彼と出掛けたのですが……
ベロニカ視点です。
1階に降りた私たちは、それぞれで『アイリス荘』を出発しましたわ。
「私たちもそろそろ行きましょうか」
「はい」
……なぜか右手を差し出されたのですが、これはどういった意味なのでしょうか?
「……あの?」
「……はぁ」
私が声を掛けると、小さなため息と共に手を降ろしてしまわれました。
「行きましょう」
(……? 何がしたかったんですの?)
よく分からないままでしたが、ヴィンスさんは既に歩き出していましたので後を追うことにいたしました。
「そういえば、ベロニカさんはどうしてこの街に来たのですか?」
「友人に会いに来たのですよ」
「それは……『アイリス荘』に今泊まられている方ですね?」
「なぜそれを?」
「……先ほどすれ違ったので」
「……? そうでしたか」
うーん、何故でしょうか。どうにもこの方は怪しい人に思えて仕方がありません。人を外見で決めてはならないとよく言われておりますが、これは誰でもこうなってしまうのではないでしょうか……?
「ベロニカさん、どうぞ」
「……え?」
「何でも、いくらでも、欲しかったら遠慮なく言ってください」
「どうして……」
「プレゼントですよ」
「そんな、いきなりそんなにもらうわけにはいきませんわ」
「どうしてですか?」
「だって……」
どこに行くのかも聞かされないままヴィンスさんが向かったのは、かなり高級なブランドのお店でした。確かに私もブランドの品を身につけることはありますが、このブランドはあまり私の好みではないな……と思っていたところに、先ほどの彼の発言で本当に驚いてしまいました。
「さあ、どれがいいか決まりましたか?」
「あの……私、ちょっと話したい事があるのです」
「話したい事?」
「はい。お店の中で話すのもあまりよくないかと思うので、一度外に出ませんか?」
「いいですよ」
外に出てすぐ、私は口を開きました。
「あの……実は私、婚約者がいるのです」
「……え、どういうことですか?」
「私には婚約者がいるので、あなたのご期待に応える事ができないのです。申し訳ありません……」
「……どうしたら」
「え?」
「どうしたら、僕との未来を考えてくれるんですか?」
「え? だから、私には婚約者が……」
「でもその方と結婚するかはまだ決まっていないでしょう? なら僕にもまだ可能性は残っているはずだ」
「いえ、その……婚約は私がどうこうできるものではありませんし」
「なら僕が変えてみせるよ」
(な、何なのですかこの方は……話が通じなさすぎます。というより、先ほどからやんわりと断ってもいるのにまさか気付いていないのですか!?)
やはりこの方はどこかおかしい。早めに切り上げて帰らないと。
そう思っているのに、私の足は動きませんでした。
「とにかく、私は既に婚約しているので他の方とお付き合いをすることはできません」
「そう、ですか……」
ヴィンスさんは沈んだ声でそう言うと、私の目を見つめながらもう一度口を開きました。
「そろそろ帰りましょうか。疲れてきたでしょう」
「え? は、はい」
(……これで、帰れる、んですの……?)
そのあと本当にすぐに『アイリス荘』に帰った私は、みんなの帰りを待ちながら話す内容をまとめていました。その日は、ヴィンスさんは訪ねてきたりはしませんでした。
皆が帰ってきたのは、日が暮れる直前のことでした。
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