彼のその言葉は。
ドロシア視点です。
(……え? 今、何て言ったの……?)
私は夢を見ているのか、それとも幻聴を聞いているのだろうか。そう思ってしまうほど、私は自分が聞いた言葉が信じられなかった。
「な、なぜ……」
「なぜ? なぜと言われてもね……君が好きだから?」
「いや疑問形にされても……大体、私はともかく、あなたには婚約者はいらっしゃらないんですの?」
「残念ながらいないんだ。これまでにもいたことはないよ。候補は何度も出されたんだけど、結局皆去っていったから」
「そうだったんですの……」
「……ねえ、君は将来どうしたいの?」
「どう、とは?」
「例えば、結婚するのか、しないのか」
「そうですわね……私は、別に結婚はどちらでも構わないと思っていますわ。結婚しないなら、そのまま何か仕事を見つければいいだけですし。それに学園でしていた研究がまだ終わっていないので、研究を続けるのでもいいですわね」
「なるほど……」
ハミルさんは何か考え込むような仕草をした後、私を見てこう言った。
「少しだけ。少しだけでいいから、君の時間をくれないか」
「私の時間?」
「もう少し、この国にいてほしい。そして、僕にチャンスをくれないか?」
「……?」
「僕は、君を諦めたくない。本気なんだ。だから、これから君を口説きたいんだ」
「……!」
こんなこと言われたのは、いつぶりだろう。いや、もしかすると初めてかもしれない。あの人は最初からああいう人だった気がする。
私はしばらく話すことを考えた後、彼の目を見つめた。
「分かったわ。ここにいる」
「……本当!? ありがとう、ドロシア……!!」
「え、ちょ、ちょっと!?」
な、何で私、抱きしめられてるの!?
少しパニックになりそうだったけれど、ハミルさんにぎゅうっと抱きしめられていると、胸の辺りにじんわりとした何かが広がっていくような感覚がして、よく分からなかったけれど落ち着いてきた。
しばらくそうしているとだんだん慣れてきたのか、彼の暖かさを感じられるようになった。思えば、こうして誰かに抱きしめられたのは随分と久し振りな気がする。
「……ドロシア?」
(あ……)
気付けば私は、ハミルさんの背に腕を回していた。完全に無意識だった。でもなぜか放したくなくなって、そのまま彼を抱きしめた。彼はもっと強く私を抱きしめた。それと同時に頭をゆっくりと撫でられた。とても優しくて、暖かくて、このままずっと彼の腕の中にいたい。そんなことすらぼんやりと考えていた。
「……ドロシア、眠いの?」
「分からない……」
「……まだしばらくかかるから、眠ってていいよ」
「うん……」
私は迫ってくる睡魔に抗えず、そのまま落ちるように意識を手放した。
「お休み、ドロシア」
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