第二十六話
昼休みになり、いつものようにお昼を食べようかと思っていたら、アキがやってきた。
「今日の昼ってナツちゃんと予定あったっけ?」
「そんなあるの前提みたいな聞き方すんじゃねぇよ。誤解されるだろ」
「ごめんごめん。それで?」
「いつもどおりのぼっち飯の予定だが……」
「そっか。それじゃあ一緒に食べない?」
「別にいいが……いや、待て」
アキがわざわざ誘ってくるのがどうも怪しかった。
何よりアキの表情も、どこか外向きの笑顔である。
俺の言葉にアキはぴくりと反応した。
「やっぱり、わかっちゃう?」
「わかっちゃったね」
俺が逃げようとすると、アキが腕を掴んできた。
「あれからエリにいろいろ聞かれてさ。お昼に誘ってくれない?って頼まれちゃったんだよ」
「誰だそいつは」
「……いや、クラスメートの名前覚えておくんだよって前に言ったよね?エリ……かなり目立つ女子、 体育の時間、ユキに声をかけてた女子」
あー、あの子ね。
茶髪で、明らかに俺とは別世界の住民みたいな人だ。
オタクからすれば、髪を染めてるだけで住む世界が違うという認識である。
と、前に部長と語ったのを思い出した。そういうわけで、ナツもアキも俺たちとは本来関わり合いにならないような存在だが、彼らもオタク仲間である。
「ってことは、他にもいるんだろ?そんなリア充集団に紛れ込んでみろ。借りてきた猫みたいになるぞ?欠席した修学旅行の写真並の疎外されるぞ俺」
「大丈夫大丈夫。俺とエリの間に座れば」
「拷問か?」
なんで一番目立つ奴の間に座らねばならないんだ。
「まあ、たまにはいいじゃんか。話のネタになるよ?」
「ネタにされるの間違いでは?」
こいつらリア充は失敗談も笑い話にできるが俺は違うからな。
失敗したら暇なときに思い出すんだからな?なんで俺はあのときあんなこと言っちゃったんだーという感じだ。
「嫌だったら……まあ、いいんだけど」
「……わかったわかった」
そういう顔をされると弱い。俺は友達思いだからな。
アキがにこっと柔らかく微笑んだ。
俺たちは食堂へと移動する。滅茶苦茶久しぶりだな。
「最近ユキって食堂来てなかったっけ?」
「ほとんどな」
ナツが弁当を作ってくれるようになってからはまったくだ。
そのナツも友達といつもは食事をしているらしい。
ちなみに今日はナツも作っていない。毎日は大変だろうと、毎週何度か休みにしている。いや別に強制で作らせているわけでもないんだけどな。
食堂を歩いていると、次々に視線が向けられる。
そのほとんどがアキに向いている。
みんなの羨望の目に、アキは嫌な顔ひとつせず爽やかな笑顔を見せ続ける。
まるでアイドルだな。
「おーい、秋。こっちだこっち」
アキの友人が大きく手を振ってアピールしてきた。
そちらにはすでに五人いた。
男子二人、女子三人の集団だ。そこに俺たちが加わるとバランスが悪くなるので、俺は帰ってもいいだろうか。
「あっ、秋。ちゃんとつれてきてくれたんだね」
エリが軽い調子で声をかけている。部長に連絡してこの場に呼びたい気分だった。
「まあ、約束されてたからね」
「体育の時間そんなに話せなかったし、こうして来てくれてありがとね」
「いやまあ。……ていうか、俺はあれ以上別に話すこともないんだけど……」
「いやいや。ユキくんになくても、私にはいろいろあるんだよね!」
「ほら、ユキくん困ってるよ。相変わらず一度気になるととことん聞くよねエリは」
にやりと笑う彼女を落ち着かせるように、他の女子が声をかけている。
……そんなに気になるようなことでも話したのか?アキをちらと見たが、特に何かいいそうな空気はなかった。
頼むから中学の黒歴史や、写真とか持ち出してくるなよ?
とりあえず、食券を買いに行く必要がある。
他のみんなはもう買ってたからな。
「アキ、なにか買ってくるけど、何がいい?」
逃げるように立ち上がる。自然な動きで優しさまでアピールしてしまう俺天才。
「それじゃあ僕は日替わりランチかな」
「了解だ」
「ちゃんと戻ってきてね」
逃げねぇって。まあ、彼のものがなければそのまま逃げていただろうが。
とりあえず席を離れ、券売機へ向かう。
今頃俺のことでなにか噂をしているのだろうか。
リア充グループってどんな話すりゃいいんだよ?まったく何もわかんねぇ。
券売機に並ぶと、すっと隣に女子が立つ。
「ユキ先輩、一人で食堂ですか?」
そいつはナツだ。
彼女もアキほどではないが注目を集める人物であり、周囲にいた人たちがこぞって俺を見てきた。
ナツの表情は何やら少し真剣な様子だ。……なんだ?何か怒りでも買うようなことしたか、俺?




