……テンション下ってます。
「……カイ」
「あ? 何だよ」
「……暇」
「俺にどうしろと」
「晴れにして」
「アホか。そんな能力あるわけねーだろ」
「精霊のくせに」
「他の奴もそんなの出来ねーっつーの」
はい、皆さんもうお分かりでしょう。今日は雨です。土砂降りです。道路が冠水しそうなぐらいに降ってます。この国は雨が降るのは多くもなく少なくもなくといった感じなのですが、今日は珍しくめっちゃ降ってます。
特にやることもないし、リリーちゃんは寝てるし、ヒルダたちはこの雨の中仕事だとか言って出掛けたし、本当に暇です。テンション駄々下がりです。
「はぁ……」
「……どうした?」
「何が?」
「雨にしちゃあ元気なさすぎるなぁと思ったんだが」
「……さあ」
「……あいつか」
「うるさい」
「まだ言ってねーじゃねえか」
「分かるし」
……はい、私のテンションが低いのは雨のせいだけじゃありません。むしろ雨はそこまで気にしてないです。
ジークに会いたい。
「……いつ、帰ってくるんだろ」
「つってもあと……5ヶ月? ぐらいでお前卒業するんだろ? そのときに帰ってくるんじゃねえの?」
「でも、もしジークが私を……」
……嫌いになっていたら。その言葉はのどの奥に引っかかって出てくることはありませんでした。
「……ユリア」
「何?」
「寝よーぜ」
「何でいきなり」
「寝たらちょっとはそのテンションどうにかなるかもしれねえだろ?」
「……」
「あーったく! いいからこっち来い! 寝とけ!」
「え、ちょっとうわぁ!?」
いきなりカイにベッドに放り込まれて、軽く目を回してしまいました。
「お前がテンション低いと調子狂うんだよ。つべこべ言わずにとっとと寝ろ」
「……」
「……いや何か言えよ」
「……なんか、既視感があって」
「はあ? よく分からねーけど布団かぶれ」
「はいはい」
「ったく世話が焼ける」
「……ありがとう」
「あ? 何だよ急に」
「心配、してくれたんでしょ?」
「……うるせーとっとと寝ろって言ってんだろ」
「ふふ、ごまかしてる」
「ごまかしてねーし」
カイなりに心配してくれたんだ……そう思うとなぜか笑ってしまいます。
「カイも寝る?」
「別に俺はいい。黙って寝てろ」
「はいはい分かったわよ」
私はそろそろ大人しく寝ることにしました。とは言っても、寝不足でもないし眠気があるわけでもないし寝れるでしょうか……?
と、思っていましたが、目を閉じてすぐに私の意識は夢の中に落ちていきました。
* * * * *
「……寝た、か」
「ありがとうございます」
「別に。俺も心配だったんで」
「何かあったら声を掛けてください」
「ありがとうございます」
「おねえちゃんは大丈夫なの?」
「ああ、ちょっと疲れてるだけだから心配すんな」
「うん」
母娘が外に行って音を立てないようにドアを閉めた後、俺はベッドの横に置いてある椅子に座った。
「心配、させんなって……」
今はちょっとましになっているが、起きているときは本当に顔色が悪くてどうにかして休ませなければと思ったんだ。ユリアは変なところ頑固だから雑になってしまったが寝たのでよしとしよう。
「既視感、か。……まだ大丈夫か」
もしいつか、ユリアに話したら、どう思うんだろうな。どのみち今はまだ話せない。ユリアの生活が落ち着いてからか、もしくは一生話せないか。
むしろ、話さない方がいいのかもしれない。きっとユリアは混乱してしまうから。俺もそれが分かったときは狼狽えてしまった。
ユリアの頬をそっと撫でると、俺の手に擦り寄ってきた。
「早く連れ戻しに来てくれよ? ……大丈夫だとは思うが」
俺はいつの間にか、そのまま眠っていた。
その頃、遠い地では。
「……今から帰っちゃダメかな」
「いやダメに決まってるし。近況報告はまた持ってくるから早く仕事終わらせろ」
「お前にこの地位をあげたいぐらいなんだが」
「全力で断るわ。俺だってお前に情報持ってくるためにベロニカに会いたいの我慢してるんだぞ」
2人の男が割とどうでもいいことを言い合っていた。
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