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久々の外は……

ベロニカ視点です。

 それは、ほんの数十秒の出来事だったと思います。

 今日は久し振りにヴィオラとドロシアと一緒に、『アイリス荘』から出て街を散歩することになりました。いつものように護衛をしてくださるヒルダさんたちにお礼をしてから出発しました。


「久し振りの外ですわね‥‥‥」


 これの原因があの人__ヴィンスさんだと分かっているので、つい怒りが込み上げてしまいます。せっかくユリアのいるところに来ることが出来たのに、こうして外出を控えなければならなくなってしまったことが悔しいです。


「ごめんなさい、早くあの人をどうにかできるといいんだけどなかなか……」


 はっとして顔を上げると、そこにはとても辛そうな顔をしたヴィオラとドロシアがいました。


「別に、皆さんのせいではないでしょう?」

「でも、もっと早く解決できていたら、ベロニカもたくさん外に出られるのに。あいつがベロニカに何をするか分からないから、全然外に出られなくなってしまったし……」

「……ドロシア」

「……何? ベロニカ」

「ありがとうございます」

「……何、で」

「私、皆さんがいるからこうして元気でいられるんですのよ? 1人でこちらに来ていたとしたら、今頃どうなっていたか。想像もしたくありませんわ」

「ベロニカ……」

「ヴィオラも、いつも励ましてくれてありがとう。たまにでも外に出られたら、それで十分ですわ」

「……本当に大丈夫なの?」

「ええ。皆さんがたくさんお話をしてくださいますし、楽しみが増えますもの」


 実際、私はなかなか外に出られないことをあまり気にしていません。『アイリス荘』にいるだけでも毎日楽しいです。

 ドロシアやヴィオラ、ユリアは毎日街での面白い出来事をたくさん話してくれますし、お昼の間であればリリーちゃんがときどき遊びに来てくれます。リリーちゃんのお友達のアンナちゃんも最近は来てくれるようになって、ほとんど毎回ユリアが作ったというトランプで遊んでいます。といっても私は一度も勝ったことがありません。いつか勝ってみたいですわね。


「さあ、行きましょう? 早くしないと日が暮れてしまうわ」

「……ふふ、そうだね。行こう」


 * * * * *


 その後昼食も外で摂り、再び街を歩いていました。


(あ……)


 私は通りすがりの店に一瞬意識を持って行かれました。そのお店は私がいつも使わせていただいているブランドのお店でした。言い方はよくないと思いますが、ヴィンスさんが買おうとしていたところよりもずっと素晴らしいと思います。むしろ比べてはいけません。

 ショーケースには新作と思われる服や小物が飾られていて、とても綺麗でした。でも2人を呼び止めてまで見たいわけではないのでそのまま通り過ぎようとしました。しかし、


「あれ? ……って、ああ、ここね。中、入る?」


 一瞬立ち止まった私にすぐに気が付いたドロシアがそう声を掛けてくれました。


「え、あ、でも……」

「よし、入ろう」

「いいんですの?」

「もちろんだよ」

「ありがとうございます……!」


 国にいたときも立場上なかなか店に足を運ぶことができなくて、こうして大好きなお店に行くことが出来るのは本当に嬉しいと思いました。

 そしていざ店に入ろうとしたそのとき、ドロシアがぴたっと足を止めました。


「……? ドロシア? どうしましたの?」

「……向こうで何かあったみたい。ちょっとだけ様子を見てくるから先に入ってて」

「? 分かりましたわ」


 道の先の方で何か揉め事が起きたようで、ベロニカは様子を見に行ってしまいました。


「先に中に入っていよう?」

「でも……ドロシアが帰ってくるまで待ちますわ。すぐに帰ってくるでしょう」

「そうね」


 しかしなかなか騒動は収まらないようで、なかなかドロシアが帰って来ません。


「ドロシア、帰ってこないですわね……」

「そうだね……」


 ヴィオラは背伸びをして道の先を見ようと頑張っていました。しかし人だかりのせいで何も見えないようでした。

 そして、私は少しの間ぼーっとしてしまいました。


(……!? だ、誰……!?)


 突然何者かに後ろから抱き締められました。その触り方に悪寒がして、私はすぐに叫ぼうとしました。

 しかしそれに気付いたのか口を押えられ、パニックになっていた私は呼吸が上手くできなくて苦しくなってきました。


(……! 嫌! 誰か、誰か……!)


 必死に息をしようともがいていると急に手が離れて私は一気に空気を吸い込みました。すると今度はハンカチを押し付けられて、急に眠気が襲ってきました。


(嫌……誰か……エドワーズ様……)


 暗くなっていく視界で、一番見たくなかったその人が恍惚とした表情を浮かべていました。






「やっと、戻ってきてくれたね。僕の、僕だけの愛しいお姫様」






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読んでくださりありがとうございました。

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