙女みたいに顔を赤くして困った様子を見せるアキ。

 まったく。普段の余裕たっぷりはどこへやらだ。


「何かきっかけがあれば……いいんだけどね。ほら、ギャルゲーのイベントみたいな」

「球技大会」

「……いたいところつくね」


 逃げようとしたアキに俺が攻め込む。

 アキは頬をかきながら、言い訳を探している。


「よくあるだろ。文化祭の後夜祭で告白する、とか。大会でいい成績のこしたら告白するんだ、とか。この戦争で生き残ったら結婚するんだ、みたいな」

「最後のはただの死亡フラグだね」

「おまえもそういうのをきっかけに告白したらいいんじゃないか?」

「こ、告白……い、いくらなんでもはやくないかな!」

「むしろ遅くね? 俺たちもう部活で一年一緒にやってきたんだぞ? 社会人だったら結婚を考え始めてもおかしくないだろ?」

「僕たち学生!」

「つまり俺が言いたいのは、時間なんて関係ないということだ。きっかけが欲しいなら、球技大会はいいタイミングじゃないのか?」


 俺の言葉に、アキは唇を結びそれからゆっくりと頷いた。


「悪く、ないかもね」

「おっ、決意できたか? じゃあ、球技大会に参加したら告白ってことで」

「難易度低すぎだよ! もう告白前提じゃないか!」

「なに? する気ないの?」

「い、いや違うんだよ……」


 アキはぽりぽりと頬をかき、照れた様子で頬をかく。

 窓から差し込む夕日をバックにしていると、とても様になるな。


「けどこういうのって、やっぱりそれなりのハードルを越えて、心を強くしてからのほうがいいと思うんだよね」

「なら、なんだ? バスケで優勝か?」

「そのくらい、かな。僕たちが組めば決して無謀じゃないしね」


 アキがちらと俺を見てくる。

 ……仕方ないな。アキのためにも、真面目にやらないとか。


「わかった。それじゃあ優勝したらちゃんと部長に告白しろよ」

「う、うん……頑張る」


 ……こいつ。

 「テストで百点とれよ」といえば、「とるよ」と二つ返事してくるのだが、そんな彼でもよっぽど大変なことのようだ。

 告白ってどんな感じなのだろうか? 誰かに恋しているときとかって胸が苦しいっていうよな?


 俺もプールで足がつったことがあるが、確かにあれは苦しかった。胸どころか足も痛くて全身苦しい。

 告白が似たようなものだとしたら、確かに辛そうだ。


「あの、アキがこんなに余裕がないんだから、恋愛ってすげぇな」

「……うっさい。恥ずかしいんだよ。今までの関係とかいろいろあるんだし。いきなりそう変えられないの」

「誰かと友達なるときはさくっと行くのにな」


 きょとんとアキが首を傾げる。


「そんなの声かければ終わる話じゃん。……恋愛は経験ないのも一つの原因なんだよ。僕の経験って恋愛ゲームだけだよ?」


 告白されて、付き合ったことはあっても恋愛したことがないのがアキだ。


「あれだ。とりあえず、部長と話をするとき恥ずかしくなって喧嘩するのはやめたほうがいいんじゃないか?」

「わ、わかってるよ! けど、恥ずかしいんだよ!」

「それでもほら、優しさを見せるとかしたほうがいいって。冷たいことばっかしてたら嫌われちまうぞ? 小学生男子が好きな子にいたずらして、それで好きになるなんてまずないんだからな?」

「うっ……それはまさしく正論、だけど……。努力して、みる」


 こくこくと頷くアキとともに部室の扉をあけながら、


「でも、球技大会に優勝したらとか理由つけるのは男らしくないよな?」

「君が提案したことなんだよねぇ!」


 アキが声を張り上げると、そこで部長がこちらを見てきた。


「遅刻していきなり怒鳴りながら部室に入ってくるのは無礼がすぎるのではないかしら?」


 今日も姫は氷のような視線である。

 内心ではアキが来たことを喜んでいるかもしれない。


「遅刻ってそんな真面目な部活でもないでしょ?」


 アキも喧嘩モードに入る。


「あら。ゲームを不真面目と言いたいのかしら?」

「ゲームを馬鹿にしているんじゃないよ。キミだって、別にゲームをしないでラノベ読んでるだけじゃないか」

「ラノベを馬鹿にするのかしら?」

「しているのは君だよ?」


 ……さっきの話覚えてる? 二人が顔をつきあわせ、唸り始めた。

 まあ、ある程度発散するのも大事だと思っている俺は、関わるつもりはなかった。

 俺はテーブルにカバンを置いて腰掛ける。


「ユキ先輩こんにちは」

「ああ、こんちは」

「昼休みは何やらリア充グループの方と一緒にいましたね」


 見てたのか。こっちはこっちで、なんだか探偵のような表情である。


「ああそうだな。あのとき本当に何の用事もなかったのか?」

「……別に、そういうわけではありませんよ。たまたま、見かけて声をかけただけです」


 ナツの調子がいつもと違うのはすぐにわかった。


「昼休み、随分と仲良く声をかけてもらっていましたね。あの可愛らしい女子の人に」

「ああ、エリか?」

「エリ……。たしかその人って、加藤絵里さんですか?」

「やっぱり有名なのか?」

「はい。たぶん部長よりも親しみがあるので、校内でもかなりの人気だったはずですよ?」


 だろうな。

 女王様のような部長も一部から人気はあっても、そこどまりなことが多い。

 部長ではカバーできない部分をカバーしている、のかもしれない。


「それで……どんな話をしたんですか?」

「別に。大した事じゃないな」

「……そうなんですね」

「どうしたナツ。そんなにエリの情報が欲しいのか? それならアキに聞いたほうが手に入るぞ?」


 女同士、何かこう譲れない戦いのようなものがあるのかもしれない。

 確かナツも校内ではかなりの人気者だ。エリを超えたいと思っているとかだろうか?


「ユキ先輩と絡んでいたのが気になるだけです」

「なんだ。もしかして、心配しているのか? 俺がカワイイ子と仲良くなってるとかで?」

「はい。加藤先輩に変なことしないでくださいね? 先輩が逮捕される分には構いませんが、ご家族や親しい人たちに迷惑かけるんですからね?」

「……心配の意味が違うんだけど」


 てっきり嫉妬でもしていたのかと思ったが、この後輩に限ってはそんなことないか。

 二人の喧嘩が落ち着いたところで、部長がポケットから何かを取り出そうとした。


「あ、あれ。スカートに引っかかって……っ」


 部長がポケットからそれを落とした。

 ぶちまけられたのはトランプだ。恥ずかしそうに部長がそれを拾い集めたあと、顔を真っ赤に叫んだ。


「今日は大富豪で遊ぶわ!」


 今日は珍しくアナログなゲームだな。



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