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何年かぶりに会うその人は。

 な、なぜここに、お姉様が……。


「……ユリア?」

「は、はい」

「よかった、ユリアで合ってたのね。人違いかと思って心配したわ」

「……」

「……ヒルダ、悪いんだけど、今日は全部任せてもいい?」

「そう言ってくると思ったよ。いいよ、私らは邪魔にならないようにしとくから」

「ありがとう」

「ああ」


 私とカイは、よく分からないまま行商の馬車に乗せてもらいました。


「はい、どうぞ」

「……ココア?」

「ええ。……甘いの苦手だった?」

「大丈夫」

「そう。隣、座るわね」


 馬車は2つに分かれていて、他の人たちのほとんどは後ろの馬車に乗っているようです。

 私がいる前の馬車には、私とカイ、御者の担当になったヒルダ、そしてお姉様の4人だけでした。


(カイ、よくこんな所で寝ていられるわね……)


 カイは馬車に乗り込んですぐに壁にもたれかかって夢の中に入ってしまいました。あまりにも人間っぽいのでときどき本当に精霊なのか分からなくなってしまいます。

 馬車の中はとても静かでした。私は、何年かぶりにあったお姉様と何を話せばいいのか分からなくて、ずっとココアを眺めていました。

 先に口を開いたのはお姉様でした。


「ユリア、元気にしてた?」

「……まあ、それなりに」

「そう……」


(会話が続かない……)


 お姉様も話のネタがないようで、一緒にカップの中を覗き込んでいました。


「……お姉様は、なぜここに……?」

「……それは……ある程度は知っているのよね?」

「はい」


 お姉様は、少しずつこれまでのことを話してくれました。


 あの日、好きになった侍従と一緒に駆け落ちしたこと。

 家や婚約者……ジークが嫌になったわけではないこと。

 侍従はもともと行商にいたので、その行商と一緒に行動したり街を転々としたりしていたこと。


「それと、ユリアはもしかしたらまだ知らないのかな?」

「? 何ですか?」

「私と殿下の婚約解消は、計画していたのよ」

「……え? どういうことですか!?」


 婚約解消を、計画……!? 全然聞いたこともありませんでした。というかジーク!? 何で教えてくれなかったの!?


「やっぱり知らなかったのね。というか、殿下が教えなかったんでしょうね」

「そういうことは、1回も聞いたことないです……」


 ちょっとショックです……ジークが秘密にしていることがあっただなんて。


「まあまあ、そんなに落ち込まないで。それに、殿下が隠したかった理由、分かるもの」

「……なぜ、ですか?」

「あーどうしよう。勝手に話したら怒られるかしら」

「……?」

「また殿下に聞いてみなさい」

「あ……」


 不意にお姉様に頭を撫でられました。お姉様の手は私よりも大分華奢でした。


「そうだ。ユリア、今度はあなたのお話も聞かせて?」

「え? 私ですか?」

「ええ。私は国を出た後のことを何も知らないから、気になっちゃって」

「何から話しましょうか?」

「何でもどうぞ。あ、でもちょっとだけヒルダから聞いちゃった」

「ああ……そういえば、ヒルダと一緒にいたときがありましたね」

「ねえねえ早く、早く聞きたいわ」

「は、はい」


 お姉様が、何だかすごくキラキラした目で私を見ています。こんな姿のお姉様は初めてです。家にいたときはもっと無口なお嬢様だったので。


「じゃあ、話しますね……」






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