ジークのこれから。
前半ユリア視点、後半ジーク視点です。
私がその話を聞いたのは、私が久々に王宮にお邪魔させていただいたときでした。
昼食までいただいた私は、王妃様に呼ばれてテラスに向かいました。
そこには王妃様だけでなく陛下もいらっしゃっいました。それとジークもいました。
私が到着するなり王妃さまが口を開き、
「ジークハルトはしばらく、この国を離れることになりました」
と、おっしゃいました。
……え? ジークが、この国を離れる……?
「……王妃様、それは、どういった理由で……?」
「近隣諸国でもうすぐ立太子の儀を行う国がいくつかあるのですよ。ジークハルトにはベルネン王国国王代行として出席してもらうことになったのです。ジークハルトも20歳になったら立太子の儀を執り行うので、良い経験となるでしょう」
「そう、なのですか……」
「それと通常の外交を。しばらく他国と交流をしていないのですが、一度こちらから出向くことになったので、複数ですが行ってきてもらうことになりました」
「……いつ、帰ってこられるのですか?」
「早くても半年ですが、1年は考えておいた方がいいでしょう。まああなたの卒業までには帰って来ると思いますよ」
「ユリアの卒業式を見逃すなんて絶対に嫌だからね」
「ジーク……」
1年間、会えなくなってしまうのですか……寂しくはありますが、こればかりはどうしようもないので諦めましょう。
その日の夜はなんとか頼み込んでジークと一緒に寝させてもらうことができました。寝るまで2人でソファに座っていたのですが、私は何も言えず、ただただジークにくっついていました。
「ごめんね……本当は僕もこんな長期間国外にいたくはないのだけれど……」
「ううん、大丈夫」
「本当に?」
「……え?」
「……泣かないでよ」
「……?」
私は自分の頬に触れました。私の頬は冷たく濡れていました。
「わ、私、泣くつもりなんか……」
「……ユリア」
私が顔を上げると、ジークが両腕を広げていました。
「おいで」
「……!」
胸に顔を埋めると、ジークは私をぎゅっと抱きしめました。ゆっくりと頭を撫でられて、ふわふわとした気分になって、私もジークにしがみつきました。
どれくらいそうしていたでしょうか。少し眠気を感じてきた頃、ジークが私の耳元で囁きました。
「大丈夫。すぐ、とはいかないけど、なるべく早く帰ってくるから。ちゃんとユリアのことを愛しているから。心配しないで」
「あ……」
「ふふ、僕はユリアの婚約者、というか、ユリアの恋人だよ? ユリアが何を考えているのか、ちょっとは分かるよ」
……私が、ジークが他の女の子のところに行ってしまうんじゃないかって思っていたこと、気づいたんですか……。
「もし僕が変なことしてたら、平手打ちでも何でもしてくれ。僕が目を覚ますまで」
「そんなことしなくていいようにしてよね?」
「もちろん」
「愛しい、我が婚約者殿」
* * * * *
「……って、ユリア!? どうしたの!?」
ちょっとふざけてユリアの耳元でいろいろ言ってみたら、ユリアの体から力が抜けて後ろへ倒れそうになった。慌てて抱きとめると、彼女は……。
「気を、失ってる……?」
……ユリアの顔、若干だけど赤くなってる。これってもしかして……。
(ふふ、ユリアってば可愛いなあ)
最初は認知すらしていたかどうか怪しかったけれど、今ではこんなに好きになってくれている。努力した甲斐があったというものだ。
「さて、このままだとユリアが風邪を引いてしまうかもしれないし、寝ようか」
ユリアを抱っこしてベッドに横たえて、そっと布団を被せる。一瞬身じろぎしたので起きたのかと思ったが、すぐに小さな寝息が聞こえてきた。
というかユリア軽すぎないか? 小食というわけでもなかったように思うが、あんなに軽いと心配になるな……。
僕はユリアの隣に潜り込んだ。起きないようにそっと抱き寄せると、ユリアが僕に擦り寄ってきた。
「ん……ジーク……置いて、行かないで……」
「ユリア……大丈夫だよ。僕はずっとそばにいるから。たとえ離れていても、君のことを遠くから想っているよ」
ぼくはユリアを抱きしめたまま、静かに眠りについた。
翌朝、目覚めたユリアが僕の腕の中で顔を真っ赤にしていたのは、また別のお話。
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