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第十七話



 午後8時からパレードが行われた。

 俺たちもまたパレードが見える位置にいて、それを眺めていた。

 

「結構派手なんだな」

「そうですね。私も見たのは初めてだったわ」


 部長とアキが並んでいる姿は絵になるな。

 と、部長はぽつりとつぶやくようにいった。


「こうして、ゲーム部でどこかに出かけたのって……はじめてだったわね」

「だって部長が外に出るのを嫌がるじゃないか」

「そ、そんなことはないわ」


 アキの言葉に俺も頷いた。


「精々、いくといってもゲームをする上で必要なものを買いに行くくらいだな」


 部長ははぁ、と息を吐いてから、もう一度パレードを眺める。


「これからも……こんな毎日が送れればいいわね」

「きっといつまでもこんな感じじゃないのか?」


 そのとき、アキと部長の表情は少しだけ険しかった。

 いつまでも今のように――というのは難しいだろう。


 今とは違った変化を望む人が二人いる。彼ら彼女らは、そんな胸に秘めた思いがあるからこそ、今表情が少し変化したんだろう。


 ただ、その変化はきっと悪いことではないはずだ。少なくとも俺は、そう思う。

 

「少し早くなるけれど、帰りましょうか。最後までいると帰りの電車が大変なことになるわよ」

「部長って本当そういうところ風情がないよね」


 アキが肩を竦めるようにいった。部長がべーっと舌をだす。


「効率が良いのよ」

「普通、最後までいたがるものだけどね。終わりが派手なの知らないの?」

「知っているわ。けど、そんなものネットの動画を見ればいくらでもあるじゃない」

「ほんと、らしいよね」


 アキが苦笑している。けど、アキも嫌味というわけではないようだ。

 部長もそれに絡む様子はない。


「ナツどうする?」

「私も満員電車を乗りたくはないですね」

「俺も同意だ。そんじゃ、帰ろうぜ」


 遊園地を後にした俺たちは、すぐに最寄り駅に乗りこむ。運よく座ることができた。

 俺とナツが隣になり、部長とアキが隣同士で座るような形だ。

 電車は発車まで暫く待って、電車が発車する頃には、随分と数も増えていて、立っている人も多くみられた。


 たまたま運がよかっただけのようだ。

 電車が動き出し、しばらくしたところでナツが船をこぎはじめた。


 俺も少し眠たいので気持ちはわからないでもない。

 それからさらに少し時間が立つと、ナツが完全に眠りについた。

 人の肩に気持ちよさそうに頭を預けてきやがる。


 まったく。普段なら文句の一つでも言っていたが、ナツも疲れたんだろう。

 俺はため息をつく程度にとどめ、彼女から視線をスマホに戻した。

 それから少ししたときだった。


「な、なあ……」


 そう言ってアキが小声で話しかけてきた。

 アキを見ると、彼の顔が引きつっていた。


「どうしたんだよ」

「部、部長が」


 そういったとおり、部長も眠りについていた。

 アキの肩に頭をのせ、可愛らしく寝息を立てている。

 その顔は随分と落ち着いた表情をしている。

 普段の部長とのギャップもあって、随分と可愛らしい。


「よかったな」

「……」


 俺の言葉にアキは考えるように視線をさまよわせたあと、軽く頷いた。 


「……今日のって、僕のことを気遣って提案してくれたんだよね?」


 電車の揺れや、乗客たちの声の間を縫うように、アキの言葉が耳に届いた。


「別に、全部が全部ってわけじゃないが……多少はそういうのもあるかな」

「そっか……ごめんね。色々やってもらって」

「そんなこと気にするなよ。友達なんだからな」

「……ありがとね」


 アキはそういってから視線を部長に一度向ける。


「どうだ? 少しは素直になれそうか?」

「……素直に、か」


 そう呟くように言ったアキはどこか疲れたような表情だった。


「今までの僕って……部長は似ている人だと思っていたんだ。だから、負けたくないっていう思いがあって、いつも色々言っていたんだ」

「ああ、そんな話をしてたな」


 テスト、運動と二人はかなり近い部分がある。

 だからこそ、アキは部長を、部長はアキを強く意識していた。


「……そうやって喧嘩するのが当たり前で。だから、どうしたらいいかわからないんだ」

「わからない?」

「急に……今までと違う態度をとったら、きっと不気味がられるよね。……それは嫌なんだ。こんなことを続けていても何も前に進まないのかもしれないけど、後ろにも行きたくないんだ」

「今の関係を壊したくないってわけか」

「……情けないことだけどね」


 仮に素直になって、アキが部長に想いを伝えたとしよう。

 いわゆる告白だ。友達から恋人になるための儀式――。通常、これを行えば、今までと同じ関係を続けるというのは難しい。

 相手がイエスと答えれば恋人になるし、ノーと答えれば……いままでどおり友達として接したくても、やはり意識してしまうだろう。


 だからこそ、アキは悩んでいるのだろう。

 部長の想いを伝えることも考えた。けど――それはどうなんだろうか。

 二人でしっかりと歩み寄って、自分の判断で素直になることが大事なんじゃないだろうか。


 そうすることで、末永くお幸せに、なれる気がした。

 けど、まったく伝えないっていうのも、不安そうなアキを見ているとできなかった。


「俺もある意味部長とは似ていると思っているんだ。考え方とか、結構近いものがあるだろ?」

「……確かに、お互いぼっちの部分は似ているよね」

「ああ。そんな俺はな……休日は基本的に外に出たくないんだ」

「外に出たくない……? それがどうしたの?」

「今日、こうして一緒に遊びに来たんだ。俺は嫌な奴と、部活の一環だからって土日に遊びになんていかない」

「つまり、部長もきっと楽しめるから来たということかい?」

「そうだと思う」


 俺の言葉にアキは深く息を吐いた。


「……それならいいんだけどね」

「いつも自信満々のおまえらしくないな。もっと胸を張ったらどうだ?」

「……不安にもなるよ。僕は部長を楽しませられるようなことはしていないんだからね。きっと、今日だって、ユキやナツちゃんがいたから来たんだよ」

「さっき言ったろ? 俺は一人でも嫌な奴がいたらたぶん行かないって」

「そ、そうかな……」

「そうだ。……もうちょっと素直に接してみたらどうだ? 案外どうにかなるかもだぜ?」

「……それができたら、苦労しないよ」


 アキは深く息を吐いてから首を振った。


「それにしても、ユキも遊びに来るって珍しいよね。昔は、誘っても拒否してたよね」

「だって、おまえの友人たくさんいるだろ。知らない人たちと一緒に行ってもな。楽しめる奴と遊びに行ってこそだろ」

「そっか、今はじゃあ楽しめてるんだ?」

「まあな」

「そっか。そっちも、仲良くやってね。僕たちも、見ていて楽しいからね」


 意外な反撃だった。

 俺とナツのことを言っているのだろう。

 確かに、周りからみたら俺とナツの関係は誤解されるかもしれないが、まったく何もないんだよな。

 生意気な妹ってところか?


「仲良くやってほしかったら、ナツに頼んでくれ。先輩をあんまりからかうなって」

「それが仲良くやれてる証拠だよ」


 あいつが好き勝手やっているだけなんじゃないか?

 そう思ったところで、電車にアナウンスが流れた。次の駅で降りる予定だったな。


「アキ。まあ、焦らず頑張れよ」

「……うん。今日はありがとね」


 そういってから、俺たちはそれぞれ眠りについた女子をゆすって起こした。


 

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