おやすみなさい。
2人が帰った後、私はジークと一緒に食堂で夕食をとりました。なぜか奢ってくれました。ありがとうございます。
そしてお風呂に入った後楽な部屋着に着替えて、ゆっくり荷物の整理をすることにしました。
(やっぱり、ちょっと多すぎたかも。調子に乗って買い過ぎちゃったなあ。いつもはこんなに買ったりしないんだけど、どうしよう……)
そう思いつつも次にすることは既に頭の中にあったので、少しの間悩んだ後、私は部屋の外に誰もいないことを確認してからドアを閉めて鍵をかけ、窓を閉じてカーテンをきっちりと閉めました。
「……カイ」
私がそう小さく呟くと、物陰から彼が静かに出てきました。
「何か用か? リア」
「あのね、ちょっとカイに頼みたいことがあるの」
「ん? ああ、その荷物を持っておけばいいのか?」
「うん。話が早くて助かるわ。ありがとう」
「もう10年ぐらい一緒にいるんだ。今更だろう」
「それもそうね」
そしてカイは、私の荷物を『異空間』にしまいました。
そう、カイは人間ではありません。彼は、この世界で伝説の存在として知られている、精霊なのです。
この世界は、よく小説で描かれるような剣と魔法の世界という訳ではありません。例えるなら中世ヨーロッパでしょうか。生活のベースに違いはありますが、前世の世界ではあり得ないものがあるわけではないようです。
そんな世界で存在している精霊は、きっと日本でいう妖怪のような存在なのでしょう。見える人にだけ見える、人とは一線を画する存在、ということでしょうか。
とはいっても、私もカイ以外の精霊は見たことがありません。カイ曰く元から精霊の数はそれほど多くはないし、その上精霊は基本人間に姿を見せることはないからだそうです。
まあ、いくら他の人にカイが見えなかったとしても、カイと話している私を誰かが見たら、私の気が触れたなどと思ってしまうでしょう。なので、カイと話したりするときはいつも人の目が届かないようにしています。
「そういえばリア、あいつらは上手く撒けたのか?」
「多分ね。今日外を結構歩いていたけど、特に変な人はいなかったし。またしばらくはゆっくりするつもりだよ」
「そうか」
カイはそう言った後、部屋のベッドに勢いよくダイブしました。
「あー、疲れた」
「精霊って何かすることあるの?」
「あるよ、いろいろ」
「いろいろ? いっつも暇そうにしてるけど」
「うるせー。こう見えても俺真面目だからな? ちゃんとやることはやってるんだよ」
「どうだか」
「荷物持ってやらねーぞ」
「はいはい、ごめんなさい」
なぜか分からないけれど、カイと話していると、よく前世を思い出します。もうこの世界で生まれてから10年以上も経つのに、記憶はまるで昨日のことのように鮮明なままです。こんな静かな夜だと、さすがの私でも少しだけ故郷が恋しくなってきてしまいます。
「ねえ、いつまでベッドにいるの」
「いつまでも。別にいいだろ、減るものじゃねえし」
「寝るところが減る」
「断る」
「いや『断る』じゃないわよ。大体、貴方何でそんなに人間くさいの? もっとこう、精霊としての何かはないの?」
「全くないな」
「はあ……とにかく、今日はもう寝るから、せめて私が寝れる分は開けなさい」
「面倒だなあ……」
「何?」
「何でも。はいよ、これでいいだろ?」
そう言ってカイは、ベッドの右半分を開けました。
「……そこから退くっていう考えは「ないね」……」
まあ、眠くなってきたのでこれには構わず寝ることにしましょう。
「私もう寝るから、変なこととかしないでよ?」
「誰がするかよ」
「貴方以外に誰がいるの」
「うっわ……」
しばらくの静寂の後、いきなりカイが抱きついてきました。
「ちょっと……!?」
「いいじゃんか、抱き枕になっといてよ」
「誰が抱き枕よ」
「……」
「カイ? 寝てるし……」
精霊って寝るんですね。初めて知りました。
とにかく、もう落ち着いて寝ましょうか。おやすみなさい。
* * * * *
暗闇の中で、1つの影が蠢いた。
それは起き抜けの体をほぐした後、隣に眠る少女を見た。
「いつか……、ユリア」
それは何かを呟いた後、ベッドからでて、誰にも分からない場所へ転移した。
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