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プロローグ3


 春休みも終わり、新二年生としての一日が始まる。

 本日は入学式。在校生もとりあえず参加だけはするのだが、特別何かあるというわけではない。


 部活に所属している人たちは、それはもう忙しいのだろう。新入生に向けて、部活の宣伝をするためのビラ配りなんかをしているが、うちの部にはなかった。

 もともと、所属しているのが部長を含めて三名。全員二年生であり、別に部の存続とかを意識することもなかった。


 そもそも、部長がプロゲーマーを目指すために、技術力の向上を目的としての創部だ。

 中途半端な奴は入れたくない、というのが部長の本音でもあった。


 朝、いつものようにぐーすか寝ていると、ドアチャイムが部屋に響く。

 制服に袖を通した能倉がそこにはいた。

 ……うちの制服は結構女性に人気があるとか言っていたな。


 能倉はもともと顔が整ってるからか、よく似合う。

 この春休みの間、暇さえあればうちに遊びに来ていた彼女を、俺はすっかり好きになってしまっていた。

 それでも絶対表には出さない。こいつに好き放題からかわれるだろうからな。


「どうしたんだ? ……今日は別に朝食はいいって言っておいたが」


 春休み。何度か彼女と関わることがあり、とうとう俺の食生活について踏み込まれてしまった。

 もっと、ちゃんと栄養ある食事をしてください、と言われ、それから何度か食事を作ってくれることになった。

 学校が始まってからは彼女の生活もあるから、別にいいと伝えておいたんだ。


『そうじゃないです。一緒に行きましょー、先輩』

「は?」


 なにそれ。仲良く登校なんてまるでカップルじゃないか。

 俺は冷静に呼吸を繰り返す。


『先輩と一緒に行きたいんです。一人だと迷子になるかもしれないんで!』


 俺のドキドキを返せ!


「……ふざけんな! おまえら新入生は在校生より一時間早く登校するんだろ!」


 入学式前に一度話をするとか何とかで、新入生は八時半集合だ。

 そして、在校生の俺たちは入学式からの参加というわけで、九時半までに学校にいけばいい。

 俺が怒鳴りつけると、能倉はむすっと頬を膨らませた。


 映像を切って、再びベッドに潜った俺だったが、連続のドアチャイムに邪魔される。

 スマホを見ると、何度もメッセージとスタンプが送られてくる。

 嘆息をついた俺は、制服に袖を通しながら、玄関を開けた。


 にこっと太陽のように眩しく笑う彼女を、じろっと睨みつける。


「……なんで、俺が一時間も早くいかないといけないんだよ」


 あくまでふてぶてしく、嫌ですというオーラを出しまくる。


「私、初めてで不安です。ですから、先輩と一緒に行きたいなって」

「俺とお前は先輩後輩。一緒に行っても意味ないだろ?」

「意味なくないですよー。先輩が一緒なら、心強いです」

「……はぁ」


 心強い、頼りになると言われているようでちょっと嬉しかった。

 俺はスマホで時間を確認してから、仕方なく外に出た。


「今日だけ、一緒に行ってやる」

「わっ、本当ですか? 先輩優しいですっ! これからお願いしますね!」

「……聞いてた? 人の話」


 呆れて彼女をじろっと睨むのだが、能倉はそんなこと気にもしていないようだった。

 共に並んでアパートを出る。

 

「新入生って、入学前からLI〇Eとかのグループができてるってのは本当なのか?」

「はい。私も所属してますよ?」

「まだ、クラス分けもされてないよな?」

「今日行ったら張り出されてるみたいですね。もう学校にいる人もいるみたいで、クラス分けの画像がアップされてましたね」


 能倉は慣れた様子でスマホを弄り、こちらに見せてくる。

 

「俺見ても意味ないんだけど」

「先輩の名前ないかなって思ったんですけど、ないですね」


 留年前提かよ。


「別に早くいくこともそんなにデメリットばかりじゃないでしょ?」

「デメリットばっかだ」


 まあ、一緒に登校できたから、めっちゃ嬉しいけど。


「在校生の人には入学式準備のために早くから登校する人もいるんですよね?」

「そういうのはボランティア精神旺盛な奴だけだ」


 能倉の言う通り、入学式準備を手伝う人もいた。

 けど、そんなのは事前に申し込んだ人くらいだ。


 学校につくと、二人の男女が並んで新入生の案内をしていた。


「……部長に、アキ。受付担当だったのか?」

「ええ、そうよ。最悪ね、この男と一緒なんて」

「それは僕の気持ちだよ」


 ばちばちと睨み合う部長とアキ。

 ……部長――竜宮寺りゅうぐうじさくらという名前で、学校内で一、二位を争う美貌を持っている。入学してから半年の間は、それはもう告白の嵐だったらしいが、彼女の性格は、とにかくきつい。

 そういうのもあって、今では告白はめっきりなくなったらしい。……とはいえ、この受付で今年もまた一年生たちから告白されそうだが。

 そんな部長と睨み合うのは、俺の唯一といってもいい幼馴染にして大事な友人、鵜久森うぐもりあきだ。


 どこのモデルをやっていたんですか? と言いたくなるような容姿。爽やかな笑顔で、おまけに気遣いもできる完璧な男だ。

 部長と違って、少なくともみんなからは優しい奴と思われていることもあって、今も学校内外から告白を受けまくっているらしい。

 ……この二人を案内役にできるのは、うちの学校の最大の強みだろう。


「えーと……ユキ、隣にいる人は?」


 俺の名前は冬樹だから、ユキ。

 アキが俺の隣をじっと見ていると、にこっと能倉が微笑んだ。

 それを見て、部長が俺と能倉を見比べた。


「あら、ナツ。ユキと一緒に来ていたのね」

「はい。ちょうどいいと思いまして」


 ……そういえば、部長の友達だったか。

 部長は男女ともに、距離を置きがちだった。

 人見知りであり、ぼっちだったため、友達がいるという事実が信じられなかった。


「……ぶ、部長の友達!?」


 アキが一番驚いている。この一年、何かと部長とはよくケンカをしていたアキだからな。

 部長がむっと顔をしかめたが、今は紹介を優先したいようで能倉を見ていた。


「この子、あたしの友人で、今年からゲーム部に入る予定の能倉夏美よ」


 部長が言うと、能倉が一歩前に出て、微笑んだ。


「私、能倉のうくら夏美なつみです。気軽に、ナツって呼んでください」

「う、うんよろしく……部長がゲーム部に誘ったってことは、かなりゲームが得意ってことかな?」

「まー、それなりには、って感じですかね」

「そっか。僕は鵜久森うぐもりあき。一応、副部長させてもらってるんだ。よろしくね」


 アキがいつもの爽やかな微笑を浮かべる。

 これに落ちない女はいないとも言われている。

 能倉は笑顔のままで、アキから俺に視線を向ける。


「そういうわけで、よろしくお願いしますねユキ先輩」

「俺はまだ気軽に呼んでいいって許可出してないんだけど」

「えー、いいじゃないですかぁ。先輩だって、私に名前で呼んでもらえて嬉しいですよね?」

「いや、全然」


 嬉しいですはい。

 俺はため息だけを返し、校舎へと向かう。

 この春休みで、彼女の面倒な絡みには慣れたつもりだが、嬉しそうに笑うのはやめてほしい。


 心臓が飛び跳ねそうになるから。

 けど、俺は騙されない。

 彼女は俺をただからかっているだけなんだからな。





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