それは、夢のような。
ヴィオラ視点です。
私は、一瞬彼が言ったことが分かりませんでした。その次に、私は夢でも見ているのかと思いました。だって……
(私も、貴方のことが好きです……)
でも、私は彼と一緒になることはできません。私はベルネン王国の貴族ですから。いずれ帰らなくてはなりませんし、いくら一度婚約破棄された身でも、自分で婚約者を決めることなどできるはずがありません。
(どうして、貴族などに生まれてしまったの……平民だったら、こんな風にはならなかったでしょうに)
彼に伝えるのは怖い。けれど、いつか知られてしまう日が来るのなら、今伝えなきゃ……。
私は震える手をぎゅっと握りしめ、恐る恐る口を開きました。
「……あの、私、伝えなきゃいけないことが、あるんです」
「ん? 何?」
「……私、もうすぐ帰らなくてはならないんです」
「それは、なぜ?」
「……」
私は一呼吸置いてから、フランさんの目を見つめてゆっくり話しました。
「……私は、ベルネン王国のレガート侯爵家長女、なのです」
「……!」
彼が息を呑んだのが分かりました。誰だっていきなり貴族だと告げられたら驚きますよね。
「……そうだったんだね」
……え?
「あの、信じてもらえたんですか?」
「ヴィオラは嘘をついたの?」
「い、いえ、嘘じゃないです」
「だったら本当のことなんでしょ? ヴィオラがそんな嘘をつくとも思えないし」
「はあ……」
「でも、僕話さないといけないことが1つ増えちゃったんだ」
「え?」
「話してもいい?」
「どうぞ……?」
フランさんは一呼吸……を通り越して深呼吸をしました。
「僕は……僕の名前は、フランシス・エイベル」
「……え?」
エイベルって、まさか……。
「エイベル侯爵家……?」
「あ、分かった?」
「なぜこんなところに?」
「それは君にも聞きたいところだけど、まあいいか。たまたま道で君を見かけたとき、なぜか忘れられなかったんだ。だからそれからずっと街に降りていたんだよ」
「そうだったんですか……」
なんか、衝撃すぎて頭がうまく回りません……。
「……ねえ、ヴィオラ」
「はい?」
「僕はヴィオラの気持ちが最優先だって思ってるよ。だから、ヴィオラはどう思っているのか、僕に教えてほしいな」
私が、思っていること……。
(私はフランさんのことが好き。でも、私もフランさんも貴族で、婚約とか結婚とかを自由にできる立場じゃない……)
やっぱり、早いうちにお別れした方がいいのかな……?
そんなことを考えていると、急に目の前が暗くなりました。
「え……!?」
気付くと私はフランさんに抱きしめられていました。フランさんに抱きしめられた嬉しさと、家族以外の異性に初めて抱きしめられた恥ずかしさとでいっぱいいっぱいになってしまいました。文字通り顔から火が出るほどに熱くて、きっと真っ赤になっているんだろうな……と思いました。
「……ごめん、我慢できなかった。……ヴィオラ、好きだよ。愛してる」
「あわわ……」
私は、どうしたらいいのでしょう? こんなのもう、どうしようもないじゃないですか……。
「……私、も。私も、好きです……」
聞こえていたか分からないくらいに小さく掠れた声しか出なかったけれど、フランさんにちゃんと聞こえていたようでした。
「ヴィ、ヴィオラ。本当、だよね?」
「……はい」
顔を見られるのが恥ずかしくなったので、フランさんに抱きしめられているから、と自分に言い訳をして、彼の胸に顔を埋めました。
「ヴィオラ……愛してるよ」
「フランさん……」
彼に優しく頭を撫でられて、なんだかふわふわした気分になってきてしまいました。
(まだ、お話たくさんしないといけないのに……でも、せめて今だけは)
もう少し、傍にいたい。
評価、ブックマークを下さった方ありがとうございます。
読んでくださりありがとうございました。




