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あの時のように。

 私は学園でなんとなく日々を過ごしている間、ずっと考えていました。もう一度、いろいろなことをしたい、と。

 確かに学園での生活は本当に楽しいし、家で不遇に扱われているわけでもありません。家庭教師なども特に付けられていないのでいつでもやりたいことをできます。でも、逆にそれがつまらないというか、もっといろいろなことがあってもいいのにな……と思い始めてきたのです。

 結局何が言いたいのかというと……


 またバックパッカーとして旅をしたくなったのです。


 とは言っても、そこまで遠くとか世界中を回りたいとかではなくて、今まで行ったところにもう一度行きたくなったのです。あの時と同じように、ちょっとした気分転換みたいな気持ちで。あんまり遠いところに行っても帰ってくるのがしんどいですし。


(それに、もしかしたらジェシカやジークに会えるかもしれないし。あーあ、ジェシカに詳しい留学先聞いとくんだった。ジェシカが忙しくてそれどころじゃないっていうのもあったんだけど)


 面と向かって両親やお兄様に話そうにもなんと話していいか分からなかったので、黙って出てきてしまいました。まあ一応許しは得ているし、大丈夫……でしょう。きっと大丈夫です。

 ちなみに荷物はほとんどカイに持ってもらっています。本当にチート級ですよ『異空間』は。どれだけ物を突っ込んでもいっぱいにはならないし、重たくもならないらしいです。精霊っていいなぁ……。


「……おい、おい!」

「あ……!」


 考え事をしていたら、石につまずきそうになってしまいました。腕をぐいっと引っ張られた私は、何とか転ばずに済みました。


「あ、ありがとう」

「まったく危ねえな。気をつけろよ」

「うん」


 私たちはまず東の国に来ました。以前に少しだけ来た、と言うか立ち寄ったことはあります。今回は逃げているわけじゃないし、でも2人を見つけることはできないので、純粋に私が行きたいと思ったところを回ることにしたのです。


「そろそろ日が暮れてきたな。今日はこの辺で宿屋に帰らねえか? また明日からゆっくり観光しようぜ」

「そうだね。そうしよう」


 ただ1つ不満というか何というか……この宿屋には看板娘ちゃんがいませんでした。リリーちゃん的なのをちょっと求めていたのでショックです……。


「なあユリア、ちょっといいか?」

「ん? 何?」


 部屋でのんびりしていると、カイが突然そう切り出してきました。


「……嫌になったから国を出た、とかじゃないんだよな?」

「何? 急に。別に嫌にはなってないわよ」

「そうか。よかった」

「……?」

「変な風に誤解されたら俺殺されかねないからな」

「ああ……」


 ……なんか、ジークなら精霊でも容赦なく殺りそう……というか殺れそうです。


「まあ、ユリアが飽きて帰るって言うまでちゃんと付いててやるよ」

「え?」

「え、じゃねえ。何年一緒にいると思ってんだ。お前に何かあったときに何も思わないぐらい、俺は薄情じゃないと思うが?」

「……あなた熱でもあるんじゃないの?」

「はあ? 精霊は風邪ひかねえよバーカ」

「あ、ひどい。バカって言った方がバカなんだよ知ってた?」

「幼児か」

「それはあなたのほうでしょ」

「何だと!」


 ……私たちは何のやり取りをしているのでしょうか……ふと我に返り恥ずかしくなりました。


「はあ、ったくもういい。寝るぞ」

「え?」

「明日も外に出るんだろ? だったら寝ようぜ。もう結構遅いし」

「精霊って寝れるの?」

「それっぽいことはできるぞ」

「ふうん……」

「というわけで、さっさと布団入れ。照明消すぞ」

「……何で一緒のベッドなの」

「仕方ねえだろ1つしかこの部屋にはねえんだから。一緒って言っても今更だろ?」

「……分かったわよ」


 私は3分の1程しか空いていないベッドに潜り込みました。


「ってちょっと!? 何するの! 放してよ!」

「やーだねー。丁度いい抱き枕見っけたんだから」

「はあ!?」

「はいよーしよーし、いい子いい子。ゆっくり寝ようねー」

「あのねえ……」

「いい子いい子……」

「……」


 ……本当に、カイはどこか変です。


「……! どうした? ユリア」

「何でもない」

「いや何でもないって……じゃあなんでハグなんか……」

「何でもないの!」

「……ふふ、そうか」


 なぜだか、カイがカイじゃないような、そんな感覚さえしていました。


「……ねえ、カイ」

「ん? どうした?」

「私ね、お兄ちゃんがいたんだ……」

「? 兄はいるだろう?」

「ううん、違う。お兄ちゃん。血は繋がってないけど、仲良しだったお兄ちゃんがいたんだ……」

「……そうか」


 私はまだカイとお喋りをしていたかったけれど、瞼が言う事を聞いてくれなくて、意識もぼんやりとしてきました。


「もうそろそろか。お休み、ユリア」

「ん……」


 私の記憶は、そこで途絶えました。






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