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第十八話


「雨ですね」


 あくびを片手で隠しながらナツとともに外を見る。


「雨だな」


 月曜日というのは憂鬱だ。

 おまけに今日の天気は雨。となれば、学校に行くのはもうやめたいくらいである。

 やめよっかな。


「先輩。傘って持ってましたっけ? 私、学校に置きっぱなしで持ってないんですよね」

「それもうだれかに取られたんじゃないか? どうせビニール傘だろ?」


 どうにも、学校という場所は傘を自由に使っていいと勘違いされているのか知らないが、ビニール傘だと好き勝手持っていく輩が一定数いる。

 そんな山賊どもに巻き込まれれば、傘なんてすぐに失ってしまう。


「先輩、なんか疲れた顔してますね」

「そりゃあまだ遊園地の疲れが残ってるからな……」

「いや土曜日じゃないですか。いつまで引きずってるんですか……」

「普段外でない人間にはああいうたくさん人がいる場所はダメなんだよ……」

「まったく。それよりどうします? 傘一本しかありませんね」

「その一本俺のな」

「それじゃあ、二人でさしていきますか?」

「仲良く相合傘ってか? 近くのコンビニに行って買えばいいだろ?」

「それまでの道のりはどうしますか?」

「それまでは――ナツ、我慢できるか?」

「一緒にさしていきましょうか」


 仕方ないな。

 ナツが傘を広げて、こちらに向けてくる。

 受け取った俺が傘を持ち上げると、ナツがすっと近づいてきた。


「そういえば先輩。アキ先輩はどうでした? この前の遊園地、楽しんでくれましたかね?」

「楽しんでたみたいだぞ。ただ、やっぱり素直になれないことが結構引っかかってるみたいだ」

「あー、そうなんですね。素直に気持ち伝えたら一発で解決してしまうんですけどね」

「裏側が見えている俺たちからすればそうだけどな……まあ、それを教えるのも野暮だと思って伝えてないな」

「私もそれに関しては同意ですね。二人で気づいてこそです」


 初めにお互いで話していた通りだな。


「それで? 部長のほうはどうだ? 昨日遊びに行ったんだよな?」

「感謝されましたね。遊園地でのダブルデートや、二人きりにしてくれたこととか」

「滅茶苦茶素直に色々言ってくるんだな」

「はい。嬉しそうに頬を染めて、体をくねらせながらアキ先輩のこと語ってくれましたよ。お化け屋敷では、アキ先輩が手を握ってくれたらしいですよ?」

「なんだそれ。一部始終録画してみてやりたかったな」


 ナツがこちらを見てくる。


「私も楽しかったですね。先輩とのデート」

「俺とのデートがか? ただ一緒に回っただけだろ」

「ああいった場所に先輩と行ったことはなかったですからね。新鮮でよかったです。酔った時の先輩は可愛かったですしね」


 にこっとからかうように笑ってくる。

 また一つ、忘れたい黒歴史が追加されてしまったな。


「次にジェットコースター乗るときはきちんと眠って、飯も食べてからにするわ」

「また行きたいということですか?」

「機会があればな」

「そのときは一緒に行きましょうか。さすがに一人ではいけないでしょう?」

「そんときまでナツに彼氏ができてなかったらな」

「それなら大丈夫だと思いますね」


 本当かよ? ナツなんてたいそうモテるんだから、なんなら明日までに彼氏だってできるだろう。

 ちなみに俺は彼女ができることは恐らくないので、自分の心配は一切していなかった。

 コンビニについたところで、傘を一本購入する。


「別にあのまま学校まででも問題なさそうでしたけどね」

「一緒に登校してる時点で付き合ってんの? とか聞かれるくらいなんだぞ? これ以上変な誤解増やしたくないだろおまえも」

「なんでですか? 私は別に誤解されても構いませんよ?」

「誤解されたら彼氏できなくなるぞ?」

「そのときは、先輩が責任を取ってくれるんじゃないですか?」

「おまえの彼氏ができなかった責任をとれるような人間じゃないぜ、俺は」


 ひらひらと手を振って歩いていく。

 俺の隣にナツが並ぶ。

 学校へと向かう生徒が増えてきたな。それを見ていたナツが口を開いた。


「そういえば先輩。今日から球技大会実行委員の活動があることはご存知ですか?」

「球技大会実行委員? あー、そういえばアキも選ばれてたな」

「あっ、そうなんですね。実は私も実行委員になりまして、その関係で放課後の部活に遅れると思います」

「そうか。それじゃあ今日は部活どうするんだろうな? 部長何か言ってたか?」

「通常通りで行うとは言っていましたね。適当にゲームでもして時間を潰すやつじゃないですか?」

「了解だ。それにしても部長と二人きりか。ドキドキするな」

「なんですか先輩。部長に好意を抱いているんですか?」

「好意まではいかなくともあんなカワイイ美少女と二人きりで部室とか普通に緊張すんだろ」

「私と二人きりでもまったく緊張している様子ないですよね」

「おまえは妹みたいなもんだからな」

「む」


 ナツが頬をわずかに膨らませる。


「私今嫉妬しているのですが」

「嫉妬? 部長にか?」

「はい。先輩からそうやってみられるのはずるいと思いまして」

「気にするなよ。おまえとは一緒にいて気楽なんだからな。それは部長相手には決して抱けない感情だ」

「……なるほど。それはまた嬉しいことを言ってくれますね先輩」

「そうなのか? それじゃ、またあとでな」

「はい」


 生徒用玄関で俺はナツと別れる。

 ナツは時々よくわからん反応をすることがある。

 それでも、カワイイ後輩であることに変わりはない。


 放課後、か。

 部長と二人きりで一体どんな話をしてやろうか、と色々画策していた。







 

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