その頃の2人は。
ドロシア視点です。
ヴィンスが連行された後、ベロニカとフリント侯爵子息はそのまま街に戻っていった。
その直後ヴィオラとフランさんがこの場から離れた。まあこの騒動がとりあえず一段落したから、そういうお話をしているんだろう。もういつくっついてもおかしくないぐらいになっていたし。
(さて、と……ちょっと暇になってしまったわ)
この場に残っているのは、私とカイさんとハミルさんの3人だけになっていた。
どうしようか、と思っていると、不意にカイさんが動き出した。
「俺、ユリアに用事あるの忘れてたわ。一旦帰る」
それだけ言うと、突然フッと消えてしまった。ユリアから彼が精霊であるということは聞かされていたけれど、それでも見た目はどこからどう見ても人間だからやはり違和感がある。精霊という存在自体を今まで知らなかったのだから仕方がない。
(精霊って、一体何なのかしらね……少し興味があるわ)
『帰ろう』と切り出すこともできずにしばらくぼーっとしていると、ハミルさんから話しかけられた。
「ドロシア。今回のことは、本当にすまなかった」
「……どうしてあなたが謝るの? 私は別に何もされていないわ」
「君の大切な友人を傷つけてしまった。あんな奴だったとは知らなかった、というのは言い訳にしかならないが、今までごく普通の幼馴染として接していたから対応が遅れてしまった。本当に申し訳ない」
「もう終わったのだから気にしないで。ベロニカのケアはこれからしていけばいいのだし」
「ありがとう……」
この人もある意味この件の被害者だろう。友人(だと思っていた)がいきなりこんなことをしたのだから。それと……
(この人確か貴族だから、その分他の家からいろいろ言われたりするんだろうな……)
実は私は、ハミルさんが貴族であることを知っていた。それとフランさんもだったと思う。ヴィンスはどこかの商会の跡取りだと聞いたが、それも白紙になっただろう。
商会とはいえ庶民と付き合いがあることで、陰口を言われることが少なくはなかったという。だから、その商会と付き合いがあったハミルさんとフランさんの家は更に叩かれてしまうのではないか……と思う。
「……そろそろ家に帰らなくてもいいの?」
「え?」
「あまり長く外にいるといろいろな方から心配されるでしょう?」
「どういうこと……?」
「……私、もう知ってるわよ」
「まさか……!」
彼の顔が驚愕に染まる。私はゆっくりと頷いた。
「……いつから気付いてた?」
「結構前から、だったかしら。ハミルトン・アールグレーン侯爵」
「どうやって知ったんだ? まあそれはいいか。では、君は?」
「私はドロシア・サーランドですわ」
「……ベルネン王国か」
「流石侯爵様、国まで分かるんですのね」
「茶化さないでくれよ。それはそうと、どうして君はここに来たんだ?」
「ユリアに会いに来たんですわ」
「ああ、なるほど」
その後も他愛のない話をしていたが、いつの間にかかなり時間が経ってしまっていたようで辺りが薄暗くなってきてしまっていた。
「流石にそろそろ帰らないとまずいな。行こうか」
「ええ」
森の中を歩いている間は、何となくお互い何も話さなかった。開けた道に出ると乗合馬車がまだあったので、それで帰ることにした。
乗合馬車もこの時間に使う人はほぼいないのだろう、馬車の中は私とハミルさんの2人だけだった。
「なあ、君はいつ向こうに帰るんだ?」
彼がポツリとそう呟いた。
「まだ特に決まってないわね」
「学校とかはないの?」
「卒業試験は合格しているから大丈夫」
「婚約者とか、家族は? あまり長くここにいると心配するんじゃない?」
「……家族は心配するかも知れないわね」
「どういうこと?」
「そういえば、言ってなかったわね。私、実は婚約破棄されたの。だから婚約者はいないし、候補もいないの」
「……! すまない、こんなことを聞いてしまって」
「大丈夫よ、傷心したわけじゃないし」
彼は黙り込んでしまった。確かに他人からしてみればかなり重い話だったな……と思っていると、いきなり手を握られた。
「え?」
「……すまない。思わず手を握ってしまった」
すぐに手を放された。でも、ハミルさんはしっかりと私を捉えたままだった。
「……?」
「……こんなところで言うのもおかしいとは思うのだが、1つ、聞いてくれないか?」
「? ええ」
しばらくの沈黙の後、彼の口から零れたのは__
「ドロシア、僕の妻になってほしい」
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