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一番起きてほしくなかったこと。

 それから私たちは、あの人……そうそう、あのヴィンスとかいう奴がベロニカちゃんに近付かないように全力を尽くしました。

 まず、そもそも『アイリス荘』に来ないように、イザベラさんとグリードさんに頼んで出禁にしてもらいました。最初は不思議そうな顔をしていた2人でしたが、なんとリリーちゃんが、


「あのお兄さん、ニコニコ笑顔だけどちょっと怖い」


 と言ったらしいのです。リリーちゃんは幼いのに人を見抜く力がその辺の大人よりあるらしく、すぐに出禁になりました。

 実際出禁にした後すぐ、ある宿泊客の女性からお礼をされたんだとか。その人に何かされたわけではないけど、昼間に意味もなく『アイリス荘』に来て中をうろうろしていて気味が悪かった、と言っていたんだそうです。それもベロニカがいたからなのかな……と思うとまた怖くなってしまいました。

 そして、ベロニカは外出の頻度を下げて出かけるときは常に誰かと一緒にいることを約束してもらいました。もちろんベロニカは頷き、普通の買い物などは私たちが行くようにしました。

 ヒルダたちにはあまり会っていなかったのですが、事情を説明すると、


「私たちに護衛をさせてくれないか。賃金はいらない。そのお嬢様が心配なんだ」


 と頼み込まれてしまいました。まあ断る理由もないので、お願いすることにしました。ヒルダたちは行商での移動中に賊に会うこともあります。護衛を雇わないのか、と聞いたこともあるのですが、


「自分達で追い払った方が早いし人件費がかからないだろう」


 と言われました。流石と言うか何と言うか、という感じでした。

 それでも奴は往生際が悪く『アイリス荘』の外を徘徊していたりしたのですが、私たちが街の警備隊に通報して周辺の警備の強化をしてもらったらいなくなりました。よかったです。

 そうして1ヶ月程経ったある日、私はいつものように市場に買い物に行っていました。

 ヴィオラとドロシアはその日、ベロニカを連れて散歩に行く予定をしていました。なかなか外に出られないベロニカですが、今日は久々に外に出よう、と言っていた日でした。ヴィンスも最近では全然見かけなくなったし、ベロニカ自身もそろそろ怖くなくなってきたらしいので、ヒルダたちに護衛を頼んで外に出ることにしたそうです。そして……


 買い物をして『アイリス荘』に帰った私の目に飛び込んできたのは、泣いて酷く取り乱しているヴィオラとドロシア、慌ただしくどこかに走っていく護衛を頼んでいた人たち、そして、私のお姉ちゃんでした。

 恐る恐る中に入った私に真っ先に気づいたのは、ドロシアでした。ドロシアは私の前まで来ると、


「ごめんなさい、ごめんなさい! ベロニカが、ベロニカが連れて行かれてしまったの! うぅ、あああああん!」


 と泣き崩れてしまいました。慌ててドロシアを抱えると、彼女はそのまま気絶してしまいました。


「……ヴィオラ、どういうこと?」

「ごめんなさい……私たちが少しだけ離れていたときに、ほんの1分ぐらいの間に、誰かに連れて行かれてしまったの……追いかけたけど路地の奥まで行かれて分からなくなってしまって……」

「だれかは分からなかったの?」

「顔は隠してたから見えなかった。けど、考えられるのは……」

「……ヴィンス、か」

「きっと。それにその人は明らかにベロニカちゃんを狙っていたから、十中八九間違いないと思う」

「……私、外出てくる」


 私はそう言って、ヴィオラが止めるのは聞こえなかった振りをしてドロシアを任せて飛び出しました。


(こんなことならさっさと捕まえておけばよかった……!)


 最初からかなりおかしい人だとは思っていました。そのうち何か仕出かすかもしれないと確かに思っていました。でも気のせいかもしれない……そう思っていたのがよくありませんでした。


(ていうか警備隊は何してるのよ!? やっぱり他人は当てにならないわ……待っててねベロニカ、すぐ見つけるから!)






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