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第八話


「あなたね……あんまんはこしあんにきまっているでしょう?」

「何度も言うけど、あんこを食べているという感覚を味わうのならどう考えても、つぶあんだよ。あの食感がたまらないんじゃないか」

「いやよ、たまに歯に張り付くし。あー、これだからリア充はダメなのよ」

「まったくもって意味が分からないね」


 喧嘩のきっかけは、なんだったかよく覚えていない。

 とにかく、あんまんの話題が出て、それから二人の口喧嘩が始まったのである。


 かれこれ言い合いを初めて五分ほど経過。

 俺はナツとともに動画編集を行っていたが、そろそろタイミング的にはいいだろう。


「おまえらぁ!」

 

 ばんと俺がテーブルを叩き立ち上がる。

 びくんっ! と二人は肩を跳ね上げる。びくびくと体が震えている。


「腹に入ればどっちもカロリーだろ! そんなことで喧嘩してんじゃねぇ! かわりに動画編集やるか!?」

「ご、ごめんなさい……だってアキが……」

「いや……先に言ってきたのは、そっちだよ!」


 さすがのアキも普段のリア充オーラ全開の笑顔ではなくなっている。

 こいつらまた小学生みたいな押し付け合いを始めやがって。


「そんなのはどっちが先でもいいんだよ! おまえらはもう少し相手を受け入れるっていう心の余裕を持ったらどうだ!」

「……す、すみませんでした」


 がたがたと二人はすっかり震え上がっていた。

 俺は腕を組み、くいっと親指を動かす。

 ササっとナツが準備していたゲームと機材を手に持った。


「いつかこういう日が来ると思っていたからな。今日はおまえらが少しでも仲良くなれるように、ゲームをやってもらう。俺とナツのペアとおまえら二人がコンビを組んで、お互いに褒めあって、ゲームをする!」

「ほ、褒めあう!?」


 部長が声を荒げると、アキもたまらずといった様子で立ち上がる。


「部長と一緒で、さらに褒めあうって……凄まじすぎる縛りプレイだよ!」

「それはこっちのセリフよ!」

「だから喧嘩すんな! ちょっとでも仲良くしろってんだ! 一応同じ部員だろ!」


 俺が叫ぶと彼女らはひっと悲鳴をあげ、それからコクコクと頷いた。


「……それじゃあ、さっそくやろうかね」


 俺は息を吐き、演技を終了する。見事でしたよ、とナツがささやいてくる。

 この前散々練習したからな。


 二人も少し反省したようだ。四六時中子どものように喧嘩するのを少しはやめてくれればいいんだがな。

 ナツとゲームの準備をしていると、


「先輩はこしあんとつぶあんどっち派ですか?」

「どっちも好き嫌いはないな」

「それじゃあしいていうなら?」

「……うーん、こしあん?」

「あっ、そうなんですね。私はつぶあんです」

「そうか。俺たちも喧嘩するか?」

「別にする必要ないですよ。ほら、例えばどっちか買ってきてもですよ? 私か先輩が食べられるんですから適材適所みたいなものですね」

「おまえのように部長たちも大人だったらな……」


 用意したゲームの電源をつけ、俺たち四人は並んで座る。

 いつもの配置である。

 ナツ、俺、アキ、部長で椅子に座り、テレビを見ること数秒。


「……私誰かとパーティーゲームをしたことないのよね」

「……部長」


 俺たち三人はそのとき同じ目をしていた。


「ど、同情するような目を向けるのはやめてくれるかしら!?」

「……私が悪いんです。高校に入った部長には部長の友達がいるだろうと私、今まで無理に遊びに誘ったことがなかったから」

「やめて! そう本気で同情されると悲しくなるから!」

「ちなみに部長。誰かとってことは、一人でやったことは?」

「たくさんあるわよ。すべてのミニゲームを解放したし、コンピューターの一番強い難易度の敵も倒せるくらいにはうまいと自負しているわ」

「……部長」

「だからその目をやめてくれるかしら! ていうか、ユキも私とどちらかといえば立場同じでしょ!?」

「俺はアキの友人と遊ぶことがあるからな。一緒にしないでもらえるか」

「くっ、リア充の友人がいるのはずるいわね!」


 部長が悔し気に舌打ちをした。

 部長はふんっとむくれた顔をしていて、それを見たアキがくすくすと笑う。


「それじゃあ部長はもしかしてだいたい集団でやるゲームはしたことないってことかな?」

「うるさいわねっ。一人でだいたい全部やっているわよ!」

「……部長前に言っていましたもんね。一人の大富豪は案外楽しいって」

「う、うるさーい! ちょっと黙って!」


 部長がすっかり幼児化して暴れだす。

 俺は軽く息を吐き、


「あとで、みんなでやろうな。部長」

「だーかーらー! もうこの話題はいいから! さっさとゲームやりましょう!」

「その前に、改めてルール確認だ。俺たちは二人ずつでペアを組んで、このゲームをやっていく。まあ勝敗を競うというよりは、相手を褒めるための練習だな。これから一切の悪口は禁止。何かあっても相手のいいところを見て褒められるようにする。いいな?」


 部長とアキは顔を見合わせ、口を閉ざした。

 黙っていれば問題ない。この天才たちはそう考えたようだ。


「ずっと黙り続けてたらもう動画編集しないからな」

「し、仕事を放棄するというの!?」

「そもそも、俺の仕事を邪魔したのは?」

「……ぐ、ぬぅぅ! わかったわよ! 褒めて褒めて、褒めまくればいいのね! 簡単だわっ」

「ユキ、ちょっと待ってもらっていいかな?」


 にこっと爽やかに笑うアキ。その笑顔はあまりにも男として完成されたものだ。こんな笑顔を向けられた女子はもれなく惚れるのではないだろうか。


「なんだ?」

「少しだけ、ゲームを始めるのを待ってね……バーカバーカ! バーカバーカバーカ!」


 そんな爽やかな顔から子どものよう罵倒を連打し、部長にぶつける。


「ゲーム始めて大丈夫だよ」

「大丈夫だよ、じゃないわよ! こっちも今のうちに言っておいてやるわ! バーカアーホドージマヌケー!」


 アキが頬を引くつかせ、そのまま反撃しようとしたのでその間にコインをはじく。

 二人の視線をしゅんっとすぎたコインがからんからんと壁にぶつかる。


 ギギギ、と二人がこちらを見る。


「始めるからな?」

「さすが先輩。脅すの得意ですね」

「言っておくが、おまえも俺を褒めるんだぞ? まずは俺たちが見本を見せないとな」

「あっ、そうでしたね。それじゃあ始めましょうか」


 俺たちはコントローラーを握り、ゲームを開始した。

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