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こんなことになるなんて思ってもいませんでした。

前半ベロニカ視点、後半エドワーズ視点です。

 目が覚めると、私は知らない部屋にいました。窓もない小さな部屋で、ここにあるのはベッドやその他の家具が少しだけでした。


(ここは一体……エドワーズ様……ユリア……ドロシア……ヴィオラ……)


 とても心細く思っていると、部屋のドアがコンコンとノックされました。

 静かに開いたドアの向こうには、やはりあの人__ヴィンスがいました。


「……! よかった、目を覚ましたんだね。おはよう、ベロニカ」


 彼が私に触れようと手を伸ばしてきました。反射的にその手をはたき落とすと、あからさまに傷ついた、と言うような顔をしたので本当に腹が立ちました。


「触らないでくださいまし」

「ひどいなぁ、僕のお姫様。大丈夫、すぐに落ち着くから」

「ここはどこですの? 早く帰してください」

「今日から君は、ここで暮らすんだよ。僕と2人で、永遠に」

「ふざけないで。前にお伝えしましたわよね? 私には婚約者がいるのです。あなたと共に暮らしていくことなど不可能なのです」

「だから、そんなことは関係ないんだよ。そんなの、僕たちならどうにでもできる。ここで一緒に、幸せになるんだから」


 思わず寒気で震えてしまいました。全く話が通じません。どうしたらいいんですの? 誰か助けて……。


「絶対になれません。私は皆のところに帰ります」

「どうやって? ドアにはちゃんといつも鍵をかけているし、君はずっとこの部屋にいるしかないんだよ?」

「……入浴などはどうすればいいんですの?」

「それも大丈夫。部屋を出てすぐにあるから、僕と一緒に入ればいい」

「絶対に嫌ですわ」

「そんな酷いこと言わないで。君は、何も考えずに、ここで笑っていてくれたらいいんだよ。今日からこの部屋だけが君の世界なんだから」

「……! やめて!放して!」


 いきなり抱き締められて、気持ち悪くて涙が零れました。必死に抵抗してはいるものの所詮は女の力。微動だにしない彼に絶望を感じていました。


(何で、こんなことに……嫌……)


 そのとき、私の脳裏にふと、ある人の顔がよぎりました。

 いつも侯爵子息とは思えないほどにふらふらとしていて、王族の方相手でも変わらない接し方で何度ヒヤヒヤしたことでしょう。でもしっかりと自分を持っていて、仕事になると普段とは打って変わって真剣な表情になる人。そして……


(私、あの人にずっと甘えていましたわね……)


 言い訳のようになってしまうかもしれないけれど、あの人は私に対してだけとても甘かったのです。人前ではいつも通りだけど、2人きりになった途端甘やかしてくれる。その差にいつも翻弄されていたのだけれど、それがどこか心地よくて、しっかりしなくてはと思っていたけれど、ついあの人に甘えていました。


(でも、どうすれば……)


 最後に会ったのは、いつだったでしょうか。もうしばらくあの人に会っていません。無性に会いたくなったけれど、それももう叶わないのかもしれませんね。これがただの悪夢だったなら、どんなによかったか……。

 だんだんと抵抗する気力もなくなってきてしまい、目の前にいるこの世で一番嫌いな人に身を委ねてしまいそうになったその瞬間……


「ベロニカーーー!!」


 ……鍵がかけられていたはずのドアの向こうには、私の愛する方がいて。

 その姿を視界に捉えた瞬間、私の目からは涙が溢れてきてしまいました。先程とは違う、安堵の涙でした。


 * * * * *


 その話を聞いた時、俺は自分の耳を疑った。その場にジークハルトがいてくれてよかった。もし俺1人だったらどうなっていたか分からない。それ程、俺は自分の感情を制御できなくなっていた。そして、ベロニカについて行かなかったことを人生で一番後悔した。


(ベロニカが、ストーカーに付き纏われている……何で、そんなことに……)


 ベロニカからもらった手紙には、『今は宿に籠っているので大丈夫です』とか書いてあったけれど、全然大丈夫じゃない。

 俺は何も考えずに馬を走らせて、異常な速さで西の国に行った。そのまま馬を放り捨ててベロニカが利用しているという『アイリス荘』まで走った。けれど……


「すみません、ここにベロニカという名前の女性はいませんか?」

「……!」


 そこにいた女将と受付嬢が一瞬にして青褪めた。まさか……。

 聞きたくなんてなかった。けれど、女将はそんな俺の心を知ってか知らずかそのままこう言った。


 __ベロニカさんは、攫われてしまいました……。


 しばらく何も考えられなくなった。そんな、じゃあ今ベロニカはどこに……?


「今ユリアさんたちはベロニカさんを探しに……」


 俺は少し申し訳ないなと思いつつ、女将の話が終わるのを待たずに『アイリス荘』を飛び出した。

 がむしゃらに町中を走り回ったが、当然そんなことで見つかるはずもなく。

 流石に疲れてしまい壁に寄りかかっていると、近くから誰かの足音が聞こえてきました。


「おっと身構えてるなよ。俺のこと覚えてるか?」

「……カイ、だったか?」

「ああ」

「何の用だ?」

「ベロニカさんの居場所が分かった」

「はぁ? どうやって……」

「ちょっとした俺の能力? そんなことはどうでもいいんだけど。とにかく急ぐぞ」


 俺はユリアの友人だとかいうこの男に1度だけ会ったことがあった。まあ信用できないわけではないし、とカイについて行った。

 着いたのは森の奥だった。


「……!」


 目の前にある建物の奥から、誰か2人が言い争っているように聞こえる声が聞こえてきた。いてもたってもいられなくなり、その感情に全てを委ねてベロニカがいるところを探した。

 そして……


 俺は1つのドアを勢いよく開けた。そこには、俺が一番会いたかった彼女がいた。






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